2015/4/2:
●貧困線とは収入が少なくて生活できなくなるライン
●衣食住など最低限の基準を満たさない人の割合が絶対的貧困率
●一律の定義で出すことができる!絶対的貧困率と相対的貧困率の違い
●相対的貧困率で日本は貧しい国だと主張するのはおかしい?
●母子・父子家庭の「相対的貧困率」は先進国で1位
●上がってる?下がってる?日本の「相対的貧困率」の推移
2021/12/28追記:
●富裕層過去最多の一方、家庭の平均所得最多は200~300万円未満 【NEW】
●日本だけ平均賃金が30年間停滞の異常…分配ない上に税金は増加 【NEW】
●貧困線とは収入が少なくて生活できなくなるライン
2015/4/2:
日本の所得ジニ係数を見ると日本の所得格差は拡大傾向 原因は?を書いた後に、もう一つ所得格差の指標となるものを思い出しました。相対的貧困率です。貧困率はやはりジニ係数同様に、日本の所得格差は小さいと主張する人が触れていないデータなのです。
ただ、最初は貧困線に関する話から。
貧困線 - Wikipedia(最終更新 2015年3月9日 (月) 04:37)では、 貧困線は、統計上、生活に必要な物を購入できる最低限の収入を表す指標といった説明がされていました。
こう言うとわかりらづらいのですけど、上記のあとに続く「それ以下の収入では、一家の生活が支えられない」というラインだという説明だと、なんとなく意味がわかるでしょう。貧困線上にある世帯や個人は、娯楽や嗜好品に振り分けられる収入がない状態になっています。
後でもう少しやりますが、ジニ係数同様、この貧困線の考え方には弱点が多いです。たとえば、以下のような指摘があります。
<貧困線は、厳密な指標ではなく、国や機関によって異なる。そのため、貧困線を若干上回る収入の層とやや下回る収入の層の間に、大きな生活水準の差はない>
●衣食住など最低限の基準を満たさない人の割合が絶対的貧困率
貧困線の一つに、絶対的貧困率というものがあります。絶対的貧困は、食料・衣服・衛生・住居について最低限の要求基準により定義される貧困レベルをいいます。考え方そのものとしては、これが非常に納得の行くものです。
ただし、前述のように、貧困線全般の問題である、"絶対的貧困を示す具体的な指標は国や機関によって多様"になるという難点があります。また、以下のような批判もあるとのこと。
<こうした貧困の定義に対しては、何が必要かをめぐる社会的・文化的個別性や、ニーズを充足する手段の獲得における社会内部での階層化(たとえばピーター・タウンゼンドが相対的剥奪という語で示そうとした状況)、そしてまた貧困状況をもたらす社会構造に対する批判的視点も必要ではないかとの批判も存在する>
●一律の定義で出すことができる!絶対的貧困率と相対的貧困率の違い
絶対的貧困率と対応するのが、相対的貧困率の考え方です。相対的貧困の定義は「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯員」"です。そして、この割合を示すものが相対的貧困率となります。
これはカチッと数字として出せるもの。したがって、絶対的貧困率と違い数学的な指標なので主観が入りにくいという長所があると言えます。
ところが、国によって「貧困」のレベルが大きく異ってしまうという可能性が、当然ながらあります。たとえば、以下のようなケースです。
<先進国に住む人間が相対的貧困率の意味で「貧困」であっても、途上国に住む人間よりも高い生活水準をしているという場合と先進国においては物価も途上国より高く購買力平価を用いた計算をすると途上国よりも生活水準が低い場合が存在する>
●相対的貧困率で日本は貧しい国だと主張するのはおかしい?
私はこの相対的貧困率をもって、日本は貧しい国だから問題だ…とするのには、違和感を覚えていました。とはいえ、国の中の所得格差を見るというテーマでしたら、悪いものではないでしょう。今回取り上げようと思ったのは、まさにそれですから問題ありません。
なお、相対的貧困は、預貯金や不動産等の資産は考慮していないという弱点も持っています。
日本の所得ジニ係数を見ると日本の所得格差は拡大傾向 原因は?を書くきっかけになったピケティ博士が最も問題視している資本(資産)は、全くの未考慮なんですね。
それから、「相対的貧困率」は「等価可処分所得の中央値の半分の額」という定義からして、高所得者層と低所得者層とpの所得格差の大きさを見るには不適切。よくわかるのは、中間層と低所得者層との格差でしょう。この点にはご注意ください。ピケティ博士関係の記事で相対的貧困の話が出てこなかったのも、ここらへんが理由かもしれません。
●母子・父子家庭の「相対的貧困率」は先進国で1位
検索してときにタイトルを見かけて、この相対的貧困率の話だろうなと思った
実は先進国トップの貧困率だった日本。貧困の波は年収500万円サラリーマンにも押し寄せている | 日刊SPA!(2014.10.28)という記事。やはり相対的貧困率で見たものでした。
<経済規模を表すGDPこそ世界第3位の日本だが、貧困層は確実に広がっている。まずは、等価可処分所得の中央値の半分の額を「貧困線」(’12年は122万円)といい、それに満たない世帯の割合を示す「相対的貧困率」は16.1%。これはOECDに加盟する34か国のなかで第4位>
OECD加盟国には結構「それって先進国なの?」という国が含まれています。ただ、先進国とイコールとされることが多いですので、この表現は問題ないでしょう。そして、このように似たようなレベルの国で比較する使い方なら、相対的貧困率による主張も妥当でしょう。発展途上国より貧しい!みたいな変な主張ではありません。
ただ、第4位では絶対に「先進国で1番」とは言えません。おかしいな?と思ったら、次のように続いていました。こちらで1位ということみたいですね。
<さらに、大人が一人(つまり母子・父子世帯)に限ってみれば貧困率は54.6%で、これは世界第1位の低水準となる>
あと関係ないんですが、フジサンケイグループの扶桑社なのにアベノミクス批判していたのも、あれ?と思いました。
「アベノミクスで景気がよくなったといわれても、それを実感できているのは、一部の富裕層に限った話。雇用の流動化を進める安倍政権が目指すのは、1%の富裕層が富を独占するアメリカのような超格差社会です。すでに、正社員の労働環境も不安定化しており、中間層が下に落ちてきています」(労働組合東京ユニオンの関口達矢書記長)
●上がってる?下がってる?日本の「相対的貧困率」の推移
平成22年国民生活基礎調査の概況|厚生労働省では、様々な貧困率の推移が載っていました。相対的貧困率が下がっている年もあるものの、大きな目で見ると緩やかな上昇傾向。相対的貧困率を所得格差と結びつけた場合は、所得格差は増大傾向だと言えます。
【相対的貧困率】
1985 年 12.0 %
1988 年 13.2 %
1991 年 13.5 %
1994 年 13.7 %
1997 年 14.6 %
2000 年 15.3 %
2003 年 14.9 %
2006 年 15.7 %
2009 年 16.0 %
子どもがいる現役世帯に限ってみると、貧困率の増加はいっそう顕著なように見えます。
【子どもがいる現役世帯】
1985 年 10.3 %
1988 年 11.9 %
1991 年 11.7 %
1994 年 11.2 %
1997 年 12.2 %
2000 年 13.1 %
2003 年 12.5 %
2006 年 12.2 %
2009 年 14.6 %
ただ、このままだと比較しづらいので、それぞれの1985年を100として増加率を並べて見てみましょう。やはりそうですね。子どもがいる現役世帯の方が上がり方が激しいです。でも、2006年まではむしろゆったりとしていたのに、2009年に突如上昇した形だとは思いませんでした。
【全体・子どもがいる現役世帯】(1985年を100とした場合)
年数 全体 子どもがいる現役世帯
1985 年 100 100
1988 年 110 116
1991 年 113 114
1994 年 114 109
1997 年 122 118
2000 年 128 127
2003 年 124 121
2006 年 131 118
2009 年 133 142
もちろん大人が一人の世帯はぐーんと高い数字。で、これがSPA!が言っていた先進国で最悪というやつです。ただ、こちらは悪化傾向というわけではありません。特に2009年には、いきなり減っています。他は悪化している年なので全く逆ですね。
【大人が一人の世帯】
1985 年 54.5 %
1988 年 51.4 %
1991 年 50.1 %
1994 年 53.2 %
1997 年 63.1 %
2000 年 58.2 %
2003 年 58.7 %
2006 年 54.3 %
2009 年 50.8 %
以上です。途中でも書いたように、相対的貧困率は他国と比べて貧しいという主張に使われると、ピンと来ないものがあります。ただ、同じレベルの国同士での比較や、日本という国の中で所得格差が大きいといった主張としてなら、理解できます。
相対的貧困率で見た場合、他の先進国と比較して、日本は国内での所得格差はたいへん大きいというのは、どうやら事実のようでした。
●富裕層過去最多の一方、家庭の平均所得最多は200~300万円未満
2021/12/28追記:相対貧困率ではない貧困の話を追記。安倍首相に近い人がよく本を出していて、左派系ではなさそうな幻冬舎の幻冬舎ゴールドオンラインで、<貧困急増…「平均所得200~300万円未満が最多」「主要先進7ヵ国でも最下位」日本人のキツすぎるリアル>(12/25(土) 10:46配信 GGO編集部)という記事が出ていたんですよ。
<OECDは、国別の平均賃金についてもランク付けしています。(中略)日本の平均賃金については、現在22位。OECD内の下位層(引用者注:38ヵ国中22位)に所属しており、西洋諸国、ニュージーランド、韓国と悲しい差が開いてしまっています。
少子高齢化、新型コロナ感染拡大など要因は様々ではあるものの、ついに海外メディアが「貧困層の増加によって、日本の『中間層』は消え始めている」(中略)とも報じ始めています>
https://news.yahoo.co.jp/articles/03681edc841b5da556a702afd34e3ae214215e35
厚生労働省『国民生活基礎調査』(2019年)で平均所得について見てみると、1世帯あたり平均所得金額は、「全世帯」が552万3,000円。ただし、所得や貯蓄といったものは、高所得者が平均値を引き上げていることがわかっており、実態を見るものとしては不適切です。続けて書かれていた以下の部分の方が参考になるデータでしょう。
<同調査によると、「200~300万円未満」が13.6%、「300~400万円未満」が12.8%、「100~200万円未満」が12.6%と、所得300万円未満の世帯が最も多くなっています。中央値は437万円。平均所得金額(552万3千円)以下の割合は61.1%と過半数を超えています>
なお、貧困が増えている一方、株式会社野村総合研究所の調査によると、2019年、日本の富裕層・超富裕層の世帯数は2005年以降で最多となったそうです。さらにこのコロナ禍、株式市場などの好調が起因となり、世界の億万長者の数は過去最多を更新しているともされていました。
●日本だけ平均賃金が30年間停滞の異常…分配ない上に税金は増加
<貧困急増…「平均所得200~300万円未満が最多」「主要先進7ヵ国でも最下位」日本人のキツすぎるリアル>という記事タイトルの後半「主要先進7ヵ国でも最下位」は労働生産性であり賃金ではありません。ただ、ヤフーニュースの記事についた専門家コメントでは、独身研究家の荒川和久さんが以下のように指摘していました。
<平均賃金の世界各国との推移を比較すると悲しくなります。1990年時点では、日本を上回るのは米国とドイツくらいでしたが、それ以降イギリス・フランス・北欧諸国などは勿論、遂にはニュージーランドや韓国にまで抜かれた。それも当然で、この30年間、まったく平均賃金があがっていないのは日本だけだからです>
賃金が上がらない一方で、社会保障費や消費税は上げられ、実質可処分所得はマイナス。独身研究家らしく、独身者は配偶者控除がなく特にきついことも指摘。最近発表の自公政権の10万円給付でも独身者は無視されており、「先進国どころか後退国であり、成長も分配もない国、それが今の日本の姿」と締めています。一般人コメントでも以下のように嘆く声が目立っていました。
<働き盛りの世代は政府の財布と思ってる
困ったら会社員に負担増を強いればいい、それが自民党(中略)
よくこんな政権支持できるもんだ>
<そもそもの始まりはバブル以降のデフレと小泉改革が事の発端だが、賃金は上げずに内部留保溜め込みに血道を上げた大企業と、それを許してきた政府に一義的な責任がある。平成以降物価も賃金も一部を除きほとんど上がっていない。まさに「失われた30年」。
アジア各国や欧米はその間にどんどん力を伸ばし、物価も賃金も上がっている、つまり成長している。
日本は置いてきぼりを食った事に政府は今頃気付いて、賃上げ要請だの「新しい資本主義」とか言ってるが時既に遅し>
<普通に考えて、30年から40年、経済成長が停滞して、給料は上がらないのに、税金は増えていく……この状況で(途中で政権交代はしたものの)まだ自民党を支持し続ける国民はもう異常だ>
<10年くらい前、アメリカで『最低賃金15ドル』運動をやってた時、当時の安倍元首相は「3年で最低賃金1000円まで上げる」と言ってたけど、10年経っても全国平均800円程度>
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