学術誌掲載論文でも信頼してはいけない STAP細胞とソーカル事件でもやったように、学術誌に論文が掲載されたからといってそれが正しいとか限りません。STAP細胞問題で繰り返し書いたように、異論反論ありながら仮説を確かにしていくものです。
牛乳に関しては、この前「牛乳の飲み過ぎが健康に悪い」とするスウェーデンの研究結果が出たものだから、また短絡的な反応が見られました。
この状況を見て、"過去にも「牛乳は有害」という誤った情報が流布され、消費の減少につながったことがあり、「正確な情報を発信すべきだ」との声が上が"ったようです。
それ自体は別にいいのですけど、例によって悪かったのが政治家の言い方です。
消費者に誤解を与えかねないこうした情報に対し、30日の自民党畜産・酪農対策小委員会でも懸念の声が上がった。
江藤拓前農水副大臣は「生産者に迷惑をかける」と指摘。かつても日本の著名な医師が牛乳有害説を唱え、牛乳の消費に悪影響を与えた経緯を踏まえ、農水省に「何か反論はできないか」と正確な情報を発信するよう求めた。
日本農業新聞 e農ネット - 牛乳有害説に農林議員困惑 正確な情報発信求める(2014/10/31)
"正確な情報を発信するよう求め"るのに、「何か反論はできないか」という言い方をするのは頭が悪いです。「何か反論はできないか」というのは、まともな反論ができないものだから何とかしてむりくりに反論しなくちゃいけないのだと思わせます。
で、案の定牛乳有害説を信じた人たちに誤解を与えてしまったようです。政治家はしゃべりが商売みたいなものなんですけど、何でこうも言い方がおかしい人ばかりなんでしょう…。
この結果の報道を受けて、10月30日の自民党畜産・酪農対策小委員会では江藤拓前農水副大臣は「生産者に迷惑をかける」と指摘し、農水省に「何か反論はできないか」と正確な情報を発信するよう求めたのだが、これがさらにソーシャルで「早速自民党農水族が圧力を」などと取る人も現れる結果となってしまった。
スウェーデン研究で「牛乳有害論」が再び拡散。その真偽は? | ハーバービジネスオンライン 2014年11月12日
論文ではよくあることですが、そもそも元の論文は慎重な言い方をしていました。例によって"日本のネットメディアもさかんに「牛乳を飲むと早死すると判明」などと煽り気味のタイトルをつけ"…といったマスメディアの悪さもあります。
論文の原文には「Strengths and weaknesses of this study(我々の研究の強みと弱み)」と題した項で、研究結果は「reverse causation phenomenon(逆因果現象)」すなわち、「牛乳をたくさん飲んだから骨折が増えた」のではなく、「骨粗しょう症を患う人が、骨折を予防するために牛乳の摂取量を増やしたが骨折した」ことで、骨折の原因が牛乳にあるとされてしまう、原因と結果を取り違える現象が起きている可能性があることなどを明記。”今回の研究で示された牛乳の摂取量と死亡率・骨折頻度との関連性については偶然の可能性も排除できない”とし、さらなる研究の必要性も書いているのである。
原因と結果の取り違えはよくありますね。病気がちな人が薬をよく飲むのを見て、「薬をよく飲む人は病気になる」と結論付けるのはさすがおかしいとわかるのでしょうが、牛乳の場合にはこうなってしまうようです。
記事で出ていた都内に勤務する内科医は、牛乳有害説について以下のように言っていました。
「牛乳有害論は以前から日本の一部層には支持されていた説で、著名な医師が彼の著書でそれを書いて以来爆発的に広まったものです」
またトンデモ医師か?と思ったら、実際「すでに研究者や疑似科学批判者から科学的根拠に乏しい論述が多く、統計の誤用も多かった点などが指摘されて」いたお医者さんだったそうです。
今回のものは学術誌に載ったものでそれよりはレベルが上なわけですが、内科医の方は「牛乳有害論の論文は話題になりやすいのですが、逆に牛乳が有益であるという研究結果はこれほどまでに拡散しない」と指摘しています。
「例えば、このスウェーデンの研究の1か月前にはウィーンで開催された欧州糖尿病学会で牛乳などの乳製品をよく食べるで人は、全く食べない人に比べ、2型糖尿病の発症リスクが23%低下するという結果が出ています」
これ以外にも牛乳の良い点について言及した記事はありました。多数決の問題ではないんですが、牛乳有害説の報告の占める割合には驚きます。
牛乳の不健康説を裏付ける研究はいまだ少なく、乳製品と骨粗しょう症の関連性を研究した論文のうち85%が「骨量の増加に良い」という報告のものだそう。
乳製品が骨の健康に与える「マイナスの影響」について書かれた報告書は、たった1.4%しかないというので、裏付けはいまだ乏しいと言えそう。
牛乳は身体に悪い?「健康のための牛乳」の賛否両論説が話題 | 「マイナビウーマン」 Update : 2013.10.20
ただ、この記事はあまり良くない牛乳有害説も紹介しています。"他の動物の乳を大人になっても飲んでいるのは人間だけで、とても不自然なことだ"なんて馬鹿すぎて話になりません。
これに比べるとまだマシなのは、"世界保健機関(WHO)の発表によると、北欧諸国など牛乳によるカルシウム摂取量の多い海外諸国は、少ない国々と比較して骨折の確率が高い"という牛乳有害説です。
ただ、北欧諸国のカルシウム摂取量の話には日射量の少なさの影響では?という反論もあるので、併記するのがベターでした。この話どっかで書いたな?と思ったら、初期の
牛乳とカルシウムの関係で使ったものでしたね。
他に"牛乳には59種類のホルモンが含まれているそうで、これがアレルギー反応の引き金になっている"というものが紹介されていました。ホルモンの話は記憶になし。
調べたらこちらも結局反論が出ているかもしれませんけど、牛乳にマイナスの影響がないというのも極端ですからね。飲み過ぎも避けるべきです。
ああ、ホルモン関係の話も今回軽く調べた中で出てきていましたわ。
新書『牛乳は子どもによくない』 矛盾点を指摘 | 農政・農協ニュース | JAcom 農業協同組合新聞
1月、PHP新書から『牛乳は子どもによくない』(佐藤章夫)が発刊された。Jミルクは、この内容への反論、著者の見解の誤りや矛盾点などを整理し、ホームページ上で発表した。(中略)
例えば、同書では市販牛乳に含まれる女性ホルモンが0.378ng/mlとしているが、内閣府食品安全委員会の調査では最大でも0.023ng/mlとなっており、「筆者の測定値と食品安全委員会の報告の間には20倍にも及ぶ差が見られ、分析値の信憑性が疑われる」としている。
また、がんの発症リスクについても、国立がん研究センターは「牛乳・乳製品とがんとの関連性は示されていない」としており、日本乳癌学会はむしろ「乳製品を多く摂取している人では乳がん発症リスクが少し低くなる」と発表している。
大体「~が良くない」みたいなのは商売ありきで、いい加減なことが多いですね。耳目を集められればそれでいいという商業主義です。
なお、牛乳のカルシウムは、小魚や野菜から得るカルシウムより吸収しやすいという調査があるようです。
牛乳・野菜・魚カルシウムの吸収率の比較試験−ウェルネスレポート− | 子供の健康と成長 |Jミルク MILK通信II ほわいと(1996年夏号より)
食品別のカルシウム吸収率について、日本では1953年に兼松氏によって行われた比較試験の結果、牛乳カルシウムの吸収率が50%と最も高く、ついで小魚の骨が30%、野菜17%といわれてきました。
今回、1994年から1995年にかけて、全国牛乳普及協会が改めてより正確を期して調べた結果、9名の平均で、牛乳40%、小魚33%、野菜19%という数値を得ました。牛乳はやはり小魚や野菜にくらべ、より有効にカルシウムを吸収できることが確認されました。
(中略)
従来と異なった値になったのは、試験方法、対象人数(4名)の違いによると思われます。1953年当時のカルシウム摂取量は260mgと現在(545mg)より非常に少なく、そのため吸収率が高かったことが考えられます。
"19才~29才までの健康な女性9名が対象"ということで、えらくサンプルが少ないですね。以前の実験(もっとサンプルが少ない)と一致していますので、信頼度を増す方向性には一応働きます。
牛乳は良い影響を伝える論文ばかりなのに、数少ない悪い影響の話ばかり話題になるという指摘が先ほどありました。こういった問題は牛乳以外でも言えるでしょう。ただ、これはある程度仕方ないところもあります。
定説にそったものは意外性・新奇性がなく、ニュースバリューがありません。一方、定説に従わないものは意外性・新奇性があり、ニュースバリューがあります。マスコミが…という問題ではなく、人間の性質としてどうしてもこうなります。
ただ、マスコミの方では気をつけてもらいたいとは思います。ネットではマスコミ叩きが盛んですが、大衆の嗜好というのがそもそも浅ましいものです。ですから、大衆に合わせるとクオリティが低くなるのは致し方ないのですけど、マスコミは大衆と同じになってしまわずに、一定の節度を持って報道するよう心がけてほしいです。
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