うつ病の話をまとめ。<日本と世界のうつ病の割合・患者数 日本は多くないどころか最低の比率>、<世界16カ国のうつ病率・日本が低い理由 患者に冷たい国も調査>をまとめています。
●日本でうつ病が多いというのは嘘だった?予想外の結果に…
2015/4/26:うつ病の人がどれくらいいるのか?という話。複数データがあるでしょうから、いろいろ見てみようと思いました。こういうときはとりあえずWikipediaから…ということで、
うつ病 - Wikipedia (最終更新 2015年4月9日 (木) 20:48)を見てみました。こちらによると、むしろ日本は少ない…という意外なことになっています。
厚生労働省によれば、うつ病の12カ月有病率(過去12カ月に経験した者の割合)は世界では1〜8%、日本では12カ月有病率が1〜2%である。
また、生涯のうちにうつ病にかかる可能性については、川上によれば3〜16%である。 日本では、水野らによれば12ヶ月有病率は3.1パーセント、川上によれば生涯有病率6.7パーセントとされている。
これらの研究結果から、ある時点ではだいたい50人から35人に1人、生涯の間には15人から7人に1人がうつ病にかかると考えられている。米国では、うつ病による経済損失は5兆円におよぶと試算されており、その内訳は生産性低下53%、医療費28%、自殺17%である。
厚生労働省によると、うつ病の12カ月有病率は世界では1〜8%、日本では1〜2%ということで驚いたことに日本の方が低いのです。日本はうつ病大国みたいな言われ方をされているので予想外でした。
上記では自殺の話が出ています。実は私が今度調べようと思っていた中には、「日本人はうつ病が多いので自殺者が多い」という説がありました。ところが、このうつ病の比率(割合)を見ると、完全に否定されてしまいますね。
まだ、「日本ではうつ病への偏見が強く顕在化していない」「世界の方のうつ病の割合も幅が大きく未確定なところがある」といった反論も考えられますが、少なくとも確認できるデータ上は日本でうつ病が多いとは証明されていないと言えます。理由の推測は後でもう少しやりますが、とりあえず、Wikipediaのデータを整理してみましょう。
【うつ病の12カ月有病率】
世界 1〜8% (厚生労働省)
日本 1〜2% (厚生労働省)
日本 3.1% (水野創一ら)
【生涯のうちにうつ病にかかる可能性】
世界 3〜16% (川上憲人)
日本 6.7% (川上憲人)
なお、先ほどの引用中の川上とは川上憲人さん。水野というのは、水野創一さんです。下記のあたりが出典だそうです。
水野創一、宮岡剛、稲垣卓司、堀口淳「Prevalence of restless legs syndrome in non-institutionalized Japanese elderly」、『Psychiatry and clinical neurosciences』第59巻第4号、2005年8月1日、 461-465頁、 NAID 10018029436
川上憲人「世界のうつ病,日本のうつ病--疫学研究の現在 (第5土曜特集 うつ病のすべて) -- (疫学)」、『医学のあゆみ』第219巻第13号、医歯薬出版、2006年12月30日、 925-929頁、 NAID 40015165979
●日本と世界のうつ病の割合・患者数 日本は多くないどころか最低の比率
いろいろ集めよう!という話ですので、別のデータを見ていきます。
うつ病世界地図、日本が最もうつ病が少なかった。:ザイーガ 2013.11.11 09:00
最も多いのがアフガニスタンで5人に1人がうつ病認定されております。逆に最も少なかったのは日本だったそうで人口比率2.5%、それでもまあ40人に1人という計算となります。
うつ病比率が高かった国は、アフガニスタン、ホンジュラス、パレスチナ自治区など、中東諸国や北アフリカ諸国。逆にうつ病比率が低い地域はアジアで、その中でも一番日本が低かったそうです。
日本のうつ病比率は低めどころの話ではなく、世界一低いとのこと。うーん、完全に予想外ですね。ただ、このサイトは定義がはっきりしていません。7%未満の国が多いので「12カ月有病率」ではないかと思いますが、Wikipediaでは「世界 1〜8%」だったのに最低が日本の2.5%というのも何かしっくり来ないです。元ネタは以下のワシントン・ポストの記事だそうな。
A stunning map of depression rates around the world - The Washington Post By Caitlin Dewey November 7, 2013
英語なので読むのが面倒ですが、"Australia’s University of Queensland"、つまりオーストラリアのクイーンズランド大学の研究者によるもの。ここだと世界では4%強というデータかな? ただ、定義についてはしっかり触れられていない感じです。使えませんね。
先ほどの比率からも計算できますが、人数で出している別のデータがありました。
うつ病患者、世界に3億5千万人 WHO推計 :日本経済新聞 2012/10/10 0:57
世界保健機関(WHO)は9日、世界で少なくとも3億5千万人が精神疾患であるうつ病の患者とみられるとの統計を発表した。毎年100万人近くの自殺者のうち、うつ病患者の占める割合は半数を超えるとみられている。
日本の厚生労働省によると、1996年には国内で43万3千人だったうつ病など気分障害の患者数は2008年に104万1千人に増加。WHOはストレスの多い日本など先進国だけでなく、発展途上国でも精神疾患の患者が目立つとしている。(ジュネーブ=共同)
だから、日本はむしろ少ないんですって…。まあ、それは良いとしてまとめ。これも定義が書いていませんね。
【日本と世界のうつ病患者数】
世界 3億5000万人 (WHO、2012年)
日本 104万1000人 (厚生労働省、2008年)
ちなみに人口はこちら。
【日本と世界の人口】
世界 70億人 (2011年、国連など)
日本 128,057,352人 (2010年10月1日国勢調査)
非常に粗いですが、これを元に比率を出すとこちら。
【日本と世界のうつ病比率】
世界 5.0%
日本 0.81%
日本が低すぎですね、これ。うーん、病院に受診していないうつ病患者が多いみたいなものですかね?
●男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすい
いろいろと探したものの、結局、最初のWikipediaが一番良いという感じに。ついでにWikipediaから興味深いと思ったところをいろいろと紹介していきます。まず、性別による違いなども見てみましょう。性別については「男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされている」などといった話がありました。
・性差
<閉経や子どもの自立による喪失体験、PMSによるストレス、男性より寿命が長いことによる配偶者との死別などによる部分も少なくはないと思われ、社会生活によるストレスが多い男性にも普通に見られる。
女性の発症率の高さについては、妊娠・出産期・閉経期・月経前(PMS、PMDD、セロトニンの減少)の女性ホルモン、セロトニンの激減がマタニティブルーや産後うつに関与している可能性がある。産後うつは乳児の育児時の睡眠不足もある。日本ではうつ病が増加傾向にあるが、女性の高齢化による自然増もある>
以上のように、女性の方が多いのは明らかな模様。しかし、
男女による自殺率の違いでやったように、男性の方が自殺が多いです。これまた自殺者の多さと相反します。ただ、以下のように、一般的には自殺とうつ病は関係が深いと考えられているとのこと。自殺絡みの話はどうもしっくり来なくなってしまいます…。
・自殺企図者とうつ病の統計
<WHOの自殺予防マニュアルによれば、自殺既遂者の90%が精神疾患を持ち、また60%がその際に抑うつ状態であったと推定している。日本においては、重大な自殺を図った者の75%に精神疾患があり、その46%はうつ病である>
●日本のうつ病が予想外に少ない理由?うつ病が隠れている可能性
Wikipediaでは、日本ではうつ病が少ないのではなく、うつ病が少なく見えているだけではないか?ということに関係してくる「隠されたうつ病」に関わる話もありました。「患者数とその推移」と題された部分で、「日本の患者数の少なさについては、受診率の低さが原因としてあげられる」として、以下のように説明されています。
<日本の患者数の年度ごとの増加傾向には、高齢化やうつ病についての啓発活動による受診率の増加が原因としてあげられる。
うつ病の患者数が20世紀になって増加していることについて、SSRIの導入後6年間で2倍に増えるという経験則があり、製薬会社のキャンペーンが影響している、とした説もある。「副作用の少ない」抗うつ薬の普及に伴い、うつ病と診断される患者数が増加している側面がある>
SSRIというのはセロトニン仮説に基づく薬です。ところが、
うつ病の原因はセロトニン不足は仮説 抗うつ薬は効果なしで危険?でやったように、セロトニン仮説はやや怪しいところがあり、難しいところ。この薬の普及度がうつ病患者数に影響している可能性もあるみたいですね…。
●子どももうつ病になる 非常に厄介な喫煙者のうつ病
他の話とまとめられませんでしたが、子供のうつ病についても紹介。
子どものうつ病
子どもでもうつになる場合があり、子どもの大うつ病の時点有病率は児童期で0.1から2.6パーセント、青年期で0.7から4.7パーセントとされている。 いじめ等の自殺行為は、重度に発展したうつ病による可能性もある。
うつ気分が、イライラする、怒りっぽくなる、落ち着きがなくなるなどの形で表現されることも多い。
また、タバコとうつ病というテーマもありました。
喫煙との関連
製薬会社のファイザーが2009年6月に10年以上の喫煙歴がある40 - 90歳の男女計600人を対象にインターネットで行った調査によると、ニコチン依存症の人の16.8パーセントにはうつ病やうつ状態の疑いがあり、ニコチン依存症でない人でのその割合は6.3パーセントのため、ニコチン依存症の人ほど、うつ病・うつ状態の可能性が高いと報告している。また、典型的な抗うつ薬であるイミプラミンについて、喫煙者は効果が半減するとの指摘がなされている。
ただし、喫煙者であって重症のうつ病の間の禁煙は医師との相談が必要である。ニコチン離脱時にうつ病が再燃しやすいのである。
ニコチン依存症の人がうつ病が多いのに、禁煙したらしたで危険って面倒くさすぎますね。なお、喫煙者がうつ病になるのではなく、ストレスが溜まっているから喫煙するんだと考える人もいるでしょう。ただ、喫煙はストレスを解消するのではないという考え方が主流です。それどころか、むしろストレスの原因になるとも言われています。
●韓国中国と似てる…世界16カ国のうつ病率・日本が低い理由
2015/5/27:上記とは別の調査があったのでそちらも紹介します。ルンドベック・ジャパンが「職場でのうつ病の影響調査」の結果を発表していました。まずは「うつ病と診断されたことがある人の割合」を調査した数字。普通は過去1年間で診断されたものを調べると思うのですが、期間は書かれていませんでした。
以下は上から順にうつ病率が高くなっています。下一桁の数字が書かれていないものの、棒グラフを見ると長さが明らかに違うところが多いため、同じパーセンテージでも上の国の方が高いものと思われます。
【日本を含む世界16カ国のうつ病率】
英国 27%
オーストラリア 26%
南アフリカ 26%
トルコ 23%
米国 23%
スペイン 21%
カナダ 21%
フランス 19%
デンマーク 19%
ドイツ 19%
ブラジル 19%
メキシコ 15%
イタリア 12%
日本 10%韓国 7%
中国 6%
働く人々のうつ病率、日本は10%、韓国は7% ‐ 16カ国中1位は? | マイナビニュース [2015/03/09]
調査は2014年2月、ルンドベック社が世界16カ国(日本・英国・オーストラリア・南アフリカ・トルコ・米国・スペイン・カナダ・フランス・デンマーク・ドイツ・ブラジル・メキシコ・イタリア・韓国・中国)にて、オンラインパネルを使用して実施したもの。各国、過去12カ月において従業員もしくは管理職であった16~64歳の成人・約1万6,000人(16カ国合計)を対象としている。
前半でも見たように、日本は相変わらず圧倒的に低いです。ただ、調査国の中で今回は最下位ではありませんでした。日本より下には韓国と中国がいます。何だかんだ言っても日本は韓国や中国との共通点が多いのですが、うつ病率が低いのも東アジア全般の特徴のようです。
前半部分や
うつ病の人は車を運転してはいけない?萩原流行氏の事故で批判において、日本でのうつ病患者が少ない理由についていろいろと憶測しました。ただ、憶測と書いたように、私が勝手に言っているだけ。で、今回ちゃんと専門家さんの話もありましたので掲載。「日本の状況は海外ほど深刻ではない?」と考えるのは早計だとして、長崎大学精神神経科学の小澤寛樹教授が以下のように説明していました。
「このうつ病率を見て、日本は大丈夫と考えない方がいいでしょう。欧米圏とアジア圏の人では、うつ病に対する症状の出方が異なる傾向にあるためです。欧米圏の人はうつ病が精神面に作用しやすいのに対して、アジア圏の人は頭痛や腰痛、あるいは食欲不振といった身体症状として出やすいんです。そのため、アジア圏ではうつ病を患っていながら、別の病気だと思ったり、気づかなかったりするケースが多いんですね。日本のうつ病率が低いのも、そのためと考えられます」
(
日本の「うつ病率」が低い真相とは web R25 / 2015年5月13日 11時15分 有井太郎)
私が以前の投稿で気にしていた自殺者の多さとの乖離についても、"WHO(世界保健機関)が定期的に発表する自殺率をみると、日本や韓国は非常に高い"と触れていました。
●日本はうつ病の人に冷たい国だった?患者に冷たい国も調査
以前の私の憶測の中には、日本人はうつ病への偏見があるために実際よりも数字が低くなっているのでは?というものがありました。これはこの記事でも似たようなものが出てきていました。
「そのほか、欧米やオーストラリア、南アフリカなどは、うつ病へのサポートが非常に手厚く、そのぶん、うつ病の申告もしやすいため、うつ病率が高くなる面もあるでしょう。たとえば、メルボルンの学校では精神疾患に関する教育が盛り込まれていますし、アメリカの企業は社内カウンセラーが離婚問題などのレベルから相談に乗って“うつ予防”に力を入れるほど細かくサポートしています」(小澤寛樹教授)
これを受けて記事の著者は以下のように書いています。
確かに日本企業だと、自分が「うつ病」だと言いにくい雰囲気を感じているビジネスパーソンも多いだろう。なお、「うつ病」の認知度が上がると発症率も上昇する面があるようで、中国では近年、急激にうつ病率が高まっているという。
日本でもうつ病の認知度はだいぶ高まってきたが、欧米のようなサポート体制はまだ整っていない様子。逆にいえば、今後サポート体制が整うことで、日本のうつ病率はさらに増えていく可能性もありそうだ。
最初の記事であったルンドベック社の調査に戻ってもう一つ。ここらへんに絡む話で、「同僚がうつ病だと知った時にした行動」を聞いたという調査について。"「自分に何か役に立てることはないかと尋ねた」人は、日本では16%にとどまり、16カ国中最下位"となりました。現時点でのうつ病率が日本より低い中国や韓国より少なかったという驚きの結果です。
というか、これは中国42%、韓国29%で大きく異なりました。韓国は日本の倍近いですが、それでも15位なのでお隣さんです。ただ、中国は12位と「自分に何か役に立てることはないかと尋ねた」人の多さの順位はうつ病率順よりだいぶ良くなっています。
一方、「何もしない」は日本は40%。これもダントツのトップ(ワーストで1位)で2位はアメリカの20%。韓国は15%で9位。中国にいたっては僅か4%で下から2番めでした。似ていることが多いと書いたものの、うつ病の同僚に対する行動は全然似ていませんね。
なお、"メキシコでは、「何もしなかった」人はわずか4%なのに対し、「自分に何か役に立てることはないかと尋ねた」人は67%と積極的に対応していることがわか"りました。ともに1位です。タイトルでは患者に「冷たい国も調査」としましたが字数の関係でこうまとめただけで、うつ病患者に対するベストな対応というのも調べてみないとメキシコ人の行動が正しいかどうかはわかりません。
ただ、少なくとも優しい気持ちは伝わってきます。日本人もこの心持ちは見習いたいものです。
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