この投稿は2009年7月8日のものに加筆して訂正したものです。
●プロスペクト理論についてのアンケート
さて、いきなり問題です。ただ、問題とは言っても正解があるわけではありませんので、「アンケート」と言った方が良いですね。あなたならどうするか?というのを選ぶだけです。
素直な気持ちで答えてください。
Q1:もし、選択できるとするなら、以下のA・Bのいずれが好ましいですか?
A:必ず80万円もらえる
B:100万円もらえるが、15%の確率でまったくもらえない
Q2:もし、選択できるとするなら、以下のA・Bのいずれが好ましいですか?
A:必ず80万円を支払う
B:100万円を支払うが、15%の確率でまったく支払わなくてよい
●“自らをプロと思う”だけで正答率が増す?
上記の引用は、
“自らをプロと思う”だけで正答率が増す合理的思考テスト|マーケットで成功するための投資の心理学|ダイヤモンド・オンライン( 林 康史 [立正大学経済学部教授] 2008年3月11日 )という記事からです。
タイトルになっている「“自らをプロと思う”だけで正答率が増す」といったことが起きる可能性は、十分にあると思います。
カジュアルな服装の企業はビジネススーツの企業より優れている?の話なんかと似た感じで、想像がつきます。
ただ、この記事で出ていた逸話は、ある問題において"回答が終わるや否や、問2と同様「自らを“プロのファンドマネジャー”だと考えて回答してください」とだけ伝えて、同じ問題にもう一度答えてもらった"というものです。これはかなりマズい実験方法です。
成績が良くなったことは、"もちろん、続けて同じ問題に答えたということもあるかもしれない(再考、つまり、じっくり考え直したということかもしれない)"と、著者の林康史教授自身おっしゃっていました。“自らをプロと思う”だけで正答率が増すかどうかは、この実験方法ではわかりません。
一方で、以下のような話もしていました。これなら「まあ、そうかな」と思います。
再三にわたって考えたからだとすれば、もちろん、視点教示の効果で正解できたのではないということになる。しかし、視点教示ではないにしても、“熟考”“再考”すれば、正解に近づく可能性が高いことを示している。考え抜くことが大切なのである。
●回答の分布は?
さて、正解はないという話をしましたが、最初の質問での回答分布を見てみましょう。
Q1:もし、選択できるとするなら、以下のA・Bのいずれが好ましいですか?
A:必ず80万円もらえる
B:100万円もらえるが、15%の確率でまったくもらえない
Q2:もし、選択できるとするなら、以下のA・Bのいずれが好ましいですか?
A:必ず80万円を支払う
B:100万円を支払うが、15%の確率でまったく支払わなくてよい
結果は以下でした。
(1)A、A:30%
(2)A、B:51%
(3)B、A:16%
(4)B、B: 3%
●人のリスクに対する心理のおもしろさ
正解はないわけですが、合理的な回答といった場合のは「(3)B、A:16%」だと言えます。
というのも、Q1の場合、平均収支は以下のようになるためです。
A:必ず80万円もらえる +80万円
B:100万円もらえるが、15%の確率でまったくもらえない +85万円
しかし、圧倒的に実際にはAを選んだ人が多いことがわかります。「(1)A、A:30%(2)A、B:51%」ですから81%ですね。リスクを取らず、安定を取りました。
一方、Q2の場合の平均収支は以下のようになります。
A:必ず80万円を支払う -80万円
B:100万円を支払うが、15%の確率でまったく支払わなくてよい -85万円
「(2)A、B:51%(4)B、B: 3%」は合計54%で拮抗していますが、僅かにBの方が上回りました。これの何がおもしろいか?と言うと、今度はさっきの逆で安定を取らずにリスクを取る人が増えていることです。
●プロスペクト理論とは?
実は上記の話はプロスペクト理論の例でした。
ここから2009年7月8日の投稿ベースになりますが、当時見た
プロスペクト理論-Wikipediaによると、プロスペクト理論とは、人々がリスクを伴う選択肢の間でどのように意思決定をするかをモデル化したもので、"prospect"は、期待、予想、見通したと説明していました。
ウィキペディアで出していた例は以下。上記の例と異なり、期待値(私が平均収支と書いたもの)がいっしょです。
質問1:あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
選択肢A:100万円が無条件で手に入る。
選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。
質問2:あなたは200万円の負債を抱えているものとする。そのとき、同様に以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
選択肢A:無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる。
選択肢B:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない。
質問1は、どちらの選択肢も手に入る金額の期待値は100万円と同額である。にもかかわらず、一般的には、堅実性の高い「選択肢A」を選ぶ人の方が圧倒的に多いとされている。
質問2も両者の期待値は-100万円と同額である。安易に考えれば、質問1で「選択肢A」を選んだ人ならば、質問2でも堅実的な「選択肢A」を選ぶだろうと推測される。しかし、質問1で「選択肢A」を選んだほぼすべての者が、質問2ではギャンブル性の高い「選択肢B」を選ぶことが実証されている。
プラスのところでは堅実、マイナスのところではギャンブル。最初のアンケートもその通りの結果でした。当時も書きましたけど、おもしろいですよね! こういう話、大好物ですわ。
なお、Wikipediaでは、「人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先(質問1の場合)し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする(質問2の場合)傾向がある」という固い書き方をしていました。
●プロスペクト理論の別の事例
この投稿を書いたのは、ある記事を読んでいて…でした。うろ覚えではあるものの、その記事では以下のような問だったはずです。
質問1:あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
選択肢A:1万円が無条件で手に入る。
選択肢B:1%の確率で100万円が手に入るが、99%の確率で何も手に入らない。
質問2:あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
選択肢A:1万円を無条件で失う。
選択肢B:1%の確率で100万円を失うが、99%の確率で何も失わない。
この方がWikipediaのものより極端ですが、記事にはやはり質問1では”選択肢A”、質問2では”選択肢B”を選ぶ人が多いと書かれていました。やはり、利益を得る場面では安定を取り、不利益を被る場面ではリスクを取るというものです。
●両方安定派は第二勢力
ちなみに当時、"私は全て「選択肢A」を選んでしまいます。堅実派です"と書いていました。今回の最初の問題でもやはり私は「(1)A、A」になりました。安定を取っています。
この両方堅実派は、最初の問を見るとそう少ないわけではなく、30%と結構多いようです。(最も多いのはやはりプロスペクト理論通りの「(2)A、B:51%」です)
追加
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【クイズ】車の購入でローンを組むか?教育費積み立てを崩すか?(少しプロスペクト理論の話があります)
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