正直、用語そのものは覚えなくっても良いと思います。ただ、その考え方がためになると感じた経済学用語について、「社会人に役立つ3つの経済学用語」という形でまとめました。比較優位・逆選択・イノベーションのジレンマ・機会費用・サンクコストの5つです。
<すべての面で能力が劣る人の活かし方がわかる「比較優位」>、<品質の悪い商品が生き残ってしまう事象を説明する「逆選択」>、<経済学者もやりまくりな比較優位の誤解と産業育成政策が失敗しやすい理由>などの話をやっています。
2022/08/01まとめ:
●経済学者もやりまくりな比較優位の誤解と産業育成政策が失敗しやすい理由
●すべての面で能力が劣る人の活かし方がわかる「比較優位」
2010/11/6:
「経済学」で考えると見えてくる世の中の仕組み 1時間目 まずは用語に慣れましょう 2010年3月24日 吉本 佳生 日経ビジネスオンラインでは、おもしろい経済学用語の話がたくさん載っていました。私が一番気に入ったのは、「比較優位」というものです。
<1>「比較優位」
A君 1時間にビール(500円)を100本、ポップコーン(100円)を80袋売る
B君 1時間にビール(500円)を50本、ポップコーン(100円)を60袋売る
どちらもA君が勝っていますが、ビールの売り子もポップコーンの売り子も1人ずつ必要だとするなら、A君はビール、B君はポップコーン売るのが正解。このとき、A君はビール売りに比較優位を、B君はポップコーン売りに比較優位をもつといいます。
参考:
A君はビール、B君はポップコーンでの売上 500×100+100×60=56 000
B君はビール、A君はポップコーンでの売上 500×50+100×80=33 000
あらゆる面で能力が高いスーパーマンのような人でも、すべての仕事を1人でこなすことはできません。そのため、すべての面で能力が劣る人でも、相対的になら何かしらの貢献ができる、と記事にはありました。
そして、何か自分だけにしかできない絶対的な能力を取得しないといけないと、自分を追いつめて、苦しい思いをしている人がいますが、比較優位の考え方を知れば、必要以上にプレッシャーを感じることなく、精神的にも楽になるのではないかとも書かれていました。
2018/01/16追記:比較優位では、
経済学者もやりまくりな比較優位の誤解と産業育成政策が失敗しやすい理由も書いています。専門家ですら間違える用語を正しく理解しておくと、優越感がわきますね。
●品質の悪い商品が生き残ってしまう事象を説明する「逆選択」
<2>「逆選択」
品質の良い商品と品質の悪い商品が混在していると、やがて品質の良い商品は姿を消し、品質の悪い商品だけが市場に残ること。正しい情報が市場(買い手)に伝わらないと、良い製品ではなく悪い製品が選択されてしまうという現象。悪貨は良貨を駆逐するということ。
例:
米国の中古自動車市場。車は見た目だけでは状態がよくわからないため、良い中古車が悪い中古車と同じように買い叩かれ、良い中古車を市場に出そうとする人が少なくなり、市場に残る中古車はポンコツばかりに。
企業がやり方を間違えたリストラを行うと、優秀な社員が会社をやめてしまって、できない社員ばかりが残る。
逆選択はおもしろいですね。何でそんなことが起きるのかなと思いましたが、一つめの例を見るとなるほどと。正当に評価される(する)ことって、大事なのですね。
リストラの例は正直よくわかんなかったんですが、企業の先行きを不安視して優秀な人が先に出て行っちゃうってことでしょうか?正しい情報という話なので、リストラができれば会社は大丈夫だということをきちんと伝えるという話かもしれません。
●既存の事業との共食いを恐れる「イノベーションのジレンマ」
2018/01/16:他の経済学用語も紹介しよう!ということで、何か良い経済学用語はないかと考えました。「イノベーションのジレンマ」なんかはおもしろくて好きです。以下は、
イノベーションのジレンマ - Wikipediaをベースにまとめてみました。
<3>イノベーションのジレンマ
クレイトン・クリステンセンが、1997年に初めて提唱した巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論。まず、既存の優れた大企業は、以下のように考えて、新興の事業や技術を軽視しやすい。
(1)大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映る。
(2)既存の事業と共食い(カニバリズム)することによって、既存の事業を破壊する可能性がある。
(3)既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われる。
これにより、大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまう。
アップルの「iPod」のときだったと思うのですが、ソニーでも技術的には作れたのになぜソニーは「iPod」を作れなかったのか?といった考察記事が出ていたと思います。私が読んだ記事では、上記で出てくるような共食いの話によって、「アップルはできたがソニーにはできなかった」と説明していたんですよね。
ソニーはハードだけでなく、音楽のソフト、コンテンツの方も持っている企業です。確かその記事では、ソニーではソフトコンテンツを脅かしかねない製品は開発できなかった…といった説明だったと思います。ただ、ソニーは代表製品であるウォークマンの市場を潰したくないって意味でも、共食いを恐れたかもしれませんね。
●利益が薄くて無意味に見える激安ランチの理由は「機会費用」
2010/11/5、2019/07/15:別のところで書いていた話を移動。最初でも使った
「経済学」で考えると見えてくる世の中の仕組み 1時間目 まずは用語に慣れましょう 2010年3月24日 吉本 佳生 日経ビジネスオンラインでは、他にもいくつかの用語が出ていました。
<4>機会費用
いくつかの選択肢から1つを選ぶとき、選ばなかった選択肢のコスト。
例:
1時間に1万円稼げる営業マンが、移動のためにバスを1時間待って何もしないときの機会費用は1万円。この場合は、タクシーに乗って時間の無駄を省いたほうがメリットが大きいと判断される。
居酒屋さんの激安ランチ。もともと昼間は店も人も遊んでいる。増えるのは食材費と光熱費くらいだから、激安でもランチを始めたほうが売り上げも利益も増える。
居酒屋さんって出社時間が遅くて、全体にずらしているわけじゃないんですね。まずそこが無駄なような気がします。ただ、仕入れは朝というイメージがあるので、朝に出てこなくてはいけない理由もあるのかもしれません。
●過去にとらわれて未来が見えなくなるときに「サンクコスト」
もう一つ上記に関連した用語で、記事では本当はこっちが先に出ていたという「サンクコスト」があります。これもおもしろくって、すごく好きですね。
<5>サンクコスト
「SUNK=埋没した」+「COST(費用)」。すでに投資してしまい、取り戻すことができないお金のこと。過去の費用はなるべく忘れて、将来のことを考えたほうが賢明とされる。
例:
仏英共同開発の超音速旅客機「コンコルド」は失敗例。莫大な開発費(サンクコスト)と国家の威信を捨てることができず、27年も赤字を垂れ流し続けた。
ギャンブルで大金をすったので悔しいからどうしてももう一度チャレンジして取り返してやろう、高いお金を払って買った商品は使い物にならなくなってもなかなか捨てられないなども、サンクコストにとらわれた例。
●他国とは比較しない…有名経済学者もやりまくりな比較優位の誤解
2022/08/01追記:<経済学者もやりまくりな比較優位の誤解と産業育成政策が失敗しやすい理由>というタイトルで書いていた話をこちらにまとめ。比較優位の話をやっていたため…という理由ですが、後半は結構違う話になってきています。私が最も気になったのは、この後半部の方です。
2016/1/25:私が気になったのは別の話なんですが、比較優位に関する質問がQ&Aサイトにありました。
比較優位の法則、発展途上国に不利ではないでしょうか? | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト(azuma 2013年10月27日19時04分)であった話です。(以下、引用部では適宜改行を追加)
<経済学の世界では、リカードがモデル化した比較優位説がありますよね。法則というよりも、経済学的には大原則ともいえるものですが、これによれば、保護貿易は絶対的にそれを行う国にとっても、それで締め出しされる国にとってもためにならず、自由貿易をすれば、双方にとって益であるということになります。
そうなると、農業の保護政策というのも絶対的によくないことになりますが、「比較」優位というからには、なにかそうなるための条件があるのではないでしょうか。
また、リカードの例では、18世紀、発展途上国であるポルトガルは発展途上国だからといって、いつまでもワイン製造に甘んじているのではなく、先進工業国であるイギリスのように毛織物を生産したくなることもあるのでなないでしょうか?そこらへんをわかりやすく説明していただける方はいませんか?>
問題は最後の「発展途上国だからといって、いつまでもワイン製造に甘んじているのではなく、先進工業国であるイギリスのように毛織物を生産したくなる」などと書いている部分。これは比較優位を誤解していると思われます。実は有名な経済学者も間違いまくっているらしいので仕方ないのですが、絶対優位と混じっているのだと思われます。
比較優位という概念では、ポルトガルとイギリスを直接的には比較しません。ですので、二国を比較している時点で、誤解しているとわかります。比較優位というのは、ポルトガルならポルトガル、イギリスならイギリス同士で比較します。この場合でしたら、ポルトガル国内のワイン製造と毛織物が比較するんですよ。最初の回答者もそこらへんを指摘していました。
投稿者:iaraki1959 2013年11月09日23時03分
<リカードのいう「比較」は国内産業同士の比較です。あの例では、ポルトガルは、毛織物生産においても、ワイン生産においても、イギリスに対し絶対優位を持っていませんでした。どちらの産業でもイギリスの方が生産性が高かったという想定です。(引用者注:次の回答者は逆にどちらも労働力が安いポルトガルが優位としていた。ただし、どちらだったとしてもこれは絶対優位の概念であり、比較優位には関係ないんです)
しかし、国内産業同士で比較した場合、ポルトガルではワイン生産の方が毛織物生産よりも生産性が高く(1単位を生産するためにに投入しなければならない労働者の数が少なくてすむという意味で)、イギリスではその逆だったという事案において、それぞれの国がワイン生産、毛織物生産に特化すれば、より効率的な生産ができるというのがリカードの比較優位説だったはずです>
■タイトル■題名■タイトル■題名■タイトル■題名■タイトル■
●産業保護政策は効果があるの?産業育成政策の評価が難しい理由
質問者は「そうなると、農業の保護政策というのも絶対的によくないことになりますが」と書いていました。私が興味を示したというのは、次の回答であり、ここらへんについて記述。比較優位とは別に産業保護政策が必要という考え方はわかるものの、その有効性を証明することが難しいと指摘されていたのです。
投稿者:The Sovereign 2013年11月10日02時57分
<「比較優位」は静態的な概念であって動態的な概念ではないという点には注意が必要です。iaraki1959 さんが言及しているように、「幼稚産業保護政策」(infant industry protection policy)とか「産業政策」による戦略的産業育成という観点は抜け落ちています。(中略)政府が補助をして鉄鋼、自動車、さらにはハイテク産業といった付加価値の高い産業を育成して、「比較優位を『変える』」動機づけが生まれます。
このような「動態」的な考え方は理論的には説得力があるのですが、評価が難しいという問題があります。というのは、産業政策のコストは保護主義という形ですぐに顕在化しますが、その利益(benefit)は将来現れるということになります。将来の利益を現在の利益に置き換えるためには、「割引現在価値」(discounted present value)を計算しなくてはなりません。誰でも、今もらえる十万円と一年後にもらえる十万円を比べたら、今もらえる十万円のほうが価値があるとわかるでしょう。将来もらえる十万円の価値が今もらえるどのくらいの金額の価値と同等になるのかというのが「割引現在価値」です。つまり、産業政策の結果として将来比較優位が変わったとしても、その成果をコストと比較する際には成果を割り引いて考えなくてはいけません>
●共産主義も失敗…国による産業育成政策が失敗しやすい理由
また、この方は、共産主義国が低迷したことも、比較優位で説明しています。産業保護政策は日本の右派が好むために否定されると反発するでしょうが、共産主義が失敗した理由と言われると途端に拍手して喜びそうな感じ。日本の右派が共産主義者と考え方が似ているという話でもありますね。
<20世紀の最大のできごとは、共産主義の台頭とその崩壊です。「比較優位」の法則に背を向けたソ連とその同盟国が崩壊し、世界中に資本主義が広まり、グローバリゼーションが世界経済を規定することになりました>
<ここまでは経済学の話ですが、幼稚産業保護政策にはもう一つ政治学的に大きな問題があります。特定の産業が(理由は何であれ)一度保護されてしまうと、それが既得権益化して、産業保護が経済的に不要もしくは有害となっても、それを取り除くのはとても難しくなってしまいます。
どの産業を保護するかという決定には、政府の恣意性が発生しますし、そこに癒着・汚職の余地が生まれます。日本は産業政策の成功例としばしば考えられますが、それが自民党一党支配と結びついて、政官産の癒着を生んできたわけですし、その精算を進める過程で様々な既得権益の壁に直面しています。多くの発展途上国で幼稚産業保護政策が失敗してきたのは、産業政策が経済性を無視して癒着と汚職に基づいた恣意性で決められてきたか、政策の将来利益を享受する前に汚職のコストが顕在化してきてしまったためです>
●自民党的な産業保護政策をぼろくそに言っていた高橋洋一教授
もう少し評価を見たいなということで、この後、
Wikipediaも覗いてみることにしました。すると、自民党が大好きな経済学者の高橋洋一教授が「予算配分は公正中立に、産業については市場原理に任せるというのが先進国の常識となっている」と言っているのを発見。上記以外にも、以下のように高橋教授は批判しまくりです。
「ビジネスに疎い役人が支援すべき成長産業を選別するというところに原理的な矛盾がある。産業政策手法の根本的な欠陥は、需要サイドではなく供給サイドに政府支援を行うことである[2]」
「『産業政策』は、先進国では例がない。政府がミクロ的な介入をするだけの能力がないからである。『産業政策』に相当する政策は開発途上国での『幼稚産業保護』くらいしかない[24]」
「日本の戦後成長の歴史を見ても、通産省がターゲットにした産業は、石油産業、航空機、宇宙産業などことごとく失敗している。逆に、通産省の産業政策に従わなかった自動車などは、日本のリーディング産業に成長している[40]」
「産業政策の失敗の例として、1985年に設立された基盤技術研究促進センターがある。2800億円の出資は結局8億円くらいしか回収できなかった。第五世代コンピュータやシグマプロジェクトも壮大な無駄使いであった。自分のカネで投資を行わない役所は、投資の結果に無責任なのでほとんどが失敗する[41]」
「経産省の『ターゲット・ポリシー』は産業選別という意味で、日本国外では通用しない。特定の産業の選別はえこひいきとなるし、そもそも政府に成長産業を選び出す能力がない」
最近、高橋教授が自民党の御用学者化してきて驚いていますが、本来、自民党的な手法には批判的な意見が多い方でした。 同時投稿した
なぜ国が東芝・シャープを支援するのか?倒産すべき企業への税金投入は無駄遣いという見方もなんかも、本当なら彼が批判すべきものだと思われます。
●成功例とされる日本ですら支援しない企業が多数成長する現実
産業政策 - Wikipedia 最終更新 2015年11月25日 (水) 04:03の内容。Wikipediaは両論併記なので、評価している部分もありますが、ネガティブな意見がかなり載っていることがわかると思います。政治家や官僚はそもそも商売のプロではありませんからね。むしろ商売下手と見られています。民間企業より彼らの方がわかっているという考えは無理がありすぎで、私には支持できません。
<第二次世界大戦後の日本の産業政策については、1990年代初めまでは高度成長の実現など日本経済の驚異的な発展の主要な原因の1つという肯定的な評価がなされていた(ただし否定論も多い[15])が[16]、1990年代半ば以降、日本経済が低迷を続ける中で、非効率な産業を温存し、日本経済が長期低迷を続けてた原因となっているという否定的な見方が多くなった。
第二次世界大戦直後の傾斜生産方式による石炭産業と鉄鋼業の育成、その後の石油化学工業など重厚長大産業の育成に当時の通産省の産業政策が大きな役割を果たした成功例とされることが多い。その後も、二次にわたる石油危機を経て、日本経済を自動車産業や電機・電子産業といった加工組み立て型の製造業など高付加価値型の産業に転換していく上で、産業政策の役割を評価する声もある。
第二次世界大戦直後に成功した企業の中には、自動車会社ではホンダ、電機産業では松下電工(現 パナソニック電工)やソニーなど政府の産業政策の枠外で発展した企業が多かったため[17]、「どの産業・企業が発展するか」という民間に分からないことが政府には分かり得るのか(どの産業を育成すべきか政府に正しく判別できるのか)ということが疑問視されるようになり、産業政策の成果にも懐疑的な見方もある[18]。コンピュータ産業の育成や半導体産業の育成が成功したと見るかどうかは、意見が分かれている>
なお、ちょうど東芝やシャープへの国による支援の話があったので、同時投稿で
なぜ国が東芝・シャープを支援するのか?倒産すべき企業への税金投入は無駄遣いという見方もを上げました。高橋教授が言う自分のカネで行わない投資の例ですね。そちらでは、上記で成功例とされていた自動車産業の話をクイズにしていますので、興味ある方はごいっしょにどうぞ。
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