●説明が難しい認知的不協和理論とは? 例を見るのが一番わかりやすい
2015/5/28:よく名前の出てくる認知的不協和理論ですが、たぶんまだうちで取り上げたことはなかったと思います。今回使う記事では、「認知的不協和理論」を以下のように説明していました。ただ、実例を見た方がずっとわかりやすいので、この後、例を紹介していきます。
<認知的一貫性の理論【人はすでに持っている認知とそれに関する別の認知が調和・適合しない場合、緊張や不快が生じるが、それらを解消し認知的な一貫性を保とうとする。それらの起こる条件や解消方法についての理論の総称】のひとつ。認知と認知の相互作用には、協和的関係がある場合と無い場合があり、不協和関係の起こる条件、不協和の度合い、回避方法などに関するL・フェスティンガーの理論が知られている>
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嫌なことには目をつぶる“塩漬け”の心理|マーケットで成功するための投資の心理学|ダイヤモンド・オンライン 林 康史 [立正大学経済学部教授] 2007年11月27日より)
認知的不協和理論の例としては、たとえば、以下のようなものがあるそうです。人は、自分に都合の悪い情報には目をつぶるという傾向があるとも書かれていました。この言い方でもわかりやすいですね。
・迷った末に、あるメーカーの車を購入した。
・その後、買わなかった車の広告をあちこちで頻繁に目にするようになる。
・買わなかった車が颯爽と走っている広告を見ると、「自分の決定とは何の関係もない」と思う人は少なく、あまりいい気分にはならない人が多い。
<自分が買った口紅と違う会社の口紅がテレビコマーシャルで流されているのを見るたびに、なんだか落ち着かず、少し嫌な気分になるのは認知的不協和が起こったためなのである。そこで、そのコマーシャルの口紅は高価すぎて、その割にはきれいではない……などと考えて自分を納得させようとする。認知的不協和を緩和(低減)させたいとのバイアスが働くからだ>
●広告の多くに中身が無く、しかも、それで商品が売れてしまう理由
認知的不協和理論とは直接関係ないのですが、この記事では、説明の中でおもしろいことを言っていました。車でも化粧品でも、広告の多くはイメージであり、そんなところにコストをかけるというのは無駄に見えます。情報を与えないような広告は無駄であり、そんな広告に金を使う会社は駄目な会社で、つぶれる運命にありそうです。
ところが、現実にはそうではありません。ひょっとしたら中身がないイメージで売る会社の方が、むしろうまくいっているかもしれませんね。このように価値のある情報を含まない広告がなぜ有効なのでしょうか。記事では、広告とは、心理的なニーズを満たす情報をも伝達するわけで、人は、製品の機能的な価値と心理的な価値を区別しないためだとしていました。
<だから、人は自らのニーズと嗜好の双方を満たすように財を購入し消費する。とはいえ、ニーズや嗜好を正しく認識しているわけではないから、結局、自分が購入した財がそれらを満たしていると信じたがる。そういう状況下で、広告は人々がそう信じたいと思うことを外部から正当化してあげるわけだ>
●迷って買わなかったものが悪く言われていると嬉しい…という例も
前述のものとは、少し違う認知的不協和理論の例も見てみましょう。逆に迷って買わなかったものが悪く言われていると嬉しい!というケースです。
・あなたが買ったC株が下落して悔しい思いをしていた。しかし、迷って買わなかったD株はもっと下落していると知った場合、自分には無関係と思う人より、救われた気がする人が多い。
これもやはり"自分にとって都合の悪い話は心の中で不協和を引き起こし、人はそれを緩和させようとする"…なのですが、ちょっとさっきのものと系統が異なります。同じ話の続きですが、以下はもう少し素直に自分の選択を正当化する例になっていました。
・チャートを見て、短期売買のつもりで買ったけれども、損が出始めると、「この会社は来年、業績がいいに違いない」などと都合よく考えて、そのまま持ち続けることが多い。
さらに別の例を2つ。これらは「苦労して得たものはそうでないものより価値がある」といった感じですね。
・本当はよくなかったとしても、チケットを苦労して入手したコンサートは、聞き終わった後、「よかった」と感じることが多い。「やっと入手できた」ということと、「そんなによくはなかった」という感情的に相容れない2つの事実が認知的不協和を起こしていて、それを緩和させようという心理のため。
・寒空の下、30分も行列に並んで入ったラーメン屋がまずいことは少ない。これも同様の理由。
●不思議!馬券を買うと買う前より自信が出てきてしまう…
認知的不協和 - Wikipediaを見ると、こちらにも例が載っていました。
・原因不明の感情を説明する
あるコミュニティで何らかの災害が発生していると、不合理な恐ろしい噂が災害が起こっていない隣接するコミュニティに広がる。これは脅威に直面していない人が、それらの不安を正当化する必要があるためである。
・キャンセルできない選択肢の後悔を最小化する
競馬場の賭けは投票後に変更できないため、馬券購入後はより自分が選んだ馬に自信を深める(決定後の不協和)。
これ、前者の「原因不明の感情を説明する」の例がわかりづらくてちょっと悩みました。とりあえず、理由もなく不安になるので、その不安を正当化するために、実際には存在しない脅威を作り出してしまう…と理解しました。
そういやリベラルより保守派の方が怖がりだという「本当かな?」と感じる研究がありました。
保守派とリベラル派、怖がりで臆病者なのはどっち?という実験で紹介したものです。これに従うと、右派はよその国のトラブルを見て不安になり、実際には存在しない脅威を作り出してしまうのだと言えそうです。
●喫煙者が喫煙を正当化するのも認知的不協和の例である
Wikipediaで詳しくやっていたのが、「喫煙者」の不協和です。これは有名な認知的不協和の例でみたいで、他のことろでも目にしました。
・喫煙者が喫煙の肺ガンの危険性(認知2)を知る
認知1 私、喫煙者Aは煙草を吸う
認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい
「肺ガンになりやすい」(認知2)ことを知りながら、「煙草を吸う」(認知1)という行為のため、喫煙者Aは自分自身に矛盾を感じます。そのため喫煙者Aは、認知1と認知2の矛盾を解消しようとします。この場合、最も「論理的」なのは、タバコをやめてしまうことです。
・自分の行動(認知1)の変更
NEW! 認知3(認知1の変更) 私、喫煙者Aは禁煙する
認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい
ところが、喫煙の多くはニコチンに依存する傾向が強いため、禁煙行為は苦痛を伴います。したがって、「喫煙」(認知1)から「禁煙」(認知3)へ行動を修正することは多大な困難が伴い、結局は「禁煙」できない人も多い…ということになるそうです。
で、どうするか?と言うと、「認知1 私、喫煙者Aは煙草を吸う」ではなく、「認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい」の方に攻撃を加えます。これがな認知的不協和の働きのようですね。
・新たな認知(認知4または認知5)の追加
認知1 私、喫煙者Aは煙草を吸う
認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい
NEW! 認知4 喫煙者で長寿の人もいる
NEW! 認知5 交通事故で死亡する確率の方が高い
これにより「認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい」がだいぶ目立たなくなりました。こうやって喫煙者は自分を正当化するようです。ただ、今回の話は喫煙者を馬鹿にするのが目的の話ではありませんからね。しくみを知って対処するという目的もあるものの、主にそういうしくみだという説明の話ですよ。
そして、ニコチンの話が出てきたように、喫煙習慣は精神力だけで解決できる問題ではありません。病気だと考えた方が良いと思います。ですので、私は喫煙者の方々に、病院へ行って治療すること(禁煙治療)をお勧めします。実際、精神論での解決は難しいことなので、禁煙をすすめる人も精神論で責めないでくださいね。
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