2015/6/20:
科学技術白書では、研究倫理教育の実施という対策
原因が雇用の不安定さと成果主義なのに、なぜ対策が倫理教育?
「教育する」では対策になっていない
研究不正が起きる前提で発見に力を入れよ
2018/10/03:
国のトンチンカンな対策に研究者が疑問を呈す
政府の政策が日本を不正大国にしている
●科学技術白書では、研究倫理教育の実施という対策
2015/6/20:最近、書きたいことが多くて、投稿できていないものが多いです。昨日出した
ヒューマンエラー対策は設計から 今のエスカレーターは設計ミスも、本当は年金機構の情報流出騒ぎの記憶が新しいうちに出しておきたかったものでした。
で、このヒューマンエラーの話をやってからやりたいと思っていて書けていなかったのが、研究不正対策の話です。
研究不正防止へ「倫理教育を」 科学技術白書 - ニュース - アピタル(医療・健康) 2015年6月16日(須藤大輔)
政府は16日、2015年版の科学技術白書を閣議決定した。STAP細胞や高血圧治療薬ディオバンの臨床研究など相次いだ研究不正問題を初めて特集で取り上げ、再発防止に向け「研究倫理教育の実施など研究現場での実効的な取り組みが不可欠」と指摘した。
文部科学省が把握している昨年度の研究不正は、理化学研究所や東京大分子細胞生物学研究所など12件。原因として期限付きで雇用される研究者が増加し、短期間で成果を求められることなどを挙げた。(中略)研究不正の防止に向け、4月に運用が始まった新しい指針を紹介。大学などの研究機関の責任をこれまで以上に重視し、研究倫理教育を定期的に実施するための責任者を置くことなどを求めた。
●原因が雇用の不安定さと成果主義なのに、なぜ対策が倫理教育?
原因が雇用の不安定さと成果主義という分析なのに、対策が研究倫理教育ってのも妙ですね。当然、倫理教育では抜本的な対策になりません。
ヒューマンエラー対策は設計から 今のエスカレーターは設計ミスでは、マーフィの法則の「やっちゃいけないということがあったら、必ず誰かそれをやらかす」という考えで、対策を考えなくちゃいけないと書きました。
研究不正が無視できるほど少ない確率なら必ず対策が必要とは言えないものの、世界的に研究不正は増えている上に、不正による損失額が大きくなっているため、対策するべきなのは明らかです。
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論文・研究不正の損失額1件5000万円 STAP問題での理研の損失は? ■
理研のSTAP細胞調査費用、他の数倍となる8360万円 弁護士費が最大 ただ、倫理教育というのは、その対策としては効果が大きい方のものではないでしょう。倫理教育がまるっきり無駄だとは言いませんが、倫理教育をしたとしても絶対に誰かやる人が出てくるためです。
●「教育する」では対策になっていない
ヒューマンエラーの話の方で例に出した手すりから落下するという話。本来でしたら、手すりの高さを十分な高さにするとか、そもそもそのような危険なところを通らなくて済むようにする(それアリ?と思うかもしれませんけどこれが一番根本的です)とか、うっかりなことをしても事故が起きないような対策を取らなくてはいけません。
で、一番いけない「対策」、対策になっていない「対策」というのが、「落ちないように気をつけましょう」という呼びかけなどです。今回の「研究倫理教育」ってのがまさにこのパターン。
前回の話でし忘れましたが、
ペヤング販売再開も、虫などの異物混入防止が不可能な理由も良い例でしたね。私はまるか食品の対応がおかしい思った点の一つは、最終製品で異物混入が起きている前提の対策をしていないためです。
まるか食品の場合は「異物混入しないように気をつける」よりはマシそうな対策も一応していました。ただ、一番重要な最悪のことが起きる前提での対策をしていませんでしたので、考え方の変な会社だと感じました。
●研究不正が起きる前提で発見に力を入れよ
じゃあ、どうするか?と言うと、問題を発見に力を入れるべきということ。まるか食品のケースでいえば、虫などが混入する前提で出荷前の検査を強化して、たとえ100%混入を防げなくてもお客様には異物の入ったペヤングを食べさせないようにしよう、という考え方です。
ペヤング販売再開も、虫などの異物混入防止が不可能な理由で出てきた垣田達哉・消費者問題研究所代表も、やはり以下のようにおっしゃっていました。
"異物混入を「防止」することばかりでなく、「発見」するほうに力を入れなくてはダメ"
"「異物は混入するもの」という前提で、その発見に力を注ぐべきです"
そして、研究不正の場合にも、同様に問題が起きる前提で発見を強化する対策をすべきというです。
STAP細胞で川合真紀理事、「どれくらいたちが悪いか」と開き直りで紹介した川合真紀・前理研理事のインタビューは読んでいてイライラしましたが、「倫理教育で再発は防げるのか」という質問には「やっぱりなくならないですよ」と答えていました。これだけは、全面的に同意できます。
倫理教育で再発防止できないのにもっと効果的な対策を講じないというのは不思議でしたが、不正がなくならないからこそ、不正の発見に力を入れなくてはいけません。当時も私は「不正が起きる前提で対応した方が現実的です」と書いていました。
これからも絶対に不正をする研究者は現れ続けます。外部から指摘される前に、内部で事前に不正を発見することにもっと注力せねばなりません。
●国のトンチンカンな対策に研究者が疑問を呈す
2018/10/03:日本は論文数や重要論文数が少ない一方で、研究不正は極めて多い国として知られています。これについては、
研究不正大国日本 撤回本数世界一など、トップ10の半分が日本人など、何度かこれまでに紹介してきました。たいへん不名誉なことです。
そのような状況で現在国が検討している不正対策は、ビデオ教材などを利用した研究倫理の受講を義務づけ、不正が発覚したら長期間研究費の応募資格を停止する罰則も設けるといったもの。しかし、心理的要因と不正の関係を検証する予定となっている長崎大の河合孝尚准教授も「現状の政策的な取り組みが不正防止に直接寄与しているかは疑問だ。心理的な要因を分析し、不正の動機を減らすことが重要だろう」と懐疑的でした。
また、滋賀県立大の原田英美子准教授も、研究倫理をテーマにした授業で、「研究不正の背景に、個人の倫理観や道徳だけでは解決できない、構造的な問題があるからだ」と説明。「不正がなくならない以上、人は不正を犯すものという考えに立つことが必要だ」ともおっしゃっています。
●政府の政策が日本を不正大国にしている
「不正がなくならない以上、人は不正を犯すものという考えに立つことが必要だ」というのは、私がまさに最初の投稿で強調したところ。ただ、「構造的な問題」としているように、私が最初の投稿で書いた「不正の発見を徹底すべき」という話ではなく、不正を生む「構造」に関する部分が興味の中心のようです。
そして、その構造というのは、競争環境の中で研究者が心理的なプレッシャーを受ける構造、要するに国の競争政策です。最初の投稿で出てきた政府の科学技術白書の分析、「原因は雇用の不安定さと成果主義」そのものでした。
特に、若手研究者は任期付きのポストを渡り歩かねばならず、不正の指示にあらがうのも難しいと指摘。また、トップ研究者自身、チームの維持のための研究費獲得競争にさらされ、不正に手を染める一因とも言われているとのこと。国の政策が日本を不正大国にしているとの見方でした。
(
(教えて!日本の「科学力」:5)研究不正、なぜ起きるの?:朝日新聞デジタル 2018年10月3日05時00分より)
これは、政府の科学技術白書の分析と同じなので政府内から指摘があるわけなのですけど、どうも改める気はなさそうですね。メンツの関係などで、どうしても間違いを認めたくないのかもしれません。
【本文中でリンクした投稿】
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