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国際競争力も貿易黒字も貿易赤字も無意味 クルーグマンの主張


 主に「国際競争力」についてですが、貿易黒字も貿易赤字も含めて、クルーグマン教授は意味がないとおっしゃっています。意外に思うかもしれませんけど、このことはクルーグマン教授だけでなく、複数の人が言っていることです。

 これは2015/7/6に書いたものでしたが、2014/9/17に書いた"国際競争力ランキングベスト144 日本6位に上昇も実は意味なし?"もここにまとめています。


●「競争」について繰り返し言及する安倍首相

 「国際競争力」で検索をかけてみると、以下の記事が出てきました。
サイバーセキュリティー:政府が新戦略案 戦略本部が決定 毎日新聞 2015年05月25日 19時47分(最終更新 05月26日 02時08分)

 政府は25日、官民を狙ったサイバー攻撃への対策を進める「サイバーセキュリティ戦略本部」(本部長・菅義偉官房長官)の会合を首相官邸で開いた。自動車や家電などモノをインターネットでつなぐ「モノのインターネット(IoT)」のセキュリティーに関する国際基準を主導し、日本の技術発展と経済成長につなげる新戦略案を決定した。

 安倍晋三首相は会合で「東京五輪・パラリンピックを成功させるためにもサイバーセキュリティーに万全を期す必要がある。戦略案はセキュリティーはコストであると同時に、安全な製品、サービスを作り、企業価値や国際競争力を高める投資であるという大胆な発想の転換を打ち出した」と強調した。【加藤明子】

 安倍首相は「競争」という言葉を繰り返し使っているようで、今年の施政方針演説では以下のように多数該当箇所がありました。国際競争力ではないと思われる使用例もありますが、「競争」が入っているところをすべてピックアップしてみました。

・農業生産法人の要件緩和を進め、多様な担い手による農業への参入を促します。(中略)市場を意識した競争力ある農業へと、構造改革を進めてまいります。
・経済のグローバル化は一層進み、国際競争に打ち勝つことができなければ、企業は生き残ることはできない。政府もまたしかり。オープンな世界を見据えた改革から逃れることはできません。
・電力システム改革も、いよいよ最終段階に入ります。(中略)競争的で、ダイナミックなエネルギー市場をつくり上げてまいります。
・成長戦略の実行。大胆な規制改革によって、生産性を押し上げ、国際競争力を高めていく。オープンな世界に踏み出し、世界の成長力を取り込んでいく。
時事ドットコム:安倍首相の施政方針演説全文(2015/02/12-14:21)


●国際競争力も貿易黒字も貿易赤字も無意味 クルーグマン教授の主張

 しかし、「国際競争力」という概念にたいへん批判的な方もいらっしゃいます。その筆頭がアベノミクスでも理論的根拠として利用されたポール・クルーグマン教授です。

 Wikipediaによると、クルーグマン教授は国際競争力という考え方を否定しているようです。
(競争力 - Wikipedia 最終更新 2015年4月13日 (月) 21:58)

・「互いの経済競争において、どの程度であっても、国際的な先進国はない」
・「国際競争力」という概念自体が曖昧であり、使う人によって様々。
・「国際競争力などという概念は明確には存在しない。国家を企業と見立て貿易を市場をめぐる勝ち負けのゼロサム的認識が生んだ幻想にすぎない」

 また、国際競争力向上を目指します!というのも間違いであると主張しており、むしろ経済的には悪化させる政策であるとすら考えているようです。

・「実際問題としてだが'競争力'主義は、はっきりとした誤りである」
・競争力向上を目指すのは根本的に誤り。
・民間企業の利益がそのままイコール国益であるとする考えは誤り。
・競争力至上主義は労働者を搾取し失業率を悪化させる。

 そして、世界金融危機をその主張の正しさを示す例として挙げていました。
2008年のリーマンショックや世界金融危機が示す教訓は、市場には自浄作用など無いということである。競争力至上主義にとらわれ、雇用の流動化を進めてきた米国と、その逆の政策を採用したドイツはどうであったか。ドイツは労働市場の規制を強めていたおかげで、金融危機のショックに対して耐性があり、米国よりも失業率は低いのである。

 また、貿易黒字や貿易赤字について重視することについても、ズバッと否定していました。

・貿易はゼロサムゲームではなく、輸出国・輸入国の双方の経済にプラスに寄与するものであり、貿易黒字が得で貿易赤字が損という考え方は誤り。

 あと、以下のようなことも言っているそうです。これはどういう意味ですかね? 生産性重視ってことでしょうか? よくわかりませんでした。

・経済の貿易がある部門でもない部門でも、国の経済的福祉は第一に生産性により決定されると述べている。


●国際競争力に関する他の学者の見解

 クルーグマン教授以外にも「国際競争力」について批判している方がいらっしゃいます。飯田泰之明治大学政治経済学部准教授は、「さまざまな研究者・研究機関が独断と偏見に基づいて国際競争力を定義している」と指摘していました。

 ただし、肯定している研究者も多数おり、そういう方も紹介しておきます。

 Wikipediaを見ると、竹中平蔵・元経済財政政策担当大臣は「国際競争力」に好意的な方の一人に見えます。以下のような発言をされていました。

「『景気がいい』というのは単に『給料の支払いが増える』ということではなく、それだけでは物事は解決しない。経済全体・会社全体で競争力を持つことが重要である」

 というか、Wikipediaで紹介されているのを見ると、クルーグマン教授の方が少数派に見えます。否定していない感じの人の方が多かったです。


●アベノミクスによって国際競争力が上昇?

 ということで、無意味という説のある「国際競争力」ですが、アベノミクスにとって有利なデータがWikipediaに載っていました。
IMDの世界各国の競争力評価では、日本は1990年代前半まで1位であったが、2002年には30位にランクを落とす結果となっている。ランキングが開始された1989年から1992年まで日本は連続して1位であったが、2011年では59カ国中26位となった。

2014年5月22日、IMDが、年次「世界競争力年鑑」(World Competitiveness Yearbook)の2014年版を公表し、日本は世界競争力ランキングを前年より3ランク上げ21位となり、その理由として経済政策(アベノミクス)の円安効果とソーシャルダンピングによって輸出競争力が向上したことなどが挙げられている。

2014年9月3日、WEFが発表した2014年版の国際競争力ランキングでは、日本が6位となり、2013年から順位を3つ上げた。

●中国と韓国に抜かれた日本の国際競争力

 上記のようなものを見ると、「国際競争力は意味があるんだ」と言いたくなりますが、一方で不利なニュースもあります。Wikipediaには載っていませんが、こっちの方が新しい話です。(上記でも登場のIMDのランキング)
東京新聞:日本、競争力27位 中韓に抜かれる:国際(TOKYO Web) 2015年5月28日 夕刊

 【ジュネーブ=共同】スイスの国際経営開発研究所(IMD)が27日発表した主要61カ国・地域対象の2015年版「世界競争力ランキング」によると、日本は27位で前年から順位を六つ落とした。経済成長率の鈍化などが影響したとみられる。

 首位は3年連続で米国だった。中国と韓国は22位と25位と、それぞれ前年より一つランクを上げており、日本は両国に抜かれた。

 こっちの話を読んじゃうと、今度は都合よく「国際競争力なんか意味はない」派に鞍替えしたくなります。

 なお、"日本は平均寿命や外貨準備高などの項目でトップクラスだったが、財政状態や移民政策、国民の外国語能力などが最低水準とされた"とのこと。

 国際競争力を重視したいのであれば、財政状態・移民政策・国民の外国語能力の向上に努めなくてはいけません。しかし、どれも「そんなの嫌だ」と思う人が多そうな項目ばかりで、国際競争力肯定派の道はたいへん険しそうです。


●国際競争力ランキングベスト144 日本6位に上昇…も実は意味なし?

2014/9/17:この投稿の前に書いていた古い話も、国際競争絡みということでセットにしました。

 何気なく調べていたんですが、ちょうど今月新しいランキングが発表されていたみたいですね。国際競争力(WEF)ランキング - 世界経済のネタ帳によると、全順位は以下。日本は昨年の9位から6位に上昇しています。

 算出しているのは、スイスの非営利団体である世界経済フォーラム(WEF)です。そのスイスが1位になっています。6年連続だそうです。

<国際競争力ランキング>

順位 国名称 前年比
1位 スイス -
2位 シンガポール -
3位 アメリカ 2
4位 フィンランド -1
5位 ドイツ -1
6位 日本 3
7位 香港 -
8位 オランダ -
9位 イギリス 1
10位 スウェーデン -4

11位 ノルウェー -
12位 アラブ首長国連邦 7
13位 デンマーク 2
14位 台湾 -2
15位 カナダ -1
16位 カタール -3
17位 ニュージーランド 1
18位 ベルギー -1
19位 ルクセンブルク 3
20位 マレーシア 4

21位 オーストリア -5
22位 オーストラリア -1
23位 フランス -
24位 サウジアラビア -4
25位 アイルランド 3
26位 韓国 -1
27位 イスラエル -
28位 中国 1
29位 エストニア 3
30位 アイスランド 1

31位 タイ 6
32位 プエルトリコ -2
33位 チリ 1
34位 インドネシア 4
35位 スペイン -
36位 ポルトガル 15
37位 チェコ 9
38位 アゼルバイジャン 1
39位 モーリシャス 6
40位 クウェート -4

41位 リトアニア 7
42位 ラトビア 10
43位 ポーランド -1
44位 バーレーン -1
45位 トルコ -1
46位 オマーン -13
47位 マルタ -6
48位 パナマ -8
49位 イタリア -
50位 カザフスタン -

51位 コスタリカ 3
52位 フィリピン 7
53位 ロシア 11
54位 ブルガリア 3
55位 バルバドス -8
56位 南アフリカ -3
57位 ブラジル -1
58位 キプロス -
59位 ルーマニア 17
60位 ハンガリー 3

61位 メキシコ -6
62位 ルワンダ 4
63位 マケドニア 10
64位 ヨルダン 4
65位 ペルー -4
66位 コロンビア 3
67位 モンテネグロ -
68位 ベトナム 2
69位 グルジア 3
70位 スロベニア -8

71位 インド -11
72位 モロッコ 5
73位 スリランカ -8
74位 ボツワナ -
75位 スロバキア 3
76位 ウクライナ 8
77位 クロアチア -2
78位 グアテマラ 8
79位 アルジェリア 21
80位 ウルグアイ 5

81位 ギリシャ 10
82位 モルドバ 7
83位 イラン -1
84位 エルサルバドル 13
85位 アルメニア -6
86位 ジャマイカ 8
87位 チュニジア -4
88位 ナミビア 2
89位 トリニダード・トバゴ 3
90位 ケニア 6

91位 タジキスタン n/a
92位 セーシェル -12
93位 ラオス -12
94位 セルビア 7
95位 カンボジア -7
96位 ザンビア -3
97位 アルバニア -2
98位 モンゴル 9
99位 ニカラグア -
100位 ホンジュラス 11

101位 ドミニカ共和国 4
102位 ネパール 15
103位 ブータン 6
104位 アルゼンチン -
105位 ボリビア -7
106位 ガボン 6
107位 レソト 16
108位 キルギス 13
109位 バングラデシュ 1
110位 スリナム -4

111位 ガーナ 3
112位 セネガル 1
113位 レバノン -10
114位 カーボヴェルデ 8
115位 コートジボワール 11
116位 カメルーン -1
117位 ガイアナ -15
118位 エチオピア 9
119位 エジプト -1
120位 パラグアイ -1

121位 タンザニア 4
122位 ウガンダ 7
123位 スワジランド 1
124位 ジンバブエ 7
125位 ガンビア -9
126位 リビア -18
127位 ナイジェリア -7
128位 マリ 7
129位 パキスタン 4
130位 マダガスカル 2

131位 ベネズエラ 3
132位 マラウイ 4
133位 モザンビーク 4
134位 ミャンマー 5
135位 ブルキナファソ 5
136位 東ティモール 2
137位 ハイチ 6
138位 シエラレオネ 6
139位 ブルンジ 7
140位 アンゴラ 2

141位 モーリタニア -
142位 イエメン 3
143位 チャド 5
144位 ギニア 3

 前述の通り、日本は昨年の9位から6位に上昇しています。「これは喜ばしいことだ!」と歓迎するニュースが出ています。たとえば、時事ドットコム:日本の競争力、6位に上昇=安倍政権の安定評価-世界経済フォーラム(2014/09/03-07:17)は、"日本は経済政策「アベノミクス」に取り組む安倍政権の安定性が評価され、総合順位が144カ国・地域中6位と昨年から一気に三つ上がった。2年連続の上昇で、10年と並ぶ最高順位となった"と書いていました。

 ところが、この「国際競争力」という概念について、積極的に批判している学者がいます。しかも、この学者は無名な学者ではありません。ノーベル賞受賞者です。ノーベル賞受賞者にも様々な考え方の人がいますが、先述のアベノミクスをむしろ絶賛していた人…というおまけつきです。何とアベノミクス賛成派の人も積極的に名前を出して利用していたポール・クルーグマンさんが、これに批判的なようです。

 Wikipediaによると、クルーグマンさんは"競争力向上を目指すのは根本的に誤りだ"としているようです。"競争力至上主義は労働者を搾取し失業率を悪化させる"ということで、むしろ向上を目指してはいけないという印象を受けますね。

 また、「実際問題としてだが'競争力'主義は、はっきりとした誤りである。互いの経済競争において、どの程度であっても、国際的な先進国はない」ともおっしゃっています。この言い方だと国際競争力を算出すること自体、無意味とも取れます。

 Wikipediaを読み進めると、もっとはっきりとそういう意図を感じ取ることができる「国際競争力などという概念は明確には存在しない。国家を企業と見立て貿易を市場をめぐる勝ち負けのゼロサム的認識が生んだ幻想にすぎない」という指摘もしています。

 「国際競争力」という概念は無意味で、明確には存在しないが、その曖昧模糊とした「国際競争力」を高めようとするとむしろ経済的に打撃を受ける…といった感じでしょうか?

 「国際競争力」で検索かけていらっしゃった方にとっては、台無しになるようなお話でした。


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