●核家族化で自殺が増えて、大家族で自殺者が少ない…本当か?
2010/11/19:当初は<自殺と家族構成 ~核家族化は関係あるのか?~>というタイトルで書いていた話。自殺と家族構成に関係があるのかが気になって検索していろいろ読んでみた…というものです。ただ、正直に言うと、思ったほどデータがなくて困りました。そもそも家族構成については注目されていないのかもしれません。
家族構成と自殺に関するデータがないという時点で、「核家族化で自殺が増えて、大家族(拡大家族、伝統的家族)で自殺者が少ない」という説は根拠不十分と言って良いです。ただ、とりあえず、今わかっているデータを見ていきましょう。まず、平成17年度内閣府経済社会総合研究所委託調査の
自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書(PDF、京都大学)から見ていきます。
「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」では、様々な項目に分けて自殺の要因を探っており、この中に「世帯」という調査項目があります。この世帯では、家族の構成人数についてと、家族を構成している人の特性について着目していました。
このうち、家族の構成人数(世帯サイズ)については、その人数が多いと言うことは、家族という一つの社会単位が大きいことを指し、それだけの単位が続くという以上、社会連帯が薄いわけではないというように考えられるとしています。自身にもっとも近い存在である家族の構成人数が、その人の社会的な連帯をあらわす一つの指標と考えることができるからというのが、これに着目した理由のようです。
では、そのデータについて。まず、Neumayer(2003)は、欧州各国の世帯サイズのデータを用いて、男性については、世帯人員数と自殺率が関係ないことを示しているとのこと。また女性については、世帯人数が多いほど自殺率は低くなる傾向にあるのですが、あまり統計的な頑健性を持っていないことを確認しているそうです。要するにやはり根拠薄弱ということでしょう。
●むしろ逆の可能性も!家族数が多いほど自殺が増える結果に
一方、Burr et al(1997)は、アメリカ人男性女性(’70年及び’80年)世帯サイズの増分を分析して、男性についても女性についても、世帯サイズが大きいほど自殺率が上がる(後半の表では正の相関をもつと表現)という結果を導き出しているとのこと。つまり、家族数が大きいほど、逆に自殺率が上がるということですね。
また、全世帯に占める一人暮らし世帯の割合についても自殺率との相関を調べており、女性自殺率に関してのみ、一人暮らし割合と正の相関が存在している、というものであったみたいです。「一人暮らし」は特殊ですから、「核家族」と「拡大家族」とは別に分類した方が良いかもしれないと思わせる結果でした。
さらに家族を構成している人の特性について、連帯意識を考慮したものとしては、Cutler et al(2000)の報告にあります。これは、若年者の自殺について、父親が誰であるかわからない、または誰であるかはわかっていても、同居していない青年について、有意に自殺率が高くなる、ということを示しているそうです。
ここまで読んだ時点で私はかなり驚きました。古いデータではあるものの、自殺の要因の一つが核家族化の進行と関連すると、今当たり前のように言われていますが、必ずしもデータの上ではそうなっていないわけです。一つめに関しては、世帯人員数との関係は男性で無関係、女性でもほぼ関係なしとなっています。
さらに驚くのは二つめで、むしろ世帯人員数が多いほど、自殺率が上がるという当初の想定とは逆の結果になっていること。一応、この二つ目も女性の一人暮らしでは自殺率が上がるとなっているのですが、少なくとも核家族化が自殺を増やすというデータはほとんどないようです。
●日本の単身帯・核家族・拡大家族…最も自殺者が少ないのは?
データが豊富で助かったのは、この「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」だけ。あと、これ以外のデータはあまりなく、
集団社会学入門-99-くらいでした。こちらでは老人に限ったデータ(熊本県、1970-79年)で、老人に関しては単身世帯と自殺の関係について憂慮した記述がよくありますので、また違った結果になるかもしれません。
とりあえず、このデータで自殺率が低かった家族構成は、核家族(市部21.3%、郡部26.7%、以下同様)と夫婦世帯(28.3、23.6)でした。一方、自殺率の高い世帯の家族構成については、単身世帯(46.3、60.5)、拡大家族(55.0、50.2)でした。市部、郡部で分かれているので単身世帯とどちらが多いかは微妙ですが、これまた本来なら自殺が少ないと考えられる拡大家族が高い自殺率となっています。
引用元では、これを「市部、郡部ともに夫婦世帯と核家族では自殺率が低く、拡大家族ではそれが高くなっている」と分析しています。そして、一般には、家族は自殺の抑止力になると考えられているものの、それは家族のきずなが強い場合のことであり、拡大家族の内容は昔とはだいぶ違ってきたためとしていました。
それは市部で拡大家族の自殺率が高い傾向が強いことが裏付けているとしていますが、郡部においても核家族、夫婦世帯と比べると明らかに高いのは変わりません。また、先程見たように、老人に限らない海外でのデータでも似た傾向が出ているのは、注目すべき点だと思います。
●「自殺したいと思ったことがある確率」では、やや違う傾向も…
これで終わりにするのつもりでしたが、忘れていました。最初に
自殺対策 浜松市精神保健福祉センターというページを見つけたんでした。これは「自殺したいと思ったことがありますか」という質問への回答ですから、他とちょっと違いますが、参考になると思われます。
<自殺したいと思ったことがある確率>
一人暮らし 16.7%
夫婦 6.5%
回答者(夫妻を含む)と親 12.6%
回答者(夫妻を含む)と子 7.8%
三世代 6.5%
自殺したいと思ったことがある確率が抜けてトップだったのは、一人暮らし世帯。これは前述までの研究と同じ傾向だと言えそうです。ただし、自殺に関する他の研究と異なり、三世代における「自殺したいと思ったことがある確率」が非常に低い数値になっています。ここは傾向が一致しませんね。
また、トップではないものの、明らかに「自殺したいと思ったことがある確率」が高かったのが、回答者(夫妻を含む)と親です。核家族の定義とは、夫婦とその未婚の子女、夫婦のみ、父親または母親とその未婚の子女(一人親家庭)であり、こちらは一つ前での分類だと拡大家族になるようです。
●自殺を減らすために伝統的な大家族復活を!は逆効果の可能性
最後で少し異なる傾向のものも見られましたが、うっすらと似た傾向は感じられました。家族の世帯人員数が多い大家族では自殺率が高く、人数の減る夫婦世帯を含む核家族は自殺率が低く、さらに減って単身世帯となるとまた自殺率が比較的高くなるように見えます。ただし、データが少ないため極めて慎重に見る必要があるでしょう。断言は禁物です。
とりあえず、当初の想定とは大きく異なる予想外の傾向が見えたのは意外。家族の人数の少ない核家族だとひとりひとりの繋がりが強いのかもしれません。また、「自殺 家族」を検索していると、自殺にけっこう「家族が原因」というものが多かったので、家族が多いほどトラブルもまた増えてしまうのかもとも考えました。
いずれにしてももう少し調査を進めてデータを増やしていくということが最も重要なことでしょう。また、現時点では十分な科学的根拠がないどころか極めて怪しいのに「核家族化で自殺が増えて、大家族で自殺者が少ない」などと声高に主張し、的外れなところに自殺の原因を求めて、おかしな対策をしないようにしてもらいたいとも思います。
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