よく日本はアメリカに比べて寄付が少ない、日本では寄付文化が根付いていないといったことを言わるものの、アメリカの寄付文化もどうなの?という話。<アメリカで寄付が多い最も大きな理由がキリスト教文化というのは嘘>などをまとめています。
2023/05/23まとめ:
●慈善活動家はいい人?「科学の慈善家」を自称し30億円以上寄付 【NEW】
●アメリカで寄付が多い最も大きな理由がキリスト教文化というのは嘘
2015/7/30:明治大学グローバル研究大学院兼任講師の小田切尚登さんは、アメリカで多額の寄付を与える習慣が根付いている背景には、キリスト教の影響や、貧富の差の大きさといったものがあると書いていました。理由の説明がこれだけでしたら、アメリカの寄付文化は美しいように見えます。
ただ、これを書いた記事は、
全文表示 | 米国式の「寄付」が最善といえない理由 : J-CAST会社ウォッチ(2011/3/17 11:46 小田切尚登)というタイトル。キリスト教文化などの理由は一番ではないとしていました。これらではなく、最も大きな理由はなんと税制の問題だとのこと。あまり美しい話とは言えないでしょう。
<米国では慈善事業に寄付をすると税金の控除を受けられる。いわば一種の経費のように処理できるということだ。
これにより「どうせ税金に持っていかれるのならば人にあげたほうがよい」ということで、人々が積極的に寄付を行うということになる>
●民間の慈善事業は「民間」ではなく、事実上の税金が多いという事実
税制だろうが何だろうが寄付するんだから良いだろうという考えの人もいるでしょう。実際、"日本も米国にならって寄付に対する優遇税制を進めるべきという意見がある"そうです。ただ、この制度そのものが社会にとってマイナスと考える方もいらっしゃいます。一見良いように見えて、かなり致命的な弱点があるんですね。
プリンストン大学経済学部のラインハート教授はそうした見方をしている人の一人。ラインハート教授は、ニューヨーク・タイムズ紙(2011年1月11日号)に「民間の慈善事業はどれくらい民間か?」という記事を発表したことがあります。タイトルだけ見ると、意味不明なのですが、この後、具体例を見ると意味がわかってきます。
たとえば、税率50%の大富豪の方が100万円を寄付したケースを考えてみましょう。税額控除がない日本の場合は話が簡単。大富豪から寄付先に100万円が移転した…これだけで終わりです。本来の寄付とはこういうもの。こうした寄付でしたら、社会に悪影響を及ぼすということはなく、全く問題ありません。
ところが、税額控除があるアメリカの場合を考えるとおかしなことになってくるんですよ。大富豪は100万円を寄付したものの、税額控除によって50%の50万円分税金を免除されました。よって、大富豪が本当に寄付したのは50万円に過ぎません。では、これ以外の残りの50万円はどこから出たのか?と言う不思議な話になります。
そして、その答えは、税金から出ているというもの。国は税額控除がなければ得ることができた50万円分の税金を取り逃しているため、そう考えられるのです。また、大富豪が50%保護、サラリーマンが25%補助…のような、「金持ちの方が負担が少ない」というシステムは公平ではないのでは?といったまた違ったた観点からの批判もありました。
●お金持ち好みの団体が利益を受ける構造 しかも政府がお金持ち優先支援
記事ではもうひとつ批判点がありました。金持ちが個人的に支援したい先について、税金から補助金をもらっているというものでした。
米国の寄付金の行き先は何と宗教団体が圧倒的に多く、33%。もちろんキリスト教徒の多いアメリカですので、寄付先はキリスト教でしょう。次いで多い13%の教育も、自分の関係先への寄付となります。
そして、これがお金持ちほど税金の支援を受けるという形なのですから、お金持ちのお気に入りのところがますます栄えるという格好になります。場合によっては、格差の固定的な問題とも関係してくるかもしれませんね。あまり美しくない話です。
●宗教団体や政治家への寄付はそもそも推奨されるべきものなのか?
また、日本人の場合、そもそも宗教団体に寄付金が集まるという構図を美しいと思わない人も多いと思われます。もちろん宗教団体も慈善事業にもお金を使っているわけなのですが、アメリカの寄付の優遇税制は宗教団体支援の側面が極めて強いようです。
なお、日本でも寄付金控除があります。しかし、公的機関や地方公共団体、政治団体にお金を寄付したときに認められる控除というこで、かなり限定されているのです。宗教団体への寄付金や、学校への入学金の寄付などは控除の対象外であって、アメリカの二大寄付先は寄付しても控除されません。
(
寄付金控除とは 手続き・届出110より)
ただ、私で控除が受けられるという、政治団体や政治家への寄付ってのも気になりますけ。先程の説明が正しければ、寄付金控除があるということはアメリカと同じで、結局、事実上の税金による補助という形になるわけですよね。ならば、同様の問題がある気がします。
●アメリカ人が寄付や慈善活動に熱心なもう一つの理由は「アピール」
2021/05/26:最初の記事の説明が間違っている可能性を考えて、別記事も読んでみました。
なぜアメリカでは、チャリティ活動が日常的に盛んなのか?(文:稲石千奈美 2021.05.23)というものです。ただ、めちゃくちゃ短いですね。とりあえず、この記事では、寄付が盛んな理由としてまず、「隣人を愛し、社会奉仕を尊ぶ信仰心による部分も大きい」とされていました。
これだけなら美しい話なのですが、「信仰心による部分が大きい」ではなく、「信仰心による部分も大きい」であることに注意。「信仰心もあるが別の部分が大きい」というニュアンスです。で、こちらの記事でも結局、「チャリティ活動や寄付の金額は税金控除の対象になるため」と指摘されていました。最初と同じですね。
また、<こうした税金対策が理由だが、熱心に活動をアピールする有名人やプロスポーツチームの社会に与える影響は侮れない>とも指摘。これがまたいいことなのか悪いことなのか微妙になってくる「宣伝目的もある」という指摘です。なお、宣伝の慈善事業が悪く働いた事例を、
ヒトラーは給料を受け取らず寄付、慈善事業にも熱心ないい人?で集めていますので、気になる方はそちらも読んでみてください。
●慈善活動家はいい人?「科学の慈善家」を自称し30億円以上寄付
2023/05/23まとめ:別のところで書いていたアメリカのジェフリー・エプスタインさんの件をこちらにも転載。トランプ元大統領やビル・クリントン元大統領などとの豪華な交友関係で知られており、科学研究への寄付獲得で大活躍したのですけど、児童買春問題に関与するなどの問題もあり、最後は勾留中に亡くなっています。
2021/05/13:慈善事業の話が気になって探してみたのですが、ジェフリー・エプスタインさんのWikipediaにはなし。ただ、
富豪慈善家の性犯罪と怪死…謎の「エプスタイン事件」世界に走る激震(平 和博) | 現代ビジネス | 講談社(平 和博 桜美林大学教授 2019/8/31)という記事は出てきました。
この内容を見ると、慈善事業というのは、以前から言われているMITのメディアラボなど、科学関係への寄付のことみたいです。かなり広範に寄付しており、ハーバード大学の複数の有名プロジェクトに資金を提供。判明済みの過去20年間に自らの三つの財団などを通じて政財界や大学などに提供した資金の総額だけで、3,000万ドル(約31億8,000万円)とされています。
エプスタインさんは、自ら「科学の慈善家」と称していたとのこと。また、その寄付先や「人脈」を繰り返し喧伝したとのことで、大いに慈善活動を活用。寄付を行ったとする大学や研究機関には、当事者が否定しているものなどもあり、その実態が不明なケースも含まれているそうで、かなり宣伝色が強いタイプの慈善活動家ですね。
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