"Amazonのジェフ・ベゾスはAppleのスティーブ・ジョブズよりすごい iPhoneの戦略は失敗だった"(2015/8/23)に、"アマゾンのジェフ・ベゾスCEOとスティーブ・ジョブズと楽天"(2012/5/10)など、比較的近いものをまとめました。(2017/05/18)
2020/07/22:
●ベゾスCEOは金融機関から転身した異色のIT起業家って本当?
●スティーブ・ジョブズ亡き後のカリスマはAmazonのジェフ・ベゾス
2012/5/10:どの記事だったかは忘れちゃったのですけど、アップルのスティーブ・ジョブズ亡き後のカリスマ的な経営者候補としてAmazonのジェフ・ベゾスCEOを挙げている方がいました。
私も以前、どうせならやっぱり日本の企業に頑張って欲しいというのはありますが、Amazonは正直好きですし、ベゾスCEOもすごい人だと思います"と書いたように、ジェフ・ベゾスさんも卓越した人物だと思います。
タイプとしてはかなり違うとも正直思ってはいます。でも、今回はスティーブ・ジョブズさん絡みというテーマで集めていました。
なお、スティーブ・ジョブズさんは1955年生まれ、ジェフ・ベゾスさんは1964年生まれ。年齢的には一応10年近く年下で同世代ではありません。
●ライバルを意識しないという二人の共通点
まず、日経ビジネスオンラインのジェフ・ベゾスさんのインタビュー。インタビューアーの原隆さんが、スティーブ・ジョブズさんの話を持ち出していました。しかも、やはりポスト・スティーブ・ジョブズという観点での質問です。
――昨年、米アップルのスティーブ・ジョブズ氏が死去しました。圧倒的カリスマなき今、その注目はベゾス氏に集まっています。同じ経営者としてジョブズ氏との経営手法の違いなどどう捉えていますか。
ベゾス:まず、いただいた言葉は大変な賛辞として受け取りたいと思います。そんなことを言っていただけるなんて大変ありがたいことです。
しかし、です。私は比較をしたり、対比したりしようとは思いません。私たちのアプローチはとても安定したものです。顧客経験に重点を置き、顧客経験を測るために非常に高い基準を確立しています。アマゾンのチームは皆、顧客体験をあらゆる角度から検証し、改善する努力を惜しんではならないということを共有しています。フルフィルメントセンターでも同様で、小さな改善を日々行い、欠陥を少なくするような努力を続けます。
――それはアップル、もしくはスティーブが安定したアプローチをしていないということですか。
ベゾス:いえいえ。比較はしないとお断りしたはずです。私はアップルやスティーブの話はしません。あくまでもアマゾンの話しかしていません。
「日本での電子書籍事業開始は年内早期に発表する」 米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOインタビュー(後編)(要登録 日経ビジネスオンライン 2012年5月2日 原隆)より
以上のように煙に巻いたジェフ・ベゾスさんですが、これはむしろスティーブ・ジョブズさんと似た点かもしれません。
スティーブ・ジョブズさんの場合は「比較しない」わけではなく、相手を徹底的にけなすことがありましたが、「ライバルなどいない」という姿勢を貫いていたということ。
スティーブ・ジョブズの性格2 社外編 ~子供っぽい一面も~で出てきた話です。
ただ、やっぱり似ているのはちょっとだけだよなという感じで、これは無理やりだったかもしれません。スティーブ・ジョブズさんの場合は自らの美意識が先にあって、その実現が最優先だったと思うのですが、ジェフ・ベゾスさんの場合は飽くまで顧客が先にある感じです。
他社を気にしないという点は似ていても、本質的には異なる気がします。
●競合他社の話はしない…徹底しているジェフ・ベゾスCEO
上記のインタビュー記事の前半は、
「顧客中心」と言い張る企業の“嘘”を教えよう 米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOインタビュー(前編)(要登録 原隆 2012年5月1日 日経ビジネスオンライン)という記事。ここでは、違う意味で「ライバルを気にしない」が見える発言がありました。
ベゾス「顧客を中心に考えていると言い張る会社の行動を見て下さい。実際に何を言っているのか、何をしているのかを見れば、決して顧客中心でないことが分かるでしょう。メディアに対して最大の競合他社の名前を挙げる。これは競争相手中心であることの明らかな兆候です」
この姿勢は徹底しており、先のスティーブ・ジョブズさんの質問の後は実は以下のように続いていました。
――分かりました。日本の楽天という会社はご存知ですか。あるいは三木谷浩史社長はご存知ですか。
ベゾス:楽天という会社は知っていますよ。ほかの会社の話はしないので…(笑)。しかし、その会社のことを知ってはいます。
――カナダの電子書籍サービス「Kobo」を買収したのはご存じですか。
ベゾス:はい。買収しましたね。
――「Kobo」はアマゾンのビジネスにとって影響を受けるほどのインパクトがありますか。
ベゾス:申し訳ない。本当にこれは長年の慣習なのです。私は、ほかの会社について話さないことをアマゾン全体の慣習にしています。そしてこれは良い慣習だということも実感しているんです。ですから…、ごめんなさい!(笑)
●二人の共通点は秘密主義?
ただ、こうした部分よりスティーブ・ジョブズさんと似ていると感じた点は、秘密主義的な部分です。
先ほどの後編のインタビューでは日本でのKindle展開に関しての質問が続きましたが、「年内に新しい情報をお伝えします」の繰り返しで、ほとんど情報を明かしてはくれませんでした。
また、当時日本でのAmazonのキンドルの発売に関する情報が錯綜していたのも、秘密主義的なところが後押しした面があります。
●二人とも足し算より引き算を重視
あと、これは他のところで書いていたものですが、後編のインタビューでやはりスティーブ・ジョブズさんと似ていると感じたのが以下の部分です。
――キンドル・ファイアを開発する際に,、こだわる機能、もしくはそぎ落とす機能など、どのような判断基準をお持ちだったのでしょう。
ベゾス:例えば、キンドル・ファイアにはカメラ機能がありません。私たちが考えたのは、既にスマートフォンにカメラが搭載されているのに、なぜタブレット端末にカメラが必要なのかということです。
スマートフォンは常に携帯しています。つまり、いつもカメラを携帯しているわけです。もちろん、人によっては高品質で撮影できるカメラを欲する人もいるでしょうが、タブレット端末のカメラにそれを求める人はいない。
こうした機能の取捨選択は難しいものです。なぜなら、製品に対するレビューを書き込む人は「カメラあり/なし」といった単純なチェックリストで評価するからです。しかし、顧客は頭がいい。カメラが必要でないことは分かっているし、カメラがついていることで価格が引き上げられてしまうことも知っています。
これは機能を削ることのうまさを示しています。スティーブ・ジョブズさんが得意なことであり、アップル製品の特徴の一つでした。
そして、日本人が苦手なところでもあり、日本の会社の場合は多機能化に走り、ゴテゴテとしがちだとよく指摘されています。
●アマゾンのポイントは、顧客第一・長期的・創意工夫
2015/8/23:ここからは、"Amazonのジェフ・ベゾスはAppleのスティーブ・ジョブズよりすごい iPhoneの戦略は失敗だった"で書いていたもの。これは二人の共通点ではなく違う点でした。
アマゾンのジェフ・ベゾスCEOで感心するのは、目先の利益に囚われない長期的視野を持った戦略を取ることです。ベゾスCEO自身これははっきりと意識しているみたいですね。『
ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者
』には、こういう言葉が出てくるそうです。
「我々は正真正銘、顧客第一ですし、正真正銘、長期的です。また、正真正銘、創意工夫を重視しています。ほとんどの会社は違います。顧客ではなく、ライバル企業のことばかり気にします。2年から3年でリターンが得られることばかりやりたがりますし、2~3年でうまくいかなければほかのことを始めます。新しいことを発明するより、誰かの発明をまねするほうを好みます。そのほうが安全だからです。これがアマゾンが他社と違う理由であり、アマゾンの実態です。この3要素をすべて備えている企業はほとんどないのです」
(
利益率たった1%で突き進むアマゾンの奇才経営者:日経ビジネスオンライン 滑川 海彦 2014年1月14日(火)より)
●損失を出してもプラスになるという長期的視野
「顧客第一」とありますが、「顧客第一主義」はもちろん"単に博愛の精神から出たものでは"ありません。顧客のために良いサービスを心がけると最終的には自らの利益になるためです。グーグルの「邪悪になるな」もそういうところがあるかもしれません。
最終的に…ということで短期的に利益にならない場合は多いです。ですので、「長期的」というのもポイントです。
たとえば、2000年夏に発売された『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』は、"40%の値引きとともに、配本日の7月8日土曜日に顧客が受けとれるよう、通常配送料金でお急ぎ配送を提供"しました。
"1冊あたり何ドルかの損失が出る条件で25万5000冊ほどもの注文を受けた"ため、"総額100万ドル(約1億円)の赤字が予想され"ました。当然、"話題作りには損失が大きすぎるとウォールストリート"の投資家らは評価しませんでした。
しかし、"結果としては、顧客から感謝の声が上がり、700件を超えるアマゾンに好意的な報道があり、大きな効果を上げ"ました。一見マイナスに見えても大きな視野で見るとプラスになったのです。
●売れば売るほど赤字になる売り方
最初に上記のような例を出しちゃったものの、これは「長期的」という例としてはちょっとイマイチでしたかね? 以下の方がピタリなエピソードだったかもしれません。
人気の書籍や新刊書はデジタル版をすべて9ドル99セントの均一価格で提供するとベゾスが決めたのだ。(中略)たとえば30ドルの本なら15ドルで出版社から仕入れるわけで、それを9ドル99セントで売れば、売れば売るほど損することになる。それでいいというのがベゾスの考え方だった─出版社は、出版の費用が少ない分、電子書籍の卸売価格を下げざるをえなくなると予想したからだ。それまでのあいだは、ベゾスお得意の未来に対する投資というわけだ。
――『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』第8章より
この販売価格は出版社からの仕入れ価格を大幅に下回っており、売れば売るほど赤字になるはずだった。ぎりぎりまでこの価格を知らされなかった大手出版社は激怒し、長く続くKindle戦争が勃発する。それでも、Kindleの低価格は顧客に喜ばれ、電子書籍が普及する後押しとなった。
●長期にわたって赤字になる価格設定
ベゾスCEOはアップルのスティーブ・ジョブズさんを非常に尊敬していましたが、"iPhoneを高利益率ビジネスにしたこと"は大きな失敗と考えていました。これもやはり長期的視野に欠けるためです。
高利益ビジネスを選択すべきではないというアマゾンの象徴的なサービスが、「EC2インスタンス」です。「EC2インスタンス」は説明を読んでもよく理解できないんですが、とりあえずクラウド上のサービスだということはわかりました。
(担当者はAWSの一つの)EC2インスタンスの料金として1時間15セントを提案した。これなら収支とんとんになると考えたからだ。だが、スタート前のSチーム会議で、これをベゾスが10セントに引き下げてしまう。「その値段だと、長期にわたって赤字が続くことになりますよ」とヴァン・ビョルンが念押しするが、ベゾスは「上等だ」と取りあわなかった。
――『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』第7章より
タフな交渉で相手をたたきつぶすのがアマゾンの文化:日経ビジネスオンライン 滑川 海彦 2014年1月21日(火)
●ベゾスCEOがアップルのiPhoneが失敗だったと考える理由
「EC2インスタンス」の大安売りが特殊だったのは、「競合がまだいない段階」だったという点です。通常、競争相手のいない独占市場では強気の値付けができます。最初はいわゆるブルーオーシャンでドル箱状態。ここでがっつり儲けるものです。
しかし、ベゾスCEOは、株主に対して、「スティーブ・ジョブズの失敗をくり返したくない」として、以下のような説明をしたようです。
iPhoneはすばらしい製品であり、ユーザーはジョブズが設定した値段を喜んで支払う。何も問題はないように見えるが、ベゾスに言わせればそれが失敗なのだ。つまりこの分野でiPhoneがそれだけの利益を上げられたのであれば、利益率を少々削れば価格優位な製品が作れると広く認識させてしまった。グーグルがAndroid OSを無料でメーカーに提供開始すると同時に、スマートフォン市場は一気に激烈な競争の中に投げ込まれた。アップルは天文学的なキャッシュを社内に積み上げることには成功したが、スマートフォンのシェアではあっという間にAndroidに敗れた。
●最初から大安売りをする理由はライバルを呼ばないため
実は先ほど出したブルーオーシャン戦略には弱点が指摘されています。一度大儲けできる市場だとわかると、ライバルが次々と参戦し、あっという間に競争の激しいレッドオーシャンとなるということです。
中小企業の制約という面を第一の理由に上げていましたが、USB扇風機を作った会社は結局ほとんど儲けられなかったと確か言っていました。大手が次々と真似したためです。
仕事・ビジネスの名言2 「誰もやりたがらない小さい市場を狙いなさい」は、こういったブルーオーシャン戦略の問題に対して「誰もやりたがらない小さい市場を狙う」という解を出しています。
私はこのアドバイスも当時とても感心したのですが、ベゾスCEOの発想のすごさには舌を巻きました。最初から誰も挑んでこない価格設定で、市場を全て牛耳ろうというスケールのでかい発想です。
通常、価格競争はある分野で優位に立った企業に対して後発企業が仕掛けるのが通例だ。しかしアマゾンは、「先制価格戦争」あるは「予防的価格戦争」を仕掛ける。新事業のスタートの際に意識的に赤字覚悟の料金を設定する(ちなみに、その時点で競争相手は存在しないから被害を受ける相手もいないので反トラスト法が定める不正競争行為に該当しようがない)。
営業活動を何もしなくても料金の安さだけで大量の顧客が集まり、やがてアマゾン自身の努力でコストが削減され、赤字が解消される。その頃には競争相手がこの市場に参入するのは非常に難しくなっている。これだけ長期的な視野を持ち、タフな戦略を遂行できる経営者はなかなかいない。
なお、ここで「反トラスト法が定める不正競争行為に該当しようがない」という話が出ていますが、その前の出版社から仕入れ価格より安く売った電子書籍はどうなのだろう?と思います。
悪徳企業アマゾン? 脱税を利用した販売・逆らう会社は叩き潰すなどで書いているように、ベゾスCEOの考え方は優れているのは間違いないものの、法律的あるいは道徳的にマズい場面もたびたび見られます。褒めっぱなし…というわけにはいきません。
あと、道徳的にマズイ面があるということに関して言えば、アップルとの共通点と言えるかもしれません。嫌な共通点ですけどね。(関連:
下請けの島野製作所がアップルを提訴 特許漏洩や脅迫まがいの値下げ要求)
●ベゾスCEOは金融機関から転身した異色のIT起業家って本当?
2020/07/22:
20年前にアマゾンを発明し、1万年先を読むベゾスの真骨頂:日経ビジネスオンライン(滑川 海彦 2014年1月28日)によると、ベゾスさんは「ウォール・ストリートの金融機関から転身した異色のIT起業家」と紹介されることがあるとのこと。一応間違ってはいないものの、これはかなり誤解を招く表現だといいます。
まず、ベゾスさんはプリンストン大学でコンピュータ科学を学んでおり、こっちが専門みたいですね。ただ、「将来起業するならビジネスのことを知っておいたほうがいい」と考えてニューヨークの金融機関に入っています。金融機関で働いたことがあるのは間違いありません。
ただし、この金融機関ではコンピュータ通信システム構築のエンジニアとして働いていました。金融機関出身だといってしまうのは、金融の専門家だという誤解を招くので、問題があるでしょう。これを認めてしまうと、全然金融に関連していないのに「金融に詳しい」と称して、投資を勧めるといった詐欺的な話に使われかねません。
まあ、私は、
証券マン・銀行マンに騙されるな!投資は素人で営業がプロなだけで書いているように、実際に金融に関わっている人たちも大した能力がないと考えていますけどね。世の中には、詐欺的な話にあふれていますので、注意してください。
なお、ベゾスさんがエンジニアだったというのは、私は意外でした。技術的センスはすごいものの、専門ではないと思っていたため。エンジニアとしても優秀だったため、バンカーズ・トラストで最年少の副社長となったといった説明もあり、これもまた私のイメージとは全然違うものでした。
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