佐野研二郎さんのオリンピックエンブレム絡みの話です。ただ、なるべくそうじゃなくて、後々にも通用するような一般論として、やりたいと考えながらは書きました。
書籍・画像などの著作物の私的使用の範囲はどこでまで認めれられるのか?というのが、気にかかっていたためです。
●「私的使用」なら認められている
栗原潔弁理士は、私的使用(「私的利用」とつい言ってしまいますが、法的には「私的使用」みたいです)について、以下の条文を引いていました。
五輪エンブレムの組織内検討資料に他人の写真を使うのはどうなのか(追記あり)(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース(弁理士 ITコンサルタント 金沢工業大学客員教授 2015年8月29日 10時12分)
著作権法30条1項の私的使用目的複製の既定により、限られた範囲内での使用であれば問題なさそうにも思えます。
30条1項 著作権の目的となつている著作物(略)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。(後略)
●内部資料なら問題ない?
上記を踏まえているのかは不明ですが、佐野研二郎さんは内部資料なので問題無いとしていました。
五輪組織委「疑惑エンブレム」開き直り!白紙撤回でみんな責任とった : J-CASTテレビウォッチ 2015/9/ 2 15:46
佐野氏がエンブレムの街中での使用イメージとして審査に提出した画像が、「海外のサイトから無断転用した」という指摘が相次いだ。佐野氏はイメージ画像の無断転用を認めているが、「内部資料として使う場だった。デザイナーならよくあること」と釈明した。
別の方(デザイナーではなくライター?)も、公開した五輪組織委員会が悪いというツイートをしています。他に匿名でも、業界では普通にやられていることと言っている人が見られました。
●そもそも佐野研二郎氏の展開例は内部資料ではない
ただ、私はそもそも内部資料だと言えないと思うんですよ。
佐野研二郎さんはコネ疑惑がありましたが、佐野研二郎さんがいっそのこと本当に五輪組織委員会の内部の人だったら、内部資料と言うことができますよ。でも、それは当然否定されますよね。
五輪組織委員会は明らかに外部です。佐野研二郎さんの事務所内から出さない資料ならともかく、社外(事務所外)の人に説明する場面で使う資料というのは、明らかに「内部資料」ではありません。
特に今回は、これから仕事を得ようとする場面で使っています。営業に使っている、ざっくばらんな言い方をするとお金を得ようとする場面で使っているわけで、これを「内部」と言い張るデザイナーらの意識は理解できません。(狭い業界で仲間意識・身内意識が強すぎるのかもしれません。これは強い反発を招いた原因でもあります)
この前書きましたが、私は以前会社の偉い人が持ってきた画像を、フリーのものと差し替えさせてもらったということがあります。偉い人は最初なかなか理解してくれず、何が問題なの?という感じでした。
このことは全く正当化できないものの、著作権問題とは無縁の職場でしたので、そういう人が多いというのはわかります。望ましくはないものの、特に高齢の方で、著作権問題を知らない方が世の中にたくさんいるというのは、否定できない事実でしょう。
でも、デザイナーらがその意識と変わらないというのは、衝撃的でした。著作権問題は絶対に避けては通れない職業ですからね。本来はプロのはずです。ですので、佐野研二郎さん個人の問題ではなく、日本のデザイン業界全体に問題がありそうです。
●組織内検討資料であっても著作権侵害の可能性が濃厚
間に私の話をごちゃごちゃと入れてしまいましたが、専門家の話を。
J-CASTテレビウォッチによると、商標権スペシャリストの平野泰弘弁理士がやはり問題あるとしていました。
「一番の問題は使用イメージ画像。『転用しないで下さい』と明記してあるのをわざわざ消したうえ、許可を得ないで使用している」
また、栗原潔弁理士の見解も以下のように否定的です。
しかし、業務上の使用の場合は、たとえ限られた範囲内での使用であっても私的使用にはあたらない(つまり、30条1項の適用はない)というのが多数説です(反対説あり)。32条の「引用」と解釈するのも無理があります。 (中略)
今回のケースに当てはめてみると(ブログ主の許可を得てない限り)カンプとしての組織内検討資料としての使用は著作権侵害の可能性が高く、記者会見での使用ではほぼ著作権侵害と言ってよいでしょう。
●公開する予定がない本当の社内検討資料の場合は?
栗原潔弁理士は、これ以外の社内検討資料についても、言及していました。仮でネットの写真を使っておいて、最終案をパンフレット等で広く公表するときに正規の写真に差し替える、といったケースです。
私も前述の経験談を話すときに「社内資料ならともかく」と書いたのですが、実は「これも厳密に言えば著作権侵害の可能性が高い」としていました。
とはいえ、「社会通念的には許容され得るかもしれません」とも書かれていました。
●判例では企業での複製は私的使用に当たらない
「厳密に言えばダメ」という話は、はてなブックマークでも見かけたので、履歴を漁って発掘しました。
“微妙じゃないんで。企業の内部資料でも私的利用にあたらないのでNG。引用と強弁したい場合はcopyrightを削っているのでNG。(http://www.netlaw.co.jp/topics/topics_005.html 事例4の支持学説無し) 他:http://www.rightsview.com/q_a/cat02.html”(oktnzm 2015/08/29
はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`) : 佐野研二郎、海外ブログの写真からCopyrightの文字を削り盗用か? - ライブドアブログより)
リンク先の一つは以下でした。社内だけでもダメということで、うわぁ、私もこれは引っ掛かっていたと思いますわ…。知らなかったです。
Q & A [ 複製 ] - RIGHTS VIEW(ライツビュー)
社内使用目的での書籍の複製について
市販の書籍の一部をコピーし、社内会議用の参考資料として出席者数名に配付しようと考えております。著作権法上の問題はありますか。 質問者:匿名希望
(中略)裁判例では、「企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえないから、同条所定の私的使用には該当しないと解するのが相当である」として、企業内での内部的利用のための複製は、「私的使用目的の複製」には該当しないと判示し、以降、通説的な見解となっているようです。
したがって、社内会議用の参考資料として使用するために、市販の書籍を複製(コピー)することは、「私的使用目的の複製」に該当せず、著作権者の権利は制限されないため、複製権の侵害になりえると考えられます。
●デザイナーらは著作権に関する基本知識を欠いている?
といった感じで、法律を四角四面に捉えると全滅状態に陥るわけなんですが、デザイナーさんたちの複製の仕方は問題外だと思われます。
栗原潔弁理士は、呆れた様子で次のようにおっしゃっていました。
さらに言えば、大手デザイン事務所はストックフォト提供企業とコーポレート契約を結んでいるものかと思っていましたが、そういうわけでもないのでしょうか?たとえば、ストックフォト大手のアフロのサイトを検索してみると、この展開例の素材として使えそうな空港の写真はいくつかあります。よほど経費をけちりたいのか、それとも、著作権に関する基本知識を欠いているということなんでしょうか?
デザイナーらが、著作権に関する基本知識を欠いているとした場合、そんなんでよく「五輪エンブレムが問題あるはずがない」と断言できたなと思います。
繰り返すように、佐野研二郎さんだけでなく、業界全体に問題があるように感じます。
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