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子供や部下を叱る効果が大きいと錯覚する理由 褒めるは逆の錯覚


 有名な話らしいですが知らなかったので、非常におもしろいと思ったもの。


●子供の成績を褒めると成績が下がり、叱ると成績が上がる!
 Cさんは、小学生のわが子の成績向上に関して、叱るのと褒めるのとではどちらが効果があるのか、過去の子育て日記をめくって調べてみた。すると、テストの成績について褒めた後よりも叱った後のほうがテストの成績が向上することがわかった。このデータからCさんは、褒めるよりも叱るほうが効果があると結論づけた。

意思決定のマネジメント (一橋ビジネスレビュー・ブックス)(長瀬 勝彦)より


●子供や部下を叱る効果が大きいと錯覚する理由 褒めるは逆の錯覚

 私はよくデータ出せ、証拠出せと言っていますが、上記はデータを元にしており、妥当なように見えます。しかし、実際には見落としている部分があるという説明です。

 というのも、たまたま成績が良かったときに褒めれば、次にそれ以上の成績を上げることは難しくなり、元の成績に戻る…つまり、下がる可能性が高くなります。

 逆にたまたま成績が悪かったときにも、次はまた元の成績に戻る可能性が高くなります。そのとき叱っていると、「叱った効果が出た!」と錯覚してしまいますが、実際にはたとえ叱らなくても成績が上がった可能性が高いのです。


●数字を出した説明

 数字を出されると余計わからなくなるという方もいらっしゃるかもしれませんが、私は具体的な数字を出した方がわかりやすい性質なので、以下、それで説明。

 まず、以下のような確率で点数を取る子がいた、と仮定します。

【ある子供のテストの点数の確率】
60点:10%
50点:80%
40点:10%

 この子がいつもより良い60点をとってきたときに、親は褒めていました。ところが、60点のときはたまたま良い点数を取れただけのときですので、次回は高い確率(90%)で60点より成績が悪くなります。そこで、この親は「褒める効果はない」と判断しました。

 一方、この子が40点をとってきたときに褒めると、次回は9割という高い確率で40点より高い点数をとることがわかりました。そこでこの親は「叱ることには効果があるのだ」と学習しました。

 こうやって具体的に見てみると、「この親はなんて馬鹿なんだ」と思うかもしれません。ただ、当人はこうやって外部から冷静に見ているわけではないので、気づかないことは多いと思います。

 実際にはこのような数値で表せないものも多いですし、まとめて振り返ることも稀で、そのときどきの印象で少しずつ「学習」していくでしょう。

 このようにして、子供や部下を叱る効果が大きい、逆に褒める効果は小さい、と錯覚する親や教師や上司らが量産されていくようです。


●平均への回帰と因果関係の錯誤

 ちなみに意思決定のマネジメント (一橋ビジネスレビュー・ブックス)(長瀬 勝彦)での説明はこちらでした。
 このケースには、平均への回帰と因果関係の錯誤が重なっている。子どもを叱る状況はいくつか考えられるが、普段よりも低い点を取ってきたときには叱ることが多いだろう。逆にいつもより高い点を取ってきたときには褒めることが多いだろう。しかし、子どもの実力が安定的ならば、点数は平均へと回帰する傾向があると予測される。つまり、自己の平均よりも低い点を取った後には高くなり、高い点の後には低くなる確率が高い。ゆえに、このデータから褒めたり叱ったりすることと点数の変動との因果関係は明らかにできないのである。

 プロ野球では「2年目のジンクス」といって、新人賞を取った選手が2年目はパッとしないことが多いといわれる。他球団から研究されて伸び悩むということもあるだろうが、最初の年に幸運が重なっただけで、2年目からは実力相応の成績に落ち着いたのかもしれない。

●短期的な視野しか持てないがための誤解

 実はこの話を知ったのは、以下のツイートでした。人は目の前のことまでしか見えず、長期的視野を持ちづらいというのもあるでしょうね。褒める・叱るで途端に成績が一変するというのは、虫が良すぎる考えです。




●平均への回帰の例

 意思決定のマネジメント (一橋ビジネスレビュー・ブックス)(長瀬 勝彦)では、「平均への回帰」という用語が出てきました。検索すると、Wikipediaでも項目があります。
平均への回帰 - Wikipedia

平均への回帰(へいきんへのかいき、または平均回帰、回帰効果)とは、1回目の試験結果が偏っていた(特別に良かった、悪かったなど)対象について2回目の試験結果(時間的には逆でもよい)を調べると、その平均値は1回目の測定値よりも1回目全体の平均値に近くなるという統計学的現象をいう。

 やはりテストの例が出ていました。本当有名なんですね。
生徒たちが中間試験と期末試験を受けるとしよう。

中間試験で特別に高得点だった生徒たちに注目して調べると、(たぶん期末試験でも得点は高い方だろうが)一般に中間試験のときよりは平均に近い(平均からの偏差がより小さい)結果になる。それは、中間試験で働いた「幸運」(偶然)が、期末試験では必ずしも働かなかったからである。

逆に、期末試験で特別に高得点だった生徒たちについて調べても、中間試験での平均からの偏差は期末試験のそれより一般に小さい。

また、特別に低い得点の生徒たちで調べても同じ傾向が見られる。

 もう一つの例。詐欺まがいのビジネスに悪用されそうです。
よくありがちな誤謬には次のようなものがある。ある薬が成績を増すかどうかをテストしたい。まず生徒にテストをさせ、点数が最下位10%だった生徒たちに薬を与え、再度別のテストをさせる。すると平均成績が顕著に上がったという結果が得られる。しかしこれは薬の効果について何もいったことにならない。

 本来は「薬なしの比較対照実験」を行うべきとありました。さらに言うと、プラセボ効果…思い込みによる効果が出る可能性がありますので、偽薬を用いた対照群と比較するべきでしょうね。


●回帰の誤謬の例

 Wikipediaで関連しそうな項目がもう一つ。「回帰の誤謬」というものです。
回帰の誤謬 - Wikipedia

回帰の誤謬(かいきのごびゅう、英: Regression fallacy)は、誤謬の一種であり、存在しない原因に帰してしまうこと。自然の変動を考慮していないという問題がある。これは、前後即因果の誤謬の特殊例であることが多い。

 概要

株価、ゴルフのスコア、慢性の腰痛などは自然に変動し、平均に回帰する。このときの論理的誤謬は、例外的な値が平均であるかのように連続することを期待し予測することである(代表性ヒューリスティック)。人々は分散がピークに達したときに対応する行動をとる傾向がある。そして、値がより平均に近づいたとき、彼らは彼らのとった行動がそうなった原因だと信じているが、実際にそれが原因であったかどうかは明らかではない。

 回帰の誤謬も例がいくつかあります。…が、またテストの成績の例が出ていました。本当大人気で驚きます。
・彼は痛みがひどくなると祈祷に行き、そうすると痛みが若干和らいだ。したがって、彼は呪術師の祈祷の恩恵を受けていた」
・「彼は痛みがひどくなるとA薬を飲み、そうすると痛みが若干和らいだ。したがって、彼はA薬の恩恵を受けていた」

 痛みがひどくなってから治まるのは、単なる平均への回帰で説明できる可能性がある。この場合、呪術師の祈祷(あるいはA薬)によって治まったのかどうかは(論証的には)分からない。

・「そのクラスの学生は前学期にひどい成績だったので、私は彼らを罰した。今学期、彼らの成績が上がった。明らかに、処罰は学生たちの成績向上に有効である」

 例外的な成績の後に平均的な成績になることは平均への回帰で説明できるため、「罰が成績向上に寄与する」との論証がかならず成立するかどうかは分からない。

●「回帰の誤謬」の誤用

 先の薬の例で「薬なしの比較対照実験」などを行うべきとありました。そして、この結果によっては、薬の効果を証明できる場合もあるわけです。

 つまり、すべてのケースを「回帰の誤謬」によって否定できるわけではないということです。こちらにも注意が必要です。1つ目は例が悪い気がしますが、Wikipediaでは全部に適応しちゃいけないというのも例示していました。
一方で、回帰の誤謬だとして妥当な説明を退けることで状況が悪くなることがある。例えば、

「西側同盟諸国がノルマンディに侵攻し、第二の戦線を形成すると、ドイツのヨーロッパにおける制御は衰えた。明らかに米英とソ連の連携はドイツを追いつめた」

これに対する誤った評価は次のようになる。

「ドイツが最大の領域を占領し制御下に置いた後でドイツへの反撃が行われたとすると、純粋に無作為な変動としてドイツ軍の撤退を平均への回帰で説明でき、ソ連や米英が何も介入しなかったとしてもドイツ軍の撤退は行われただろう」

この評価は、回帰の誤謬の誤用である。本質的に、平均への回帰を誤用すると、どんな因果関係も「自然にそうなった」ということになってしまう。

また、時間の経過自体がマイナスに働く場合もある。たとえば、ある大相撲力士において、33歳当時の年間成績が55勝35敗、34歳当時が45勝45敗、35歳当時が30勝35敗25休とすれば、36歳以降のこの力士の成績が関取の平均的成績のレベルに回帰することはまず期待できないであろう。

 よって場合によりけりなわけですが、出てきた例を見ると「回帰の誤謬」である場合、そうでない場合とも説明に納得できるものと思います。


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