2023/07/02:
一部見直し
●アメリカでは次々と最低賃金の引き上げが実現
2015/9/16:アメリカでは現在、多くの自治体で最低賃金(時給)を15ドル(1,850円)に引き上げる条例が可決中。たとえば、以下のような感じです。今すぐに…というものではないものの、引き上げ額がかなり大きいところもありますね。一番大きいところだと、6.25ドル、下書きの2015/9/11時点では大体750円くらいですね。
サンフランシスコ 12.25ドル → 15ドル(段階的に)
ロサンゼルス 9ドル → 15ドル(2020年までに)
ニューヨーク州 8.75ドル → 15ドル(全米で30以上の店舗を構えるファストフード店に対し2021年までに)
(
最低賃金1800円条例が次々可決される米国、施行された都市では何が起こっているのか(田中めぐみ) - 個人 - Yahoo!ニュース 環境・社会問題研究者 2015年7月29日 13時27分より)
●最低賃金の引き上げによる影響は?…実を言うと、定説はない
Wikipediaによると、この最低賃金の引き上げによる雇用への影響は諸説ある状態。要するに「わからない」ってのが現状なんですね。そもそも"実証的には、最低賃金の雇用の縮小の効果が出るような大幅な最低賃金の上昇をした例がない"ってことみたいですね。
つまり、現在行われている最低賃金の引き上げは、雇用に悪影響を与えない程度の引き上げになっているようです。そして、大幅な引き上げが行われていないために、"雇用の縮小効果は小さく、好影響・悪影響を判断・確認できるような研究ができていない"とされていました。
・
最低賃金 - Wikipedia 最終更新 2015年9月7日 (月) 06:21
<最低賃金法の雇用に対する影響の良し悪しは論争になっている[3] [4]。最低賃金に関する蓄積された諸研究の解釈を巡って、最低賃金が雇用に与える影響が負だという証拠はないという者もいれば、最低賃金の研究についてコンセンサスはないと結論づける者もいる[5]。>
●最低賃金の上昇は、国際的な競争力を失うもの?
ただ、Wikipediaでも良かったケースと悪かったケースを1つずつ載せていました。悪い例は政策的な最低賃金上昇とは異なりますけどね。あと、悪い例でその根拠となっていた「国際的な競争力」という考え方は、それ自体に批判がある概念ですので、悪い影響の証拠としては弱いかもしれません。
(
国際競争力も貿易黒字も貿易赤字も無意味 クルーグマンの主張を参照)
<ビル・クリントン政権であった1996年に最低賃金が引き上げられた際に、失業率の上昇はみられず、低所得者層の給料が増加した[22]。
オーストラリアでは、トヨタ、フォード、ホールデンなどの撤退が相次いでおり、2017年には自動車の生産拠点が無くなるなど、製造業全体が先細りして雇用が減少しているが、この原因として、経済成長で最低賃金が上昇し、国際的な競争力を失ったためとの意見がある[23][24]。>
●アメリカの小さな町による先行事例ではむしろ失業率が低下
前述の通り、"大幅な最低賃金の上昇をした例がない"というわけですが、今回のアメリカの例はどうなんでしょう。画期的な内容なんでしょうか。最初の記事によれば、"シアトル空港があるシータックという人口2万7千の小さな町では、他都市に先駆け、昨年1月から客室100以上のホテルや従業員数25人以上の駐車場・レンタカー会社等の最低賃金が15ドルに引き上げられてい"るそうです。
この影響については、いろいろと報道されています。とりあえず、"施行前には賃上げによる失業率の増加が懸念されてい"たものの、"施行後1年半以上が経ち、大きな混乱は起こって"おないとのこと。しかも、"むしろ失業率は施行前の6.5%から現在4.6%に改善"するという不思議なことになっています。
個々の例を見た場合は、やや悪い点も見られました。とはいえ、今のところは悪くない感じです。
<ワシントンポスト紙によると、町内のあるホテルでは、賃上げの代わりに、これまで従業員向けに無償で提供していた食事や駐車代などを有料にするなど福利厚生面での相殺を検討しているとのこと。ある駐車場運営会社では、「生活賃金料」を顧客への駐車代に上乗せすることで対処しており、懸念されていた業務の自動化や従業員の解雇は行われていないそうです。
一方、別のホテルでは、夜間のフロント係や保守係など15人の従業員を解雇したり、人件費のかかる併設のレストランを閉鎖してカフェに転換、宿泊料金を10%値上げするなどで対応しているとのこと。但し、賃上げ以降、採用募集への応募が急激に増えており、今後は経験豊富な人材の雇用が期待されているそうです(Seattle Times)。
また、今年4月に11ドルに引き上げられたシアトルでは、17年の施行を待たずに15ドルに引き上げたレストランもあるようです。このレストランでは、代わりにメニュー価格を21%引き上げ、チップを不要にしています。そのため、これまでチップにより時給27ドルを稼いでいたウエイター・ウエイトレスやバーテンダーの収入が下がり、調理場スタッフやバスボーイ(食べ終えた食器を下げる係。移民が多い)などの収入が上がり、同じレストラン内での格差がなくなっているようです(FOX)。>
●商品やサービス価格の上昇の影響は?
Wikipediaを見ても雇用面へのマイナスがメインの批判点のようですが、以下のように商品やサービス価格の上昇もマイナスが心配されます。ただし、やはり今のところは大きな悪影響がないみたいですけどね。
<シアトル市内のファストフードチェーン、サブウェイのフランチャイズ店では、時給を11ドルに上げる代わりにメニュー価格を4%上げています。4ドルのサンドイッチを4%値上げすると、4ドル16セント。今のところ大きな影響はないようですが、時給15ドルが施行されれば更なる値上げが必要になるため (10%値上げで4ドル40セント、25%で5ドル)、フランチャイズオーナーは顧客の反応を心配しています(FOX)>
ということで、ここまで見てきた限り、「最低賃金の引き上げで悪いことが起きる」という説は根拠がしっかりしていません。悪くはない感じであるものの、成功かと言うとこれまた微妙なんですよ。記事では以下のように締めていたので、どうも導入の狙いとも違った感じに見えます。
<これまでのところ、賃上げ分を商品・サービス価格に上乗せして顧客に転嫁するケースが多く、ニューヨーク州知事が主張するような、高所得経営者の給与や大企業の利益を低賃金労働者に分配するという方向にはなかなか進まないかもしれませんが、労働者の生活賃金確保という点では多少なりとも効果は見られているようです。 >
●最低賃金上昇はインフレ政策?
一方、はてなブックマークでは、インフレ効果みたいな話もありました。これは「インフレ・物価上昇で日本が復活する!」的なリフレ派の主張と絡むものでしょう。Wikipediaでは価格上昇の話は多少あるものの、インフレ効果という観点の話は全くなかったですね。
“物価を上げたいならこの方法は悪くないので日本もそのうち追随するんじゃないかと思うんだけど、多分労働者が求めてるのはそういう事じゃないのよね。”(tnishimu 2015/07/29)
“デフレよりもインフレの方が良い,と考えるのであれば,真っ先に採るべき施策の一つだと思う”(vanbraam 2015/07/30)
“価格に転嫁されるってことはインフレってことで結局実質賃金変わってないのでは。そもそも元の値付が間違ってなければ、価格を上げると売上は落ちるはずなんだがその説明がないし。”(contents99 2015/07/29)
(
はてなブックマーク - 最低賃金1800円条例が次々可決される米国、施行された都市では何が起こっているのか(田中めぐみ) - 個人 - Yahoo!ニュースより)
●最低賃金上昇に代わる対案は?
あと、日本は何やってるの?という話も。
“一方、日本では「18円」上げるかどうかで政府は話し合っていた。 全然話にならんよな。そりゃあ日本の内需ぶちこわしで当たり前だわ。”(Barton 2015/07/29)
最低賃金って確か民主党が積極的だったものの、当時はネットでものすごい叩かれていた気がします。私は最低賃金上昇が特別悪い政策だと思っておらず、批判派でもないのですが、今回読んだWikipediaの代替案の方に惹かれました。
代替案
<いくらかの経済学者は最低賃金に代わる制度を提案している。大竹文雄は「賃金規制という強硬手段で失業という歪みをもたらすのではなく、税・社会保障を用いた所得再配分政策で貧困問題には対応するべきである」と指摘している[25]。
『法と立法と自由』を著したフリードリヒ・ハイエクのように労働市場への不介入の原則と法の支配による個人の生存権の保護を両立させるために『ベーシックインカム』を主唱する経済学者もいる[26]。
負の所得税[6]
給付付き税額控除[6][8]
ベーシックインカム[6]>
賃金規制というのはよく考えてみると、市場による国の介入であり、確かに妙です。こういう国による民間企業への介入は、本来、私の好むところではありませんでしたわ。先日安倍首相が指示していた携帯電話の料金値下げ検討なんかも、具体的にどういう手段をとるかが不明ですが、不穏さを感じます。こういった国の介入を思わせるものよりは、「所得再配分政策」の方が真っ当かもしれません。
ただ、今の政府は賃金のコントロール以上に、所得再分配を嫌っているように見えますので、こちらの方が望み薄じゃないかと…。
●政治家がそもそも最低賃金を守らない日本
2016/11/14追記:単独で書くほどではない話なので、ここに追記。知らないなら政治家として失格、知っててやってたら人間として失格で、どちらにせよアウトですわ…。
時給600円…事務員2人を最低賃金以下で雇用 毎日新聞2016年10月27日 13時33分(最終更新 10月27日 14時45分)<金沢市の清水邦彦市議(59)=自民、4期=が2015年度、自宅兼事務所で事務員2人を県内の最低賃金より100円以上少ない時給600円で雇用していたことが26日分かった。清水市議は取材に「最低賃金の認識がなかった。(不足分の)支払いが必要になれば対応したい」と話した。【中津川甫】>
【本文中でリンクした投稿】
■
国際競争力も貿易黒字も貿易赤字も無意味 クルーグマンの主張【関連投稿】
■
日本は先進国で一番貧困 所得格差と相対的貧困率・絶対的貧困率 ■
日本だけ!所得再分配後に所得格差是正どころか悪化 貧困率や平均対数偏差 ■
ピケティ論の嘘 所得格差ではなく総資産が問題、高橋洋一などの間違い ■
日本の所得ジニ係数を見ると日本の所得格差は拡大傾向 原因は? ■
格差是正が経済成長を阻害するという誤解 富の再分配はむしろ成長促進 ■
ビジネス・仕事・就活・経済についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|