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ナショナリズムといじめの親和性 内集団バイアスが生む「戦争」


 刺激的でおもしろい話をたくさん知る記事がありました。


●シェリフの泥棒洞窟実験

 ただ最初は、別ページからシェリフの泥棒洞窟実験というのを。「泥棒洞窟」とは妙な名前だと思うでしょうが、これは単なる洞窟の名前であって、「泥棒」は実験とは関係ありません。

 (PDF)集団差別と実験(亀ケ谷)とによると、以下のような実験です。

(1)少年たちを2つのグループに分けて、小屋で集団生活をさせた。

(2)すると、グループには、グループ名やリーダー、一定の規範を持つようになった。

 ここまでは望ましい話のように見えますが、この後に2つの集団を競わせると、トラブルが起きてしまいます。

(3)綱引きなどの競争的なスポーツ・対抗集団をして、対立関係を作った。

(4)集団内の士気や結束が高まったが、リーダーが乱暴者へ交代した他、旗燃やし、悪口、喧嘩などが起きた。


●両グループでいっしょに過ごさせると逆に敵対関係が強化

 実験はこれでおしまいではありません。ポイントは対立関係ができてしまった後、どう解消するか?というところです。

(5)両グループが映画・食事などでいっしょに過ごす機会を設けた。

 これで対立が解消されたか?と言うと、そうではありません。むしろ逆効果でした。

(6)ゴミ戦争など、逆に対立が激化した。

 ゴミ戦争というのは、具体的に言うと、「相手の集団が使うキッチンにゴミを捨てた」ということみたいですね。これは以下の日経ビジネスオンラインの記事によります。刺激的でおもしろい話をたくさん知ったというのは、この記事のことです。

(脳とナショナリズムと戦争の意外な関係:日経ビジネスオンライン 脳科学者・中野信子さんに聞く 森 永輔 2015年8月5日)


●「青シャツと黄シャツ」の実験と「内集団バイアス」

 日経ビジネスオンラインでは、シェリフの泥棒洞窟実験の前に、もう一つ別の実験を紹介していました。こちらは検索しても他に出てこないものです。
中野(引用者注:中野信子・東日本国際大学教授)  6~9歳の白人の子供を集め、青いシャツを着るグループと黄色いシャツを着るグループに無作為に分けます。そして、それぞれのメンバーがそれぞれのグループに属していることを毎日、意識させるように仕向けました。例えば、「青シャツグループのロバート君」と呼びかけるとか。青シャツグループと黄シャツグループに同じテストを受けさせ、グループごとの平均点を知らせるとか。

 こうしたことを1カ月にわたって続けた後、面白い反応が確認されたのです。「競争すると、どちらが勝つか」と聞くと、67%の子どもが「自分の集団が勝つ」と答えたのです。また、グループ替えをするなら、今度はどちらのグループに入りたいかと問うと、8割以上の子供が「今のグループがよい」と応じました。こうした身びいきが生じることを「内集団バイアス」と呼びます。

●本当は優劣の差がなくても、根拠なく自分の集団が優れていると思う

 「自分の集団が勝つ」に根拠があるわけではないでしょう。両グループとも自分らが勝つと言っている以上、必ずどちらかは外れます。

 内集団バイアスに関しては、Wikipediaの簡単な説明も。
認知バイアス - Wikipedia

認知バイアスは、主体が内集団または外集団を評価する方法によっても分類される。すなわち、ある集団を恣意的に定義して、その集団が多くの点で他の集団より多様で「良い」と評価する(内集団バイアス(英: Ingroup bias)、外集団同質性バイアス)。

●良いことは自分たちのおかげ、悪いことは外部が原因

 別サイトの説明で、ハッとしたのが以下の話です。こちらもよく見かける光景でしょう。
内集団バイアス | 社会心理学 科学事典

内集団バイアスは原因帰属にも現れ、内集団成員の望ましい行動は内的原因に帰属されやすく、望ましくない行動は外的原因に帰属されやすい。

●帰属意識が高まると、他の集団に対する敵対心まで高まってしまう

 集団への愛が生まれたということは、本来プラスのことです。ただ、シェリフの泥棒洞窟実験でわかるように、この自分たちへの愛が、別の集団への敵視に繋がりかねないというのが、極めて厄介です。

 私は以前「日本はすごい」系の話がおもしろいと思っていたのですが、途中ですっかり冷めました。理由はいろいろとありますけど、他の国を見下すこととセットにしている人が多いことに嫌気が差したためです。

 そういった姿は全然美しくはなく、むしろ恥ずかしい姿だと思います。すごいどころか、むしろ劣っているとすら言えるでしょう。ただ、人間の心理ってのは、そういう方向に向かいやすいところがあるんですね。
――最初の実験は集団への帰属意識を高める教育を行うと、「自分が属するグループの方がそうでないグループよりも優れている」と認識するようになることを示唆している。さらに、今、ご紹介いただいた2つめの実験から、2つの集団を競わせる環境に置くと、自分が属すのでない集団に対して敵対心を抱き、“紛争”まで生じてしまう。

 ナショナリズムはこのようにして生まれるのか、という印象を持ちました。

中野 そうなのです。

 「ナショナリズム」というと、為政者が国内での求心力を高めるために、外敵への敵対心を煽り、その結果として現れた志向や行動、と思われる方が多いかもしれません。しかし、ご指摘の通り、帰属意識を高める措置が、他の集団に対する敵対心を煽ることにつながる面もあります。

●内集団バイアスはいじめも生む

 困ったことに、内集団バイアスには他にもデメリットがあります。

 中川雅治,熊田裕通がいじめ自慢 橋本聖子,義家弘介も問題視せずがそうだったように、保守派の思考っていじめと親和性があると感じていました。これは過去の実験結果からも説明可能なようです。彼らが内部通報を嫌うのも同じく説明できます。

 ただ、過去に左翼で「総括」と称した壮絶なリンチ殺人事件が起きたように、集団内の結束が高まることによるいじめは、どこでも起き得ます。
 自分が属す集団内において「排除」の論理が働くようにもなります。

 集団を壊す最大の脅威は何か。それは外敵よりも内部の裏切者だからです。みなが少しずつ協力している集団があったとします。この集団にとっての脅威は、協力しない人が現れることです。協力しないにもかかわらず集団に属すことのメリットを享受する人、つまりフリーライドが認められると、周囲の人たちも次第に協力しなくなってしまうからです。

 このため、集団は協力しない人に制裁を加えようとします。「制裁」というと何か奇麗な表現ですが、要は「いじめ」です。

●内集団バイアスの巨大なメリット

 さらに困ったことなのですけど、内集団バイアスはこのような多くのデメリットがありながらも、ものすごく大きいメリットがあるということです。そもそも最初の話がそうだったように、結束力が強くなるというのはすごく魅力的なのです。
 ただ、人間の脳が持つ内集団バイアスにはメリットもあります。集団内の「協力」をプロモートすることです。(中略)人間は集団となって協力することでこの不完全さを補ってきました。集団となって協力する方が農業などのプロジェクトを進める際にも好都合です。したがって、集団となって協力する人々の方が生き残り、子孫を残してきたのです。

●集団同士が協力するには共通の敵が必要

 内集団バイアスは自然に生まれるものでもありますので、これを防ぐことは無理があります。では、外部の集団と協力するにはどうすればいいでしょう?

 泥棒洞窟実験のゴミ戦争でわかるように、これは極めて難しいのですが、できるときもあります。しかし、その一つは「共通の敵を作る」というものであり、これはこれでひどい話です。ナチスの民族差別政策なんかもそういうものですかね。
中野 ある集団とある集団が利益を共有して協力する状態を「メタn人協力」と言います。残念ながら、これを実現するのは容易ではありません。協力を促す危機や敵を設定する必要があるからです。それも「将来の危機」のような漠としたものではダメ。「目の前の差し迫った危機」が生じない限り、なかなか実現しません。

●「共通の危機」でやっと対立関係が解消

 「共通の敵」と比べると、「共通の危機」の方が憎しみを利用していなくて良いですね。実は最初の洞窟実験では、こちらで協力関係を築いていました。

 「(6)ゴミ戦争など、逆に対立が激化した」の後に、以下が続きます。

(7)両グループが協働しなければいけない状況を作った。

 日経ビジネスオンラインと合わせると、具体的には以下のような内容だったようです。

・一方の集団が上流で水を止めていないと、もう一方の集団が下流で水道の修理作業ができない状況。
・トラックを他の作業の邪魔になる場所に駐め故障させて、両グループで引っ張らないと動かせない状況。

 これでやっと「戦争」が終わりました。

(8)敵対感情が友好的に変化していった。

 しかし、実験ではない実社会でこのような状況を人為的に生み出すってのは、実際にはかなり難しいと思われます。


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