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宮沢賢治さんのベジタリアンに対する複雑な思い


 宮沢賢治の短編小説に、ベジタリアンについて書かれたビジテリアン大祭というものがあるようです。

 Wikipediaのビジテリアン大祭では、「菜食主義につきまとう誤解や偏見を宗教になぞらえた作品」と紹介れており、内容も詳しく書かれています。(ただし、現在では「菜食主義」の語はベジタリアニズムの訳としては、不適切とされています。ベジタリアニズムは菜食を中心とした食事を実践することであり、食べられる動物由来の食品はより細かく分類されたそれぞれの主義によって異なります)


 要約して話を紹介すると、主人公はビジテリアン大祭に日本の代表として参加しました。会場の入り口で菜食主義を中傷するビラが撒かれていた他、大会が始まっても批判派と擁護派の議論が起こってしまいます。

 しかし、批判者の論士は途中で考えを変え、擁護派になってしまいます。さらに議論の終わりになると、神学博士が悔い改めて反対者から擁護側にまわってしまいます。そして、批判者たちが次々に擁護側にまわったため、最後には反対者はだれもいなくなってしまいます。


 Wikipediaには議論の台詞もたくさん引用してありましたが、これは登場人物に都合の良い反対意見を言わせて、自分でやっつけているだけです。これだとまるで自分の嫌いなヤツを脳内で徹底的にやっつけて楽しんでいる子供のような気がして、違和感を覚えます。

 小説とは極論するとそんなものかもしれませんが、やり方があまりにも浅いです。これが宮沢賢治なのか?と思って他の方の感想を読んだら、やはり違ったようです。

 Wikipediaでは、重要な部分を隠していました。


 実はこの議論の応酬での批判者はお祭りの主催者に雇われた人であり、大会前の余興として大芝居をしていたのです。しかも、それで大盛り上がりの会場の中で、主人公は一人そのあっけなさにぼんやりしたと言い、ビジテリアン大祭の幻想はもうこわれたとも言っています。

 この作品は、ベジタリアンを盲目的に素晴らしいと讃え、勧めるような作品ではなかったのです。

 Wikipediaではネタばらしを避けるためか省略されていますが、ここを取り除いてしまうと作品の印象が大きく変わってしまいます。

 それだけでなく、この終わり部分の有無で小説の価値すら大きく違ってくると思われるので、このWikipediaの文を書かれた方はベジタリアンであり、思想的に受け入れがたいためにわざとミスリードを誘ったのでは?と疑いたくなります。


 では、この作品はどういった意図で書かれたのでしょう?

 終わりだけ読むとこの作品はベジタリアン批判とすら思えてしまいますが、宮沢賢治さん自身はベジタリアンでした。おそらくベジタリアンを愛しつつも、同胞の主張を手放しに褒め称えることも、多くの人に喧伝しようという気にもなれない複雑な思いがあったのではないかと思います。


 アマゾンのビジテリアン大祭 (角川文庫)のレビューを見ると、一つは「彼はビジタリアンを擁護した」とありますが、確かに擁護に重点が置かれているものの、これは先に書いた通り単純な擁護ではありません。

 そういう意味では、もう一つのレビューの方が個人的には納得できます。こちらは「菜食主義者の代表とその反対派(異教徒と呼ばれています)を大会で議論させ、それぞれの意見をユーモアたっぷりに、皮肉を込めて書かれています」として、どちらに対しても「皮肉」を込めていると見ています。

 そして、「善とは何か、神の摂理とは何か」などを「菜食主義を超えて議論」し、「反対派も賛成派も堂々と意見を述べている陰で、心中は冷や汗をかいていると表現されたり、ラストにはどんでん返しもあり、賢治自身がどちらの立場を支持しているということは明確ではありません」としています。

 ただ「双方をユーモラスに描くことで、極端な両者の立場をはるかに超えたところに立って作品を楽しんで書いている賢治が想像できます」というところは、見方が分かれるかもしれません。


 たとえば、2008-02-20 ベジタリアン宮沢賢治 恵文社一乗寺店|店長日記では、最後の部分の解釈を「賢治自身答えの出ない問いかけにある種の不毛さを感じていた」と捉えています。

 また、「『よだかの星』や『注文の多い料理店』には食物連鎖の一部として生きないことに対する引け目と不条理の念がありありと読み取れます」と指摘し、「維持装置の中にいながら、文明社会の仕組み自体を批判する」という「矛盾を受け入れられず大いに悩んだ」のではないかと見ています。


 この他にも宮沢賢治さんの複雑な思いを指摘した感想はいくつかありますが、まず「宮沢賢治の宇宙」3周年記念 「ディベタリアン大祭」 ディベート1 「ビジテリアン大祭」

 ここでは参加者の一人が、作中に出てきた中傷ビラのうち、町のガスに用いられている「魚油」や肥料に使われている「魚粕」の恩恵を皆さん被っているではないですかというビラについては、後の議論で反論されていないことを指摘し、「『同情派』(注意:ベジタリアンの作中の分類、動物愛護派)だったと思われる賢治にとっては、これは本質的な問いだったのだ」と推測しています。

 これに対してベジタリアンの意見がもっともらしいとする人(これはどちらかに属してのディベートです)は、そんな肥料は高級であまり使われなかったから議論にもならなかったのだと言っています。

 しかし、宮沢賢治さんはこのビラについて、主人公に「理論上この反対者の主張が勝っているように思われた」と言わせているのです。これと先程あった文明社会の中にいながら文明を非難する矛盾と考えあわせると、前者の解釈が近いような気がします。


 それから、「ふくろうの業、人間の業」 アブストラクトイチガヤでも、丁々発止の議論が「やらせ」だったとわかると主人公は幻滅して報告を途中で打ち切っており、賢治さん自身が菜食主義に対して結局どのように考えていたのかこの作品だけではよく分からないが、これ(ベジタリアニズムの実践の意か?)で人間の「業」が消える訳ではない、という思いがあったのではないかと思えると書かれています。


 作品の解釈というのは必ず一つの正解があるというものではなく、人それぞれによって違って構わないですし、作者の意図と異なったものだとしてもそれは許されると思います。

 しかし、少なくとも宮沢賢治さんはこの作品でベジタリアニズムが正しいのだと、強く主張したかったわけではないのでは?ということだけは書いておきたいです。(そう書いてしまうと、ある種作品への冒涜とも言える気がして申し訳ないです)

 あらすじや感想を読んで私が感じたのは、作者自身の思想を述べるとともに、ベジタリアニズムへの偏見を是正し、なおかつベジタリアンの思い上がりに対してすら戒めた作品ではないかということです。

 主人公の最後の失望は、それすなわち宮沢賢治さん自身の失望のような気がするのです。


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