健康経営を進めてきたというSCSKの中井戸信英会長・健康経営推進最高責任者へのインタビュー記事に関する話についてが前半。同じテーマである「長時間労働対策 残業しなくていい会社作りのためのルールとは?」を加えて一つにしました。
●SCSKももともとは普通に労働環境の良くないIT企業だった
2015/9/29:データで見ると本当は他にもっと悪いところがいくらでもあるのですが、IT企業というと過酷な労働環境というイメージが浸透しています。住友商事グループでソフトウェア、システムの開発・販売を行いIT企業に分類されるSCSKの中井戸信英会長も以下のように言っていました。
「あなた方もご存じのように、IT企業といえばブラック企業の代表選手。なのに、今のSCSKの残業時間は平均で月18時間や。1日当たり30分強ってことは、ほとんど残業してない感覚だよ。たぶんほかの人たちは、信じられない、うそをついているのか、売名行為か、マジックかと思っているのと違う?」
実際、仲井戸会長が経営者として来た当初は、「従業員は喫茶室のようなところで寝泊まり」「昼間の休憩時間と言ったら机の上で寝ているやつもいた」といったこともあったそうです。まあ、昼寝は本来悪いことじゃなくて、工事現場の人なんかも結構昼寝しています。たぶんこの場合は夜眠れなくて、仕方なしに昼寝ているという話なのでしょう。
その他の設備も、「トイレが少なくて、僕も並んだ」「食堂もなかったから、みんな11時半からエレベーターに並びだしてエレベーターも動かない。診療所はない。薬局もない」とのこと。後半はないところが普通な気もしますが、まあ、特に良い環境ではなかったという話です。
(
残業しない人に残業代を払う会社:日経ビジネスオンライン 広岡 延隆 2015年6月16日より)
●残業削減が失敗する理由は努力して残業を減らした社員ほど損をするから
インタビューアーは「残業削減を掲げる企業は多いですが、なかなかうまくいかないケースが多い」ということを言っています。これは本当そうですね。昔から言っているのに変わらないというのは、すなわちどこも実現できていないということです。
上が言っても部下たちは聞かないですし、上司が言っただけで途端に残業が亡くなる…というものではありません。上の方も本気度が足りないんですよ。部下に残業するように言っただけで仕事をした気になっていますが、残業削減できるようにお膳立てするのが上司の仕事です。また、これとセットでお金の問題もあります。
「残業は悪である。君らやめたまえ。もっと早く帰れ。経営者がそんなこと言っても、(従業員の)頭の整理としては、『そう言われても、それでは仕事が回らない』ということになる。もう1つは、よしんば残業時間が減ったとしても『そんなことしたら俺、収入が減るやないか』『ローンにも影響するで』と思う」(中井戸信英会長)
お金のために無駄な残業するというのはもちろん倫理的には良くないのですけど、上が口で言うだけでは変えられません。しくみを変えて残業をさせないようにする方が、より頭の良い方法です。そもそも効率的に働くように努力すればするほど、金銭的に損をするというしくみが、極めて良くありません。現在のシステムは効率を悪くすることにインセンティブを与えていると言えます。
●会社が残業代を支払いたくないから、残業を減らせと言っているだけ
もう一つ、「残業削減だけを言われると、会社が業績を上げるために社員に負担を強いていると感じてしまいそうですね」とインタビューアーが言っていたように、会社が都合の良いことを言っているだけでは?という疑心暗鬼があります。会社が残業代を支払いたくないから、残業を減らせと言っているだけというものですね。
政府の朝型勤務やホワイトカラーエグゼンプション(2018/02/20追記:その後はほぼ同様で呼び方が「働き方改革の裁量労働制拡大」に変化)が批判を浴びるのも、会社や政府の魂胆を見透かされているためでしょう。実際、会社も政府も社員のためではなく、自分たちのため…というのが本音だと思われます。
「残業を減らせば給料も抑えられて、経費も販管費も減る。だから、(引用者注:会社は)残業を減らせと言っているんだろうと。これが、まず人間、頭に浮かぶことなんですよ」(中井戸信英会長)
●健康経営のSCSKの残業の減らし方 残業しない人にも残業代を支給
では、SCSKはどうしたか?と言うと、「だからウチは、50時間の残業を20時間に短縮できたら、30時間の残業代は全部翌年のボーナスで戻すと言った。だから、収入、経済上の心配は一切するなと」としたそうです。つまり、50時間残業しても、20時間残業しても、一切残業しなくても、全員同じ金額を受け取れるというわけです。(正確には給料を受け取る時期にギャップが生じるのですが)
これでまず一つ会社が残業代をケチって残業を減らそうとしているわけではない、会社が社員の健康のために本気なんだと信じてもらえます。この時点では会社側が得するわけではなく、むしろ損する形ですからね。
そして、もう一つ、これまでのシステムと逆のインセンティブを与えることができるというのも重要。以前は残業をすればするほど得でしたが、今はしない方が得という大きな違いが生じます。勤務時間が短くて同じお金を貰えるのであれば、働く時間が短い方が楽なためです。
●具体的な残業の減らし方は現場が勝手に考えた インセンティブの効果
この記事では、残業時間を減らす具体的な対策の話は特になし。冒頭の逸話でわかるように、中井戸信英会長は別のところから来た人で、細かいところまでわからないということもあるみたいですね。会社の本気が伝わったら、後は勝手に…という感じみたいです。
「そうしたら部長も、課長も、リーダーも、チームも自分で考えるよ。『今までのようなやり方でやっていたら、あるチーム員が失敗したら、全員がみんなまた元へと戻ってやり直しやと。それよりこうやった方がいい』と。こういうことを自ら考えさせる。経営者はそんな(現場の)ことまでは分からないんだから。いい方に回転しだしたら、みんな自己増殖していく。
そうしたら、案外やれるやないかと。早く帰って寝られるから体も楽や。お子さんが起きている顔を見て相手ができる。なかなかいいじゃないか、ということにみんなが気付き始めた」
●残業が減ってメンタル面が良化しただけでなく、増収、増益、増配
「(残業が減ったら)いろんな統計が良くなってきて、メンタルの問題も減ってきた」と言います。これは想定通りです。
しかし、会社側は残業代を払い続けるのですから、その部分では得していません。今は「裁量労働制を拡大し、34時間分の残業代を支払うことにしました」ということですので、多少楽になっていますが、当初はメリットが見えませんでした。
ただ、別のところで会社にもメリットがありました。これは中井戸信英会長の想定以上だったようで、「経営者としても驚くほどの成果や」と言っていましたが、「ありがたいことに、みんなが頑張って増収、増益、増配ができた」とのこと。これは本来会社が目指すべきものですね。
2018/02/20追記:なお、実を言うと、裁量労働制は悪用されることが多い制度でもあり、注意が必要です。これは、
裁量労働制はブラック企業の目印 政府は労働時間捏造と隠蔽で推進などで書いています。
●社員よりも上の問題…経営者側に残業削減の気持ちが足りない
中井戸信英会長は「やっぱり従業員が自らの勤務や業務、時間管理のあり方、すなわち効率的な業務のこなし方をしようという気持ちにさせない限り、本質的に残業なんて減らない。これは、もうあまねくどこの産業もそうだと僕は思う」とももおっしゃっていました。
これは従業員が悪いって話じゃないですよ。前述のように残業する人が有利な制度だったり、会社側が一方的に得するようなやり方をしていて、従業員をその気にさせるのは無理があります。
従業員を本気にさせるには、経営者側がまず本気にならなくちゃなりません。
●ほとんどの社員が17時に退社する化粧品会社ランクアップ
2015/1/26:
長時間労働は本当に必要? ほとんどの社員が17時に帰る年商59億円の化粧品会社 - 個人 - Yahoo!ニュース(小川たまか | ライター/プレスラボ取締役 2014年11月5日 12時56分)は、「残業しなくていい会社作りのためのルールとは?」という話です。
化粧品の開発と販売を行う「ランクアップ」は、2005年にスタートした同社は創業以来9年連続で業績が右肩上がり。数字を言われても大きいんだか小さいんだかよくわかりませんが、現在の年商は59億円というデータもありました。ただ、この年商よりも以下のような数字の方が今回は興味ある話です。
・従業員数41人(アルバイトも含む)のうち、女性は9割以上。
・約半数にあたる19人がワーキングマザー。
・ほとんどの社員が17時に退社。遅くても18時までには退社するというルール。
・産休育休後は同じポジションに復職し、給与も下がることはない。
・離職者は過去3年間でゼロ。
( より)
●長時間労働対策 残業しなくていい会社作りのためのルールとは?
男性と比べて子どものいる女性は、「飲みニケーション」ができないと言われています。これは女性に育児や家事の負担が偏っているためですので、そもそも平等ではないわけですけど、現状ではとにかくそうなっています。
ランクアップでは、その「飲み会でのコミュニケーション」の代わりに、ハロウィンパーティーを行って、コミュニケーションを取っているとのこと。ただ、私はドライな関係でいいと思っているので、正直こういう話には全然興味ありません。それより「残業しなくていい会社作りのためのルール」が興味あるところ。そのルールについては以下の通りでした。
(1)定期的な業務の棚卸と業務の選別
不要な会議、打ち合わせの削減。社内資料の作成には時間をかけない。さらに、「自分より適した人に任せる業務」「取引先に任せる業務」まで自分が担当していないかを見極める。
(2)ルーティンワークをなくす
単純なデータ入力や資料作成は、基本的にアウトソーシング。空いた時間で社員は「考える仕事」や、スキルを高めるための講義を受ける。
(3)わかりやすく、差別化された商品の開発
商品がわかりやすく差別化されていれば、お客さまに特徴を伝えやすく、営業や販促に多大な時間をかける必要がない。長時間労働をなくすためには利益を得続ける体制を整えることも不可欠だが、差別化された製品を開発することで、それが叶っている。
●簡単な仕事は禁止?社員は社員じゃないとできないことだけをやる
「誰も発言しない会議に時間をかけたり、社内資料なのに作りこみ過ぎていたり、ホウ・レン・ソウが多すぎたり、必要ではない業務に時間が割かれていることはありませんか?」と岩崎裕美子社長は言っていました。
ただ、無駄な会議の多さみたいな話はありきたりであり、肩透かしを食らった感じかもしれません。よく言われている話です。しかし、よく言われている話というのは、わかっているにも関わらずできない会社が多いということです。結局、口だけでやれていないんですね。
徹底しているなと感じるのは、「(2)ルーティンワークをなくす」です。ことごとくアウトソーシングで済ませてしまおう…というところまでやっている企業は稀でしょう。「(1)定期的な業務の棚卸と業務の選別」も似たような感じで、やはり仕事を削れという方向性です。岩崎社長が最も重視しているのがこの(1)でした。
●結局残業削減はムダ削減…効率的な仕事のやり方と同じ考え方
こういった無駄な仕事を削るという話は、過去に効率的な仕事のやり方というのでも出てきています。
仕事が早い人になるには? 効率よく仕事をこなす7つのコツでは、「3.重要じゃないところは手を抜く」という言い方をしていました。
「手を抜く」と言うと、悪い印象ですが、それくらい強烈な言い方をして、発送の転換をはかった方が良いのでしょう。私も苦手です。過去の仕事を振り返ると、「人に任せる」というところも下手で、ついつい自分で何でもかんでもやってなおかつ作り込んでしまうということがありました。
あと、こういう無駄を削ぎ落とすというのは、日本人は基本的に苦手かな?と思います。上記は仕事に関しての話ですが、製品作りにおいても多機能化したがる傾向があり、重要な機能を見極めて絞り込むのがアップルやサムスンに比べて下手だと言われています。以上のような理由から、当たり前のことを言っているようでも、非常に大切な話だと感じました。
【本文中でリンクした投稿】
■
裁量労働制はブラック企業の目印 政府は労働時間捏造と隠蔽で推進 ■
仕事が早い人になるには? 効率よく仕事をこなす7つのコツ【関連投稿】
■
これが日本の社畜だ!サービス残業肯定派34%、ブラック企業の源泉に ■
休むのも大事な仕事 長時間労働で労働生産性低下や職務規定違反増加 ■
ブラック企業に利用される固定残業代制度 本来会社に不利な支払い方 ■
平日で好きな曜日・嫌いな曜日ランキング やはり月曜日が憂鬱? ■
残業時間の長い業界ランキング 長時間労働で過労死ライン突破も ■
ビジネス・仕事・就活・経済についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|