2015/10/18:
●「精神論はいっさい言いません」という精神論くさい経営コンサルタント
●極端に追い込まれたり、プレッシャーを感じるとフロー状態に
●魅力的に見える「ゾーンに入る」「フロー状態になる」方法はあるのか?
●エンドルフィン・ドーパミンって本当にいいこと?実はストレスのせい…
●チクセントミハイが挙げたフローの構成要素を見るとなんか違う…?
●「プレッシャーの元で、脳はより良く働く」は嘘で迷信という指摘も
●プレッシャーでむしろ思考能力が鈍るおそれを研究者は指摘している
●人間はストレスに脆弱…基本的にはストレスは普通に良くないもの
2021/04/10:
●不快感が脳に悪影響?海馬がうまく働かず記憶力が低下する
●不快状態で起きる3つの反応!うつ病にも関わっている扁桃体】
●朗報!ストレスを与えて記憶の保持が強化されるという実験もある
2021/05/22:
●長時間労働に最適化して疲れ知らずになり突然死…過労死の恐ろしさ 【NEW】
●「精神論はいっさい言いません」という精神論くさい経営コンサルタント
2015/10/18:横山信弘さんという経営コンサルタントの方がいらっしゃいます。この方の記事を読んだことがあるのですが、具体的にここがダメ!とは言えないものの、何か苦手な感じがしました。精神論系の仕事理論を主張するタイプだと感じたのかもしれません。
ところが、<
超集中状態「ゾーン」に入る方法(横山信弘) - 個人 - Yahoo!ニュース(横山信弘 | 経営コンサルタント 2014年6月29日 7時21分)>という記事では、むしろ「精神論はいっさい言いません」とおっしゃっていました。
<私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。「絶対に結果を出せ!」「最後まで諦めるな!」「念ずれば叶う!」といった精神論はいっさい言いません>
●極端に追い込まれたり、プレッシャーを感じるとフロー状態に
この記事そのものは、こちらはゾーンに入る、あるいはフロー状態になるといった話について書かれたもの。横山さんによると、極端に追い込まれたり、プレッシャーを感じるとき、人間はフロー状態になるとのこと。心理学者のチクセントミハイによって名付けられたので、これを俗に「ゾーンに入る」とも呼ぶそうです。
・きわめて高い集中力を発揮している「研ぎ澄まされている感覚」を味わう
・時間が止まったかのような「時間感覚」の歪みを覚える
・陶酔状態に陥り、恍惚感、多幸感を抱く
・痛みや苦しみ、ストレスから解放され、感情のコントロールができる
・きわめて短い時間の中で適切な判断ができる
●魅力的に見える「ゾーンに入る」「フロー状態になる」方法はあるのか?
そして、なぜこのような状態になるのか?と言うと、以下のような理由だとされていました。
・神経伝達物質「エンドルフィン」が分泌し、ストレスの鎮痛作用が働く
・脳の「回転数」が極限までアップすることで、「心理的時間」が異常に長くなる
プレッシャーや追い込まれることで仕事に集中するとフロー状態になるのですから、これはそのまんまフロー状態になる方法だと言えます。ここだけ見ると、超絶精神論くさいのですが、要するに追い込んでプレッシャーを与えろという話みたいでした。
「あと1時間で5枚の見積り資料を作成しなければならない」
「あと8分で駅に着かないと、電車に間に合わない」
「午前中に6社に電話をしなければならない」
「あと2日で24件、新規のお客様をまわらないといけない」
●エンドルフィン・ドーパミンって本当にいいこと?実はストレスのせい…
うーん、本当なんですかね? とりあえず、気になってしまったのはエンドルフィンの記述でした。プレッシャーを与えることでエンドルフィンが出るとしても、それはストレスを軽減する、要するにストレスを誤魔化しているのであって、望ましい状態だとは限らない可能性があります。
ちなみにエンドルフィンはマラソンや体を傷つける行為でも出ると言われています。これらの場合は今回のケースといっしょにできないのですけど、とりあえず、良くない状態を誤魔化すためのエンドルフィンを放出している…という例として、以下のものを掲載しておきます。
エンドルフィン - Wikipedia
エンドルフィン(endorphin)は、脳内で機能する神経伝達物質のひとつである。内在性オピオイドであり、モルヒネ同様の作用を示す。特に、脳内の「報酬系」に多く分布する。内在性鎮痛系にかかわり、また多幸感をもたらすと考えられている。そのため脳内麻薬と呼ばれることもある。(中略)
作用
ストレス時に視床下部からCRFが分泌されると、下垂体前葉からPOMCから切り出されてACTHとβエンドルフィンが1:1の割合で放出される。
β-エンドルフィンは、μ受容体に作用し、モルヒネ様作用を発揮する。ストレスなどの侵害刺激により産生されて鎮痛、鎮静に働く(中略)βエンドルフィンが中脳腹側被蓋野のμ受容体に作動し、GABAニューロンを抑制することにより、中脳腹側被蓋野から大脳皮質に投射するドーパミン神経系(別名A10神経系)のドーパミン遊離を促進させ、多幸感をもたらす。
●チクセントミハイが挙げたフローの構成要素を見るとなんか違う…?
フロー状態の方も見てみました。ところが、Wikipediaに限って言えば、追い込め!という話もエンドルフィンの話も見つからなかったんですよね。追い込まれた状況というのは、「フローの構成要素」である「7.状況や活動を自分で制御している感覚」ともむしろ相性が悪そうに思えます。
フロー (心理学) - Wikipedia 最終更新 2014年6月6日 (金) 11:05
フロー (英: Flow) とは、人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態をいう。ZONE、ピークエクスペリエンスとも呼ばれる。心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱され、その概念は、あらゆる分野に渡って広く論及されている。
フローの構成要素
チクセントミハイが見たところによれば、明確に列挙することができるフロー体験の構成要素が存在する。彼は8つ挙げている。
1.明確な目的(予想と法則が認識できる)
2.専念と集中、注意力の限定された分野への高度な集中。(活動に従事する人が、それに深く集中し探求する機会を持つ)
3.自己に対する意識の感覚の低下、活動と意識の融合。
4.時間感覚のゆがみ - 時間への我々の主体的な経験の変更
5.直接的で即座な反応(活動の過程における成功と失敗が明確で、行動が必要に応じて調節される)
6.能力の水準と難易度とのバランス(活動が易しすぎず、難しすぎない)
7.状況や活動を自分で制御している感覚。
8.活動に本質的な価値がある、だから活動が苦にならない。
フローを経験するためにこれら要素のすべてが必要というわけではない。
●「プレッシャーの元で、脳はより良く働く」は嘘で迷信という指摘も
私がこの話を警戒してしまったのは、以前、
脳トレーニングの効果はない? 脳トレに関するネイチャーの論文を書いていたため。こちらも出典がしっかりしておらず信頼性が高いわけじゃないのですが、「プレッシャーの元で、脳はより良く働く」は迷信だとされていたんですよ。
とりあえず、このときでは、普通にストレスは脳の働きを悪くする方に働くとされていました。それだけでなく、長期的にも仕事のパフォーマンスを低下させる可能性にも言及がありました。
日常的にストレスを感じ続けていると、危機的状況下で出るホルモンが出続けることで脳細胞を殺してしまうことになりかねないという話です。
●プレッシャーでむしろ思考能力が鈍るおそれを研究者は指摘している
エンドルフィンという話を抜きにして、ストレスと脳に関する話なら結構簡単に見つかります。例えば、
ストレスと脳|生物学科|東邦大学理学部(神経科学研究室 増尾好則)は、ちゃんと研究者のものですので、他より信頼性が高い記述です。
<プレッシャーを感じると思考能力が鈍ったり、思考が停止してしまったりする場合もあります。この状態は、「緊張する」、「あがる」、「頭が真っ白になる」、「凍りつく」、「パニックになる」、最近では「テンパる」などと表現され、誰しも経験することです。これまでの生物学的知識では、ストレスを受けると脳の底部にある進化的に古い視床下部が反応して、下垂体と副腎からのホルモン分泌が促進され、心拍数の増加、血圧の上昇、食欲の低下などが生じると理解されています。これらの変化は、脳に生じる原始的な反応であるといえます>
●人間はストレスに脆弱…基本的にはストレスは普通に良くないもの
増尾好則さんによると、最近、ストレスは霊長類で最も発達している大脳皮質前頭前野にも影響を及ぼし、高度な精神機能を奪ってしまうことが分かってきたとのこと。ストレスは、感情や衝動を抑制している前頭前野の支配力を弱めるため、視床下部などの進化的に古い脳領域の支配が強まった状態になります。
この進化的に古い脳領域の支配が強まった状態では、不安を感じたり、普段は抑え込んでいる衝動(欲望にまかせた暴飲暴食や薬物乱用、お金の浪費など)に負けたりするとのことです。さらに、説明は以下のように続き、ドーパミンの悪影響の話もここで登場してきます。
<この神経の高次中枢は、三角形をした錐体細胞という神経細胞同士が接続した大規模なネットワークを介して働きます。(中略)このネットワーク内の回路は、日々遭遇する不安や心配に対して敏感に反応し、非常に脆弱であることが分かってきました。ストレスがかかると、脳全体に突起を伸ばしている神経から
ノルアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質が放出されます(図2)。
これらの濃度が前頭前野で高まると、神経細胞間の活動が弱まり、やがて止まってしまいます。ネットワークの活動が弱まると、行動を調節する能力も低下します。視床下部から下垂体に指令が届き、副腎がストレスホルモンであるコルチゾールを血液中に放出して、これが脳に届くと事態はさらに悪化します。こうして、自制心はバランスを崩していくのです>
以上です。これらだけでは、プレッシャーや追い込まれることで仕事に集中するという説を、完全に否定するには不十分でしょう。腑に落ちなかったので、ちょっと調べてみたという程度です。なので、横山信弘さんの説を肯定できる話の方も含めて、もっと良い話があればまた紹介しようと思います。
●不快感が脳に悪影響?海馬がうまく働かず記憶力が低下する
2021/04/10:別のところで似た話を書いていたのに、こちらでは紹介していなかったので追記。子どもの発達心理学が専門の内田伸子先生に話を聞いている、
叱られながらやる勉強はなぜ身につかないのか(「幸せ力」の育て方 Vol.6) Woman.excite / 2015年12月2日 4時15分(佐々木月子)という記事にあった話です。
この記事では、脳の中にある「海馬」というものよって説明されていました。「海馬は、体験の記憶を記憶貯蔵庫に転送する宅配便屋」であり、海馬が働くと、たくさんのものが記憶されるようになります。一方、海馬のとなりにある扁桃体(へんとうたい)は、好き嫌いや快不快感情を判断するところ。この扁桃体が快適な状態だと、海馬がよく働くので、そのときの記憶はどんどん記憶貯蔵庫に入ってくるとされていました。
「楽しさや心地よさを感じているときは、お子さんが自分の世界についての認識をつくり上げたり、知識を覚えたりしやすい状態です。反対に、叱られながら勉強をしていると、扁桃体が不快感でいっぱいになってしまいます。すると、海馬は働きが鈍くなり、記憶力が低下します」
●不快状態で起きる3つの反応!うつ病にも関わっている扁桃体
他にも…と検索すると、うつ病に関する話で、扁桃体の悪影響が出てきていました。やはり脳全体や海馬の働きを悪くすると説明されています。この
うつ病というページによると、"もし「今は不快な状態である」と扁桃体が判断すると、扁桃体が興奮する=扁桃体に多くの血が流れ込"み、以下の3つの反応が起きるとのことでした。
1.扁桃体の刺激は副腎という臓器に伝わり、副腎がコルチゾールというストレスホルモンを出す
2.「危機に対処しなければならない」ということで、副腎から意欲ホルモンであるノルアドレナリンが放出される
3.「今は落ち着いている場合ではない」ということで、癒しホルモンであるセロトニンの放出を抑制させてしまう
現代の生活では上記のような扁桃体が長時間出続けるようなことが多く、上記の3つの反応にそれぞれ対応し、以下のような3つの悪影響が出るとの説明でした。
1.コルチゾール過剰の悪影響は、なんと言っても脳の血流を悪くして脳細胞に栄養が行き渡らなくさせてしまうことだ。その結果
脳全体の動きが鈍くなるし、ある場所(海馬)では脳細胞が死に始める。 あなたの頭のぼーっとした感じは、直接的にはこのコルチゾール過剰が原因だ。
2.ノルアドレナリンの過剰は、やがてノルアドレナリンの不足へとつながる。というのは、ノルアドレナリンの生産速度には限界があり、備蓄分を放出しきってしまえば枯渇するからだ。結果として意欲がなくなり無気力になる。
3.セロトニンの生成が抑制されるということは、安心感や満足感が脳細胞の間に伝わることが減るということである。結果として不安感や焦りが抑えられなくなる。
このサイトさんはうつ病を説明しているところですので、上記はもちろんうつ病の話です。"うつ病の正体は、扁桃体が興奮した結果のこれら3つの反応"とのことでした。今回の話とはだいぶ違うわけですが、ストレスを与え続けることが脳を鈍くするということそのものは、確かめられた感じです。
●朗報!ストレスを与えて記憶の保持が強化されるという実験もある
ただ、ややこしいのが、別の投稿を書いたときに読んだ
扁桃体 - Wikipediaで、ストレスで記憶の強化がされるという話が出てきていたこと。これは上記までとは逆方向で、混乱してしまう情報です。思い出さない方がわかりやすかったのですが、思い出してしまいました。
<扁桃体は記憶固定 (memory consolidation) の調節にも関わっている。学習される出来事の後に、その出来事の長期記憶が即座に形成されるわけではない。むしろその出来事に関する情報は、記憶固定と呼ばれる処理によって長期的な貯蔵庫にゆっくりと同化され、半永久的な状態へと変化し、生涯に渡って保たれる。
記憶固定の際、その記憶には調節 (modulation) が起きる。特に学習される出来事の後の情動の喚起は、その出来事の記憶を強める影響を起こす。学習される出来事の後の情動の喚起が強いほど、その人の持つ出来事の記憶の保持が強化される。マウスが何かを学習した後すぐにストレスホルモンを導入し2日後にテストすると、記憶の保持が強化されているという実験が示されている>
ということで、ストレスが記憶の保持を強化するというプラスの側面についても情報が見つかりました。ただし、慢性的なストレスがうつ病に繋がることは、上記とは無関係で事実のようです。つまり、ストレスを与えるやり方は記憶の保持を強化する一方で、うつ病リスクを高めるということでしょうね。
初めて良い効果がある可能性が出てきましたが、悪い情報の方が多数ありますので、効果があったとしてもリスクの高そうな方法です。あと、これはストレスで記憶の保持を強化という話ですから、横山信弘さんが主張していた「ゾーンに入る」「フロー状態になる」とは結局全然違う…と言ってしまっても、差し支えないかもしれません。
●長時間労働に最適化して疲れ知らずになり突然死…過労死の恐ろしさ
2021/05/22:
過労死の本当の恐ろしさ 自覚症状がなく疲労を感じないまま死亡を読み直していて、こちらのページのことを思い出しました。このとき紹介した研究によると、過重労働を続けることで、睡眠時間が少なくても働き続ける状態が可能になることがわかっています。ただし、これは長時間労働に対応した体ができあがるわけではありません。
では、なぜ眠らずに働けるのか?と言うと、過労で最初にぶっ壊れるのは体ではなく、体の危険信号を送る安全装置の方であるため。最初は「危険だから休んで!」という信号が出てクタクタになるのですが、無視し続けるうちに安全装置がぶっ壊れて危険信号すら出なくなるとのこと。この状態を「猛烈に働けるゾーンに入った!」と誤解することがありそうです。
安全装置が壊れる理由ですが、安全装置自体が過労で疲れるためと当時説明されていました。ただ、自然の世界では不眠不休で動かなければならないときもあり、種の生き残りに有利に働いた可能性もありそう。もともと書いていたマラソンや体を傷つける行為でエンドルフィンを放出…ってのもそういうものだと考えられそうです。
ただし、これが良い状態ではない可能性が高いということは改めて強調。これらは、自然界で一時的に生き残るためには有効であったと考えられるものの、現在の長時間労働・過労問題のように慢性的に行うものではありません。過労死問題の話でしたので、当然最悪の場合死にます。これらは飽くまで特別なときだけの話で、常に「今回は特別」「大至急の仕事」を言い続けているような長時間労働の肯定には到底使えません。
【本文中でリンクした投稿】
■
脳トレーニングの効果はない? 脳トレに関するネイチャーの論文 ■
過労死の本当の恐ろしさ 自覚症状がなく疲労を感じないまま死亡【関連投稿】
■
マルチタスクは愚かな仕事の仕方だと、科学的に証明されている ■
仕事を効率よくやるコツ8箇条 納期の確認、即相談、説明責任など ■
成功確率は低くて良い 失敗しない人はチャレンジしない人だから ■
仕事が早い人の特徴とは? 生産性の高い人が人脈でわかる不思議 ■
落ち込んだときの気分転換・ストレス解消の方法 やる気を出すときにも ■
ビジネス・仕事・就活・経済についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|