<ドル箱がオワコンに…会社には寿命はないが、事業には寿命がある>などの話をまとめ。<事業の寿命が近づいたらどうするの?→主力事業の入れ替えが必要>という主張の他、これを否定する<企業寿命を伸ばすには時代の環境変化に対応し進化…なんて嘘!>という話もやっています。
2023/05/11まとめ:
●エアアジアが日本撤退…単なる事業縮小ではない真の狙いとは? 【NEW】
●ドル箱がオワコンに…会社には寿命はないが、事業には寿命がある
2011/1/8:は
“転地”で失敗しないための3つの法則(2010年9月28日 三品 和広 日経ビジネスオンライン)に、「会社には寿命はないが、事業には寿命がある」という話がありました。最初私も何それ?と思ったもので、何だか気になりますよね。これは、以下のような流れを現した言葉のようです。
(1)ある事業が儲かる。
(2)参入者が出て、競争相手(プレーヤー)が増加。
(3)事業も市場も消滅しないが、際限のない価格競争で一向に儲からなくなる。
厳密には「(3)事業も市場も消滅しないが、際限のない価格競争で一向に儲からなくなる」の状態でも事業はまだ生きています。ただ、おそらく儲けどころは脱してしまったという意味でしょう。一応完全には死んでいないものの、ゾンビのような状態になっているイメージだと思われます。
●事業の寿命が近づいたらどうするの?→主力事業の入れ替えが必要
上記の流れはある程度理解できる話で、事業にある程度の寿命があるということはわかりました。ただ、じゃあ、事業ンの寿命が近づいたときにはどうするの?という対策についても聞きたいところです。
著者の三品和広さんによると、これには「主力事業の入れ替え」が必要とのこと。この主力事業の入れ替えとは、事業立地(著者の造語)を更新して、転地(新しい事業立地を開拓)するということだそうです。この際にしてはいけないことも著者はいくつか挙げています。それは以下のとおりです。
【してはいけないこと】
1.既に市場が確立されている事業に後発で参入してはいけない。
2.メディアが報じる有望なビジネスやトレンドに惑わされてはいけない
3.本業との関連性は気にしてはいけない。
●マスコミが取り上げる有望事業に手を出してはいけない理由とは?
一つ一つ見ていきましょう。「1.既に市場が確立されている事業に後発で参入してはいけない」というのは、先の(1)~(3)の流れと関係します。すでにできあがっている市場の場合は、(2)の競争相手が多い状態か、(3)の儲からない状態になっています。なので、そこに後発で参入しても、当然儲かるわけがありません。
また、メディアが報じる有望なビジネスやトレンドについても、一見儲かりそうですがダメです。というのも、こちらはまだ終わっていない市場というだけで、すでに競争相手が多くいる市場であるため。それを見つけるのが難しいんだよという話ですが、メディアが報じられるような有望なビジネスを自らが作り上げなくちゃ、儲かる会社にはなれないのかもしれません。
ここまですんなりわかるのですが、最後の「3.本業との関連性は気にしてはいけない」は引っかかりました。記事では、多角化と今の本業は関係なく、より重要なのは多角化していく事業に儲かる構造があるかどうかだとされていました。
これ自体はもっともなことと思います。ただ、私は本業との関連性が薄いことは良くないことだと思っていましたのでびっくりです。とはいえ、私が知っている失敗例は確かに先程の「後発参入」にあたるものばかりですので、この説明ではただちに矛盾するものではありませんでした。
●寿命が尽きかけている事業と似た事業が儲かるはずないじゃん!
新しい事業の選び方に関して著者の三品和広さんは、本業との関連性の必要派と不要派の両方の教えを受けたそうです。先生の教えが異なると迷いますね。ただ、日本企業の実証研究の結果を見る限り、本業との関連性は不要という結論になったといいます。
この失敗例はTOTO。トイレの施工工事会社ネットワークを利用し、キッチンや洗面台、風呂へと事業を広げたものの、トイレと違って競争相手が多かったため低迷したというものです。しかし、これも明らかに後発参入にあたりますので、私としては本業との関連性を理由に説明するものとしては不適だと思います。
ただ、一応その他の理由として、寿命が尽きかけている本業の周辺の事業立地も同様に地盤沈下が進んでいるわけで、大きく成長することは望めないという指摘があり、こちらの方がもっともだと感じる説明。要するに「寿命が尽きかけている事業と似た事業が儲かるはずないじゃん!」ってことですね。
●新規事業は偉い人ではなく若手に選ばせてやらせるべき理由
ねぇ、それよりすべきことはなんなの?教えてよ!とワガママを言いたくなります。でも、こちらも著者はちゃんと紹介してくださっています。太っ腹ですね! 先程の続きにあたる記事の
“転地先”を決めるのは、経営者ではなく当事者 経営者には別の仕事がある(2010年10月12日 三品 和広)によると、するべきことは以下のとおりです。
【するべきこと】
1.新規事業は当事者に選ばせること。
2.なるべく若手にやらせること
当事者にやらせるというのは、受け身ではなく、積極的にやれるからですね。要するにやる気の違いです。「言い出しっぺ」、特に熟考の末に「やっぱりこれだ」と決断して手を挙げた人の方がやっぱり頑張ることが多いとされていました。わかる話です。
加えて、30代までの若手が良いというのは、能力ややる気の問題ではなく時間的な問題。それは40代以上だと自らやりきることができない、つまり退職しちゃう方が早いってことみたいですね。また、若い人はしがらみが少ない、良い意味で分別がつかないのでリスクを取れるということも書かれています。
●老い先短い仕事は若い人ではなくやっぱり年取った人がやる!
こうしたことよりありがちなのは、偉い人が「これは面白いぞ」と言って、実行は自分よりも若い人に押し付けるというパターンでしょう。しかし、そうなると、そもそも「1.新規事業は当事者に選ばせること」の条件は満たせません。
また、寿命が尽きようとしている事業についてですけど、こちらはむしろ若手を入れてはいけないとされていました。そうした事業を延命させるのには、30代以下の若手を投入せずに、事業ごとに分けてしまえ!といった助言もありました。
ベテランに今まで愛してきたものを捨て去りなさいというのは酷な話ですし、新たな事業に頭を切り替えるということも難しそうですから、ちょうど良いかもしれませんね。
●企業寿命を伸ばすには時代の環境変化に対応し進化…なんて嘘!
2020/01/18:うちでは事業について変化させる方が良いとする話を何度もやっています。例えば、前半の<ドル箱がオワコンに…会社には寿命はないが、事業には寿命がある>がそうですし、その他に
合併買収などは良い?悪い?上場企業について比較してみると…もそういった投稿です。
これらは日経ビジネス電子版を元にした話だったのですけど、同じ日経ビジネス電子版で
揺らぐ老舗の法則1 「環境変化に対応」←そんなこと無理(定方 美緒 他 3名 日経ビジネス記者 2019年11月25日)という記事がありました。前述の話を否定するようなタイトルに見えます。
それで気になってブックマークしていたのですけど、読み始める前にこれってクソ記事では?と読むかどうか迷いました。で、迷いつつ読んでみたら、案の定クソ記事でした。とりあえず、経済界で語り継がれてきた“長寿の方程式”「企業の寿命を延ばしたければ、時代の環境変化に対応し進化せよ」は嘘、少なくとも現在では無理…と言いたい記事みたいです。
●白木屋グランドホテルが潰れた!だから環境変化に対応は無理
記事でまずダメなのは、個別事例の紹介で結論づけていること。以前の
合併買収などは良い?悪い?上場企業について比較してみると…は、きちんと多くの企業データを比較して調べていました。個別事例を出されて納得してしまう…ということはあるでしょうが、データがあった方がより良いです。信頼性が異なってきます。
ということで、良い証拠ではないのですが、この個別事例も一応紹介。いくつかの事例があったものの、最も長く触れていたのは、白木屋グランドホテルです。1865年(慶応元年)に創業し、長い伝統を誇ってきたホテルで、「プロが選ぶ旅館ホテル100選」では料理部門の常連。しかし、2014年1月30日に破産しています。
古い歴史を持つだけで、何の工夫もしない老舗企業が力尽きて倒産することは珍しいことではないものの、ここは違った!と記事は主張。「企業の寿命を延ばしたければ、時代の環境変化に対応し進化せよ」を真面目に実行してきて、それでもダメだったとされています。
もともと白木屋グランドホテルが得意だったのは、社員旅行などの団体客だったそうです。増改築工事を実施し客室数を増やしてこれを強化しましたが、バブル崩壊で団体客は減少しダメになります。この時点で、典型的なダメパターンで、むしろ潰れたのも仕方ない感じしちゃいますけどね。
とにかく白木屋グランドホテルは、教科書通りの「今どきの旅館業の環境対応策」を実行したと記事では強調。①料金プラン引き下げで個人客へのシフト、②海外からの集客、③サービス見直しによる人件費の削減、④地元一体となったイベント開催による「ここでしかできない体験」の提供といった対策です。しかし、一時的に業績を改善したものの持続せず、破産に至ったとされていました。
●100%成功するという意味ではないし、そもそも比較されていない
ただ、そもそも時代の環境変化に対応し変化させる方が良いというのは、それによって100%成功するという意味ではないことを、この記事では忘れいてるのが問題。失敗した企業だけ取り上げても証拠にならないんですね。ニセ科学などでもよくある詐欺なのですけど、比較しないと強い証拠になりません。
合併買収などは良い?悪い?上場企業について比較してみると…のデータでは、変化企業でも業績が悪い企業が多数ありました。ここだけ見ると今回の主張が正しそうに見えます。ところが、変化しない企業はそれ以上に悪かったんですね。このように変化しなかった企業との比較が絶対に必要なのです。
記事では、経験論的ではありますが多くの企業を見てきた帝国データバンク東京支社情報部の丸山昌吾さんの話も一応載せていました。ただ、この話ですら以下のように、「うまくいかないことが多い」と言っているだけで、変化しない方が良いとはされていません。というか、むしろ変化が長寿の秘訣であることを認めている内容なので、記事の作者が事実を捻じ曲げた感じですね…。
「
環境変化に対応し進化することが、企業にとって長寿の方法の1つであるのは事実。だがそれをやったところで、必ずしも寿命が延びるとは限らないのもまた、現実だ。とりわけ最近は変化も激しく、環境変化を見据えた新規事業や対策を実施しても十分な成果を得られないケースは多い」
●成功事例で紹介の任天堂、全く失敗事例と違う内容で比較できず
記事では、過去の環境変化対応企業の具体例も出していました。ただ、この事例を見ると、そもそも白木屋グランドホテルの変化とは、全く変化の度合いが異なることがわかるでしょう。記事の出していた成功事例は、劇的に変化しているんですよ。どうしてこれらが白木屋グランドホテルのやり方といっしょに見えたのか謎です。
<任天堂> 1889年(明治22年)に花札の製造から出発し、トランプやカルタの製造も展開。が、高度成長期には業績が低迷し、何度も倒産の危機に直面。そんな中、3代目の故・山内溥氏が「玩具のエレクトロニクス化」という環境変化に対応し企業規模を爆発的に拡大させていった。
<富士フイルムホールディングス> デジタル化によって祖業である写真フィルム市場がほぼ消滅したにもかかわらず、液晶テレビ用保護フィルムや医薬品、化粧品などへの多角化に成功し、エクセレントカンパニーの座を維持し続けている。
前半の<ドル箱がオワコンに…会社には寿命はないが、事業には寿命がある>の部分でも、主力事業の入れ替えが必要であり、本業との関連性すらない全然別の新しい分野を開拓した方が良い、といったアドバイスでした。白木屋グランドホテルのように主力事業の範囲内で変化させるって話ではないんですよ。
正直かなり難しいのは事実だとは思うのですけど、白木屋グランドホテルの例でいうと、そもそも宿泊とほとんど関係ないことをやるのが正解。任天堂や富士フイルムはまさにそういう内容ですよね。記事で出ていた例とは根本的に違う話であり、全く違う過去の例と今の例を並べて「今は無理」と結論づけるダメ記事でした。
●エアアジアが日本撤退…単なる事業縮小ではない真の狙いとは?
2023/05/11まとめ:別のところで書いていた話がこちらにも関係するので転載。
エアアジア、日本撤退に透けるしたたかな戦略:日経ビジネス電子版(飯山 辰之介、日経ビジネス記者)という記事についてです。これは新型コロナウイルス問題の初期の話で、もともと赤字だったことが最もわかりやすい撤退理由です。
<マレーシアを拠点とする東南アジア最大の格安航空会社(LCC)、エアアジア・グループが日本事業から撤退すると報じられた。(引用者注:新型コロナウイルス問題により、)世界的に渡航制限が敷かれグループの経営が悪化していることや、日本市場の回復が見込めないことがその理由という。
(中略)エアアジアの日本事業は赤字が続いていたため、(引用者注:新型コロナウイルス問題による)未曽有の危機を乗り切るために事業を断念せざるを得なかったとの見方は間違いないだろう>
さて、私が興味あったのは、これ以外の理由。タイトルでは<日本撤退に透けるしたたかな戦略>と書かれており、記事本文でも、<一方で、エアアジアが東南アジアで進めてきた新事業と照らし合わせて見ると、今回の撤退には別の側面も浮かび上がってくる>としていました。記事を読んでみると、これは別事業に集中するためという話のようです。
<収益源を多様化するため、エアアジアは18年ごろから新しい事業に着手していた。それがデジタル事業の拡大だ。フェルナンデスCEOが今、ライバルと見ているのは航空会社ではなく、配車サービス大手のグラブ(シンガポール)やゴジェック(インドネシア)といった東南アジア域内でスーパーアプリ(1つのプラットフォームで様々なサービスを利用できるアプリ)を展開するデジタル企業だという>
<フェルナンデスCEOがライバルと見るグラブやゴジェックは配車や決済を軸にしており、通販などその他のサービスについては基本的に他社に依存している。一方、エアアジアは空運で培った商品や食品販売のノウハウなどを活かし、ほぼ自前でネット通販からホテル予約まで展開する。こうしたサービスをポイントプログラムでつなげ合わせ、相乗効果を狙っていくものと見られる。日本で楽天が手掛けるデジタル事業と似ていると言えるかもしれない>
<東南アジア各紙の報道によれば、フェルナンデスCEOは「デジタル事業については新型コロナ危機が顕在化する以前、2年前から注力しており、パンデミックによって取り組みが加速した」と話している。この観点からすると、エアアジアの日本からの撤退は新型コロナ危機を受けた経営の縮小均衡策というより、デジタル事業の強化に向けたグループ内の事業再編の一環として捉えられる。つまり選択と集中だ>
<ここから新事業を成長させるハードルはとても高い>とされており、正直無理そうな感じ。ただ、違う事業を柱として育てよう…というのは良い方向性でしょう。同じ日経ビジネスオンラインの別記事では、本業を変える企業の方がそうでない企業より伸びやすい…というデータを出していたことがあるんですよ。
ホテルがこうした事業転換の成功例に学ぶ場合、団体客から個別客に変える…といった小手先の変化ではなく、そもそも宿泊とほとんど関係ないことをやる…というのが正解だとも以前書いています。そうは言ってもこの事業転換案は、思いつくことすら難しいのが現実。エアアジアはそこをクリアしており、失敗したとしても、この時点ですごいと思います。
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