遺産相続の話をまとめ。<相続トラブルの7割は5000万円以下、3割は1000万円以下という事実>、<遺産相続トラブル:「金額が少ない家庭ほど揉める」は本当か?>、<揉める原因…法定相続分どおりに分けるのはほぼ不可能な理>などをまとめています。
2023/04/17まとめ:
●財産が少ないほど揉めるに根拠なし ただ激増中なのは本当
2023/07/15まとめ:
●相続税の有無と相続トラブルは別問題!準備不足になりがち?
2023/11/20まとめ:
●揉める原因…法定相続分どおりに分けるのはほぼ不可能な理由 【NEW】
司法書士は見た!実録相続トラブル 川原田 慶太 (著)

●相続トラブルの7割は5000万円以下、3割は1000万円以下という事実
2015/11/8:遺産相続トラブルはお金持ちだけのものじゃありません。それどころか、むしろ「金額が少ない家庭ほど揉める」というのは、よく言われています。大金持ちは余裕があるのであまり揉めないで、お金がない人たちほどあさましく揉めるといったイメージですね。例えば、以下の記事でも似たような感じの話があります。
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「資産がない」家でトラブル多発、大相続時代の心構え :日本経済新聞 2012/9/5 7:00
<遺産は「実家とわずかな金融資産のみ」で分けようもないケースが少なくない。だからこそ揉める。「今のミドル世代は、ささやかな額でも相続を期待している」と家計の見直し相談センターの藤川太さん。増税、手取り収入減と年々家計が厳しくなっているためだ。(中略)
相続争いは資産家の話と思っていたら大間違い。さほど「資産のない家」の方が「争続」は起こりやすい。家庭裁判所の「遺産分割」紛争を見ると、遺産1000万円強5000万円以下が最も多くて4割強、1000万円以下が約3割。典型例は「実家1軒とわずかな金融資産」という「分けられない」遺産だ。100万円でも納得できないと家裁に持ち込まれる例もある>
上記のデータの出所は、『司法統計年報』2010年。具体的には、以下のような数字でした。
1000万円以下 30.9%
5000万円以下 43.3%
1億円以下 13.3%
5億円以下 7.4%
5億円超 0.6%
算定不能・不詳 4.5%
もう一つ、別の記事
金額が少ないほどモメる!?遺産と贈与の怖い話|今週の週刊ダイヤモンド ここが見どころ|ダイヤモンド・オンライン(週刊ダイヤモンド編集部 2015年8月3日)でも、似たようなニュアンスの話が載っています。
<近年、税制度の変更や価値観の変化により、相続や贈与でトラブルになるケースが増えている。そして、そのことに無関心を決め込むことはできない。
なぜなら、「お金があるから相続で揉める」と思い込むのは間違いだからだ。2013年版司法統計によると遺産で争った裁判で、遺産額が「5億円以上」のケースはわずか0.5%で、「5億円以下」は6.2%、「1億円以下」は12%と少数派なのに対し、「5000万円以下」が42.7%、「1000万円以下」が32.3%と、数千万円以下の規模で訴訟となった例が75%になるのだ。
これは土地や建物も含んでの数字だから、せいぜい財産は一軒家といった一般の人たちが争っている姿が浮かんでくる>
●遺産相続トラブル:「金額が少ない家庭ほど揉める」は本当か?
記事で用いられていたこれらのデータから、遺産が少なくても揉めるということや遺産トラブルでは遺産が少ない人の占める割合が多いことがわかります。ただ、「金額が少ない家庭ほど揉める」は、厳密に言うと、これらとはちょっと違う話。これらの数字だけだと、「金額が少ない家庭ほど揉める」は導き出せないんですよね。
なぜかと言うと、トラブルにならないものを含めた遺産の金額の割合が不明なためです。もともと「5000万円以下」の遺産相続がほとんどなのですから、揉める家庭でもこれらの割合が多くなるのは当たり前。トラブル以外の数字もわからないと比較できません。
例えば、日本で犯罪を起こしている人の国籍はほとんど日本人ですが、だからと言って「日本人は外国人より犯罪を犯しやすい」とは言わないことは簡単にわかりますよね。確率を出さないと比較できないのです。ですから、遺産トラブルの場合も、可能性としては、大きく以下の3通りくらい考えられそうでした。
(1)相続額は多くても少なくても揉めるが、相続額が少ない家の方がより揉めやすい
(2)相続額は多くても少なくても揉めるが、揉める確率はあまり変わらない
(3)相続額は多くても少なくても揉めるが、相続額が多い家の方がより揉めやすい
●良いデータが見つからないが、普通に相続額が多いほど揉める?
で、全体の相続額のデータがあるものだと思って探したのですが、適当な調査が見当たりません。参りました。まずデータが古いですし、他にもいろいろと問題があるのですが、一応推測できそうなのが、
(PDF)野村資本市場研究所|近年のわが国の相続動向とその示唆。課税価格階級別の相続状況(2008年)というのがあります。
こちらによると、1億円以下の被相続人(遺産を持っていた人)の比率は、22.5%しかいません。なぜこんなに少ないのか?と言うと、「課税価格階級別」とあるように、相続税が発生した人の中だけの比率のためです。これが問題の一つですね。ただ、"相続税はその年に他界した人のうち、実際には資産保有額が多いわずか4%の人しか対象とならない"とありました。ここから相続税が発生していない人の比率も推測可能そうです。
実は問題の一つとして、この調査の後に法律が変わり、相続税がかかる人が大幅に増えているということがあります。ただ、今回の目的は遺産が少ない家庭の比率を知りたいだけですので、無視して良さげ。あと、マジで相続額がゼロの人もこれだと含まれてしまいますが、これも問題を解決できず。この他に、相続税がかかる人の比率が「4%」ということで、有効数字が一桁しかないものの、仕方ないので目をつぶります。
では、いよいよ計算へ。「資産保有額が多い(中略)4%」のうち1億円以下が22.5%ですので、この二つの数字をかけると、1億円以下で当時相続税の対象だった人の比率がわかります。0.9%ですね。残りの3.1%の人が1億円以上で当時相続税の対象だった人だったということになります。
一方、「資産保有額が多い(中略)4%」以外の96%は相続税の対象にならないほど資産保有額が少ないので、おそらく資産保有額は1億円に満たないと考えて良いでしょう。ですので、96%と1億円以下の0.9%を足して、96.9%、大体97%くらいの遺産が1億円以下だと予想されます。
次にトラブルの割合です。ダイヤモンド・オンラインからは、遺産で争った裁判のうち、1億円以下のケースの比率がわかります。これは、12+42.7+32.3で87%でした。97%くらいが1億円以下の相続なのに、トラブルになった例に占める割合は87%なのですから、「金額が少ない家庭ほど揉める」ようには見えません。むしろ逆に見えます。
しかし、前述の通り、いろいろと問題ありまくりの推測であり、特に遺産ゼロの人まで含まれちゃっているということを考えると、「普通に相続額が多い家庭ほど揉めやすい」と言うのもためらわれます。スッキリしない結論で申し訳ないですが、良いデータがありませんでしたわ…。
とりあえず、「財産が少なくても十分に揉める」という教訓なら、依然として健在な感じ。仮に財産が少ない家庭でほとんど揉めないのでしたら、前述の裁判の数字は87%よりもっと極端に減っていて良さそうなためです。「遺産が少なくても揉めるのは珍しくない」ということを心に留めておくことは、やはり大事だと思われます。
●財産が少ないほど揉めるに根拠なし ただ激増中なのは本当
2023/04/17まとめ:<財産が少ないほど揉めるに根拠なし ただ遺産トラブルは激増中なのは本当>というタイトルで書いていた別投稿を少しずつこちらにまとめていきます。
2015/11/11:私はいつも先に下書きしておいて、投稿直前に一度ざっと見直してから投稿します。しかし、上記までの話は、自分で読んでも意味がわからなくて修正にたいへん苦労しました。21時前後に投稿するつもりが、22時をすぎるというほど大苦戦。一応、だいぶわかりやすくなったと思うのですけど、わからなかったらすみません。
で、このとき推敲しながら、並行して新たに検索もかけていると、「財産が少ないほどモメる」の別記事がありました。相変わらず「財産が少ないほどモメる」の根拠は本文になく、おそらく編集が勝手にタイトルをつけただけだと思います。今のところ「財産が少ないほど揉める」については、「根拠はない」としか言いようがないでしょう。
しかし、ここでおもしろかったのは、「財産が少ない人の方が、もめるケースが増えている」というデータならあったこと。この言い方だけだとちょっと勘違いしそうですが、実際の数字を見るとわかります。グラフからの読み取りで正確な数字は不明ですが、以下のような感じでした。
遺産5000万円以上のもめごと 2000年 およそ2000万件 → 2010年 およそ2000万件
遺産5000万円以下のもめごと 2000年 およそ4000万件 → 2010年 およそ6000万件
(
財産が少ないほどモメる -全解決!遺言・遺産相続の困り事【1】:PRESIDENT Online - プレジデント 2013年7月20日 PRESIDENT 2011年12月19日号 灰谷健司(三菱UFJ信託銀行 トラストファイナンシャルプランナー)より)
つまり、遺産5000万円以上のお金持ちの家庭でのトラブルは横ばいなのに、遺産5000万円以下の相続の少ない家庭では急激に増えているのです。「財産が少ないほどモメる」とは違う話ですが、これはこれでおもしろい傾向です。
●相続税の有無と相続トラブルは別問題!準備不足になりがち?
あと、この記事では最初に大事な話もありました。前回も先に説明した方が良かったのですが、相続の問題と相続税の問題は別…なのです。上記の遺産5000万円以下のもめごと6000万件というのも、当時はすべて相続税のかからないケースだったみたいですね。(この後法改正ありましたので現在は不明)
<「うちには大した財産なんてないから、相続の問題なんて関係ない」
もしそう思っているなら、それは大きな間違いだ。財産が少ないと関係ないのは、「相続」ではなく「相続税」の問題である。
相続税がかかる人はほんの一握りにすぎず、今のところ、亡くなった人全体の4.1%だけだ(2009年)。これは、相続税に「5000万円+1000万円×法定相続人数」の非課税枠があるためで、もし相続人が3人なら、遺産8000万円までは相続税がかからないことになっている。>
繰り返すように「財産が少ないほどモメる」というデータがそもそも見当たらず、デマの可能性があるのですけど、「財産が少ないほどモメる」の理由だけはできあがっていました。その理由とされていたのが、「お金持ちの家庭のように準備していないから」という、もっともらしいものです。
今回の記事でも、"相続では「大した財産はないから何も対策を考えていない」という人に問題が起きやすい"というものが出てきます。これは最初で見た、財産が少ない家庭のトラブルの増え方が多い理由としては、ある程度当てはまりそうです。
ただ、「お金持ちの家庭のように準備していない」というのは、おそらく以前から変わっていないわけで、近年激増している理由にはならず、増加理由としては説得力不足。他に高齢者が増えたというのも考えられますが、それにしても増えすぎです。不思議な感じがあります。
●揉める原因…法定相続分どおりに分けるのはほぼ不可能な理由
増えた理由として他に思いついたのは、今は皆貧しくなっているから昔より必死だというのもあるかな?というもの。この必死さを思わせるショックだった話が、「法定相続分どおりに分けるのは無理」だということに関して説明した部分の話です。
ただ、遺産トラブルの例を過去に読んでいたので、ある程度この理由は想像がつきました。現金のように均等に分けられないものが原因だろうと見ると、やはりそういう説明ですね。<特に難しいのは、「おもな財産は自宅だけ」というケースだ>とした上で、以下のように説明していました。
<たった1軒の小さな自宅を兄弟姉妹で平等に分けることはできない。また、そこに住んでいる家族がいれば、家を売ってお金を分けることもできない。だが、自宅を兄弟姉妹のうち誰か1人がもらうと、受け取る額に大きな差がついてしまう。ここで法定相続分にこだわる人が出てくると、もめごとに発展する可能性が高くなる。
「大した財産ではない」とはいっても、家1軒は数百万円、数千万円という価格だ。相続では日常は目にすることのない大金が動くだけに、もめごとが起きやすいといえる>
司法書士は見た!実録相続トラブル 川原田 慶太 (著)

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