当初"多角化と本業の関連性"と"シナジーを持たない多角化"というタイトルで書いていた話をまとめたもの。<異業種参入…シナジーがない多角化でも成功したパナソニック>、<多角化はシナジーや本業との関連性より強みを出せるかどうかが大事>などをまとめています。
2023/07/19:
一部見直し
●多角化における関連多角化と非関連多角化の違い
2011/1/13:
会社には寿命はないが、事業には寿命があるでは、多角化の際に「本業との関連性は気にしてはいけない」とありました。しかし、私はその記事の説明では納得しきれなかったので、もう少し考えてみることにします。
まず、最初に用語の話。
経営用語の基礎知識 野村総合研究所では、多角化などについて以下のように説明しています。
多角化戦略……既存事業の周辺事業分野、または関係のない新たな事業分野に進出することによって企業の成長・拡大を図る戦略。
関連多角化……既存事業の技術やノウハウなど(コア・コンピタンス)を共有することで、既存事業の周辺で事業を多角的に展開していく戦略。事業規模の拡大による生産効率の向上や、研究開発・生産技術等の有効的活用という利点がある。
非関連多角化……既存事業とは関連性がない(もしくは低い)事業に進出することで成長していく戦略。複数の事業を持つことによるリスク分散という利点がある。
多角化と企業業績……多くの実証研究では、既存事業との関連性が高い事業へ多角化するほうが、既存事業との関連性が低い事業へ多角化するよりも、シナジー(相乗)効果により高い収益性をもたらすことが示されている。
●本業との関連性は気にしてはいけない?
さて、「本業との関連性は気にしてはいけない」の話。実は、用語説明のあった野村総合研究所では、最近の傾向についても説明していました。
それによると、事業環境が厳しさを増す中、選択と集中を掲げ、自社のコア事業との関連性が低い事業を売却することが多くなっていると言います。そして、関連性が低い事業の売却で得た資金は、コア事業の強化及び周辺事業への投資(関連型多角化投資)にあてることで、コア事業を中心とした事業展開に移行する企業が増えてきているとのこと。
これは結局、本業との関連性の低い多角化をやめて、本業に関連性の高い多角化へ注力しているという話。「本業との関連性は気にしてはいけない」とは、実際には逆となっていると考えられます。
●本業との関連しない多角化は本当にメリットがあるのか?
さらに、非関連多角化の場合、その魅力とされる「複数の事業を持つことによるリスク分散」というのが、本当に有効に使えるのか?という疑問もあります。
多角化戦略 天使と悪魔のビジネス用語辞典によると、繊維、化粧品、薬品、食品、住宅環境の5分野の事業を手がけ、「ペンタゴン経営」の成功と言われたカネボウは、業績低迷時にその多角化が復活の助けとなることはありませんでした。
多角化により経営資源が分散してしまった他、不振な事業を抱え続けるというリスクを負ってしまったわけで、むしろ悪い方に出ました。カネボウの場合は収益の良い化粧品部門を売却しようとしましたが、組合の反対で結局実現できず。どうも「複数の事業を持つことによるリスク分散」が、絵に描いた餅になることがあるようです。
このサイトでは、バブル期は「本業が調子いいから、余勢を駆って更に会社を大きくしよう」、バブル崩壊後は「本業が調子悪くなったとしても、新事業でカバーすればいいさ」、最近は「本業がいよいよダメだ。早く儲かる商売を捜さなきゃ」となっているという指摘。このように、多くの企業は将来の展望を描いていない多角化を行っているという大きな要因もある気がしますが…。
●本業との関連しない多角化はほぼ成功例なし
一方、
シナジーなき多角化に成功したGE 2001年1月15日[日経ビジネス] MochioUmeda.comという話もあり、成功例もあるようです。
ただし、ここでも中身をよく見てみると、ウェルチCEOという卓越した経営者の率いるゼネラル・エレクトリック(GE)は説明不能の例外だとされていました。
一応ヒントになりそうなところは、業界1位か2位でいなければならないというルールによって、業績的に足を引っ張る事業が存在できない仕組みになっていること。ただ、現状、シナジーが全く存在しない非関連事業の多角化を達成しているのは、ゼネラル・エレクトリック(GE)だけという書き方ですので、やはり難しいものと思われます。
2017/06/09追記:GEに関しては、その後、
GEジャック・ウェルチは嫌われ者だった 徹底した選択と集中に非難というのを書いています。
●「本業との関連性は気にしてはいけない」の本当の意味
ということで、私はやはり本業との関連性がほしいと思うのですが、「本業との関連性は気にしてはいけない」の意味もわかります。
と言うのも、あの話で言いたかった一番重要なことは、「多角化していく事業に儲かる構造があるかどうか」です。本業と関連していても、儲かりそうもない事業をやったって仕方がありません。
そういう意味では、最後の話で出てきたシナジーなんていうのも、気にしなくても良いんじゃないかと思います。
私が本業とは関連性がほしいと思うのは、本業と無関係の事業でいきなりそんな有望な事業を発見できるのか?という疑問があるからです。まあ、ですから、それを見つけられて、なおかつ本業が縮小したときに切り捨てる覚悟があるならそれでも良い気がします。
で、その有望な事業さえ見つければ、シナジーがあるかどうかは気にしなくて良いと思うのです。
●異業種参入…シナジーがない多角化でも成功したパナソニック
たとえば、珍しく後発参入でうまくいっているのが、給水タンク・便器一体型のタンクレス・トイレ市場でのパナソニック電工です。ただし、一度目は失敗しています。1988年にTOTO、INAXの窯業2強の牙城だったトイレ市場に参入してたときには、撤退が噂されるほど手痛く失敗したそうです。
しかし、この話があった
「便器の王者」TOTO脅かすパナ電工の躍進 2011年1月号 DEEP によると、土壇場の賭けで、「便器は陶器しかあり得ない」という常識のトイレを、電機メーカーがノウハウを蓄積する樹脂でやってみました。そして、これが以下のようなメリットをもたらします。材質に利点があったのです。
・陶器に比べて水垢(輪じみ)がつきにくい。
・金型で打ち抜くため、寸法精度が高く、便座と便器の隙間がほとんどできない。
・陶器製便器では焼成できない、便器を洗浄するための洗剤の注入口をつけられる。
そして、最後の「洗剤の注入口をつけられる」という利点により、「便器も自動で洗える」として大ヒット、陶器メーカーのTOTO、INAXの2強がそれぞれ6割、3割を握っていた国内市場で、シェア30%を獲得、INAX(30%)と肩を並べ、「便器の王者」TOTO(40%)をも射程内に入れました。
●多角化はシナジーや本業との関連性より強みを出せるかどうかが大事
パナソニック電工の最初の参入は、後発参入で、しかも、本業との関連性が低いもの。本業との関連性が低いということは、いわゆるシナジー効果が発揮できない…ということで、本来ならダメな多角化と判断されそうなものでしょう。本業との関連性が低いことは、技術的に強みを発揮でないということになりました。
しかし、その後行った樹脂製での再チャレンジの場合、本業と絡むので独自性が発揮できます。こういう意味での本業との絡みはプラスなんでしょうね。また、樹脂製トイレという分野に限ってみれば開拓者ですので、「後発参入でない」という見方も可能。ニッチ市場を作り出したとも言えるかもしれません。
気になってきてよく調べると、本業との関連性が低かったかどうかの判断は難しいところかもしれません。前回の定義だと技術共有は関連多角化だけど、既存事業と関連性が低いだけでも非関連多角化と呼ぶみたいで、樹脂トイレをどちらとするかは微妙です。
また、パナソニック電工は照明機器、電気設備、健康家電、住宅機器、建材、制御機器、電子材料 福祉機器などを取り扱う総合メーカーだそうですので、関連やシナジーはあるけど陶器のノウハウはなかったということでしょうか?(この2段落、2011/1/15に追記)
●この考え方ならビール会社のバイオ事業参入も正しい
あともう一つ。どこまで伸びるかわからない例ですが、ビール会社の酵母関係の事業です。
夢のサトウキビ、バイオ燃料5倍 アサヒが新品種 ビジネスアイ 2010/04/18によると、アサヒビールと農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発に成功した新種のサトウキビは、「耕作地面積当たりで従来より5倍以上のバイオエタノールの生産が見込める」そうです。
ビールなどの飲料事業とバイオエタノールなどのバイオ事業でのシナジーは薄いと思われますが、長年、ビール事業で培った発酵技術を応用できると判断したため、アサヒビールは2002年から本格的なバイオエタノールの研究に着手したようです。
このように画期的なものを作り出せるなら、新たな市場を作り出せるので、シナジーがなくても有望なんじゃないかと思います。
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