サンマ不漁などの話をまとめ。<そもそも中国・台湾の漁獲量は少なく物理的に無理…水温の問題も>、<サンマ不漁が台湾・中国のせいは嘘?乱獲多い日本に「お前が言うな」>などをまとめています。
2023/11/06:
一部見直し
●前年の僅か1割、サンマが記録的な不漁 台湾などの漁船が獲り過ぎ説
2015/11/18:
サンマ不漁 宅配便受け付け中止 | 河北新報オンラインニュース(2015年10月23日金曜日)によると、いわき市の小名浜機船底曳(そこびき)網漁協が、サンマ宅配便の受け付けを中止しました。理由は不漁。今年の小名浜港への水揚げがまだ1回(約100トン)しかなく、量が確保できないために、どうしようもありません。
スーパーの価格を見てもそう高い感じがなかったので実感が湧きませんが、サンマが記録的な不漁だとのこと。漁業情報サービスセンター(東京)によると、今季のサンマ棒受け網漁の全国水揚げ量は(2015年10月21日現在、6万7909トンで昨年の54%しかありません。
特に上記の小名浜はひどく、その水揚げ量は昨年の11%という目も当てられない数字だといいます。魚群が少なく、三陸沖への南下も遅れた上、沖合を通っているとされていました。こうしたサンマ不漁の理由については、複数の解説がされていますが、台湾や中国が獲り過ぎているという批判があるそうです。
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どうして今年はサンマがとれないの? :日本経済新聞(2015/11/14付)
<いま問題になっているのが、台湾などの漁船が公海で大量にサンマをとっていることだ。沿岸から200カイリ(約370キロメートル)より外側の公海では、自由に魚がとれる。台湾のサンマの漁獲量は13、14年と日本を上回った。
公海にいるサンマはすずしくなるにつれて、日本の沿岸へ近づいていく。それを先取りしているから、日本にやってくるサンマが減ってしまう。最近は中国の漁船も公海で漁をするようになった。
ただ、このまま公海でとり続けると、北太平洋にいるサンマが減りかねない。すると、公海でも日本でもとれなくなってしまう。そこで、日本や中国など6つの国と地域が集まって、サンマ漁のルールをつくる作業を始めた。>
●そもそも中国・台湾の漁獲量は少なく物理的に無理…水温の問題も
しかし、この批判は
うなぎを保護しない中国 ニホンウナギが不足で絶滅危惧種にと同じで、自分のことを棚に上げて、相手だけ批判するというものかもしれません。
前述のような昨年の1割だ半分だという話ならば、台湾や中国は日本に来るサンマのほとんどを奪い取っているように聞こえるものの、そもそも彼らはそんなにたくさんのサンマを獲っていません。物理的に無理な話です。
「太平洋の北側から日本の近海にやってくるサンマは毎年200万t程度。そのうち中国・台湾の漁獲量は合わせても25万t程度で、日本のサンマ不漁は2国の乱獲が原因とするのは無理がある」(勝川俊雄・東京海洋大学准教授)
(
サンマ不漁と中国・台湾の乱獲は関係ない!? 国際資源の管理と日本漁業の問題点とは 日刊SPA! / 2015年11月14日 9時7分 取材・文/高島昌俊 八木康晴(本誌)より)
では、なぜ日本でサンマ不漁なのでしょう? いくつか理由があると先に書きましたが、勝川俊雄・准教授は、「単純に日本漁船が通常サンマ漁を行う排他的経済水域(以下、EEZ)に入る前にサンマたちが南下してしまった可能性が高い」と指摘していました。先に台湾のせいにしていた日経新聞ですら、このことについて、触れています。
<まず、北太平洋のサンマが減っていることがある。サンマは北太平洋のどこにでもいる。日本は毎年漁の時期が来る前に調査船を出してサンマをとり、北太平洋西部の海にどのくらいの数がいるかを見積もっている。03年は重さにすると約440万トンいたけど、今年はほぼ3分の1の約136万トンに減ったと考えられている。
ただでさえ数が少なくなっていることに加えて、サンマが日本の沿岸に近づかなくなっている。理由として考えられるのが、北海道の東の海の水温が上がっていることだ。
サンマはセ氏12~15度の冷たい水を好む。北の海で小さなエビのオキアミなどを食べて育ち、8月から寒流の千島海流(親潮)に乗って南下し始める。今年は北海道の東にあたたかい海水が広がっているから、そこをさけて水温が低い遠い沖にサンマが集まっているようだ。>
●サンマ不漁が台湾・中国のせいは嘘?乱獲多い日本に「お前が言うな」
また、日経新聞は「まず、北太平洋のサンマが減っていることがある」としていますが、その理由を書いていません。そもそも日本が乱獲している可能性について、正直に書いていませんでした。
漁業衰退は政治の問題 先進国は成長産業なのに日本だけ衰退の謎で書いたように、実を言うと日本は水産資源管理の後進国です。さっき「自分のことを棚に上げて」と書いたのもそういう理由でした。日刊SPA!においても、以下のような指摘があります。
<「日本は自国単独でもできる国内資源の管理に、まともに取り組んでいない。サンマやカツオのような国際資源の管理でイニシアチブをとろうとしても相手にされないだろう」と勝川氏は厳しく指摘する。サンマの場合、まだ危機的状況というわけではないが、枠組みを設けることが大切になってくる。
今年の9月には日本、カナダ、ロシア、中国、韓国、台湾、アメリカが参加し、漁業資源に関する取り決めを話し合う北太平洋漁業委員会を開催。’17年中からサンマの国際的な漁獲規制を実施する方向で調整することに合意した。しかし、世界的に減少が顕著なわけではなく、日本の漁獲量が減ったので実施した側面も強く、日本本位な主張でもあった。
「戦後の日本は、世界中で水産資源を利用しながら、国際的な漁獲規制には常に反対してきた。国際社会からの信用はゼロに等しい。欧米の漁業国も昔は乱獲をしていましたが、痛みを伴って保護に取り組んだんです。今になって日本が国際資源の保護を訴えても説得力はなく、『まずは自分の国をなんとかしろ!』とツッコまれるのがオチです」(勝川氏)
一応、水産庁はサンマやスケトウダラなど7種目に漁獲可能量の上限を設定しているが、実質的な意味はないも同然とか。
「例えば、今年のサンマのTAC(漁獲可能量)は去年から大幅に削減されて、過去最低となる26.4万t。しかし、過去5年の平均値は22万tに満たないので、仮に今年が不漁でなくてもこの数値に達することはありません。資源保護をしているというパフォーマンスにすぎません」(同)>
資源管理を放棄して、漁師が好きなだけ穫れるというのは、"漁師に対する手厚い保護とも受け取れ"なくもありません。しかし、これが本当に漁師のためになるかすら怪しいのです。というのも、他国の先例では、きちんと管理して保護した方が漁師のリターンが大きいことがわかっているためです。
そもそも魚がいなければ、穫り放題であっても全く意味はありませんので、保護は大切なのです。気仙沼のサンマ漁師でも「目先の利益だけを見ても何の解決にもならない。安心して漁業をするためにも長期的にコンスタントに獲れる環境をつくってほしい」と批判している人がいたとのことした。
日本の水産資源管理の考え方は、間違っていると思われます。
●フィリピン当局「日本、韓国、ベトナム、台湾は魚泥棒」
2017/04/03:資源管理の話とは異なるのですが、フィリピンの漁業水産資源局が、フィリピンANCテレビのインタビューに応じ、日本や韓国、ベトナム及び台湾の「魚泥棒」が、ルソン島北東部の漁民の生計を脅かしていると、名指し批判していました。
国連海洋法条約では沿岸国の同意なしに勝手に他国がその大陸棚に入って探査・開発活動してはならないと定めているものの、衛星写真を見ると多くの外国船がフィリピン船と一緒になって魚を捕っているそうです。
これを受けて、中国のネットユーザーから、「日本、韓国、ベトナムそして台湾。恥知らず四天王」というコメントが出ています。ただ一方で、中国漁船批判がないことへの疑問の声も多く出ており、中国との関係が良好になったフィリピンが中国に配慮したという見方も出ています。
(
フィリピン、日本や韓国を「魚泥棒」と名指し批判=「中国の漁民のことには触れないとは良い子になった」―中国ネット Record China / 2017年4月3日 7時20分より)
ということで、これは資源保護ではない魚泥棒の話というだけでなく、外交的な問題という意味でも、かなり異色な話でした。
ドゥテルテで、フィリピンは親中国・反米に?南シナ海を諦める発言に近い話です。
ただ、日本の船も他国で魚泥棒しているとしたら、残念な話ではありますね。資源管理問題と同様に、「他国をとやかく言えない」ということになってしまいます。
●過去にもニシンを捕りすぎてダメにした日本
2017/11/16追記:日本が過去に捕りすぎでダメにしてしまった魚の例として、ニシンの話を。ニシン漁は江戸期から戦後にかけて北海道を中心に一大産業となりました。ニシン長者と呼ばれる大金持ちを生み出したほどです。しかし、現在の漁獲量は往時の1%にも満たず、輸入品が台頭しているといいます。
(
ニシン枯渇から学ばぬ日本の漁業:日経ビジネスオンライン 寺岡 篤志 2017年8月29日より)
このニシンが枯渇した理由は、現在の"クロマグロなどと通じる問題がある"と記事では指摘。日本を悪く言う話は好まれないので、紹介をためらうのですが、以下のような批判も出ていました。
「日本漁業の本質的な問題はニシン漁の頃から変わっていない」(「持続的なマグロ漁を考える会」の代表のマグロ漁師、高松幸彦さん)
「日本の漁業は制度もメンタリティーも江戸時代から変わらない」(東京財団の小松正之上席研究員)
●今も昔も捕れるだけ捕ってしまう日本漁師
私は知らなかったのですが、ニシン漁が衰退した理由として、水温の変化により、産卵行動が阻害されたというのもあるそうです。ただ、これは科学的根拠がなさそうな話。というのも、「ニシンが減少し始めた時期は、海水温の変化はまだ大きくなかった」(小樽市総合博物館の石川直章館長)ためです。
なので、やはり乱獲が進んだというのが有力でしょう。幕末期に「建て網」という2隻の船で魚群を取り囲む効率的な漁法が開発され、一気に捕りやすくなったようです。
また、現在の漁業問題に通じるというのは、「質より量を追い求める」という点。実は当時のニシンの9割以上は綿や藍などの肥料として用いられ、利益の大きい食用はごくわずか。しかし、当時の漁師は「量を取ればいいとしか考えなかった」(石川館長)といいます。
記事では、近年、養殖用の魚粉として利用され、資源が急減しているイワシなどに通じる問題だとしていました。ただ、
うなぎ・マグロ不足は食べ過ぎだから 稚魚まで獲るから当然減るでも利益の少ない稚魚まで捕ってしまう話が出てきましたからね。
それから、上記は昔の話でしたが、1980年代という比較的最近になっても同じことを繰り返しました。この頃一時期だけニシンの来遊があり、資源を回復させるチャンスだったのに、「また獲り尽くしてしまった」とのこと。マグロ漁師の高松さんは、「失敗に学ぶ姿勢が日本の漁師にはない」としていました。
●クロマグロで不正操業が相次ぎ発覚で約束破りに
もう一つ、現代との共通点として挙げられていたのが、漁獲規制への消極性。当時の漁師は魚の来る来ないは自分たちではコントロールできないことだと考えていたと、石川館は説明。そして、現在においては、規制の議論にしばしば疑問を投げかける日本漁業の現代の状況に似ると、記事は指摘していました。
ただ、こうしたことが本文にあるにも関わらず、コメント欄では、「いくら領海やEEZなどの線引きをしても海は広く魚の出入りは自由で回遊するから(中略)難しい」と書いている人がいました。実例を出してもダメみたいですね。
また、本文では、回遊範囲が広い魚種に関しては漁業者組織同士の漁獲争いが起こり、自主管理はしばしば破綻することを書いていました。これは外国との問題ではなく、日本人同士が争ってルールを守れないという意味です。
さらに、本文では、昨季にクロマグロを巡って不正操業が相次ぎ発覚し、国際会議で妥結した日本の漁獲枠を超過したとも書いています。つまり、日本こそがルールを破っているわけで、それらが明記されているにも関わらず、なお海外に問題があかるかのような言い方をする人がいるのは、日本人として恥ずかしいです。
●マスコミには外国叩きの周辺国責任説が人気
一応、フォローしておくと、コメント欄では記事に賛同すものも多く、"「特亜ガー」バカが非常に多くて呆れます"と書いていた人がいた他、以下のようなコメントもありました。
"テレビは資源の枯渇はこの10年とかの短期の問題ではなく周辺国の乱獲のせいにはできないのに、おもしろおかしく根拠のない周辺国責任説をもてはやし、ウナギもマグロも日本の乱獲、消費こそが資源の急減の原因であることを伝えない"
なので、現実を見ることができる人もいるにはいるんですけどね…。
【本文中でリンクした投稿】
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漁業衰退は政治の問題 先進国は成長産業なのに日本だけ衰退の謎 ■
うなぎ・マグロ不足は食べ過ぎだから 稚魚まで獲るから当然減る ■
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