初期に書いていて、普段読まれない
荒唐無稽?ベーシックインカムのメリットと問題点・批判と反論が珍しく読まれていて、日本の政治家が言及でもしたのかと思いました。すると、フィンランドが実施するとのこと。ついに来ましたか!…と思ったのですが、実際には誤報だったんだそうで、"誤報!フィンランドのベーシックインカム導入 実験ならカナダなどが実施"と言った話も追加しました。
2015/12/8:
●世界初!フィンランドがベーシックインカム導入 全国民に11万円支給へ
●ベーシックインカムの問題点である財源はどうなっているのか?
●オランダもユトレヒトで試験制度の導入を決定したとされている
●微妙なベーシックインカム…月11万円の支給額は安すぎるのでは?
●正直言うと微妙な内容…それでも極めて意義の高い壮大な社会実験
2018/04/25:
●実は誤報だった!フィンランドのベーシックインカム導入
●実験ならフィンランド以外で例がある…カナダなどが実施
2018/04/25:
●話題になったフィンランドはベーシックインカム実験、中止に
2019/02/17:
●フィンランドのベーシックインカム実験大失敗、期待はずれに終わる
2020/07/11:
●スペインでベーシックインカム導入決定と報道…でもまた誤報?
●ベーシックインカムを実施しても失業者は減らないというが…
2021/03/11:
●働かなくなるどころか働く人が増加した!アメリカでの実験結果 【NEW】
●低所得者にお金を渡しても少なくともタバコや酒に使うだけ? 【NEW】
●世界初!フィンランドがベーシックインカム導入 全国民に11万円支給へ
2015/12/8:ということで誤報だったのだそうですが、もともと話題になったときに出ていたのは、
フィンランド、国民全員に800ユーロ(約11万円)のベーシックインカムを支給へ - BusinessNewsline(Posted 21 hours ago, by James Jackson)という記事でした。誤報の指摘については後述します。
フィンランドが国民全員に非課税で1カ月800ユーロ(約11万円)のベーシックインカムを支給する方向で最終調整作業に入ったことが判った。(中略)
最近行われた世論調査ではフィンランド国民全体の約69%が導入に賛成の意見表明を行っており、現状のままで世論動向が推移した場合には、フィンランドは世界で初めて、ベーシックインカム制度を導入する国家となることとなる。
●ベーシックインカムの問題点である財源はどうなっているのか?
ベーシックインカム反対派は財源を問題にしますが、これは他の保障を廃止することでかなりの分を賄うことができます。
全国民に毎月11万円、フィンランドが世界初のベーシックインカム導入へ | BUZZAP!(バザップ!) 2015年12月8日09:37 by 深海
ベーシックインカムの実施には年間522億ユーロ(約7兆円)が掛かると試算されていますが、その代わりに全ての社会保障を停止する予定。Juha Sipila首相は「私にとってベーシックインカムは社会保障システムをシンプルなものにするということだ」と述べており、複雑化したシステムの維持にかかる費用を間接的に削減する効果もあると見込まれています。
●オランダもユトレヒトで試験制度の導入を決定したとされている
実は、ベーシックインカム実現に向けて走り出しているのは、フィンランドだけではないようです。BusinessNewslineによると、"西欧諸国の間では、オランダもベーシックインカム制度導入のための試験制度を来年から導入することを既に、決定している"とのこと。
BUZZAP!でも触れていて、こっちによれば、具体的にはユトレヒトで行われる試験みたいです。ただ、一都市での導入は極端な人口移動が起きるみたいな弊害があるんじゃないか?と、私は心配ですけどね。(EUの場合、人の移動が自由なので、一国でやっても似たような問題が出るかもしれません)
ユトレヒト - Wikipedia
ユトレヒト(オランダ語: Utrecht [ˈytrɛxt] ( 聞く) ユトレフト)は、オランダのユトレヒト州にある基礎自治体(フメーンテ)。オランダ第4の都市であり、ユトレヒト州の州都でもある。首都アムステルダムから30キロほど南に位置する。
人口 (2008年現在)
基礎自治体域 296,305人
●微妙なベーシックインカム…月11万円の支給額は安すぎるのでは?
一都市での導入は弊害…と書きましたが、もちろん国全体でやっても問題は多いと思います。過去投稿読み直さずに曖昧な記憶のままで書いちゃいますが、一番気になるのは支給額の問題です。
社会保障の廃止分の金額をそのまま全国民で割った場合は、当然ベーシックインカムの支給額は今まで社会保障で得ていた支給額より低くなります。私は特に障害者のような普通の人よりお金を得るのが難しい上に、生活するのにお金がかかりやすい人たちについて心配しています。
フィンランドの物価が不明ですが、「11万円」というのも実際、かなり安く感じます。これだと、日本で言う生活保護世帯でもキツくありません? 試しに軽く検索すると、これは年金の支給額すら下回っている感じです。おそらく働けない人にはキツイ金額でしょう。(関連:
年金で生活できないのは当然 年金は最低生活保障ではなく保険)
国民の62%が信頼するフィンランドの年金制度 - 靴家さちこ|WEBRONZA - 朝日新聞社 2012年05月15日
国民年金と所得比例年金の合計平均月額は1415ユーロ (約14万円)と、一般労働者の平均賃金の約6割に相当する。性別に分けると、男性が1610ユーロ (約16万円)、女性が1258ユーロ (約12万円)と、女性の方が低い。女性の平均賃金が男性より低く(男性の約8割)、育児などで女性の方が就職期間が短いことなどが原因とされている。
●正直言うと微妙な内容…それでも極めて意義の高い壮大な社会実験
とはいえ、私はこういったチャレンジには好意的です。BUZZAP!は、私が書こうと思っていたそのままの表現で、"ある意味壮大な社会実験とも言える今回の取り組みは世界的に注目されることは間違いなさそう"と書いていました。非常に興味深いチャレンジであることは間違いありません。
失敗したとしても、学術的な価値や他国の参考例(日本の政治家は馬鹿なので、失敗とわかっている軽減税率や朝型勤務に前向きなのですが)として、非常に意義深い社会実験です。
唯一付き合わされる国民はたいへんだと言えるものの、前述のように賛成が明らかに多いですから、ここもあまり問題になりません。このまま国民の同意を得られた中での実施になると、最高ですね。
●実は誤報だった!フィンランドのベーシックインカム導入
2017/04/27:…などと書いていたのですけど、誤報だったんだそうな。
フィンランドでベーシックインカム導入と“誤報” 実際の進ちょく状況は? | THE PAGE(ザ・ページ)(2015.12.26 18:01 同志社大学教授・山森亮)によると、英字紙記者が、情報源のフィンランドの地方紙の記事を読んだ際に、フィンランド語の知識が十分ではなく誤解。これに他の英字紙や日本メディアも追随したんだそうです。
では、実際のフィンランドの動きは?と言うと、ベーシックインカムの「給付実験」の検討中というもの。実験の実施をめぐる様々なアイデアや情報について、フィンランドで報道がなされており、そのうちの一つを、件の英字紙記者は誤読したと思われています。
あと、私は過去にベーシックインカムの類似の制度があり、参考にすることが可能で、なおかつそれはベーシックインカム推進派にとって不都合な内容なのではないかと予想していました。しかし、記事によると、1970年代にはアメリカとカナダで、今世紀に入って、ナミビア、ブラジル、インドで行われており、いずれも傾向としては、人々が生産活動に従事することを辞めたりはしない、という肯定的な結果が得られているとのことでした。
●実験ならフィンランド以外で例がある…カナダなどが実施
また、こうしたベーシックインカムの新たな実験として、カナダ・オンタリオ州のニュースが入ってきました。
貧困層にベーシックインカム試験導入、カナダ・オンタリオ州:時事ドットコム〔AFP=時事〕(2017/04/26-14:42)という記事です。
カナダのオンタリオ州は、貧困ライン以下で生活する4000人を対象に3年間にわたって、ベーシックインカム(最低所得保障)制度の試験導入することを発表。受給者と公共財政への影響を測ります。
収入を補助する額は各年、単身者の場合で1人当たり最高1万6989カナダドル(約140万円)、夫婦で最高2万4027カナダドル(約195万円)で、障害者にはさらに6000カナダドル(約50万円)が支給されるとのことでした。
ただ、貧困ライン以下だけ支給というのは、ベーシックインカムの理念と全然違いますからね。また、実験の場合は支給が停止されることが予見できてしまいます。恒久的なものとは全然違っていて、そもそも全然ベーシックインカムと似ていないようにも見えます。
先ほどの肯定的な結果が得られているという各国の実験もそうなのですが、この「恒久的」ってところは全くクリアできていない可能性があります。ここらへんはいつか調べてみたいですね。
●話題になったフィンランドはベーシックインカム実験、中止に
2018/04/25:フィンランドはベーシックインカム導入ではなく実験でした…というのが前回の追記でしたが、この実験も中止になったとのこと。で、この説明を見ると、それってそもそも全然ベーシックインカムじゃなくね?というものでした。
今回の記事によると、フィンランド政府は、既存の失業給付がとても高額なため、失業者の就業意欲を低下させる原因になっていると主張しており、失業者の就業意欲を高める目的で、長期失業者の一部を対象にベーシックインカム制度を試験導入したという経緯があったそうな。実験期間中に対象者が就業したとしても支給をやめないため、失業者は早く再就職して支給金との両取りを狙うはず…というシナリオのようでした。
で、フィンランド政府はベーシックインカムの対象を一部の長期失業者のみに。これじゃあ、単なる失業保険の改悪版でしょう。ベーシックインカムとは全然違うく見えます。実際、ベーシックインカムの支持者たちは「フィンランドの全国民を対象にすべきだ」と主張していました。
そして、フィンランド政府の目的が全然違うものであるため、中止となったのもそちらの関係。失業者に対し「最低18時間の労働を行うか、3カ月間の訓練プログラムに参加すること」を求めており、仕事が見つけられなかった場合には、失業給付を減額すると規定した、失業者の就業意欲を高めるための新しい法案を可決したためという理由でした。
ベーシックインカムの専門家であるオリ・カンガス教授は「信頼できる結果を得るには時間とお金をかけるべき」ともしていたのですけど、そもそもまともな実験をするのは大掛かりすぎて難しすぎるのもかもしれません。
(
フィンランドの「ベーシックインカム実験」が2018年12月で中断 - GIGAZINEより)
●フィンランドのベーシックインカム実験大失敗、期待はずれに終わる
2019/02/17:フィンランドのベーシックインカム実験の続報。中止になったとはいえ、途中までのデータはあり、2年間のうち1年目の調査結果が発表されました。前回書いたように、このベーシックインカムは目的がへんてこ。失業給付が就業意欲を低下させる原因になっていると主張して、失業者の就業意欲を高めようというものでした。ところが、参加者の就労状況はそれほど改善されなかったとのこと。結局、一番期待したことは駄目だったみたいですね。
実験では、従来の基礎失業給付や労働市場補助金を停止する代わりに月額560ユーロ(約7万円)のベーシックインカムを支給しました。ただ、ベーシックインカムの実験参加者の年間雇用日数は49.64日で、それ以外のグループの49.25日に比べてわずか0.39日多いだけ。つまり、失業給付が就業意欲を低下させている…ということではなかったようです。
また、自営業では実験参加者の年収は4230ユーロ(約52万6000円)で、それ以外のグループの4251ユーロ(約52万8600円)より21ユーロ(約2600円)逆に少なくなる結果に。おそらくこれも従来の失業給付が就業意欲を低下させているという仮定で、そうではない制度の実験参加者は年収が上がることを期待していたのでしょう。大失敗です。
(
「おカネをただで配りましょう」ベーシックインカム実験の結果はどうなった フィンランドからの報告(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース 2/9(土) 19:36より)
なお、この結果は、「生活保護給付額が高額なせいで、わざと働いていない」といった主張をも怪しくさせるものかもしれません。残念なことではありますが、おそらく現実には「働けるのにお金がもらえるからわざと働いていない」ではなく、「様々な理由で働けない」という人が多いのだと思われます。
●スペインでベーシックインカム導入決定と報道…でもまた誤報?
2020/07/11:新型コロナウイルスの問題が拡大したときに、ベーシックインカム的なものを検討する国があるのではないかと思っていました。で、実際スペインがやる…と聞いて記事を探してみたものの、これまたベーシックインカムとは違うように見えますね。
ベーシックインカムと報じているところが多いものの、
スペイン、低所得世帯に最大月12万円 コロナで計画加速 | NewSphere(2020年6月6日)はタイトルにベーシックインカムがない記事でした。そもそもベーシックインカムとは異なるだろうというタイトルですよね。このタイトルからすると、むしろ生活保護に性質が似ていると感じます。ただ、本文読んだら、やはりベーシックインカムという書き方でしたわ。
<新型コロナウイルス感染が拡大したスペインでは、ロックダウンの影響もあり、生活に苦しむ人が増えている。政府は弱者救済のため、ベーシックインカム(BI)制度を閣議で承認した。これまで各国でBIの可能性が議論されており、パンデミックを機に制度を導入する初の国として注目を浴びている>
上記の後、<今回の決定は、国民全員に一定額を給付するユニバーサル・ベーシックインカムとは異なり、実質的には最低所得保障となる>としています。やはり生活保護に近い性質だと感じます。もともと選挙前からの公約であり、新型コロナウイルスによる経済悪化で加速される結果となったと説明されていました。
●ベーシックインカムを実施しても失業者は減らないというが…
なお、ブリュッセルのシンクタンクのシニア・フェロー、Zsolt Darvasさんは、給付によって働かず家にいることが助長されるようなら間違いだとしていました。ただ、前述の通り、フィンランドでは給付金を減らしても収入はほとんど変わっていませんでしたからね。給付金と労働意欲とは、あまり関係がなさそうに思えます。
一方、記事では、フィンランドやイタリアでも同様のプログラムが実施されたものの、給付で失業率が低下するという証拠は得られなかったとも強調。ただ、生活に苦しむ人に給付金を与えるというものなので、失業率上昇が目的ではなく、ずれた攻撃のように見えました。ベーシックインカム類似精度のせいで失業者が上昇する!って批判ならまだわかるんですけど…。
記事では、他にも反対意見を中心に展開。左派からも政府の所得保障を盾に雇用者が労働者に低い賃金を提示する可能性を危惧する声が出ています。ただ、オックスフォード大学の調査では、欧州では70%の人々がBIのコンセプトを支持しているということで、庶民の支持はかなり得ているみたいですね。
●働かなくなるどころか働く人が増加した!アメリカでの実験結果
2021/03/11:今度は
米国初のベーシックインカム実験に関する結果報告書が発表、その成果は...... | ニューズウィーク(2021年3月8日)という話。私は働かなくても暮らしていけるベーシックインカムのイメージが強かったのですが、今回もそういう高額のベーシックインカムではありません。安いベーシックインカムばっかりですね。
米カリフォルニア州北部に位置する人口31万人超のストックトン市では、寄付をもとにマイケル・タブス前市長のもと、市民125名を対象に毎月500ドル(約5万4000円)を24ヶ月間支給する米国初の社会実験が2019年2月に開始されているそうです。この実験は働かなくても暮らしていけるベーシックインカムではないだけでなく、期間限定であることにも注意が必要でしょう。
フィンランドのベーシックインカム実験と似た感じもしますが、アメリカの結果はフィンランドよりポジティブなものとなりました。失業者ではなく、「18歳以上のストックトン市在住者で、世帯収入が中央値の4万6033ドル(約497万円)以下」という条件を満たす市民から受給者を無作為に選出したものだったためかもしれません。
テネシー大学のシテイシア・ウェスト准教授らが初年度のデータをまとめた予備調査結果報告書によると、受給者におけるフルタイム労働者の割合が2019年2月時点の28%から1年後には40%まで大幅に増加。非受給者(おそらく実験に参加していない人)でのフルタイム労働者の割合は2019年2月時点の32%から1年後には5%増の37%だったので、それを上回っています。驚くべき結果になりました。
●低所得者にお金を渡しても少なくともタバコや酒に使うだけ?
受給者は、毎月500ドルの追加収入を得ることで、よりよい給与を求めてパートタイムの仕事からフルタイムの仕事へと転職に向けた活動がしやすくなったり、失業中、交通費など、求職活動に必要な資金をまかなうことができ、就職につながりやすくなったとみられるとのこと。ただ、前述の通り、期間限定のベーシックインカムですから、そうではない場合どうなるかは不明です。
実験では、毎月、デビットカードを通じて500ドルを支給し、その使途を追跡。食費に充てる割合が最も多く、約4割を占めたほか、日用品や衣料品の購入、光熱費、交通費に使われていました。また、生活保護バッシングで多いタバコや酒類の購入に使われた割合は1%未満と非常に少なかったようです。
タバコや酒類は隠蔽のために、支給デビットカード以外で集中して購入した可能性もあるでしょう。ただ、大量購入するとなると、支給デビットカードを使う機会が増えたと思われます。「低所得者にお金を渡しても少なくともタバコや酒類ばかりに使って何の役にも立たない!」なんてことはないとは考えられそうです。
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