岡山大学の研究不正についてまとめ。<架空の実験で113カ所の捏造改ざん、神谷厚範岡山大学教授>、<神谷厚範教授、懲戒解雇に 「本人弁明せず」だが不正は否定?>、<「地震でHDDが壊れた」「紙資料も薬液に浸かって捨てた」と説明>、<過去には「証拠はコンテナごと海に落ちた」で言い逃れ成功の例も>などをまとめています。
5番目に追記
2023/05/22追記:
●どう計算しても実際のマウスの数と合わない 同一画像使い回しも
2023/06/04追記:
●国立循環器病研究センターも教授を懲戒解雇処分相当と決定
2023/06/13追記:
●過去には「証拠はコンテナごと海に落ちた」で言い逃れ成功の例も 【NEW】
●架空の実験で113カ所の捏造改ざん、神谷厚範岡山大学教授
2023/04/02:久しぶりに大型案件かな?という研究不正が発生。<「これだけの捏造は前代未聞」岡山大学教授の論文で不正発覚 がん新治療の研究で【岡山】 | OHK 岡山放送>(2023.03.24)という仰々しいタイトルの記事が出る事態になっていました。
<(岡山大学・那須保友理事)
「113カ所にも及ぶようなねつ造は、明らかに前代未聞」
岡山大学によりますと、論文のねつ造・改ざんが明らかになったのは、岡山大学学術研究院医歯薬学域の神谷厚範教授(56)です。神谷教授が2019年に発表した、がんの新しい治療の可能性を示す内容の論文について、広い範囲が架空の実験結果で構成され、大量の不正行為が認定されたということです>
<実験は、神谷教授が国立循環器病研究センターに在籍していた頃に行われ、同じ画像が、何回も使われていたり、使われたマウスの数が明らかに少ないなど岡山大学が113カ所のねつ造を確認しました>
https://www.ohk.co.jp/data/26-20230324-00000015/pages/
一方、神谷厚範教授は「画像の取り違えがあった」と主張し、不正については否定。また、同じ記事によると、岡山大学は現在、岡山商科大学法学部で教授を務める吉岡伸一名誉教授が、岡山大学在籍中に2つの論文で、他の研究者の論文を盗用していたこともいっしょに発表していたようです。
●神谷厚範教授、懲戒解雇に 「本人弁明せず」だが不正は否定?
2023/04/18追記:少しずつ追記しようと思っていたら忘れていました。で、忘れているうちに続報。「明らかに前代未聞」と言われていただけあって、「懲戒解雇」という最大限厳しい処分となったようです。< 4年前発表の論文 100か所超えるねつ造 岡山大教授を懲戒解雇>(2023年4月17日 18時37分 NHK)などの記事が出ていました。
<岡山大学は、4年前に発表されたがんに関する論文に100か所を超えるねつ造があったとして、56歳の教授を懲戒解雇したと発表しました。
懲戒解雇の処分を受けたのは、岡山大学学術研究院医歯薬学域の神谷厚範教授(56)です。
大学によりますと、神谷教授が4年前に発表したがんに関する論文について、匿名の告発を受けて、大学と神谷教授が以前研究を行っていた国立循環器病研究センターが調査したところ、論文に記載された実験に必要なマウスの数に比べ購入するなどした数が大幅に少なく、実験を行うことは不可能だとして、大学は先月、113か所のねつ造があったと認定しました>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230417/k10014041191000.html
調査に対し神谷教授は「(引用者注:マウス数が極端に少ないのは、)マウスを再利用した」などと説明して不正を認めていないそうです。一方で、
岡山大、論文捏造で教授懲戒解雇 悪質性高いと判断、本人弁明せず|秋田魁新報電子版(2023年4月17日)とする記事もあり、一見矛盾するように見えます。
この記事の「本人弁明せず」というのはどこから来たか?と言うと、<処分通知の際に弁明の機会を与えたが、口頭でも文書でも意見は出なかった>というところからですね。過去には弁明の機会に証拠を出さずに不正を否定し続けた人も確かいたはずで、今回のケースでも「本人が不正を認めた」とは限らないと思われます。
●「地震でHDDが壊れた」「紙資料も薬液に浸かって捨てた」と説明
2023/04/22追記:過去の記事で私が気になっていたのは、「HDDが壊れた」という説明が教授からあったという話。<岡山大で研究不正 113カ所の捏造 「HDDが壊れたからデータ破棄した」として調査協力拒否>(22/3/27(月) 19:36配信 ITmedia NEWS)という記事が出ていました。
「ひどい言い訳」という反応があったものの、HDDが壊れることは十分あり得ます。ただ、幸い<システムに残っていた画像のプロパティなどから捏造が分かった>とされていました。この他、「紙資料も薬液に浸かって判読不能となり破棄した」という説明もあったそうです。
<教授は「地震でデータを保存していたHDDが故障した」として調査に必要なデータの提出を拒否したが、システムに残っていた画像のプロパティなどから捏造が分かった>
<調査に当たり教授に論文データの提出を求めたところ「2018年6月の大阪北部地震で実験データを保存したHDDが落下し故障したため破棄した」「紙資料も薬液に浸かって判読不能となり破棄した」として提出を拒否した。しかし、関係者へヒアリングしたところ、これを裏付ける証拠は見つからなかったという>
https://news.yahoo.co.jp/articles/e755da8db6cfca7a7b496554000d2d916de4a092
なお、補足しておきたいのは、研究の場合、刑事裁判とは違い、研究者側に証明義務があるということ。なぜかと言うと、論文は研究者側に利益があるためです。裁判で言うと、民事で訴える原告側のイメージであり、証拠不十分で言い分を安易に聞いてしまうと問題が起きます。ヤフーニュースでは、以下のようなコメントもついていました。
<実権データも国有財産なのでね、HDDが壊れたから現物がありませんという言い草は通用しない。
少なくともHDDは「当座のstorage」であることは誰でも承知している事なので、①オリジナルデータ(加工前の画像や分析機器からレコーダーへの直接アウトプットなど)、②そのハードコピー、③HDD、④それを落としたCDなど、⑤実験記録(実験ノートなど)、複数が揃えられていて当たり前。
特に①、②、⑤が重要。これらをしていなかったら研究者として失格であるし、その様に求めていなかったとしたら大学も甘い。そんな脇の甘い大学だと、「論文不正はこの教授だけか?」と思ってしまうね>
●捏造で大きな成果と大きな迷惑?有名誌掲載で引用多数だった
2023/04/30追記:今回不正のあった論文は、結構注目された論文であった可能性があります。誰も気にしないようなつまらない研究であっても不正はもちろんダメなのですけど、重要論文での不正の方がより悪質だとは言えるでしょう。成果の捏造による不当な利益が大きい上に、多くの研究者に迷惑をかけるためです。
<問題の論文は、マウスの乳がんに関する実験研究で、英専門誌ネイチャーニューロサイエンスに2019年に掲載された。(中略)
岡山大は17日に会見し、懲戒解雇処分について、「悪質性が高く、論文が100件以上引用され、影響も大きい」点を重く見たと説明した。那須保友学長名で「人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げ、冒瀆(ぼうとく)するもので、決して許すことはできない」とするコメントも発表した>
(
岡山大、教授を懲戒解雇処分 乳がん研究論文で113カ所の捏造認定:朝日新聞デジタル 原口晋也2023年4月18日より)
論文が掲載されたネイチャーニューロサイエンスは、あのネイチャーの兄弟雑誌。ネイチャー系雑誌は多く、その中で特に有名ってことはない感じですが、ニュースでもちょくちょく出てくるので「有名雑誌」ではあるでしょう。「脳科学に特化」といった解説が見られます。脳科学は今回の乳がん研究とは違う分野な気がしますけどね。
●どう計算しても実際のマウスの数と合わない 同一画像使い回しも
2023/05/22追記:前々回に使った<岡山大で研究不正 113カ所の捏造 「HDDが壊れたからデータ破棄した」として調査協力拒否>(22/3/27(月) 19:36配信 ITmedia NEWS)では、画像で捏造と判断した理由に関する情報もあったのに、紹介するのをすっかり忘れていました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e755da8db6cfca7a7b496554000d2d916de4a092
まず、マウスの数の問題。例えば、ヌードマウスについての「論文上の記載数」は874匹という膨大なものでしたが、「実際に使用できたと考えられる動物数」は65匹にすぎません。「同一個体の複数の乳腺にがん細胞を移植したと仮定した場合の最低数」であっても110匹。874匹とは遠い数字となりました。
この「同一個体の複数の乳腺にがん細胞を移植したと仮定した場合の最低数」というのは、「最低数」とあるので、おそらく考えられる最大限、神谷厚範教授に有利なように計算した結果じゃないかと思います。神谷厚範教授は使い回ししたと主張していたため、使い回ししても無理でしょ…といった指摘かもしれません。
マウス数については、ヌードマウス以外についても、ことごとく「実際に使用できたと考えられる動物数」よりはるかに多い数が論文に登場。また、撮影日が60日離れてなければいけないところが、同日に撮影された画像が使われていることも判明。またそれこそ同一画像を別の画像と称して「使い回し」している例もあったそうです。
●国立循環器病研究センターも教授を懲戒解雇処分相当と決定
2023/06/04追記:すでに退職しているために飽くまで「処分相当」であり、実際の処分はないのですけど、神谷厚範教授の以前の所属先・国立循環器病研究センターでも処分を発表。
論文捏造の岡山大元教授 「許されない」 国循が懲戒解雇処分相当:朝日新聞デジタル(吉備彩日2023年5月31日)などの記事が出ています。
<国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)は5月31日、研究論文に捏造(ねつぞう)があった循環動態制御部元室長の神谷厚範・元岡山大教授(56)について、懲戒解雇処分相当と決定したと発表した。>
<問題となった論文は、2019年に英専門誌ネイチャーニューロサイエンスに発表したマウスの乳がんに関するもの。(中略)、研究当時所属していた国循と、論文発表当時に所属していた岡山大が調査を開始。岡山大は今年3月、113カ所の捏造を認定したと発表し、4月14日付で神谷氏を懲戒解雇処分にしていた。>
●過去には「証拠はコンテナごと海に落ちた」で言い逃れ成功の例も
2023/06/13追記:<「地震でHDDが壊れた」「紙資料も薬液に浸かって捨てた」と説明>のところの補足で別の大学の研究不正の話をやりたいと思っていたのに、他の話を優先していたために遅れました。「地震でHDDが壊れた」などは、とんでもない言い逃れだと思ったでしょうが、実は過去にこういう言い訳が通用したケースがあるのです。
<井上明久東北大総長の論文に対して研究不正の告発があった問題で、共同研究者の張涛・北京航空航天大(中国)院長が27日、仙台市青葉区の東北大片平キャンパスで記者会見し、告発の内容を否定した。論文の正当性を裏付ける当時の実験記録や試料などは「紛失した」と釈明した。
当時の実験内容を記したノートや作製した金属ガラスについては2003年に帰国する際、「韓国の運送会社に依頼して送ったが、中国・天津の港で
コンテナごと海に落ちた」と説明。論文をまとめるために作ったほかの試料は一切残っていないという>
これはノーベル賞候補などと言われた東北大学の総長の研究不正疑惑でした。「総長」という大物であったために、不正を認定するのにめちゃくちゃ時間がかかり、訴えらるなどで不正を指摘した研究者側がむしろ不利益を被っていました。研究不正では偉い人だと不正が認められないというケースがしばしばありますね。
●名大卒で国立循環器病研究センターが長かった神谷厚範教授
2023/04/02:検索しても神谷厚範教授の良い経歴が見つからなかったので、
Wikipediaを見て年表形式でまとめ直します。大学は浜松医科大学で、学位は博士(医学)は名古屋大学。名古屋大学の助手から、国立循環器病センター研究所に行き、ここの在籍が長く、岡山大に来たのは比較的最近だったみたいですね。
1994年 浜松医科大学医学部卒業
2000年 名古屋大学大学院医学系研究科博士課程修了
名古屋大学環境医学研究所助手
2002年 国立循環器病センター研究所循環動態機能部室員
2009年 国立循環器病研究センター循環動態機能部室員
2010年 同研究員
2015年 同上級研究員
2017年 同循環モデル解析研究室長
2018年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授
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