違法コピー、違法ダウンロードの問題と言うと、音楽・映像・ソフトウェア・ゲーム・漫画に関するものが主流でした。ところが、ついに研究論文の世界でも違法コピーが問題になってきたようです。違法コピーに関する論文って意味じゃないですよ、論文を買わずにコピーしてみんなで共有しちゃいましょう!という話なんです。
その後、<有料論文の海賊版の違法ダウンロード、日本でも多いことが判明>などの話を追記しています。
2023/06/13追記:
●日本の論文海賊版サイト違法ダウンロード、5年で5倍超に増加 【NEW】
●違法コピー・ダウンロード、音楽や漫画だけなく研究論文の世界でも
2016/1/19:音楽や映像に関する違法コピーについては、過去に以下のようなものをやっています。
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世界の音楽売上金額の推移 ピークは1999年、違法ダウンロードの影響? ■
ファイル共有サイトの違法ダウンロードは、むしろ映画収益に貢献していた?音楽の刑罰化も逆効果? 一方、今回の話は、
秘密のことばで論文を違法に「シェア」する若手研究者たち « WIRED.jp(2015.11.15 SUN)という記事で載っていたもの。専門誌があまりにも高額になりすぎて、大学や研究機関では購読できないため、多くの科学者たちが、論文の違法ダウンロードの力を借りるようになっているというものでした。
最初に「問題になってきたようです」と書いちゃいましたが、違法コピーしている人が実名で堂々と出ています。他の分野と異なりますね。Twitterのハッシュタグ#IcanhazPDFを立ち上げたという、認知科学の分野の科学者で科学ジャーナリストでもあるアンドレア・クシェウスキさんが出ていました。
(なお、なぜか日本語表記がブレていて、クシャウスキーとなっている部分もあります)
この#IcanhazPDFというハッシュタグは「PDFもらえますか?」という意味で、これに応じてきてくれた「誰か」がいたら、会話を非公開にしてやり取りするというわけです。
●研究論文ならコピーOKなのかと思いきや、著作権侵害は著作権侵害
ただ、やっぱりこれは著作権侵害なんですよ。実際にカザフスタンの科学者アレクサンドラ・エルバキアンさんのつくったSci-Hubという論文交換サイトは、名前をよく聞く『ランセット』という有名学術誌を出版しているエルゼヴィアに訴えられていました。
クシェウスキさんは、以下のように悪びれた様子はなく、当然のことといった感じの説明。ただ、この説明には無理があるように感じます。研究論文のところをそれ以外のものに置き換えてみると、無理があることがわかりやすいでしょう。
「窃盗は、あなたが物を盗んで誰かから所有権を奪うときに起こるものです。著作権の侵害の場合は、あなたは誰からも何も盗みません。多くの科学者は、こうした論文にアクセスしなければ、研究ができません。その理由は、購読に費用がかかりすぎるからなのです」
●研究論文の違法コピーについては賛同多数、出版社をボロ儲けと批判
ところが、
はてなブックマーク - 秘密のことばで論文を違法に「シェア」する若手研究者たち « WIRED.jpの反応は好意的なものが多くて驚きました。
“↓途上国どころか日本でも地方大学なんかだといわゆる一流誌にカテゴライズされる雑誌でも読めなかったりしますよ。雑誌の数が増えすぎてて大学予算では購読しきれない。”(pseudomeme 2015/11/15)
“こういう違法の形だと説得力を持たないのでダメだとは思う。しかし、エルゼビアはじめ独占高騰させる出版社は、研究者による無償相互査読による質の保証の仕組み自体に寄生した悪徳商法にしか思えんのよね。”(augsUK 2015/11/15)
“論文を入手するだけなら他にも合法的な方法はあるわけで。あえて違法な方法を人目につく形でやることに意義を感じているんだろうな。出版社への抗議の一形態ではあるのだろう。その気持ちはわかる。”(AFCP 2015/11/15)
●実は違法行為なしでも大丈夫?論文著者に言えば論文をくれる
一方、おもしろかったのは、上記とは異なる方法の入手の仕方を書いていた人が複数いたことです。
“大体の場合は論文の著者にメールすれば送ってくれるよ。著者としても多くの人に論文をよんで欲しいし”(ynhl 2015/11/15)
“科学論文の場合には、著者にいえば別刷り的なPDFもらえるのではないのかしら(分野で話は違いそう)。”(hyuki 2015/11/15)
雰囲気からすると、「これなら合法」といった感じでした。でも、本当にそうなんですかね? 論文の内容が同じであるのなら、やはり非合法の可能性があるのでは?と心配です。
●違法サイトについて裁判所、検索やISPでのブロックを推奨
2017/10/07:カザフスタンの科学者アレクサンドラ・エルバキアンさんのつくったSci-Hubに関する新たな記事がありました。
まず、2017年6月には米国出版社協会との裁判の結果、エルバキアンさんに対して賠償金を支払うこと、およびウェブサイトを閉鎖することが命じられています。しかし、Sci-Hubはこれまでに下された裁判所命令を全て無視。サイトのドメインを変更するなどして生きながらえてきています。
さらに、アメリカ化学会(ACS)も2017年6月28日にSci-Hubをバージニア州東部地区連邦地方裁判所に提訴。Sci-Hubは訴訟について認識していたものの裁判に現れませんでした。そこでSci-Hubに対して求められた要求が通ることになりました。
この裁判で特筆すべき点は、賠償金だけでなく、インターネットの仲介業者がSci-Hubに対して何らかの措置を行うことも求められていた点です。John Anderson判事は、この措置としてサーチエンジンやISP、ドメイン登録業者などに対してSci-Hubのドメイン名をブロックするという内容を推奨しました。
実を言うと、ドメイン名に関しては過去の裁判でも同様の命令が下されていました。しかし、Sci-Hubはドメイン名を変更することで、この措置をかいくぐってきたので、あまり効果はなかったのです。一方で、サーチエンジンやISPに特定のウェブサイトのブロックを求めるような措置はアメリカで初めてだといいます。
Sci-Hub自体はISPからブロックされないTorバージョンのウェブサイトを複数持っており、科学者はこれからもサイトにアクセスできると説明されていました。ただ、今後トラブルに巻き込まれるのを避けるため、インターネットサービスを提供する企業が、何らかの対応を行うかもしれません。
(
科学論文の海賊版サイト「Sci-Hub」がサーチエンジンやISPからブロックされる可能性が浮上 - GIGAZINE 2017年10月04日 12時00分00秒より)
●有料論文の海賊版の違法ダウンロード、日本でも多いことが判明
2020/02/01:日本での論文違法コピーに関する記事が出ていました。
有料論文に海賊版サイト 国内の不正入手、127万件:朝日新聞デジタルというものです。「海賊版サイト」というのは、もちろんSci-Hubのことです。
Sci-Hubでは、出版社のサイトで論文を読むのに必要なIDやパスワードを、正規に購読する大学などに所属する協力者から入手したとみられ、有料の論文を自由に読める状態にしています。これによる出版社側が受けた被害の総額は不明。ただ、2017年には中国やインド、アメリカなど世界中で延べ約1億5千万件の論文が、このサイトからダウンロードされたとみられています。
そして、日本では、2019年、延べ約127万件の論文がダウンロードされたことが、琉球大などの解析で分かったとのことでした。1年だけでこの数字ですから、それ以前を加えるともっと多いでしょうし、今後はさらに増えると思われます。(2023/06/13追記:その後、実際、激増していたので、以下に追記しました)
●日本の論文海賊版サイト違法ダウンロード、5年で5倍超に増加
2023/06/13追記:やはり、その後、海賊版サイトの利用が増えている模様。
論文海賊版サイト、日本の違法ダウンロード720万件 5年で5倍超
スクープ 鳥井真平 毎日新聞 2023/6/6 05:30(最終更新 6/6 15:49)という記事が出ていました。もともと書いていたサイトである「Sci―Hub(サイハブ)」のデータですね。
<有料の学術論文をインターネット上に無料で公開する違法な海賊版サイトの利用が急増し、日本からのダウンロード数が2022年に延べ約720万件に上ったことが毎日新聞の調査で判明した。比較可能な17年の5・6倍に当たる。>
<毎日新聞はネット情報を保存するアーカイブサイトから、サイハブが22年に公開した月別ダウンロード数を集計した。その結果、中国の入手件数が延べ約4億6741万件と最も多く、米国▽ロシア▽ブラジル▽インド――と続いた。
日本は約720万件で、国別では14位。琉球大などのチームの調査によると、17年は約127万件(28位)だった。5年間で5・6倍に増えた計算になる。>
文部科学省などによると、21年度に国公私立大が支出した購読料は電子版だけで約329億円と、04年度の5倍以上に増加。よく言われているように、論文購読料は高騰しています。一方で、日本では大学が国から受け取る運営費交付金は削減が続いており、出版社との購読契約を縮小する大学も登場。この予算削減は世界の傾向と異なるとも聞いたことがあります。
【本文中でリンクした投稿】
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世界の音楽売上金額の推移 ピークは1999年、違法ダウンロードの影響? ■
ファイル共有サイトの違法ダウンロードは、むしろ映画収益に貢献していた?音楽の刑罰化も逆効果?【関連投稿】
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