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安倍首相とトランプ大統領に学ぶ交渉力 無理な要求の提示は効果的?


 安倍首相とトランプ大統領の首脳会談を見ていて、これはふっかけ交渉の例かもと思ったので、過去の投稿を全体に見直して再投稿。最初に2011/2/18に書いた「交渉はふっかけ」。そして、その後に「米国と交渉するために、嫌がることをする北朝鮮」(2010/11/30)。最後に今回の書き下ろし分である「安倍首相とトランプ大統領に学ぶ交渉力 無理な要求の提示は効果的?」を入れます。

2011/2/18:
●交渉力に英語力は不要、日本人がトップレベルの成績に
●MBAの授業で判明「最初の要求は高ければ高いほど良い」
●アラビアの10万円の絨毯を「100円で売ってくれ」
2010/11/30:
●アメリカと交渉するために、わざと嫌がることをする北朝鮮
●相手の嫌がることをすることで、外交カードが増えていく
2017/02/12?:
●安倍首相とトランプ大統領に学ぶ交渉力
●無理な要求の提示は本当に効果的?
2017/04/08:
●安倍政権、交渉下手すぎ!産経新聞も批判 一時帰国していた駐韓大使らが帰任
2017/05/10
●"保守派、北朝鮮情勢緊迫と主張 → 安倍首相は民主党時代中止した花見大会を決行
2019/12/03:
●日米貿易交渉、優位の状況なのに一方的に要求を受け入れることに…


●交渉力に英語力は不要、日本人がトップレベルの成績に

2011/2/18:攻撃的な交渉が上手は誤解 実は凄腕交渉人は正直者だった!で書いたように、きちんと研究された証拠のある交渉スタイルとしては、高圧的な態度で望んだり、無理な要求を提示したりというものではなさそうでした。

 ところが、そういったスタイルの交渉が良いとオススメしている人は、現実にはたくさんいます。例えば、向こうで紹介した日経ビジネスオンラインの記事と同じ日に、同じサイトで欧米ビジネスの攻めのテクニックを身につける 核心は「ふっかけ」 林 則行 2011年1月28日というな記事がありました。

 これは何度か書いている「英語は道具:銅メダル英語を目指せ」という英語に関する連載記事ですが、英語の問題よりも、価格交渉には「ふっかけ」が重要だよという話です。

 英語力に関して、著者は交渉術の授業を受けるとき、「ぼくは留学生で人一倍英語が苦手です。交渉になると、相手の英語を聞き取り、自分の主張をしないていけません。ぼくにできるでしょうか」 と先生に相談したそうです。しかし、先生は何も心配する必要がないといった感じで、以下のように説明しました。

「相手は君と交渉しなくてはいけないんだ。自分の言っていることが分かってもらえなかったり、君の主張が分からなかったりしたら、交渉にならない。向こうは勝つために君の論理を徹底的に聞いてくるぜ」
「英語なんて心配ないさ。それより勝てる理屈を展開することだ。その方がずっと大事だよ」

 そして、実際英語力は関係なく、著者はクラスでトップレベルの成績となりました。著者は決して譲らなかったので、交渉中に何度も「お前には腹が立つ」と言われたものの、「お前の英語は分からないよ」とは言われませんでした。英語力はあんまり関係ないのです。


●MBAの授業で判明「最初の要求は高ければ高いほど良い」

 上記自体は特におかしいところがないと感じます。問題の「ふっかけ」に関する話が出てくるのは、この後でした。

 著者はMBAで学生を二手に分けて、5年もののカローラを売買するという授業を受けたことがあるそうです。

 その売買交渉を教授が黒板にその価格を書いてとき、学生たちは騒然とし始めました。黒板に表れた最も高い価格が100万円だったのに対し、最も安いのは1万円という極端な差が出ました。

 この理由は「最初の提示価格が高かった方が最終価格が高くなる」というシンプルなものです。交渉の要点は「中を2つで割る」ことで、「俺も泣く、お前も泣け。だからここで折り合おう」という考え方であり、最初の価格が高いほどその中値が高くなるのは自明とのこと。

 教授は授業の最後に「交渉はふっかけだよ」で締めくくりましたが、学生たちの間にはどよめきが起こりました。MBAでは高度な理屈を駆使した手法が紹介されると思っていたところ、交渉の本質は「こんな簡単な原理」であり、衝撃的だったのだと言います。


●アラビアの10万円の絨毯を「100円で売ってくれ」

 個人的な体験は証拠とはならないものの、著者は自分の体験談も紹介していました。

 アラビアで絨毯を買おうとしたときに、相手は10万円という価格を最初に提示しました。著者が「それは高い」と言うと、「いくらならいいんだ」と言うので、「100円だ」と言ったそうです。

 当然、相手は目を丸くして驚きましたが、「そんな無茶なことを言うならもう帰ってくれ」とは言いませんでした。市場には絨毯屋が数十軒も並んでいるので、他の店に客を取られてしまうだけと判断したようです。

 それから、「少し安くしておく。8万円ではどうだ」「300円なら買う」といった調子で交渉していき、「俺も貧乏。お前も貧乏。これで勘弁してくれ」となり、2万円で折り合ったそうです。

 ただ、著者は予め最も安く買った欧米人が当初価格の5割台で、かつ厳しい交渉をしていないのが分かったため、8割引きくらいはいけると判断していた、考えられる限りのみすぼらしい格好をして行ったという工夫もあるようです。

 記事では、交渉の極意を身に付けた人は、最初の提示でふっかけ、それを正当化するまことしやかな理屈と押しの強さでせまってくるとありました。

 そうすると、こちらも同じ手を取らざるを得ず、そのうち相手側も態度が軟化してくるそうです。しかし、それでも簡単に妥協してはいけませんとしていました。


●アメリカと交渉するために、わざと嫌がることをする北朝鮮

2010/11/30:この話とちょっと似ていると思っていっしょにまとめたのが、2010年11月29日 なぜ北朝鮮は危機を煽り続けるのか? 菅原出 日経ビジネスオンラインであった北朝鮮の話。別に北朝鮮を褒めるわけじゃありませんが、当時はなるほどなぁとやけに感心した記事でした。

 当時、北朝鮮が韓国西方沖の延坪島に砲撃を行い、朝鮮半島の緊張が高まっていました。記事では、なぜこのように北朝鮮が危機感を煽るような行動に出るのか、という説明の例を一つ紹介していました。

 「南北軍事境界線周辺でこのような事件が起きるのは、朝鮮戦争の停戦協定が機能していないからだ。朝鮮半島における緊張をとるために米朝平和協定の締結が必要だ」というロジックで、米国を交渉に引き込もうとしているという解釈があるんだそうです。

 しかし、不思議なのは、米国と交渉をしたいのになぜ米国が望むように態度を改めず、嫌がることをわざわざするのかということです。実は北朝鮮に限らず、米国と敵対している国は、米国が嫌がることをして「交渉力を高めようとしている」と記事では、書いていました。


●相手の嫌がることをすることで、外交カードが増えていく

 これは、北朝鮮が「経済制裁」、「敵視」など米国に対して止めて欲しいと思っていることに対応するように、米国が北朝鮮に対して止めて欲しいと思うこと=外交カードを次から次に作っているんだそうです。

 そして、もし米国と北朝鮮の二国間交渉が実現すれば、たとえば北朝鮮が「ミサイル輸出」をやめるのであれば、米国は「金融制裁」をやめるという具合で、「うちがこれを止めるのであれば、おたくはそれをやめろ」という相互主義に基づいた取引になります。すると、「外交カード」の多い方が勝つ、この場合は北朝鮮の圧勝となるわけです。

 だから、アメリカは二国間交渉を嫌がり、六カ国で持つカードをすべて合わせて行使すれば、北朝鮮を交渉で負かすことが出来ると考えているので、六カ国協議でなければいけないと言っているわけです。


●安倍首相とトランプ大統領に学ぶ交渉力

2017/02/12?:以上を踏まえて、アメリカと日本の首脳会談の話へ。2017年2月11日行われた日米首脳会談について、わが国では概ね好意的な受け止め方がされており、なかには「100点満点だった」と高く評価する外務省OBもいたそうです。
(異常な相思相愛の安倍総理とトランプ…完全秘密のゴルフ会談の裏側、難問題は一切無視 Business Journal / 2017年2月15日 6時0分より)

 トランプさんはこれまで、「駐留米軍の経費負担が少ない」や「トヨタ自動車がアメリカで売れているのに、アメリカ車が日本で売れないのは不公平だ」といった日本批判を繰り返していました。そのため、日本政府はトランプ大統領からどのような無理難題が突き付けられるか気をもんでいたが、そうした懸念は表向き杞憂で終わっています。

 また、日米安保条約の意義を再確認し、「尖閣諸島も条約の範囲だ」とトランプ大統領から言質を取りました。「100点満点だった」とおいうのは、おそらくここらへんを評価していたのでしょう。

 しかし、この首脳会談では、突っ込んだ話は一切なく、いわば現状維持といったものに収まりました。これでは100点満点にはとても言えません。

 なのになぜ多くの人が大成功だと勘違いしたか?と言うと、おそらく首脳会談前にハードルを上げられていたからでしょう。実際に良いことがあったわけでないのに、高すぎる要求が突如なくなったために、うまくいったと誤解したのです。「1万円よこせ」と言っていた親分が「やっぱいい」となっただけで、1万円得したと誤解したようなものです。

 アメポチ産経新聞、在日米軍の駐留経費負担を褒められて大喜び 安倍首相、日本ではなくアメリカの雇用70万人創出に公的年金を利用で書いたように、産経新聞も新たな駐留経費負担がないだけで、大成功だと騒いでいました。向こうで書いたように、実際には今の日本の負担は重すぎるくらいなんでどね…。韓国などは日本のように大金をアメリカに貢いでいません。


●無理な要求の提示は本当に効果的?

 よって、安倍首相が交渉下手なのは間違いなさそうなのですが、トランプ大統領が交渉上手と言えるかどうかは、ちょっと微妙だと思います。現状維持であるのでしたら、結局、トランプ大統領も吠えただけで特に得るものはなかったということになります。

 先ほどの北朝鮮にしても、結局、その後も危機を煽っているだけで、良い状態にはなっているように見えません。有利な条件を全く引き出すことができず、袋小路に入っている感じです。

 ただ、アメリカの件で良いところを探すとすれば、先ほどリンクしたアメポチ産経新聞、在日米軍の駐留経費負担を褒められて大喜び 安倍首相、日本ではなくアメリカの雇用70万人創出に公的年金を利用の後半の話。

 ドナルド・トランプ大統領の脅しに耐えかねた安倍首相は、我々の年金をアメリカの雇用創出に使うと宣言していました。これは恫喝外交での成果と言えるかもしれません。したがって、場合によっては有効な場合もあるとは、言えてしまいそうです。


●安倍政権、交渉下手すぎ!産経新聞も批判 一時帰国していた駐韓大使らが帰任

2017/04/08:韓国・釜山の日本総領事館前に慰安婦を象徴する「少女像」が設置されたことへの対抗措置として一時帰国させていた長嶺安政・駐韓大使らを韓国に帰任させるという発表があり、後に実際に帰任しました。
(長嶺大使ら韓国帰任へ 菅長官「次期政権誕生に備え」:朝日新聞デジタル 松井望美 2017年4月3日19時44分より)

 これについては様々な方向から批判が出ていますが、そもそも一時帰国させるほどのものだったのか?という見方が一つあります。

 また、韓国と駆け引きする上での、戦略的な一時帰国だったとした場合にも、具体的に一時帰国によって韓国から何を引き出せたのか?という疑問があります。恫喝交渉関係ではないのですけど、ダメな交渉の例として良い教材だと思ったので、ここに追記しました。これは恫喝交渉に失敗した例ともみなせるかもしれません。

“駐韓大使を帰国させたこと自体が愚の骨頂だったので、遅きに失したが帰任させるのは当然の判断。落としどころも無いのに、拳を振り上げてはいけないということだ。”(shigeto2006 2017/04/03)
“結局のところ帰任させていたことは何も意味がなかったということ。日韓合意の対象とならない釜山の像の撤去を求めていたことが筋の悪い話だった。”(snobbishinsomniac 2017/04/03)
(はてなブックマーク - 長嶺大使ら韓国帰任へ 岸田外相が発表:朝日新聞デジタルより)

“えらそーに手を振り上げてはみたものの味方はどこにもいないし常識的な線で納めざるを得なかっただけのこと/民間の有志がやっていることを違法でもないのに外交圧力で止められるとゆー発想が北朝鮮”(norton3rd 2017/04/05)
“大使帰らせるレベルの問題に無理やり仕立てあげようとしてたのかと思ったが。確かにチグハグではある”(bt-shouichi 2017/04/05)
(はてなブックマーク - 【駐韓大使帰任へ】慰安婦像「韓国側の行動次第」だったはずが…日本政府チグハグな対応(1/2ページ) - 産経ニュースより)

 安倍政権に最も好意的な見方としては、北朝鮮情勢が悪化して有事となるおそれがあり、在韓日本人のために活動が必要だったというものもあるにはあります。

 ただ、安倍政権は特にこれを理由にしていないですし、味方でもそうだとは思っていない人が多いようで、自民党内や産経新聞からも批判が出ていました。例えば、産経新聞は、"政府は「わが国の日韓合意順守に向けての強い意志が韓国にも知れ渡った」(菅義偉官房長官)と説明するが、像撤去の見通しは立っておらず、チグハグな印象は否めない"とバッサリ否定しています。
(【駐韓大使帰任へ】慰安婦像「韓国側の行動次第」だったはずが…日本政府チグハグな対応(1/2ページ) - 産経ニュース (杉本康士)2017.4.3 23:53より)

 多くの場合、外交問題は国内の影響を強く受けいています。むしろ国内の都合の方が大きいってこともよくあります。例えば、今回も以下のような見方がありました。

“産経の中の人と帰国に対する評価は違うと思うけど、「チグハグな対応」は実に同意。まあ、一時的にガス抜きするのが主目的(というか目的の全て?)だったってことじゃないかな。”(Ayrtonism 2017/04/05)

 つまり、安倍政権は国内の強硬派へのアピールのためだけに「一時帰国」という手段を取ったということですね。これで「一時帰国」の意味はきれいに説明できてしまうものの、外交的には良くないことには変わりません。実に日本らしい交渉下手ということになります。


●保守派、北朝鮮情勢緊迫と主張 → 安倍首相は民主党時代中止した花見大会を決行

2017/05/10:大使帰任の理由の一つ、北朝鮮情勢緊迫ですが、やはり安倍首相に危機感があったわけではなさそうで、のんきな行動をしています。例えば、安倍晋三首相は16日、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーを訪れ、ロシアのエルミタージュ美術館所蔵の絵画展を鑑賞しています。これは産経新聞も報じていました。

 首相は4月下旬に訪ロし、プーチン大統領と会談する見通しでしたので、友好関係をアピールする狙いもあったとみられるものの、「すわ戦争か?」といった緊迫感がなかったことは事実です。
(安倍首相「秀作」ロシアの美術館所蔵の絵画展鑑賞 - 社会 : 日刊スポーツ[2017年4月16日19時22分]より)

 さらに緊張感のなさが顕著だったのが、平和ボケ?北朝鮮ミサイル危機が叫ばれる中、安倍総理は芸能人を呼んで「桜を見る会」を開催!野田内閣ではミサイル予告で中止! 赤かぶという話。民主党政権時代に北朝鮮情勢を見て中止していた花見大会を、そのまま行ったんだそうな。緊張感ゼロですね。

野田内閣 北朝鮮の長距離弾道ミサイルを発射を受けて、「対応に万全を期すため」に「桜を見る会」を中止。
安倍内閣 15日に、東京都内の新宿御苑で「桜を見る会」を開催

 保守派は森友学園問題に関しても、北朝鮮問題など重要な問題があるので森友学園問題に時間をかけている暇はないと安倍首相を擁護していました。ところが、当の安倍首相はこの通り。いくらでも余裕がありそうです。


●日米貿易交渉、優位の状況なのに一方的に要求を受け入れることに…

2019/12/03: 一つ前で書いていた桜を見る会がちょうどいろいろ今問題になっていますが、交渉とは関係ないので別件での追記。普段日経新聞は比較的安倍政権に好意的なのですが、日米、貿易協定に正式署名 20年1月にも発効 (写真=AP) :日本経済新聞(2019/10/8 5:29)という記事が出ていました。

 輸出が善で、輸入が悪という考え方には根拠がありませんので、それが日本の交渉が失敗したという理由ではありません。このことは、輸出を増やそうとしているアメリカにとっても、本当にメリットになっているのか?という話でもあります。実際、アメリカが中国に喧嘩売っているせいで、アメリカだけでなく世界的にマイナスの影響が出ています。

 ただ、貿易交渉において、一方の要求だけが通る状態というのは、客観的に見ると「交渉に失敗している」と言わざるを得ないでしょう。そして、日経新聞などが、今回の安倍首相の外交がまさにそのようなものだったと指摘。日本はアメリカ側の要求を飲んだ一方で、アメリカ側は日本の要求を受け入れず。米国が日本の自動車にかける関税の撤廃は、事実上先送りになりました。

 より安倍首相の外交がまずいのは、記事によると、米政権は発足直後にTPPから離脱したため、農産品の対日輸出競争でカナダやニュージーランドなどのTPP加盟国に苦戦を強いられてきたという状況であるということ。アメリカに余裕がないわけで、本来なら日本の方が優位に交渉を進められるはところで、逆に日本に不利な結果にしてしまいました。

 交渉の研究では高圧的な態度は有効ではない…とされているものの、前回までのものを含めて安倍政権の外交交渉を見てみると、どうも普通に恫喝が効果的なケースがかなりある感じ。交渉に関する研究は、より進展させる必要がありそうですね。


【本文中でリンクした投稿】
  ■攻撃的な交渉が上手は誤解 実は凄腕交渉人は正直者だった!
  ■アメポチ産経新聞、在日米軍の駐留経費負担を褒められて大喜び 安倍首相、日本ではなくアメリカの雇用70万人創出に公的年金を利用

【その他関連投稿】
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