人権などの話をまとめ。<積極的平和主義と慰安婦問題の起源はいっしょ 内政干渉OKなほどの人権志向>、<安倍首相や日本政府はなぜ中国を批判しない?劉暁波氏の釈放問題>などをまとめています。
●「国家の主権よりも人権が優先する」という内政干渉OKなほどの人権志向
2016/1/31:
ユーゴ内戦時に現れた異常な指導者「アルカン」。ごくふつうの市民による「愛国」の名のもとの虐殺[橘玲の世界投資見聞録]| ザイオンライン(2015年10月8日)という記事のメインの話は、
普通の若者がイスラム国に参加する理由・普通の人が虐殺する理由で紹介しています。
ただ、記事の導入部分が一番興味深かったので、そこらへんの話を別にやろうと思って下書きしていました。この話も、その後、慰安婦合意かなにかの話でも使っています。ということで、何度か使っているものの、今回は「内政干渉」をメインとした話という違いがあります。
まず、現在のような人権重視の方針が誕生したことについて、記事では以下のように指摘していました。
<アウシュヴィッツとヒロシマに象徴される第二次世界大戦のグロテスクな現実を前に、大国同士の総力戦は封印され冷戦が始まった。それは同時に、国民国家の主権を尊重し、内政不干渉の原則の下に、国家の内部でどのような理不尽なことが起きてもそれは国民の「自己責任」で他国は無関心、という暗黙のルールの支配でもあった。
だが1990年代の旧ユーゴ内戦によって、この内政不干渉の原則は大きく修正されることになる。国際社会が傍観しているうちに、ヨーロッパの一部(裏庭)で凄惨な民族浄化の悲劇が起きたからだ(これに対しては、ドイツが一方的にクロアチアの独立を支持したことがユーゴの解体と内戦を招いた、との批判もある)。
欧州社会での民衆の批判に押され、米国とEUはベオグラードなどの空爆に踏み切り、軍隊を展開してボスニアとコソボの紛争を収束させた。国際社会から一方的に「加害者」の烙印を押されたセルビアには大きな不満があるだろうが、この「内政干渉」の成功が「国家の主権よりも人権が優先する」という新たなルールを生んだ>
なお、"国際社会から一方的に「加害者」の烙印を押されたセルビアには大きな不満があるだろう"というのは、実際、片方が一方的な被害者という単純なものではなく、凄惨な虐殺をお互いにしていたためです。これについては、以前、
マスコミの捏造・偏向報道・情報操作とマスコミを操る広告代理店で紹介しています。
●積極的平和主義と慰安婦問題の起源はいっしょで人権志向から
このユーゴ紛争への介入の是非はともかくとして、人権優先主義ができあがったというのが現実。そして、これが思わぬ方向に発展します。一つが日本の安倍首相も大好きな「積極的平和主義」です。"この人権志向は国境を越える「積極的平和主義」としてイラク戦争やリビア、シリアの内戦への介入につながった"としています。
私はこういった介入は一時的なものであり、根本的な解決になり得ないと考えています。これは、
イスラム国を育てたアメリカ フセイン・ビンラディンも米が援助や
テロリストを生むものは何か? 空爆・排外主義・人種差別などのあたりで書いた話です。
ところで、興味深いと感じたのはこの後。先の「積極的平和主義」の部分には、続きがありました。<この人権志向は国境を越える「積極的平和主義」としてイラク戦争やリビア、シリアの内戦への介入につながっただけでなく、
歴史を遡っても適用される>と書かれていました。これが何と慰安婦問題にも繋がるというのです。
<1990年代から従軍慰安婦問題が欧米社会で取り上げられるようになったのは、ボスニア内戦での女性への性的虐待が背景にある。だが日本はここでも、元慰安婦の訴えが「女性の人権問題」であることに気づかず、韓国による「反日」宣伝に矮小化して対応を誤った――これはもちろん、韓国社会が慰安婦問題を「反日ナショナリズム」に利用したことと表裏一体だ>
●慰安婦問題が「女性の人権問題」であることを見誤る日本
慰安婦問題が人権問題であることこそ重要だという話は何度もしています。ですので、日本の保守派が「(狭義の)強制連行がなかった」と言っても、欧米では何を言いたいのかさっぱり理解できないのです。(狭義の)強制連行があろうがなかろうが、女性の人権侵害があったことは変わらないためです。例えば、ある記事では、次のように指摘していました。
<欧米の報道の論調の多くは、慰安婦問題を普遍的・人道主義的な「女性の人権問題」の観点から位置づけようとしているものが大勢を占めるようです。
これは国際社会において女性の人権問題が近年非常に重要なテーマになってきていることを受けてのものだと思われます>
(
そもそも「慰安婦」という言葉は使われない?慰安婦報道を巡る欧米メディアとの認識の差【朝日第三者委員】 | Credo(深澤祐援 2014/12/23)より)
このために、日本で慰安婦問題に強制性がないと強調することは、欧米に理解されないだけでなく、人権軽視国家だという印象を与えてしまい、得策ではありません。中国への人権侵害批判をする際にも説得力を欠いてマイナスとなるでしょう。日本はやり方を変更した方が良いと思われます。
●欧州諸国が一貫して釈放を求めていた劉暁波氏、疑惑の「獄死」
2013/1/14:当初書いていた"中国検閲の実態 南方週末事件に見る新聞の改ざん"は、
中国共産党・政府の検閲に抵抗する南方都市報と南方週末にまとめました。そちらでは、南方都市報が検閲をすり抜けて、中国の民主活動家である劉暁波さんのノーベル平和賞を受賞を祝ったという話もやっていました。
今回は、その劉暁波さんが死去した…という話に絡むものです。末期の肝臓がんと診断されており、多臓器不全のためだったとされています。ただ、問題なのは、病状が深刻になるまで中国政府が投獄していたとされていること。中国政府が死なせてしまった可能性があるのです。
劉暁波氏死去=ノーベル平和賞、民主化運動象徴-習体制に高まる批判・中国:時事ドットコム(2017/07/13-23:42)によると、" 厳しい弾圧にもかかわらず、非暴力の反政府活動を続け、中国の民主化運動の象徴となっていた"劉暁波さんについて、米国やドイツなど欧州諸国は、一貫して釈放を求めていました。
一方、中国政府は「内政干渉だ」と反発。劉暁波さんが病院に移されたことが判明した後も、中国側は「国外移送は危険」と主張しました。診察した米独両国の医師が「適切な医療支援があれば安全に(海外に)移送できる」との見解を示したにもかかわらず、中国当局や病院が出国を認めることもありませんでした。
●安倍首相や日本政府はなぜ中国を批判しない?劉暁波氏の釈放問題
これを読んでいて疑問に思ったのは、日本政府が劉暁波さんの釈放を求めていたと書かれていなかったこと。米国やドイツなど欧州諸国の話だけだったのです。特に安倍首相は中国嫌いのように右派の支持者らからは言われているのですが、にも関わらず批判をしてこなかった…ということかもしれません。
気になって検索してみると、元産経新聞特派員で保守派のジャーナリストである福島香織さんが、以下のように結構ボロクソに書いていました。同じ保守派から見ても、安倍首相は不甲斐ないようです。
<7月10日、ノーベル平和賞受賞者で民主化活動家の劉暁波は危篤状態に陥った。日本が、距離的に彼に一番近い医療先進国でありながら、何も言わず、何の行動もとっていないことが悔しくてならない>
<米国の影響力が低下したときこそ、日本の外交に期待したいところなのだが、G20に合わせて行われた日中首脳会談も、はっきりいって中身がなかった>
<トランプ外交のオウンゴールで、妙に強気になっている中国に対して、日本がどのような姿勢をとるかを、むしろ中国は見定めようとしているのではないか。トランプの顔色を見ながら姿勢を決めるのであれば、こんな情けない話はない>
<"個人的な感想をいえば、安倍晋三が、習近平に対して直接、劉暁波の治療を日本で引き受けたい、とストレートに言えばよかった。ドイツと米国は一応は、政府として劉暁波への関心を示し、医師も派遣した。ドイツ首相のメルケルは習近平に劉暁波のドイツ治療受け入れを数度にわたって直接伝えた。安倍はなぜ、ドイツよりも日本の方が飛行機の搭乗時間が短く、劉暁波の体力的にも日本での治療が最適だといわなかったのだろう。劉暁波の妻、劉霞は当初、日本のがん医療について、期待を述べていたのだから、日本政府としてすぐに反応してよかったはずだ>
(
「劉暁波、危篤」の報に“日本無策”の無念:日経ビジネスオンライン 福島 香織 2017年7月12日より)
●人権問題で内政干渉すると慰安婦問題で日本にブーメラン
ただ、そもそも安倍首相は中国うんぬん以前に、人権問題への関心が薄いのだと思います。そういう人間的な心を持った人ではありません。過去に書いたように、フィリピンの人権問題に対しても触れていませんでしたし、公務員に対しても鬼畜な精神論を押し付けるなど、随所に共感力が欠如したところが見られます。
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ドゥテルテ大統領は親日 安倍首相も人権問題には触れない気遣い ■
怪我押して強行出場の稀勢の里を例に安倍首相、公務員に「甘え許されぬ」と精神論 働き方改革どこ行った? また、日本政府としても人権問題というのは、かなり扱いが難しいものでしょう。それは、人権問題が慰安婦問題と密接に関わっているため。この慰安婦問題は、特に安倍政権が嫌がっていることでもありますよね。これは前半の<積極的平和主義と慰安婦問題の起源はいっしょ 内政干渉OKなほどの人権志向>に関係する話です。
この前半の記事で出てきたように、慰安婦問題で関係ないはずの欧米諸国が介入してくるというのは、人権問題のためであれば内政干渉をしても構わないだという思想によります。日本政府としては、中国政府がやった劉暁波氏の問題でやった「内政干渉だ」と反発こそが望ましい対応であり、日本が人権問題に熱心になってしまうとブーメランになるおそれがあります。
ただし、安倍政権ではこういうダブルスタンダードは何度もやっていますので、中国批判をやっておかしくなかったともいえますけどね。そう考えると、劉暁波さんや人権侵害問題などに関して、根本的に興味がない…ということなのかもしれません。
●人権問題で内政干渉はやはりやりすぎか?実際、かなり難しい問題
なお、ここらへんの日本の望ましい対応は?というのは、私個人としても正直悩んでいるところ。どちらかと言えば、欧米に追随して武力介入を含む他国への介入を積極的に行う路線を取るのではなく、相手国も受け入れられるような人道支援的なところに力を入れるべきではないかと今は考えています。欧米からは批判が出るでしょうけどね。
この考え方で言えば、福島香織さんが「なぜ安倍政権は動かなかったのか?」として書いていた「劉暁波さんの治療を日本で引き受けたい」は、むしろアリです。中国はきっと拒否したとは思いますが、釈放の話と絡ませず中国のメンツを潰さないような言い方をすることは可能だったでしょう。
あと、勘違いされそうなので、「人権問題で内政干渉はやはりやりすぎ」だったとしても、慰安婦問題に対処しなくて良い…という意味ではないことを補足。この場合でも二国間問題への欧米の介入がやりすぎというだけで、二国間問題そのものはそのまま存在。被害者国を無視して良いという意味ではありません。
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