「産業革新機構案こそ技術流出?ホンハイがシャープ買収で危機の嘘」という話。勝てない事業は捨てる方が正しいという話を後半に。前半には、シャープ幹部が残れるからホンハイ案を採用したという声が出ているが、それと矛盾する話が多数ある…といったものでした。
2016/2/5:
●3000億円と7000億円…産業革新機構とホンハイの買収提案の違い
●続投できるから…シャープ幹部は自己保身のためにホンハイ案に賛成?
●産業革新機構を蹴ってホンハイを選んだのはシャープ経営陣ではない
●アレルギーで取締役会紛糾!シャープの執行部はむしろホンハイ嫌い?
2016/2/10:
●ホンハイがシャープ買収で技術流出の危機?実はリストラが一番危険だった!
●ホンハイ案を選んだはずなのになぜシャープは歯切れが悪いのか?
●国が税金をかけて買収を防ぐべき?実は勝てない事業は捨てる方が正しい
2017/10/26:
●iPhone Xの顔認証システム、日本技術のシャープのせいで出荷遅れ?
●3000億円と7000億円…産業革新機構とホンハイの買収提案の違い
2020/03/01:
新型コロナウイルスマスク不足でシャープ生産、批判か称賛か?を書いたついでに、過去の読まれていないシャープ記事を少しまとめました。
2016/2/5:シャープは産業革新機構の再建案で進むということは規定事項という感じで報道されてきましたが、ここに来て急展開です。産業革新機構とホンハイそれぞれの再建案の違いについては、以下のような説明。まず出資金が全然違うみたいですね。
「ホンハイ精密工業」は、シャープに対して当初6000億円を投じて買収する再建策を示していましたが、関係者によりますと、さらに最終局面で支援額を大幅に上積みして7000億円を超える規模の提案をしたということです。「ホンハイ」が示した提案では、主力銀行であるみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行に対して金融支援は求めない方針です。さらに、シャープの事業をそのまま残すことや、雇用やブランドを維持すること、いまの経営陣には退任を求めないことを盛り込んでいます。
一方、国と民間がつくる官民ファンドの「産業革新機構」がシャープに対して提示した再建案では、シャープ本体におよそ3000億円の出資を行って過半数の株式を取得するとしています。このうちおよそ1000億円はシャープが本体から切り離して分社化する予定の液晶事業に投入します。そのうえで、液晶事業を将来的には「機構」が筆頭株主となっている液晶パネルメーカー「ジャパンディスプレイ」と経営統合させる戦略を描いています。
さらに、金融支援について「機構」は、主力銀行であるみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行が保有するシャープの2000億円分の優先株を機構側に譲渡し、事実上放棄するよう求めているほか、主力銀行に対して1000億円余りの債務を再度、株式に振り替えるよう求めることで合わせて3000億円余りを要請する方針です。
(シャープ 台湾・ホンハイ傘下で再建の方針決定 NHKニュース 2月4日 17時20分より)
●続投できるから…シャープ幹部は自己保身のためにホンハイ案に賛成?
そもそも出資金が当初から全然違いました。ホンハイの方が有利に決まっていると思うのですが、前述の通り、産業革新機構案で決まっているという報道が続いていました。
また、今回の報道を受けて、一般人はホンハイ案だと経営陣が残るからじゃないか?などという反応が多くなっていました。しかし、以下の記事では銀行の意向ではないかとしています。上記にもあるように、産業革新機構は銀行に厳しい対応を求めているためです。
シャープが一転して「鴻海提案」に傾いた事情 | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 田嶌 ななみ :東洋経済 記者
これまで有力視されてきた産業革新機構による支援案を押しのけ、突如、鴻海が”暫定一位”の座に就いた背景には、シャープの経営を事実上握る、銀行の意向がある。
シャープが3月末に返済期限を迎える5100億円のシンジケートローンのほとんどは、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行からの融資だが、産業革新機構はシャープへの出資の条件として、シャープが抱える借金の一部棒引きを銀行に要求。ただ、2行は2015年6月、債務株式化(DES、デッド・エクイティ・スワップ)という形で、すでに2000億円の金融支援に応じており、追加支援には銀行の株主が納得のいく説明が必要となる。
一方、鴻海の場合、今週までに、出資総額を当初提案の5000億円から7000億円へ引き上げた、とされる。銀行にとっては、追加支援に迫られる可能性が低く、債権の回収可能性も高い、またとない提案だ。
●産業革新機構を蹴ってホンハイを選んだのはシャープ経営陣ではない
ネットでは今回の決定を非難する声が多いですが、そもそも産業革新機構の提案は不利すぎて、こちらを選ぶ合理的な理由がありません。ですので、技術流出と言って不安を煽るとか、国に従えとかといった不確かなものにならざるを得ません。
別記事の
シャープ、土壇場で機能したガバナンス:日経ビジネスオンライン( 大西 康之 2016年2月5日)でも、ホンハイを選んだのはシャープ経営陣ではないとしていましたが、ここでは社外取締役の存在を挙げていました。やはり合理性の問題であり、感情論が多いネットの反応とは異なります。
シャープは両者の案を比較表にまとめ、参考資料として2月4日の決算取締役会に提出。社外取締役の一部が資料を見て顔色を変えたそうです。「(出資額がホンハイ案の半分に満たない)革新機構案を選んで、株主に合理的な説明ができるのか」という理由。ホンハイ案を選ばないと不自然すぎて、株主から突っ込まれる可能性が高いのです。
●アレルギーで取締役会紛糾!シャープの執行部はむしろホンハイ嫌い?
ただ、こちらの記事でも、銀行の存在に触れていました。まず、週末に郭会長が具体案を示すまで、ホンハイは当て馬に過ぎず、シャープ再建は「革新機構案ありき」で調整が進んでいたとのこと。
ただし、郭会長が条件を釣り上げ始めたことで、まず主力行の一つ、みずほ銀行の態度が変わったといいあmす。ホンハイ案の方が銀行のダメージが少なく、うまくすれば出資金をホンハイに貸し付けることができるかもしれないからだといいます。
なおかつ、銀行間でも見解が分かれたとして、先の記事と異なっています。シャープの執行部はむしろホンハイを嫌っているともしていました。とりあえず、経営陣が残れるからホンハイ案という単純な見方はされていないようです。
<一方、もう一つの主力行である三菱東京UFJ銀行は、革新機構案を推していた。シャープの執行部内にはホンハイに対するアレルギーがあり、4日の取締役会は紛糾した。ホンハイにも交渉権を与えることを決めるのが精一杯だった>
●ホンハイがシャープ買収で技術流出の危機?実はリストラが一番危険だった!
2016/2/10:なるほど、そういう見方もあるのか!と思ったのは、
シャープと鴻海の駆け引きをめぐる「3大疑問」の真相|長内 厚のエレキの深層|ダイヤモンド・オンライン(長内 厚 [早稲田大学ビジネススクール准教授/早稲田大学台湾研究所研究員・同IT戦略研究所研究員] 2016年2月10日)という記事です。
第一に、アジア外資による買収は産業革新機構が指摘するように技術流出につながるのか、という点を考えてみよう。
産業革新機構もシャープ支援策を発表し、家電産業の国内再編による技術流出防止をメリットとしている。しかし、多かれ少なかれ日本のエレクトロニクス産業は各社とも疲弊しており、国内エレクトロニクス企業同士の再編は、弱者連合にしかならない。日立を中心に東芝、シャープを合わせるとパナソニック規模の大規模な総合家電メーカーが誕生するという話もあるようだが、これは机上の空論に過ぎない。
仮にこの3社の家電部門を統合するとすれば、事業領域がほぼ同一の3社が1つになるので、各部門、たとえばテレビや冷蔵庫、洗濯機など、製品毎ごとの事業部に必ず余剰人員が出る。そうなれば、リストラは避けなられない。これまでの多くの日本企業の例を見れば、リストラを行えば、優秀な人間から順番に外国企業を含めた様々な会社に散らばってしまう。もちろん、個人に技術がくっついた形でだ。
しかし、企業はリストラした社員に、「どこに行け」「何をするな」とは言えない。そうすれば、コントロール不可能な技術流出が各所で発生することになる。
●ホンハイ案を選んだはずなのになぜシャープは歯切れが悪いのか?
記事での「3大疑問」の残りの二つは以下。
(2)なぜシャープは鴻海を選んだのか
(3)鴻海を選んだはずなのになぜシャープは歯切れが悪いのか
(2)は、前半でもやったように、銀行の意向などで説明されていました。
また、(3)では、日本企業はそもそもトップの決断で決められなかったり、ホンハイ(鴻海)がフォーマルな場所で会見を開かなかったり、地味なスーツとネクタイという格好をしていなかったりといった、日本の法律や企業慣習を無視していることを挙げていました。ユニークな見方ですね。
なお、(3)に関しては、前半の話だと、そもそもシャープはホンハイアレルギーがあるとしていました。個人的には、交渉決裂したときのため、もしくは交渉を優位に進めるために、産業革新機構案も残しておきたいというのもあるのでは?とも思います。
●国が税金をかけて買収を防ぐべき?実は勝てない事業は捨てる方が正しい
シャープの最初の話に戻します。以前、以下でやったように、そもそも国による産業育成政策や斜陽産業の保護は、経済学者らによって否定されていることが多いです。
■
なぜ国が東芝・シャープを支援するのか?倒産すべき企業への税金投入は無駄遣いという見方も ■
経済学者もやりまくりな比較優位の誤解と産業育成政策が失敗しやすい理由 このときに私は技術流出を防ぐなんてものに、経済学的な根拠があるのか?と疑問視していましたが、今回の話はそもそも国内企業で弱者連合を作っても流出するという鋭い指摘でした。これは
家電,PCでオールジャパン 東芝&シャープ,日立、富士通,VAIOの統合を検討でやった、もう一つ政府が進めている東芝の統合案でも同じことが言えるでしょう。
実はこのときにも合併するにあたって大量のリストラが起きることが指摘されていました。合併するとシェアが落ちるというのも、このリストらのせいです。また、ホンハイの買収に関して、リストラが起きるんじゃないか?と危惧しているものもあったのですけど、東芝がうまく行っていなかったのはむしろ悪い部門を切り落としていなかったためです。リストラは不可避なところがありそうでした。
日立は今この分野の勝ち組となっていますが、
日立製作所、年功序列廃止で競争力アップ 選択と集中に成果主義は必須?でやったように、稼げない部門から撤退しまくったから今うまく行っているのです。現実見ずに全部維持しようというのが、そもそも失敗する原因なんだと思います。
ここらへんの認識の違いは、先の斜陽産業の保護とも重なるものがありますね。
●iPhone Xの顔認証システム、日本技術のシャープのせいで出荷遅れ?
2017/10/26:
iPhone X供給不足はシャープも原因か〜Foxconn幹部が緊急来日 - iPhone Mania(2017年10月23日 18時09分)という記事が出ていました。
記事によると、iPhone Xの3Dセンサーは、顔認証やアニ文字などの鍵となるTrueDepthカメラにあたる部分です。そして、このモジュールの貼り合わせをシャープとLG Innotekが請け負っていることがわかっています。で、台湾メディアの工商時報によると、このうちシャープの歩留まり率が良くなく、結果としてiPhone Xの供給不足を招く原因となっているとのことでした。
日本企業の不正事件 神戸製鋼データ改ざん、東洋ゴムの免震ゴム不正、日産、三菱自動車やスズキの燃費不正などのように、日本企業の劣化を示すエピソードのようにも思えます。ただ、もう多くの人にとって鴻海に買われたシャープは日本企業ではないでしょうか?
記事では、Foxconn(鴻海科技集団)グループが総動員され、"一刻も早く問題を解決するべく、Foxconnの副総裁である徐牧基氏や、同グループGISの最高経営責任者(CEO)である周賢穎氏など、複数幹部が続々と日本のシャープに乗り込んでいる"といった話もありました。Foxconnグループとしての問題になっています。
とはいえ、このページの最初の話であったように、すごい日本企業が買収されちゃう!という話を当初はしていたわけで、寂しいことですけどね。
あと、記事では、他の原因でも納期遅れに繋がっている可能性を指摘していましたので、すべてがシャープの責任ではなさげ。これはちょっとホッとする情報です。
【本文中でリンクした投稿】
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新型コロナウイルスマスク不足でシャープ生産、批判か称賛か? ■
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