【クイズ】2005年近畿大学農学部の森山達哉博士らの研究結果として、正しいものはどれでしょう?
(1)アレルギーを起こすアレルゲンの量は、農薬リンゴより無農薬栽培リンゴの方が多かった。
(2)アレルギーを起こすアレルゲンの量は、無農薬栽培リンゴより農薬リンゴの方が多かった。
(3)アレルギーを起こすアレルゲンの量は、農薬リンゴと無農薬栽培リンゴに有意な差はなかった。

●有機畜産物の方が体にいいという研究が出る
健康不安を煽る東洋経済オンラインらしからぬ「オーガニック食品が健康にいいとは限らない」というタイトルの記事。普段の東洋経済オンラインなら、「農薬だらけの食品があなたの寿命を縮めている事実がまたひとつ!」くらいやりそうなものです。
不思議に思いながらアクセスしたら、ニューヨーク・タイムズの転載記事でした。道理で…。
オーガニック食品が健康にいいとは限らない | The New York Times 2016年02月25日
有機農法で生産された肉や牛乳は、通常の方法で育てられたものと比べて一部の栄養素で大きな違いがあることが、先ごろ英栄養学会報で発表された論文で明らかになった。
特に不飽和脂肪酸の一種で心臓病のリスクを下げる効果のあるオメガ3脂肪酸の含有量は、有機肉・牛乳のほうが50%も高かったという。
「(オメガ3)脂肪酸の含有割合では、(有機肉・牛乳のほうが)明らかに優れていた」と語るのは、英ニューカッスル大学のカーロ・ライファート教授(環境農業学)だ。ライファート教授はこの研究を行った国際チームのリーダーだ。
●有機農業の支援団体が援助の研究
"研究資金(60万ドル)を出したのは、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会、それに有機農業を支援する英団体「シープドローブ・トラスト」"ということで、ちょっと怪しい感じがあります。
有機食品万歳な人は「食品団体に操られている」とだけ言いますが、有機食品に関わる業界の支援もまた、研究にバイアスを与えるおそれがあります。
ただ、今回のものはメタ分析(メタ解析・メタアナリシス)なので、比較的信頼できると思われます。
今回の研究では新たな実験を行ったわけではない。多くの別個の論文を集めて分析し、おおむね正しいと思われる結論を導き出す「メタ分析」という統計的手法を使ったのだ。(中略)
今回、研究チームは牛乳について196本の論文を分析。肉についての研究論文はもっと数が少なかったため、肉の種類は問わず67本の論文を対象とした。
●オーガニック食品が健康にいいとは限らない理由
ただ、こういった研究はたいへん注意が必要です。
トロント大学のリチャード・バジネット教授(栄養学)は、「含有量を見る限りでは、体にいいはずだと思えるが」「現時点で答えはない」と慎重です。
細かい理由は書いていないものの、今回の研究ではそもそも含有量を見ただけで、疫学的に健康への影響を見たものではありませんからね。しかも、その疫学がまた限界があるもので、誤差が大きいようです。
それから、オメガ3脂肪酸(DHA・EPAなど)を取りたいのなら魚を食べた方がずっと良いという理由もあるみたいです。普通の肉を有機農業の肉に変える程度では大したことがないってことでしょう。
ただ、肉を食べすぎな欧米人ならそれで良いものの、もともと魚と肉のバランスが極端に偏っていない日本人の場合、逆に魚の食べすぎで健康被害が出るおそれもあります。
(関連:
発がん性問題:WHOも肉にメリットと回答 魚・鶏肉食べ過ぎも不健康になる理由)
●体にいい理由は有機農業ではない?
また、たとえ「体にいい」と決めつけてしまったとしても、それは有機農業のおかげとは言えないようです。
有機畜産物と聞くと抗生物質やホルモン剤、遺伝子組み換え餌を与えずに育てられた家畜というイメージが思い浮かぶだろうが、オメガ3脂肪酸が多く含まれている理由はそこにはない。
その理由は野外で飼育するという有機畜産に求められる要件のほうにある。有機牛乳や有機牛肉の牛は牧草を食べて育つが、普通の牛は穀物を与えられるからだ。
「有機農法の魔法とかいう話ではない」と、研究に参加した有機農業コンサルタントのチャールズ・ベンブルックは言う。「何を餌として与えられるかという問題だ」
有機農法で育てられていなくても、牧草が餌の大部分を占める牛であれば同じような結果が出ると専門家は言う。「単純な話だ」とベンブルックは言う。
●有機野菜も体にいいという研究アリ
ただ、今回意外だったのは、有機食品に有利なデータもありそうだということです。
オーガニック食品は安全ではなく危険?有機栽培野菜で死ぬおそれで書いたときは、有機食品が良いという研究はレベルの低いものに限られていた感じでした。
有機食品のほうがそうでない食べ物より健康的なのかどうかについての激しい議論が、今回の研究でさらに過熱するのは間違いない。専門家の間でも、両者の間にはっきりした栄養的な違いはないと考える人もいれば、有機食品のほうがずっと体にいいと言う人もいて意見は分かれている。
この他に、"2年前、ライファートは同様の研究を果物と野菜について行った。この時には、有機栽培もののほうが一部の抗酸化物質を多く含み、残留農薬は少ないとの結果が出た"という記述がありました。
残留農薬は少なくて当たり前、そうじゃなかったら詐欺というものですが、抗酸化物質は有利なデータです。これが気になって検索したものの、日本では取り上げられなかったのか、見つかりませんでした。
なお、
人が口にする農薬の99.99%が植物由来の天然農薬 人工農薬は極小などでやったように、有機食品には弱点も指摘されています。クイズはここからでした。
【クイズ】2005年近畿大学農学部の森山達哉博士らの研究結果として、正しいものはどれでしょう?
(1)アレルギーを起こすアレルゲンの量は、農薬リンゴより無農薬栽培リンゴの方が多かった。
(2)アレルギーを起こすアレルゲンの量は、無農薬栽培リンゴより農薬リンゴの方が多かった。
(3)アレルギーを起こすアレルゲンの量は、農薬リンゴと無農薬栽培リンゴに有意な差はなかった。
【答え】(1)アレルギーを起こすアレルゲンの量は、農薬リンゴより無農薬栽培リンゴの方が多かった。
今回は資金の出どころが有機農業の支援団体ですし、たぶんこういう話はしないでしょうね。
やはり今すぐ有機食品最高!と決めるのではなく、慎重に見ておいた方が良さそうです。
●そもそも有機農業の影響力は大きくない
また、今回の成分の違いが「何を餌として与えられるかという問題だ」とされていたように、有機農業かそうでないか以外に、多数の要素が食品の成分に影響を与えているという事実も大事です。有機野菜のときにもそのように言われていました。
有機農業の影響というのは、イメージよりもかなり小さいということも覚えておいてください。
【本文中でリンクした投稿】
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