碁の話を中心にAI関係の話をまとめ。<信じれない凡ミスするのになぜか強いアルファ碁の謎>、<解説も呆然…アルファ碁の凡ミスは本当に「ミス」なのか?>、<常識が間違い?アルファ碁の自己対戦は悪手だらけで囲碁界騒>、<人間はAIから学べない?オセロは全然強くなっていないという現実>などをまとめています。
その後、<将棋のプロは「AIに学ぶ」がもう常識 AIに学ばない方が非常識に…>なども追記しました。
2023/02/14追記:
●将棋のプロは「AIに学ぶ」がもう常識 AIに学ばない方が非常識に… 【NEW】
●「AIが勝つかも…」どころじゃない…井山裕太王座の予想が大外れ
2016/3/12:
アルファ碁、世界トップ級イセドルに勝利 実は囲碁が弱い日本人で書いたので、もう少しグーグルが開発した人工知能「アルファ碁」についての話を読んでいました。
先月の"欧州王者のプロ棋士にハンディなしで5戦5勝"した時点では、"日本囲碁界の第一人者である井山裕太王座(棋聖、名人、本因坊、天元、碁聖)は「すでにどちらが人間かわからない打ちぶりになった。さらに強くなっているとすると、李九段でさえ全勝できるかどうかはわからない」と話"していたそうです。
(
人工知能がプロに5勝 グーグル囲碁ソフトの実力は? |NIKKEI STYLE 2016/2/27 山川公生より)
しかし、前回書いたように李九段(イ・セドル)は、2戦を終えた時点で「一局ぐらいは勝てるように頑張りたい」と、井山さんの予想とは全く逆に、李九段側が1勝できるかどうかすらわからないということになってきました。
…と下書き時に書いていましたが、投稿直前に見たニュースによると3連敗になったそうです。これで負け越しも決定しました。(2017/06/09追記:最終的には1勝4敗になっています)
最強棋士、囲碁ソフトに敗北=人工知能3連勝、賞金寄付へ—韓国 時事通信3月12日(土)18時39分
【ソウル時事】囲碁で世界最強レベルの韓国人棋士、李世※(上に「石」、下に「乙」)九段と、米グーグル社傘下企業が開発した囲碁ソフト「アルファ碁」による5番勝負の第3局が12日、ソウルで行われ、アルファ碁が勝利し、李氏の3連敗で負け越しが決まった。李九段は、対局の途中で自らの負けを申し出て対局を終える「投了」を行い、この結果、アルファ碁が176手で「中押し勝ち」となった。
●信じれない凡ミスするのになぜか強いアルファ碁の謎
NIKKEI STYLEの記事を見ていておもしろかったのが、アルファ碁がどうも凡ミスもかなりするソフトであるということ。めちゃくちゃ下手な手を打つのに、最終的には勝ってしまうのです。
例えば、欧州王者のファン・フイ二段との対戦で、アルファ碁が素人丸出しのミスをしていました。
金八段(引用者注:コンピューター囲碁に詳しいプロ棋士の金秀俊)が注目したのは第2局(図1)だ。アルファ碁が黒番で、互いに最善の手順を打つとできる決まった形である「定石」を序盤で間違えた。(中略)「アマレベルの失敗で、定石の意味を理解していないと言われても仕方ない」と金八段。
ただ、ファン・フイ二段もミスをします。おもしろいのがここからで、ファン・フイ二段は"間違いに気づいて動揺したの"か、さらにミスしてしまいます。
確か日本の将棋のプロ棋士とのコンピュータの対戦でも言われていたと思いますが、こういう焦りみたいなものはコンピュータにありませんよね。冷静に人間のミスを突いて、勝利してしまいました。
●アルファ碁のアマチュアレベルのミスを攻めれば勝てそうに見えた
アルファ碁の考えられないようなミスは、第4局でも出ました。形勢が黒に傾いたところで、「ここでもアマ級のミスが出ています」と金八段に指摘されていました。
"勝負を決することができたのに、形勢を押し戻されてしまった"わけですが、実際にはその後接戦になっても、"再び厳しい手を次々と繰り出して圧勝してい"ます。
第5局もやはり、"アルファ碁に悪手があったが人間側がうまくとがめられない"といった形でした。ミス自体はかなりしているのです。
おそらく、そのためでしょう。"金八段は「ファン・フイさんは対局時、調子が悪かったのでしょう。大きなミスを李九段が見逃すはずはなく、勝つのは難しい」と展望"していました。
井山裕太さんが「李九段でさえ全勝できるかどうかはわからない」という予想だったのも、同じような理由だと思われます。
●アルファ碁の意味不明な打ち方に戸惑いまくるプロ
前述のように世界最強クラス相手ではアルファ碁の方がきついとプロも予想していたわけですが、実際のイ・セドルさんとの対戦では、アルファ碁が連勝しました。
対戦までに期間があったので大きく改良してきたという可能性もあるものの、記事を読んでみるとやはり不思議な手を打ってくることには変わりなかったようです。
以下の記事でのプロによる解説の戸惑いからも、アルファ碁の強さがさっぱり理解できないことが伝わってきます。
人間対AI:囲碁9段の解説者、解説できず視聴者に謝罪 2016/03/11 09:35 Chosun Online | 朝鮮日報 キム・スンジェ
「あれ…? あれ…? 今まで見てきた手の中で一番衝撃的な手のような気がする。これは不思議だとしか言いようがないのでは?」(チェ・ユジン囲碁アマチュア五段)
「不思議だというよりも、あり得ない手です。プロの感覚では考えも付かない手です。どういう意味で打ったんでしょうか?」(イ・ヒソン九段)
10日、韓国トップの囲碁棋士、李世ドル(イ・セドル)九段と人工知能囲碁ソフト「アルファ碁」の第2局を中継していた韓国棋院運営の「囲碁TV」解説者たちは「解説」ではなく「疑問」を連発した。
●解説も呆然…アルファ碁の凡ミスは本当に「ミス」なのか?
前述の通り、アルファ碁は簡単な「ミス」をすると思われていたものの、結局勝ってしまうために、どれが本当の「ミス」なのかわからない状態になっているのかもしれません。
これ以外にも戸惑いが伝わる記述が多数ありましたし、「ミス」絡みの記述も出てきます。
・「アルファ碁」の予測できない変則的な手や、
ミスだと思われた手を到底説明できないといった様子だった。
・李煕星(イ・ヒソン)九段は「どうやってこの囲碁が…(『アルファ碁』が)勝てる囲碁になるのだろうか」とため息をついた。
・中盤を過ぎても次々と繰り出される「アルファ碁」の意外な手に、困惑を通り越えて恐怖すら感じているかのようだった。
・「『アルファ碁』はデータにない手を打っているようで怖い。『アルファ碁』の自己学習能力が進んでこういう碁を打つなら、人間はあまりにも無力な気がする」(金成竜(キム・ソンリョン)九段)
・中盤まで李九段が有利だと見ていた解説者たちは、後に「アルファ碁」の方が有利になっていくと謝罪した。
・「視聴者の皆さんに申し訳ない。李九段の敗着(敗因となった石の置き方)が分からない。
人間の目で見ると、『アルファ碁』はミスばかりしていた。今までの理論で解説すると、『アルファ碁』の囲碁は答えが出ない」(宋泰坤(ソン・テゴン)九段)
・「対局を見ながら中継している間、狐につままれたような感じだった」(宋泰坤九段)
・劉昌赫(ユ・チャンヒョク)九段は、対局を見守る間、何度も首をかしげて時折言葉を詰まらせた。
こうなると、ミスと思われたものの中に、ミスではなく今までにない画期的な打ち方というのが含まれている可能性があります。
前回、中国・韓国では、「高いレベルの若手が集って、共同研究をし、布石の流行形を徹底的に研究しつくしている」という話が出ていました。
今は衝撃の方が強くそこまで考えられないと思いますが、これは人間がコンピュータから学ぶチャンスだと思います。それで新しい世界が開けていくわけですから、前向きに捉えて良いと思いますけどね。
●常識が間違い?アルファ碁の自己対戦は悪手だらけで囲碁界騒
2017/06/09:
アルファ碁同士の棋譜公開 碁界騒然「見たことない」:朝日新聞デジタル(大出公二 2017年6月2日17時24分)という記事が出ていました。"AI(人工知能)「アルファ碁」を開発したグーグル傘下の英ディープマインド社が、対局に備えて積み重ねたアルファ碁同士による自己対戦の棋譜50局を公開した"というニュースです。
そして、やはり「こんな碁はいまだかつて見たことがない」と碁界が騒然となる事態になっています。
・手数が進んだ特殊な状況に限り有効とされていた「星への三々(さんさん)入り」を序盤の早いうちに互いに打ち合う。
・双方の石がぶつかり合って手抜きがしにくい接触戦のさなかに戦いを放置して他方面に転戦する。
はてなブックマークでも、以下のようなコメントが人気していました。
“見たが、すごかった。愚形、悪形、拍子抜けの手抜きのオンパレード。2線のハイなんか慄然とする。これまでの棋理なら明確に悪手と言い切れるレベルの手が、ずらずらと並んでいる。”(ko2inte8cu 2017/06/02)
これらのすべてが「実は良い手」ということでもないと思います。普通に悪手が含まれているのでしょう。しかし、その悪手を打つAIが人間に完勝したというのも事実。最初の投稿の後、アルファ碁はもう1人の世界最高クラスである中国の柯潔九段にも3戦連勝してしまいました。
なので、やはり人類が良くないと思っていた手の中に、実は良い手が含まれているのは間違いなさそうな感じ。はてなブックマークでも、そういった反応が多く人気していました。
“スタニスワフ・レムのSF小説に、AIの生成した文学作品がAI向けになっていって、もはやAIにしか理解できなくなって人間は疎外されていく話があったけど、そんな日も近いのかも。”(henno 2017/06/02)
“囲碁とかいうめっちゃ古いのに人類には早すぎるゲーム/人間の打つ手は人間が思っていたほどルール上の勝敗に最適化されてなくて、言語や肉体芸術に近い領域で創造性を競っていたということなんだろう。”(teebeetee 2017/06/02)
“人類が1000年以上かけて編み出してきた定石を、遥かな高みから神様が「あーあ、違うったら。こうだって。」ってやってる感じすげえゾクゾクする。”(mcgomez 2017/06/02)
“人間がやっていた碁は碁に可能なことの一部分でしかなかった、みたいな話ホント面白い”(moondriver 2017/06/02)
“ヤムチャはサイヤ人の戦いのすごさがわかっていいよな。俺たちはミスターサタンに煽られて彼が最強だと疑わなかった一般人だからさ…”(plutonium 2017/06/03)
AIの発展に脅威を覚えている方もいるでしょうが、私もこういうのにわくわくしてしまう性質です。興奮しますわ。
●人間はAIから学べない?オセロは全然強くなっていないという現実
2017/10/27:どこかで書いた気がするんですが、「AIの打ち方から人間は学べない」という主張をしている方を見たことがあります。一方、私はこのページで「人間がコンピュータから学ぶチャンス」と書いたように、「人間はAiから学べるはず」という考え方です。
ところが、オセロの世界チャンピオンとして、20年前にコンピュータに全敗して衝撃を与えた村上健さんは、「コンピュータを取り入れたことで、人間の実力は上がってきていますか?」という質問に「私見ですが、驚くほど上がっていません。本当はもっともっとレベルが上がっていてもおかしくないのですが……意外にもほとんど上がっていません」と答えていました。
村上健さんが挙げた人間がAIから学んで強くなれていない理由として、コンピュータが手を選んだときに、どんな理由で着手したか、人間には理解できないためというのを挙げています。「ここはこういう考え方で、こうなんです」と言ってもらえないとわからないとのことでした。
また、「人間にとっては、上達を阻む大きな壁がある」「人間の限界があるのかも知れません」といったこともおっしゃっています。早く走るロボットができても、人間の身体能力に限界があるように、頭脳ゲームでも人間の限界が現れたのでは?とのことでした。こちらはまたかなり違う視点ですね。
(
人間VSコンピュータオセロ 衝撃の6戦全敗から20年、元世界チャンピオン村上健さんに聞いた「負けた後に見えてきたもの」 - ねとらぼ2017年10月21日 11時30分辰井裕紀より)
●オセロの元世界チャンピオン「自分が試行錯誤する人の方が強い」
ただし、「村上さんにとってコンピュータオセロとはなんですか?」に対し、「先生です」と答えています。今でもソフトを使って試合後の反省をして「ここはこう打てば良かった」と学んでいるとのこと。ブレイクスルーを与えてくれる存在ではないですが、細かいところで色んな良い手を教えてくれるとのことで、やはり学べるところはありました。
また、
人間に学ばない方が強い?アルファ碁ゼロが世界王者に100戦全勝で書いたように、AIが新たな定石を発見しています。これは当然人間の打ち方に影響を与えるでしょう。ただ、村上さんは、オセロでもコンピュータ由来の新手が多いこと、それより自分が試行錯誤する人の方が強いことも指摘していたので、これは一長一短かもしれません。
AI発達以前の古いインタビューで将棋の羽生善治さんも、乱戦にするのが大事といった話をしていました。お互いに最善手がわかっていたら、結果も同じになっちゃいますからね。どこかで乱した方が、地力勝負に持ち込めて勝ちやすくなるのかもしれません。
あと、学べるという点でもう一つ、
藤井聡太四段の強さ 詰め将棋日本一の終盤力と将棋AIの分析と影響という投稿もしています。タイトルにしたように、藤井さんはAIに学んだことで実際に大記録を作りました。実際に結果を出しているのです。したがって、AIに学べる点はあるが、すべてのケースでうまくいくわけではなく、限界もあるといった感じでしょうね。
●将棋のプロは「AIに学ぶ」がもう常識 AIに学ばない方が非常識に…
2023/02/14追記:少し上で<人間はAIから学べない?オセロは全然強くなっていないという現実>を書いたように、「人間はAIから学べない」という主張があります。ただ、私自身は「人間はAIに学べる」派であり、実際、AIに学んでいるプロも存在。今回読んだ記事によると、将棋ではむしろ「AIに学ぶ」がもう常識みたいですね。
・【天才棋士・羽生善治の復活】成功体験をかなぐり捨てて、新しい将棋と謙虚に向き合う(NEWSポストセブン / 2023年2月4日 6時59分)
<かつての輝きはもう失われたのか──2018年に27年ぶりの「無冠」となった天才棋士・羽生善治。その彼が今、前人未到のタイトル通算100期をかけて現役最強の棋士・藤井聡太と対峙している。52歳になった羽生はいかにして復活を遂げたのか。将棋観戦記者の大川慎太郎氏がリポートする>
羽生善治さんと10年以上も研究会仲間だった村山慈明七段(38)は、「羽生さんも若手棋士の研究を避けて、変化球を投げるような指し方が多かった。でも永瀬戦は最新形を受けたうえで、AIが最善と示す手順通りに進めるのではなく、自分のアンテナに引っかかった指し方を採用していました」と説明。以下のような説明もあり、AIに倣わない方がもはや珍しい存在のようです。
<羽生は最新形を採用しても、AI推奨の手を鵜呑みにはしない。いくら最善と示されても、その後の展開で人間には指しこなしにくい順もある。ならば自分の感覚に沿った手をまず考え、それをAIで調べて評価値が悪くなければ採用する。人間はどうしてもAIの最善手ばかりに目が行きがちなので、この手法は結果的に相手の意表を突けるメリットもあるのだ>
前年9月の棋王戦本戦で後手番の広瀬八段は、「横歩取り」という戦型を取り入れたことが羽生さんに敗れた原因と言われているとのこと。後手番が誘導する作戦で、以前はよく指されていました。ところが、AIの評価が低いことが判明したため、今では一部のマニアしか用いなくなりつつある戦法だといいます。
ただ、村山慈明七段は、「羽生さんが感想戦で『やっぱり厳密には(横歩取り側が)ちょっと苦しいんですかね』と言われたのが印象深い。横歩取りの評価値がよくないことを認めつつも、その中で工夫をしてチャンスを見出しているのかなと感じましたね」と感想を述べています。
記事では、<AIという時代の潮流に翻弄されていた羽生が、ようやく適度な付き合い方を見出したのではないか。AIの示す評価と、自分の経験による感覚を融合させる道筋が見えてきたのだろう>と解説。AIを真似るのが常識になっていることがわかる話。また、羽生善治さんにしてもAIに学ぶ部分が残っていることがわかります。
また、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで最強であり、やはりAIに学んだと言われている藤井聡太さんに勝利したときの以下の解説を読んでも、AIの分析が有効だというのがわかる話。また、ここらへんは以前書いた<お互いに最善手がわかっていたら結果も同じ>、<乱戦にするのが大事>とも関係する話でした。
<羽生は相掛かりという流行形で藤井に真っ向から挑んだ。藤井が前例を外して未知の局面に誘うも、羽生は迷うことなく攻め続けた。大駒を乱舞させ、藤井陣に迫る。そして初日の夕方にその手は現れた。羽生が持ち駒の金を敵陣の玉から離れた僻地に打ち込んだのだ。金は自陣の守りか、終盤で敵玉のそばで使うのが基本だ。
まさかの金打ち。だがAIは最善と判断していた。これに対して藤井が指した手が疑問手の可能性が高く、形勢の針が先手側に触れた。
羽生は2日目に入っても好調な指し回しを続け、藤井を破って1勝1敗のタイに持ち込んだ。異筋の金は、羽生の大局観が藤井を超えた瞬間だった>
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