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サイエンス誌に福島の甲状腺がん増加否定論文 「過剰診断」が本当の理由との見方


 読まれなくなっている福島原発事故のときの話をまとめ中。<正しくない? 津田敏秀氏が主張した「福島で甲状腺がん増加」>、<サイエンス誌に福島の甲状腺がん増加否定論文 「過剰診断」が本当の理由との見方>などの話をまとめています。


●福島で甲状腺がん増加しているのにマスコミが黙殺した…はデマ

2022/07/04:ここの部分は<福島で甲状腺がん増加は津田敏秀氏のバイアス? 有意差なしが正解かも>というタイトルで書いていた話。同じページに書いているこの後別の研究も紹介しているように怪しい説でした。その後を考えても、影響はなかったと考える方が妥当でしょうね。

2016/3/16:今はもう信じたい人しか注目しておらず、話題にもなっていないし、スルーでも良いかなと思ったのですが、言及している人がいたのでメモ的に。この後、メインで紹介する内科医の岩田健太郎さんはメディアは「黙殺」していると書いていたもののこれは誤解。マスメディアは一通り報道しています。

 こうした報道は慎重なトーンだったものの、他の専門家の意見があまりなかったので、私はむしろ「甲状腺がん増加」が確定的だと誤解される心配したくらいです。たとえば、共同通信は以下のような報道。ただ、ここは別の疫学専門家が慎重に見ているという話を軽く入れていました。

「被ばくで発症」と主張 福島事故後の甲状腺がん 2015/10/07 04:00 【共同通信】

 東京電力福島第1原発事故後、福島県で見つかっている子どもの甲状腺がんの多くは被ばくで発症したものだと主張する分析結果を岡山大の津田敏秀教授(環境疫学)らのチームがまとめ、国際環境疫学会の6日付の学会誌電子版に発表した。別の疫学専門家からは「結論は時期尚早」との指摘がある。

 研究チームは、福島県が事故当時18歳以下だった約37万人を対象にした昨年末時点までの甲状腺検査の結果を分析。年間発症率は事故前の日本全体と比べ、20~50倍と算出した。


●正しくない? 津田敏秀氏が主張した「福島で甲状腺がん増加」

 さて、次が岩田健太郎医師の記事です。岩田健太郎さんはメディアは「黙殺」していると誤解していたものの、「福島原発事故で日本ヤバイ」と煽りたいわけではなく、むしろ逆に津田敏秀教授の問題点を指摘していたんですよ。

 とりあえず、たいへん重要なスクリーニング(母集団からの抽出)に問題があるであろうことを、優しく指摘されています。コメント欄なんかではもっと容赦無いので、「この論文の何がおかしいのかは、(中略)元データの取り扱いが杜撰、恣意的にある所にあります」などと言われていました。

福島で甲状腺がんが増えている、という論文の考察 岩田健太郎 2015年10月13日 16:56

この論文で行われているinternal comparison とexternal comparisonの後者のほうで、比較する対象は日本国立がんセンターの2001-08年のデータです。当然、スクリーニングのバイアスがかかっていると見るべきです。論文では「However, the magnitude of the irrs was too large to be explained only by this bias」とありますが、なぜそういえるのか根拠は明示されていません。

2回やっているスクリーニングについても、this result cannot be explained by the screen- ing effect because most occult thyroid cancer cases would have been harvested in the first round screening.と書いていますが、やはり外的な比較とのバイアスの生じる余地については克服できていないと思います。

(中略)この論文を持って福島で震災後甲状腺がんが増えた、という結論をつけるのは難しいと考えます。


 また、「議論の余地がある」としつつも、バイアスがあまりないであろう福島県内の比較だと、他と変わらないということになるようです。

放射線曝露の程度に差があると想定される(この想定はざっくり、ですが)、福島県内の比較(internal comparison)、こちらはスクリーニングが徹底しており比較的バイアスのリスクが低いのですが、有意差は出ていません。least contaminated areaをreferenceにしていますが、1番近いところでも差がてていない。


●津田敏秀教授は商売の宣伝目的と疑う声が出てしまう…

 津田敏秀教授の関係ですと、過去に津田敏秀 放射線健康影響 甲状腺 超音波検査 福島 パンデミック疫学 市民のための環境学ガイド(03.01.2013)というものも書かれているのを見つけました。こちらだと商業的な理由で、津田敏秀教授がこのような主張をしているのでは?と疑われています。

A君:津田教授が「自分は疫学の専門家であるから、信じてもらいたい」という発言があったが、その相手の大平教授も実は疫学の専門家だということを知っていたのだろうか、と思いましたね。その相手である大平教授がリスクがどのぐらいになるのか、ご本人の口から聞きたいと要求したが、結局、誤魔化したと思います。

B君:津田教授は自分を「アウトブレーク疫学」の専門家だと主張しているけれど、並の疫学者ではない、ということを言いたいのだろう、というのが個人的な結論。すなわち、津田教授は、福島の住民の味方という立場を取ることは考えていないのではないだろうか、というのが、その結論の先にある推測。

A君:ということは、自分自身の「アウトブレーク疫学」の普及のために現在のような講演をやっている。あるいは、自分の主張が認められて、福島中通りの住民への避難を勧告出す(誰が出すかは別?)事態になることを望んでいる団体からの支援を受けてやっている。これが結論ではないでしょうか。

B君:そう言えば、アウトブレーク疫学に関する自分の本の広告を相当やっていた。広告する訳ではないですが、という言い訳は付いていたが。

A君:「アウトブレーク」という言葉は感染症の用語なので、放射線のように伝染性が全くない場合に使用するのは、もともと不適切ですよね。ということは、いくら「アウトブレーク疫学」を福島に適用したといっても、誰も支持をするとは思えない。

●専門家ならやらない対照群の選び方の間違いをしてる津田敏秀教授

 広告目的であるかどうかは別として、問題なのは本当の専門家から見ると「間違っている」というところでしょうね。このときにも、選び方に問題があると言われていました。

 津田教授が無視していることは、やはり、対照群との同等性の議論のように思える。過去、岡山大学などでも甲状腺がんの疫学を行っているというデータがでているが、その方法は、触診のみであって、福島県で用いられた超音波法とは違う。

 超音波のエコーによる診察法の分解能は、かつて数ミリと言われたものが、現時点では1ミリになったらしい。かなり進化している。

 スクリーニング効果という用語がある。それは、成人になり、40歳代、50歳代になると甲状腺がんは増えてくるが、10代の検査をすると比較的多くの甲状腺がん、もしくは、その前駆症状が見つかるが、これは、その状態のままかなり時間が経過して、中年になってから発症するということを意味している、という主張を意味する言葉である。

 津田教授は、今回みつかった59件もの福島県の調査結果は、件数として多すぎて、スクリーニング効果などで説明できない、と主張している。しかし、対照群が違っていては、どんな議論も無価値である。

(中略)

A君:さて、次の問題点が、疫学者としては決してやらないであろう対照群(あるいは母集団)の選択に間違いがあることは、指摘されていましたね。

B君:これは確かに基本的な間違いだと思う。そこに誤魔化しがあることがもともとバレている。このような素人にも見破られる理屈で闘うのは、相当な覚悟があるとしか言えない。要するに、最初から無理は承知の議論なのではないだろうか。

A君:今回のようにプロ的な人々から質問を受けることを想定していなかった。あるいは、困ったら訳の分からない解答をしてとぼける戦略だった。

B君:余りの追求に、疫学者のプロに向かって、「あなたは疫学が分かっていない」というのでは、その本性が分かる人には分かってしまった。


 上記の元になっているのは、「私は疫学の専門家なので、信じてもらう以外にない」という津田教授の発言です。これは有名な詭弁の一つである「権威主義におちいって話を聞かなくなる」に当たるのではないかと考えられますので、説得力を下げてしまう言い方でした。


●サイエンス誌にも福島の甲状腺がん増加に否定的な論文

2016/3/16:上記で書いた件に関連する話。検索かけても他が報じていないのがあれ?って感じですが、サイエンス誌でも福島における子どもの甲状腺がん増加に否定的な論文が掲載されたようです。甲状腺がんは増加していないと考える方が妥当だと思われます。

福島県で小児の甲状腺ガンの発生率が上昇、最有力科学誌が指摘する意外な原因とは? - BusinessNewsline Posted 8 days ago, by Emily Thomas

科学界ではもっとも権威のある専門誌と見なされている「Science(サイエンス)」は、最近掲載した一般記事「Mystery cancers are cropping up in children in aftermath of Fukushima(事故後の福島の小児の間にガンの発生率、謎の上昇)」というタイトルの記事を掲載し、福島第一原発事故では、史上最悪の原発事故となったチェルノブイリ事故で放出された放射能の約10分の1の量が放出され、この事故を契機に、事故が発生した福島での小児ガンの発生率が上昇傾向を示している事実を伝え、この原因分析を行っている。(中略)

甲状腺ガンの最高権威の一人となるケンブリッジ大学のDillwyn Williamsは、最近、専門誌「Epidemiology」に発表した論文の中で、福島で発生している小児ガンの発生率上昇と福島原発事故との間には因果関係はない可能性が強いとし、こうした調査結果がでているのはむしろ、調査方法そのものに原因があると述べている。

●「過剰診断」が甲状腺がん増加の本当の理由との見方

 記事では直接そう書かずにまどろっこしい書き方をしていましたが、ひとことで言うと「過剰診断」という以前より国内でも指摘されている理由を挙げていたようです。2つのグループを比較する際は、同じように検査する必要があるのに、違う条件で検査したために偏りが生じた…といった感じでしょうか…。

チェルノブイリ事故では、事故後、多数の乳牛に放射能汚染が広がったのにも関わらず、ウクライナでは乳牛に対する対策を講じることは行わらず、この結果、被爆した乳牛が生産した牛乳を多数の子供が摂取することで、子供の間に甲状腺ガンが発生する形となった。

しかし、福島第一原発事故では、当局によって事故後、放射能が含まれてる食品は市場に流通しないように素早い、措置が講じられた。

それにも関わらず、福島では、チェルノブイリ事故の教訓から小児に甲状腺ガンが発生することを懸念して、小児の甲状腺ガン発生を重点的に監視する検査体制が敷かれる形となった。

Dillwyn Williamsを始めとする専門研究者はこの過剰反応とも呼べる甲状腺ガンの検査体制が敷かれたことにより、これまで統計上は、表面化してこなかった小児における甲状腺ガンが発見されるようなっている可能性を指摘している。


●あのチェルノブイリですら見かけ上増加していた可能性がある

 上記でチェルノブイリの例が出ていましたので、確認のために検索。細かいところで出典がないところがありましたが、やはり乳牛が原因だとする話がWikipediaでありました。
チェルノブイリ原子力発電所事故 - Wikipedia

汚染区域の子供は甲状腺に、最大で累積50グレイの高線量を被曝した[要出典]。これは汚染された地産の牛乳を通じ、(中略)放射性ヨウ素を多量に摂取したためであり、また子供は身体および器官が小さいため、大人よりも累積線量が高くなるためでもある。IAEAの報告によると、「事故発生時に0歳から14歳だった子供で、1,800件の記録された甲状腺癌があったが、これは通常よりもはるかに多い」と記されている。

 発生した小児甲状腺がんは処置することができたタイプでしたので、検査そのものが重要であることは事実です。ただ、甲状腺がん増加という結果を出すための検査…となってしまうと本末転倒です。

 また、チェルノブイリの事故のときにも、見かけ上増加していた可能性について触れられていました。
1995年、世界保健機関 (WHO) は、子供と若年層に発生した700件近い甲状腺癌をこの事故と関連付けた。10件の死亡が放射線に原因があるとした。しかし、検出される甲状腺癌が急速に増えているという事実は、そのうち少なくとも一部はスクリーニング過程によって作り出されたものであることを示唆している。放射線により誘起される甲状腺癌の典型的な潜伏期間は約10年であるのに対し、一部地域での小児甲状腺癌の増加は1987年から観測されている。しかし、この増加が事故と無関係なのか、あるいはその背後にあるメカニズムかは、まだ十分に解明されていないとIAEAは主張している。

●韓国で起きた過剰診断による見かけの増加 見かけの数と異なる実際の数

 論文ではさらに韓国の例も挙げていました。原発事故とは無関係に増えているのですから、これはわかりやすいですね。元記事では最初間違ったことを書いていて、「子どもではなく大人だ」と英語コメントで言われて訂正しています(元記事ももともとは英語)。なので、以下はそこを訂正した状態で引用します。
 サイエンス誌では、同様な事例として、1999年に韓国で起きた騒動を教訓として挙げている。韓国政府は1999年から公衆衛生上の新施策として、それまでは行ってこなかった甲状腺ガンの検査の公的援助を開始した。(中略)しかし、この結果、2011年には、公的支援による検査導入前の1993年に比べて、韓国国内における甲状腺ガンの発生率は15倍にも達する状況となってしまったのである。

ただし、それ以前と比べて韓国の甲状腺ガンによる死亡者数は、目立った変化は生じてはおらず、結果的に、この韓国で起きた事例は、検査を新たに導入したことで、それまでは正確につかめていなかった正確な甲状腺ガンの発生率が統計資料上に具体化したことが原因だと、現在の研究者の間では考えられている。


 最近書いた日本の殺人事件被害者数の推移 ピークは昭和30年で現在は20%未満まで低下では、単純な犯罪件数の増減によって治安の良し悪しは語れないと書きました。

 例えば、交通違反が同じ割合で起きていたとしても、警察が取り締まりを強化する・しないによって、交通違反の検挙数は大きく異なってきます。実際に存在する数と可視化されている数が同じでないということは、このようによくあることです。このことに注意して、ものを見なくてはいけません。


●「福島の被曝量はチェルノブイリの島より低い」という報告も

 ついでに最近読んだ別記事「福島の被曝量は仏コルシカ島より低い」英国の世界的権威が報告 子供たちの健康を継続調査 産経ニュース / 2016年3月9日 19時18分の話も。
東京電力福島第1原発事故から5年となるのを前に、住民の健康への影響を継続調査してきた英インペリアルカレッジ・ロンドン教授で、分子病理学の世界的権威であるジェリー・トーマス氏が9日、都内の駐日英国大使館で記者会見、放射線による健康への影響はほとんどないとする結論を公表した。

 教授は5年間の調査結果として、福島の子供たちの被曝(ひばく)量はフランスのコルシカ島の子供たちのそれよりも低いとして、子供への健康に影響が及ぶリスクは非常に低いと言明。「問題は心理的なものにある」と強調した。(内藤泰朗)

 なぜコルシカ島か?と言うと、チェルノブイリ事故で被害を受けたからだと思われます。ここでもやはりミルクの話が出ていました。
4. 政府冷淡 コルシカ島の被曝|世界のヒバクシャ|ヒロシマ平和メディアセンター

 地中海に浮かぶコルシカ島は、面積約8,500平方キロで、広島県よりやや広く、人口は22万人。この観光の島コルシカに、チェルノブイリ原発の「死の灰」が雨とともに降り注いだのは、事故から6日後の1986年5月2日だった。しかし、放射能汚染の事実は、フランス政府からでなくイタリア経由で伝わった。(中略)

 「ヨーロッパ中が防護策をとっているのにフランスだけ安全なはずがない」。こう確信した彼はたまりかねて、5月12日にパリの放射線防護委員会へ羊の乳を送り、分析を求めた。

 案の定、1リットル当たりのミルクから4,400ベクレルのヨウ素131が検出された。ヨウ素131の半減期が8日であることから逆算すると、コルシカに降った当日は7万ベクレルになる。EC諸国で定めている摂取基準が500ベクレルだから、結果を聞いた時のショックは大きかった。彼はサンプルを送るまで調査すらしなかった政府に失望しつつも、村人の健康を注意深く観察し続けた。

 やがて不安は現実となった。もともとウイルス性の甲状腺障害が多かったところへ、事故直後から子供の甲状腺肥大が増え、のどの障害を訴える老人も多くなった。「事故後2年間、甲状腺に何らかの異常がある村人は3倍にもなった」とフクニエさんは指摘する。

 前述の通り、検査には意味があるわけでこれは否定しませんけど、甲状腺がん増加という結果が欲しくて堪らないという態度で研究することには非常に問題を感じます。


【本文中でリンクした投稿】
  ■日本の殺人事件被害者数の推移 ピークは昭和30年で現在は20%未満まで低下

【その他関連投稿】
  ■バナナの放射線量、100ベクレル以上 昔から食品基準値オーバー?
  ■医療・病気・身体についての投稿まとめ

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