トリクルダウンや物価上昇しても賃金は上がらない…といった話をまとめ。<無責任安倍首相トリクルダウンを否定 賃金はアベノミクス失敗を示唆>、<金持ちが儲かれば…のトリクルダウン理論、実は特に根拠ない>、<日本より圧倒的に豊かになった香港で低所得者層はどうなった?>といった投稿をまとめています。
【クイズ】スティグリッツ教授の主張として正しいものはどれでしょう?
(1)アベノミクスの金融政策に対して否定的である。
(2)財政健全化のための消費税増税に積極的である。
(3)富裕層に対し増税し、所得格差を是正すべきだとしている。
●安倍首相トリクルダウンを否定
2016/4/7:もう1年前くらいのものなんですが、
[梯子外し]アベノミクス:安倍首相「トリクルダウン、我々の政策と違う」<…え? - Togetterまとめを見て、そんなこと言っていたんだ…と。
アベノミクス:首相「トリクルダウン、我々の政策と違う」 毎日新聞 2015年02月02日 18時50分(最終更新 02月02日 23時11分)
安倍晋三首相は2日の参院予算委員会で、「富めるものが富めば、富が滴り落ちる」とする「トリクルダウン理論」について、「我々が行っている政策とは違う」と強調した。(中略)
首相は経済界に賃上げを働きかけていることを強調。「上からたらたら垂らしていくのではなく、全体をしっかりと底上げしていくのが私たちの政策だ」と語った。【水脇友輔】
●無責任発言である理由
安倍政権の人がもともとトリクルダウンを主張していないのであればそれでも良かったのですが、実際にはそうではありませんのでこの発言は極めて無責任です。
日刊ゲンダイ|「21世紀の資本」著者ピケティ氏がアベノミクスに“ダメ出し” 2015年1月30日
パネリストのひとり、西村康稔内閣府副大臣が、政府の「雇用者100万人増」や「トリクルダウンの試み」について説明。「アベノミクスが格差を拡大しているというのは誤解である」と力説した。
しかし、ピケティ氏はこれにやんわり反論。
「確かに日本の格差は米国ほどではない。しかし、上位10%の富裕層の所得は、国民所得全体の30~40%まで広がっています。日本がゼロに近い低成長なのに、上位の所得が増えているということは、裏を返せば、実質的に購買力を減らしている人がいるということです。日本の最高所得税率は1960~70年代より下がっています。上位10%の所得が増えているのに、税率が低い状態では格差が広がるばかり。所得税の累進性を高めるべきです」
また、安倍政権の中心であった甘利明経済再生担当相(当時)も思い切りトリクルダウンについて言及していました。
増税延期なら日本売り起こさせぬ決意と手当て必要=経済再生相 | ロイター 2014年 11月 14日 21:13 JST
消費増税を延期する場合の理由として、企業収益が上がっている一方で実質賃金が上がっていない点を指摘。「アベノミクスの基調が頓挫したということではないが、トリクルダウンがまだ弱い。引き上げを延期するとしたら、企業業績が賃金に跳ね返る2巡目、3巡目を起こす時間的猶予が必要になるという判断だ」との考えを示した。(石田仁志)
●賃金はアベノミクス失敗を示唆
甘利明さんはアベノミクスに絡めて実質賃金についても触れていました。上記は2014年であるものの、2016年になっても賃上げはうまく行っていません。現状はアベノミクスの失敗を意味しています。
曇る賃上げの春(1)「これは謀反だな」 2016/3/16付 日本経済新聞 朝刊
「減益なのに賃金だけ大盤振る舞いできるか」(化学業界首脳)。(中略)
「これは謀反だな」。メガバンク3行のベア見送りの流れが固まった2月28日、ある経済界の首脳はこうつぶやいた。
2月中旬のあるメガバンクの中央交渉。マイナス金利導入で収益改善が難しくなったことなどを理由に経営側は「環境は一変した。一律的なベアを行う状況にない」と慎重姿勢を示した。銀行界ではあきらめムードが急速に広がり、3月14日には地方銀行の横浜銀行労組がベア要求を取り下げる方針を固めた。
(中略)春季交渉の結果が脱デフレの天王山と踏みベア実施を強く経済界に求めていた日銀でも「パートやアルバイトの時給にも目を配るべきだ」(幹部)と微妙に発言を修正し始めた。
15日の金融政策決定会合後に開いた日銀総裁の記者会見。「賃金が上昇する環境は整っている」。黒田はこう話すのが精いっぱいだった。日銀の誤算は、暗雲が漂う賃上げと脱デフレのいまを映す。
東京新聞:「潮目変わった」官製春闘3年目 要の賃上げに陰り:経済(TOKYO Web) 2016年3月17日 (吉田通夫)
安倍政権は、日銀による二〇一三年の大規模な金融緩和で為替相場を円安に導いた。経団連や連合などを交えた「政労使会議」も設置。企業に賃上げを求めた。個人消費を喚起し企業業績を伸ばす「好循環シナリオ」の実現のためだ。
円安効果で大企業の収益は過去最高水準になったが安倍政権の政策では企業の将来への不安は消えず、利益を積み上げて内部留保を増やし、賃金を大幅に上げようとはしなかった。
しかも円安で輸入品の価格も上昇。「官製春闘」で政府が賃上げを求めても、上げ幅は物価の上昇に追いつかなかった。大企業が潤えば、やがて中小にもその利益が及ぶという「トリクルダウン」は実現せず、原料の高騰で一部の中小企業は一段と厳しい立場に追い込まれてしまった。(中略)
第一生命経済研究所の熊野英生氏は「現状は金融緩和による円安と賃上げへの介入という分かりやすく短期的な政策に終始している」と指摘。「ベアの実現には規制緩和など地道な改革を重ね、企業が日本経済の構造が好転するという見通しを持てるようになることが必要だ」と話した。
●所得再分配も否定して無策な安倍政権
安倍首相がへんてこりんなのはトリクルダウンを否定しながら、所得再分配も否定していることです。
トリクルダウンでなく、経済の好循環目指す=安倍首相 | ロイター
[東京 28日 ロイター] - 安倍晋三首相は28日午後の参議院本会議で、安倍政権として目指すのはトリクルダウンではなく、経済の好循環の実現であり、地方経済の底上げだと述べた。
相原久美子氏(民主)の質問に答えた。
安倍首相は「政府がどれだけ所得再配分を繰り返しても、持続的な経済成長を通じて富を生み出すことができなければ、経済全体のパイも個人の所得も減る」と指摘。「わが国はデフレ脱却と経済再生の実現が喫緊の課題だ。政労使による賃上げの促進や地方創生にも取り組んでいる」と語った。(石田仁志)
所得再分配ってのは自民党が大嫌いなことなんですよね。その代わりに、企業への賃上げ介入といった資本主義的でない手法を取る、公共事業でばらまくという従来の自民党が好きな手法ならやりたがるのです。
ところが、
アベノミクス支持のスティグリッツ教授は所得再分配を訴えていたなどで書いているように、アベノミクスの大義名分とされたスティグリッツ教授やクルーグマン教授は金融緩和は支持していたものの、トリクルダウンは最初から否定しており所得再分配を訴えていました。
【クイズ】スティグリッツ教授の主張として正しいものはどれでしょう?
(1)アベノミクスの金融政策に対して否定的である。
(2)財政健全化のための消費税増税に積極的である。
(3)富裕層に対し増税し、所得格差を是正すべきだとしている。
【答え】(3)富裕層に対し増税し、所得格差を是正すべきだとしている。
所得再分配のようなお墨付きのある政策を取らずに、推奨されていないことしかやらないというのは、無策に等しいです。
●金持ちが儲かれば…のトリクルダウン理論、実は特に根拠ない
2014/12/7:"この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です"のタグが取り付けられていますが、
トリクルダウン理論 - Wikipedia(2014年11月24日 (月) 04:20)によると、トリクルダウン理論とは、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウン)する」とする経済理論または経済思想だそうです。
ただし、Wikipediaは直後に<実証性の観点からは、富裕層をさらに富ませれば貧困層の経済状況が改善することを裏付ける有力な研究は存在しないとされている>と続いてます。結局、証明されていないみたいなんですよ。何となくこのトリクルダウンの話を思い出したのが、
不夜城の陥落、力を失いつつある香港デモ:日経ビジネスオンライン(池田 信太朗 2014年12月1日)の以下の部分でした。
<「貧富の差が拡大している」という指摘は、マクロ指標を見ても明確だ。返還直前の1997年、所得格差の大きさを示すジニ係数は0.483だった。2006年にはこれが0.5に、2011年には0.537までに達した。香港政府は近年、貧困対策に本腰を入れることを余儀なくされている。
例えば上記の政府による土地供給に入札できるのは、実質的には財閥と呼ばれる巨大資本のみ。彼ら「持てる者」は土地高騰によって利を得るが、大多数の香港人にはその恩恵が届かない。持てる者と持たざる者の格差はますます広がっていく。
GDPというグロスで経済規模を見る指標で語るなら、香港経済は中国政府の「恩恵」によって確かに復活した。だが、ミクロの視点で見れば、必ずしも多数の香港人にとって幸福に結びついたかどうかは分からない>
●日本より圧倒的に豊かになった香港で低所得者層はどうなった?
実際、香港の人の経済状況はどうなのでしょう? 検索して見つけた
「香港は東京より金持ち」…ってホンマかいな 東洋経済オンライン(ムーギー・キム :投資家 2012年11月28日)は2年前というちょっと古い記事ではあるものの、何となく雰囲気をつかめます。この記事を書いた当時、作者のムーギー・キムさんは、日本の購買力平価ベースの1人当たりGDPを調べて驚いたそうです。
何に驚いたのか?というと、"日本の購買力平価ベースの1人当たりGDPは、韓国や台湾と同じくらいで、香港とシンガポールにはるかに抜かれていた"ということ。台湾にも抜かれているようですが、香港の場合は日本の1.5倍。"シンガポールに至っては2倍近い6万ドル"だそうです。
「でもちょっと待てよ」とキムさんは思います。作者の経歴を見ると、香港とシンガポール両国で暮らしていたようですが、「香港の人たち、日本に比べてホントにそんなに稼いでいたかな?」と考えると、肌感覚とは違うようなのです。確かに香港の金持ちは「ケタ違い」。お金持ちがいるのだけは事実です。
ただ、"正直、一般市民のレベルでは日本のほうがまだまだ生活水準が高い"印象。たとえば、"香港では一般市民の中でもおカネをあまり持っていない層のアパートは極めて狭小"。"低所得者層の住宅は数十年前のもので、かつ設備も悪く、道を歩いていると壊れた空調機から水がポタポタしたたり落ちて"いる有り様だといいます。
●トリクルダウン理論の効果とGDP 日本よりも豊かになった香港
"香港には物価が世界最高水準に高い金持ち経済圏と、物価が極端に低い経済圏が共存している"ために、生きていけるのですが、格差はすごいんですね。"高級住宅棟の中にあるオーガニックスーパー360ではりんごが1つ500円で売っているが、そこから15分歩いたテンプルストリートでは6個200円くらい"といった様子。格差としては象徴的です。
物価の安さに関しては、"何かにつけて自由貿易を徹底し、世界に門戸を開いたおかげで人々はつねにグローバル競争にさらされるが、代わりに世界中から関税なしで安価に品物を買うことができる"と書いていたのがおもしろかったです。
日本の話をしてしまうと途端に政治的な立場に囚われて思考停止してしまう人がいるのですが、日経ビジネスオンラインの記事では「香港はGDPなら復活したが、ミクロの視点では幸福に結びついたかどうかは分からない」といった話の直後に、"これは、例えばアベノミクスによって株価が上昇したことが日本人の幸福の総量を増やしたかどうかという議論と同じだ"と続いていました。
私は金持ち=悪みたいな左派的な見方には批判的ですが、かと言って貧困層を放っておけとも考えません。トリクルダウンにおける「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるする」の「富める者が富めば」は肯定しつつ、「自然に富が滴り落ちる」のは待たずに、貧しい者を支援する政策も同時に行うべきだと思います。
●安倍晋三首相アベノミクス自画自賛「(円安で)タマネギ、中国より安い」
2013/3/14:ここから、<安倍晋三首相アベノミクス自画自賛「(円安で)タマネギ、中国より安い」>というタイトルで書いていた別投稿の話。
2013年3月12日12時29分 朝日新聞 「タマネギ、中国より安い」 首相、アベノミクス自賛という記事に、あれ?と思ったんですよ。
<成果はまずタマネギの価格に――。安倍晋三首相は12日の衆院予算委員会で、テレビで見たというタマネギの値段を紹介。円高が是正され「中国の輸入タマネギより、日本のタマネギの方が安くなった」として、自身が進める経済政策「アベノミクス」の成果を強調した。
安倍首相は「ずっと、中国の輸入タマネギよりも、残念ながら日本の農家が一生懸命つくったタマネギの方が高くなっていた」と説明。しかし、円高が是正されたことで「十数年ぶりに逆転し、日本の方が安くなった。頑張った人が報われる社会が近づいているなと実感している」と胸を張った>
変だと思ったので
はてなブックマークを見てみると、いろいろとツッコミがありました。
You-me
…とまぁ、5年も勉強したのに未だにこういうこといっちゃうぐらい安倍さんのリフレ政策の理解はあやしいところが残ってるのですが、朝日もつっこんでいいのよ? 2013/03/12
Gl17
輸入品値上がりは円安のデメリットやろ…てか市況次第の生鮮品で語るな。インフレ政策が目玉だのにインフレの概念まるで理解してない、でもコレ新聞がツッコンだら「カップ麺価格叩き再来」と猛爆されるのは鉄板!
machida77
えー/やはりあの人は経済政策を理解してやっているのではなく結果オーライ的なものなのだろうか…。 2013/03/12
susahadeth52623
「…などと意味不明のことを述べており…」という文がこれほどふさわしいのも珍しい。
素直な受け止め方としては、中国産が上がっただけというものです。庶民にとってはデメリットであり、自慢するような話ではありません。
orangestar
正しくは「中国産のタマネギが国産より高い」。国産のタマネギが安くなったわけではないよね…? 2013/03/12
kuzu_masato
日本産の玉ねぎが安くなったのではなく、中国産の玉ねぎの値段が上がっただけ。つまり我々消費者の暮らしが苦しくなったという話。 2013/03/12
●国産が当たり前…そもそも中国産野菜は店頭に並んでいたのか?
私が気になったというのは、そもそも今まで中国産野菜が店頭に大量に並んでいたのか?という話。普段買い物に行く皆さんの方が安倍晋三首相よりきっとよくご存知でしょうけど、店頭に並んでいる海外産の野菜って意外に多くないんですよね。
もし海外産野菜が本当に安かったとしても、国内産に単純な価格以外の魅力が大きく、競争で勝っているためでしょう。もちろんどちらが安いかは野菜の種類によるのですけど、少なくとも玉ねぎは普段から国産が当たり前で海外産に牛耳られている野菜ではありません。
では、どこに海外産の玉ねぎがあるのか?と言うと、加工用食品など産地名を記載しなくて良いところだと思われます。<中国産野菜が高騰 卸値、タマネギは日本産を逆転 アジア需要増や円安で>(2013/3/7 21:05 日本経済新聞 電子版)という記事でも以下のように書いていました。
<中国産野菜の国内卸値が上昇している。タマネギやニンジンなどは1年前に比べ1~7割上昇。特にタマネギは14年ぶりの高値となり国産品を逆転した。経済成長からアジア各国が中国産の野菜の調達を増やしているうえ、中国国内の生産コストも上昇している。円安も重なり中国産を主に使う外食産業などの仕入れコストが増える要因になっている。
外食チェーンや大手総菜は中国産野菜を主力にしている例が多い。>
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDJ0701G_X00C13A3QM8000/●単純な価格は無関係 中国産が高くても国産に切り替えない理由
ただ、実のところこれが国内農家の利益に速やかに繋がるかと言うと、怪しいところがあるようです。<業務用野菜、国産への切り替えが難しい事情 中国産野菜高騰>(2013/3/7 21:04 日本経済新聞 電子版)では、以下のように指摘されていました。
<中国産野菜が値上がりすれば国産に切り替えればいいようにも思えるが国産では対応できない事情もある。
中国産タマネギは同国内で表面の皮をむいて出荷する。業務用に大量に使う外食チェーンにとっては店舗での処理工程が省け作業効率が高い>
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDJ0701L_X00C13A3QM8000/ 有料記事で途中までですけど、おそらく人件費のかかる部分が多いため、まだなかなか切り替えられないということなんでしょう。中国の人件費も上昇傾向というのは以前から言われていますので、これを含めた逆転も可能には可能だと思われ、国内産玉ねぎの使途拡大に繋がり、店頭玉ねぎの価格上昇圧力ともなりそうです。
ただ、実際にそうなるまでには時間的なギャップがあると見た方が良いでしょうし、加工食品の価格が上がってあらゆる食品の価格が上がることが、一般市民の本当に利益になるかどうか?というのもまた別の話になってきます。
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