最初に追記 2020/12/25:
●そもそも色盲・色弱・全色盲と今は言わない では何と呼ぶのか?
●「色覚異常」というよりは「色覚特性」、進化上でも不利ではない
【クイズ】「旧世界ザル」に含まれるサルはどれでしょう?
(1)ヒト
(2)ヒヒ
(3)マーモセット
●そもそも色盲・色弱・全色盲と今は言わない では何と呼ぶのか?
2020/12/25:別件で、色盲の定義を理解しておいた方が良いだろうな…と少し調べましたのでこちらにも追記。本来、こちらの投稿でも先に調べておくべきものでしたね。で、今回検索してみて驚いたのは、今はそもそも「色盲」という言い方はしない…ということでした。
色盲とは - コトバンク デジタル大辞泉の解説によると、色盲とは、「特定またはすべての色を識別することが困難な状態」で、かつては、程度により全色盲・色盲・色弱などの呼称が用いられました。ただ、現在は、色覚異常・1色覚・2色覚などと言うそうです。
学術的には、色覚に関与する3種類の網膜錐体細胞のすべて、または2つが機能しない状態を1色覚(いわゆる全色盲)、1つが機能しない状態を2色覚(いわゆる色盲)、1つの分光感度特性が通常と異なる状態を異常3色覚(いわゆる色弱)とのこと。より正確に状態を表現する学術用語に統一されたようです。
●「色覚異常」というよりは「色覚特性」、進化上でも不利ではない
また、
色覚特性について|メガネスーパー鏡のページは、「かつての色盲・色弱」という言い方をしているだけでなく「色覚異常」とも言わず、「色覚特性」という言い方をしています。後述のもともと書いていた研究結果からしても、「異常」と言う方が違和感があるかもしれませんね。
メガネスーパーでは、色を識別する錐体細胞が色の認識・識別が多数派と違うタイプだという説明。赤緑色弱といわれている、赤と緑の区別がつきにくいタイプが多いようです。世界的にはおよそ2億5000万人の色覚特性を持つ者が存在するといわれており、さほど珍しい特性ではありません。
こちらによると、色を感じ表現する要素には、「鮮やかさの“彩度”」「明るさの“明度”」「色合いの“色相”」という3つの要素があるとのこと。このうち、色を感じる上で最も大きな要素は「色相」です。ただ、色覚特性の方はこの色相で色を識別する比率が低め、あるいはかなり低いために、色の識別が難しくなっているとされていました。
●赤・緑の区別がつかないいわゆる「色盲」のサルに全く不利なし
2016/5/2:東大の河村正二教授の研究では、3色型ではない2色型のクモザルでは、赤・緑の区別がつかないために、葉と果実の区別ができないことがわかっていました。しかし、果実の『発見』『検査』『摂食』を比較してみると、意外なことに両者に全く差はなかったそうです。これは河村教授としても、想定外でした。
「予想に反して、3色型と2色型に違いがまったくありませんでした。さきほどの3つの行動指標のどれでも、まったく差がない。どういうことだというので、結局あれこれやってわかったことは、実は明るさのコントラストが一番利いていたということになったんです」
この記事
「正常色覚」が本当に有利なのか:日経ビジネスオンライン(2016年3月26日)の聞き手・川端 裕人さんは「これは、えええっ、というくらい驚きの結果」としています。<だって、3色型の色覚なら背景の葉っぱから、果実の赤がポップアップして見えて有利なはずではないか。明暗だけをたよりにしても区別しにくいのではなかったのか>とも書いていました。
●見えづらいエサを発見!むしろ色覚異常のサルの方が有利なことも
これだけならまだしも、いわゆる色覚異常に分類される、2色型のサルの方が良いという事例まで見つかってしまいました。
「それは昆虫を食べる時です。2色型色覚は確かに赤・緑の色コントラストに弱いけれども、逆に明るさのコントラストや形や形状の違いに非常に敏感なんです。それで、カムフラージュしているものに対しては2色型のほうがより強いと。それで、単位時間当たりにどれだけ昆虫をつかまえたかというのをオマキザルで実際に調べたら、2色型のほうが良いとわかりました。特に森の中で日が差さない暗いところに行けば行くほど、2色型が有利で、3倍近く効率がいいんです。統計的にもきちんと有意です」
そういえば、
さまざまな動物の可聴域では、可聴範囲が広いと音を聞き分ける能力が落ちたり、高音が聞こえると低音が弱ったりしていました。すべてにおいて良いということにはならないようです。ある一点だけ見て、優れていると判断するのは間違いなんですね。
また、3色型と2色型では、繁殖成功率に変わりがないことを示したり、むしろ2色型の方が高い傾向があることまで示したとのこと。ただし、2色型の方が高いとはいえ有意差はないそうですから、こちらは「差なし」と捉えた方が正解でしょう。
●色弱・色盲という「色覚異常」な人の存在は進化の上で有利だった
なお、ヒトを除く旧世界ザルや類人猿のほとんどに、3色型の強い選択圧がかかっているそうです。どのサルでも同じ傾向が見られるというわけではありません。では、なぜヒトの場合は例外的に2色型が残ったのでしょう? 河村正二教授は以下のように推測しています。
「ひとつ考えられるのが、森林の外での狩猟です。3色型色覚はそもそも、霊長類の森林適応だとされているわけですから。ヒトは約200万年前、ホモ属になったあたりから森林を出て(中略)生き延びてきた種(中略)。そうすると、狩猟において獲物はカムフラージュがかかっているし、狩猟をすれば自分も肉食獣に狩られるかもしれない。肉食獣はたいていカムフラージュがかかっているから、集団の中に2色型や明確な変異3色型の人がいることが、それぞれの生存に有利につながる可能性も考えられる」
専門家の話ではありませんけど、以前やった
自然界は弱肉強食という思い違いと人間社会が弱者を救済する理由では、人間は「社会性」を武器として生き残ってきたという話がありました。集団内の多様性を保持することで、生き残りやすくなっていたのかもしれません。
【クイズ】「旧世界ザル」に含まれるサルはどれでしょう?
(1)ヒト
(2)ヒヒ
(3)マーモセット
【答え】(2)ヒヒ
「旧世界ザル」ってのはアフリカ大陸・ユーラシア大陸のサルみたいですね。ただ、ヒトや類人猿は含まないようです。
●異常と考えるのはおかしい…「色覚異常」ではなく「色覚多型」?
なお、わかりやすくするために、色弱・色盲、色覚異常といった言葉を使いました。ただし、そもそも異常ではないのでは?という話も出ています。「2色型や明確な変異3色型」というのは、今の医学の言葉では「色覚異常」とされるものの、河村さんの研究の上に立って見渡すと、実はヒトの集団が持っているのは「異常」ではなく、「多型」なのではないかとしていました。
「感覚について、これが優れているとか、優れていないとかいうのは、間違っていると思います。3色型は2色型より優れている、あるいはその逆とかいうのは、進化の視点から見たらかなり違う。常識で思っている優劣、とくにそれが遺伝子に根ざしているものには、多くの場合、別の理由があるんです。ここに至るまでにものすごく長い歴史があって、その中で培われてきたもので、そこで生き延びてきたことには意味がある。一見、不利なようなものが、実はそれがあったからヒトがいるのだと。ヒトの色覚多型は、その一例なんだと思います」
ここらへんは感覚的に受け入れられない人がいるかもしれませんが、少なくとも進化上では優劣がなかった…というのが事実のようです。なお、最初に追記した色盲について下調べした件ですが、動物に関する事例だったんですよ。この動物の事例を考えると、色盲が不利ではないと理解しやすいかもしれません。
というのも、動物というのは人間で言う色盲であっても、人間以上の俊敏さで獲物を捕らえることができます。もちろん動物の場合は人間にない特性があるために、それができるのですが、色覚異常の人間も色覚異常ではない人間にない特性をある程度持っているためにそれが有利に働いた…と考えられることができそうです。(2020/12/25追記)
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