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地域活性化を促進するとされるITの発展、実は地方の過疎化の原因だった


 ITの発展で地域活性化が楽になると思いきや、実際には全く逆という驚く話。<地域活性化を促進するとされるITの発展、実は地方の過疎化の原因だった>、<ITの発展によって近くの国との貿易量の割合が増える現象も確認>、<ITによる地域活性化策で地方が逆に疲弊!税金が無駄になる理由>などをやっています。

 <「よし、うちの町も主導してIT企業を呼ぼう」で逆に失敗する理由>、<町おこし成功例を真似しても、なかなかうまくいかないのはなぜ?>などをまとめています。

2023/05/17まとめ:
●ITよりゲームによる地域活性化の方が現実的?位置ゲームが有望 【NEW】


●地域活性化を促進するとされるITの発展、実は地方の過疎化の原因だった

2011/4/3:地域活性化では、ITを活用した事例が紹介されているなど、結構注目されています。「IT革命が進めば、遠隔地でも同じ情報を同じコストで得ることができるようになるから、経済活動や人口の分散が促進されるだろう」といった見方もあるようです。私もそうなんじゃないかと思っていました。

 ところが、空振り」「ただ乗り」「横取り」(2011年2月8日 小峰隆夫 日経ビジネスオンライン)によると、事実は「全く逆」なんだそうです。

 つまり、むしろITの発展が地方の過疎化を進ませるというのです。


●人間が直接会わないと得られない知識の価値が余計増す

 この主張を知るには、まず「形式知」と「暗黙知」いう概念を知る必要があります。これは、以下のような意味だそうです。

形式知……本を読んだり映像を見たりすれば得られるような知識。
暗黙知……人間同士が対面で情報交換することによって得られるような知識・ノウハウ。

 例えば映画監督になりたい人で言うと、本を読む(形式知)だけでは監督になれず、実際に現場で監督の下で仕事をする(暗黙知)で監督を目指すといった具合とのこと。

 そして、IT革命が進行するということをこれで説明すると、むしろ対面での重要性が増してしまうというのです。

「形式知の方は、安くかつ容易に入手できるようになるから、相対的に価値が下がる。逆に、暗黙知の価値は高まる。すると人々は暗黙知を求めてますます集まるようになるのである」


●サービス業もバラマけないから過疎化を進行する要因に

 ITとは離れますが、もう一つ過疎化の促進の原因として、サービス産業のウエイトが次第に大きくなっていることだと書かれていました。ただ、過疎化の促進というよりは、都会に人が集まる理由といった方が良さそうなものではあります。作者は、都市部への人口移動が特に加速しているのは、単に『便利だから』というだけではない何か他の理由がありそうだ」と述べ、それは産業構造の変化ではないかと考えているそうです。

 先のIT化はその一つなのですが、もう一つが「産業構造のサービス化」です。サービス産業も製造業も、付加価値(所得)を生み、雇用機会を生み出すという点では製造業と同じであるものの、製造業と比較して以下のような重要な違いがあることを指摘しています。

製造業……自動車であれば、九州でまとめて作り、全国にばらまくということができる。
サービス産業……理髪店というサービスをまとめて生産してばらまくことはできない。たとえば、理髪店のサービスを買いたい人は理髪店に行かなければならない。

 だから、サービス産業は、需要者が供給者の存在するところに行く必要がある、人が集まれば集まるほど多様なサービス産業が成立するということになるというわけです。

 また、高級フランス料理店のように食べる人が多くないものは、よほど人口が多い地域でないと採算が取れないなど、「集積の利益」が強く作用するため、人口が多い地域ほどサービス産業が立地し、それがまた雇用機会を生んで人を集めるというメカニズムが発生すると書かれていました。

 これらはITの話に比べると理解しやすいですが、根が深いものでもあり、過疎化および都市周辺への人口集中は逃れることが難しいということを示しています。

 では、過疎地域はどうすれば良いのでしょう? こちらの話については、出生率高い地域で過疎化 原因は別なので少子化対策では地域活性化しないでやっています。


●ITの発展によって近くの国との貿易量の割合が増える現象も確認

2018/02/23:ITの発展が思っていたのと全く逆の働きをするということでは、後にやった情報技術の進展で、中国・韓国と日本の関係はますます重要になるも予想外すぎてすごい話でした。

 現在は過去と比べると、国際間の輸送コストは低下しており、情報技術の進展で国同士の情報のやりとりも飛躍的にスムーズになっています。であるのなら、以前と比べて遠くの国との貿易量が増えて、近い地域間での貿易量の比率が下がっているだろうと予想されます。

 ところが、現実には全く逆。輸送コストが低下したにも関わらず、ますます近い国同士での貿易量が増加するという現象が見られていました。直感と異なり、不思議に思うのですけど、これが現実でした。


●日本でもアメリカでも「モノより体験」の大きな流れがある!

2019/01/17:ITの発展ではなく、サービス・体験の重要性が増して過疎化が進行…という話の方で追記。売れる商品はモノではなく「体験」を売る 高くすれば簡単に売れるように?でやった話を、ここでいっしょに紹介しておくと良いかなと思いました。

 バルミューダという個性派家電メーカーの寺尾玄社長は、なかなかモノが売れない時代にあって売れる商品について分析していくと、「体験」や「五感で感じられるもの」がポイントではないかとされていたのです。

 また、アメリカでは高所得な若者もクルマ離れ・マイホーム離れ ミレニアル世代の新しい価値観では、アメリカでもモノより体験を重視する新しい世代が増えているといった話が出ていました。

 各国で体験を重視する流れが来ており、いっそうの地方の過疎化・都市への集中が今後進行するかもしれません。


●ITによる地域活性化策で地方が逆に疲弊!税金が無駄になる理由

2020/12/16:(PDF)「情報化による地域活性化の可能」という高崎経済大学大学院。地域政策研究科博士後期課程の人による論文(研究ノートとの記載あり)というものがありました。長かったので、初めと最後のところをちょこちょこっと読んだだけですが、まとめでは「地域情報化には地域利益に対して正の効果と負の影響がある」と指摘しています。

 もちろんIT化が地域活性化にプラスに働くこともあるわけですが、この方もやはりマイナスの影響の方を強調。というのも、おそらくそもそもマイナスの影響があることを想定していない人が大半のためでしょう。なので、プラスマイナス両方を考慮し、負の影響についても充分に検討しておくことが重要であるとされていました。

 また、最初のところでは、「実効的な地域活性化を達成できた例は少ない」「ITによる地域活性化策が、有効に機能している例はほとんど見られない。むしろ、ITの普及が、ITの普及がかえって地域の疲弊を促すような場面も見られるようになってきた」としており、やはりうちで紹介していたのと似たような見方がされています。

 今回なるほど!と思ったのは、Tインフラは、一般にソフトウェアの占める比率が高く、これらはあっという間に陳腐化しやすいという問題点があるということ。すぐ古くなるため、投資が無駄になりやすいのです。さらに、税金が無駄になりやすいということは、地域情報化に対してその効果を評価することが、他の政策よりもむしろ重要であるとも言えてきます。

 ただ、そうした検証が十分かというとそうではなく、むしろダメダメでしょう。国も自治体もいろいろな政策をやるのですが、「検証はしない」というのが悪いところ。検証せずに成功だけを喧伝していることが多いので、さらに悪いですね。民間なら完全にダメ社長…なわけですが、政治家としてはそういう人の方が人気に…。国民の皆さんにはそこらへんをよく見ていてほしいところです。


●ITによる地方活性化の見本 限界集落・徳島県神山町に企業が集結

2022/08/02追記:ITの発展で地方活性化は進まないどころか逆効果…という話をこちらでは書いているのですが、ITを生かして地方活性化に成功した町があると知って興味を感じました。徳島県神山町の例です。地方創生のロールモデル…お手本のようなものとしてたびたびメディアでも取り上げられているといいます。

 ということで、記事が多数あったのですが、状況が変化している可能性もあると思ったのでなるべく新しそうな記事をチョイス。検索上位では最も新しかった徳島県神山町はいかにして「地方創生の聖地」になったのか(神山町サテライトオフィスレポート) – WirelessWire News(Takeo Inoue 2019.10.01)という記事を読んでみました。

<神山町は1955年に周辺の5つの村が合併し、人口2万人の町としてスタートした。しかし年を追うごとに人口が減り続け、当初の約4分の1にまでなってしまった。そしてついに限界集落のレッテルを張られてしまった。ところが、この10年間で多様なスキルを持った若者たちが続々と移住するようになり、さまざまなプロジェクトが立ち上がっている。さらに東京や大阪のITベンチャーも新たな働き方を模索して、サテライトオフィスを開くようになったのだ。2010年以降から数えて、すでに計16社の企業が神山に集積している>


●「よし、うちの町も主導してIT企業を呼ぼう」で逆に失敗する理由

 では、なぜ徳島県神山町が成功したのか?という話。2005年9月に町内全域が光ファイバーで敷設されることになり、これが1つの契機に…。ただ、これだけではないく他にも大きな理由があると記事では強調していました。これが気になったのですが、別の記事で…という話。こちらはまた今度読みます。

 とりあえず、この記事は成功を強調する内容。神山町に来た人やその試みがさらに新しい人を呼ぶ…という好循環もあるようです。また、徳島県庁も神山駐在所を置いているのですが、職員が以下のような話をしていました。私が繰り返し書いている、自民党が大好きな「官主導」はダメで「民間主導」が良いという話です。

「地方創生は、県が主体で進めるのではなく、民間が主導することが成功のポイントになると思います。自治体は民間に寄り添って最小限の支援をしていくほうが本当は良いのです。100%お膳立てした状態では、企業も自分事として考えられなくなりますし、自由にやれません」


●地方創生は仕事じゃなくて「趣味」 楽しいからやっているだけ

2022/08/20追記:前回の「成功の理由は別の記事で」と書かれていた件。不親切なことにリンクがなくてこの別記事を探すのに苦労しましたが、たぶんKPIや目標値はいらない。認定NPOグリーンバレー理事の大南信也氏が語る神山流の「地方創生」とは – 日本を変える 創生する未来「人」その6 – WirelessWire News(2019.10.25)が該当の記事だと思われます。

 記事では、「地方創生の聖地」とも言われる神山町で、移住促進や企業誘致を推進してきた認定NPO法人グリーンバレーの理事(神山高専担当)の大南信也さんに話を聞いています。数多くのITベンチャーのサテライトオフィスを神山町に誘致してきたNPO法人だそうです。

 いいな!と思ったのが、大南信也さんにとって神山の創生事業は仕事というよりも、あくまで「趣味の延長」という感覚なこと。普通は仕事として入れ込む方が良いと思われがちなのですけど、趣味から始めた仕事が大成功するケースもあります。「楽しいからやっている」ともしており、これが仕事が成功しやすい人の共通点だと指摘されたことも思い出しました。


●最初は移住目的じゃなかったし、ITとも関係ないことが成功理由

 肝心の神山町地方創生成功の理由ですが、かなり意外なものが発端。1979年に神山町で家業の建設会社を継ぐために留学から戻っていた大南信也さんが、1990年に地元の神領小学校の廊下にポツンと置いてあった外国人の女子の人形との出会ったことが始まりだったそうです。

<この人形は、1927年に米国から日本の小学校に贈られた12,739体の「青い目の人形」の1つだった。世界大恐慌が始まる少し前に、米国で日本移民の排斥運動が起き、日米関係は悪化の一途をたどっていた。それに心を痛めた親日家の宣教師が親善の証に、この人形を日本に送ろうと呼び掛けて実現したものだ。
 この経緯を知った大南氏は、人形の里帰り計画を練った。(中略)仲間ら30名の訪問団と人形を返しに行ったという。翌年には国際交流団体の「神山町国際交流協会」が結成され、大南氏を理事長とし、訪問団のメンバーであった佐藤英雄氏、岩丸潔氏、森昌槻氏らで、民民による国際交流の素地ができあがったのだ>

 そして、この人形の里帰り計画に端を発した国際交流の一環として、1990年終盤から2000年代にかけて、神山町は国際芸術村として「アーティスト・イン・レジデンス」を開始。国内外からさまざまなジャンルのアーティストを招聘し、神山に2ヵ月ほど滞在して、作品を制作してもらうというアートプログラムでした。

<実は、これが現在の神山町の成功を手繰り寄せる糸になった。神山町は、世界中からアーティストを招聘し、よそ者を柔軟に受け入れてくれるオープンでフラットな地域に変化していったのだ。国際芸術村としてうまく動き始めたころ、ちょうど神山町が移住交流支援をスタートさせ、その業務をグリーンバレーが委託することになった。
 その少し前の2005年9月に、神山町全域に光ファイバー網が敷設されることになり、これをチャンスと捉えた大南氏は、神山町のアートプログラムを発信するWebサイト「イン神山」を作る計画を練っていたという>

 これに神山町のアートプログラムを知っていて面白いと思っていた「働き方研究家」である西村佳哲さんが、協力して以下のようにアートからワークへと発展。また、当時ニューヨークに在住していた建築家の坂東幸輔さんもやはりアートプログラムに興味を惹かれて神山町に関わっていきます。

<さらに西村氏は、イン神山をアートだけでなく、手に職を持つ移住者を神山町に呼び込むための情報発信サイトにして、次の一手となる「ワーク・イン・レジデンス」というコンセプトを打ち出した。つまり、これが神山町をアートからワークへと、ワーカーも含めて多くの移住者を呼び込む流れになり、2010年からのサテライトオフィス誘致への萌芽となったのだ>

 その後、今度は前述の建築家の坂東幸輔さんの知り合いが関わってきて、最初のサテライトオフィスを作るなど、人が人を呼ぶ…という好循環に。また、上記までの話を読んでわかるように、アートプログラムの継続的な開催が最も重要なキーポイント。結局、「ITで活性化」とは全く違う話でしたね。


●町おこし成功例を真似しても、なかなかうまくいかないのはなぜ?

2022/08/27追記:前回書いたように、ITによる地方活性化の見本とされる徳島県神山町の理由はそもそもITではなくアートという別のものが最も大きな成功の理由でした。ただ、ITによる活性化成功であったとしても、真似して成功するのは難しかったと思うんですよね。これは「アートで町おこし」にもある程度言える話です。

 もともとこれは神山町がITで成功したと聞いた時点で思っていた話なのですが、こうしたものは先行者優位なことが多いです。初めの開拓者が成功する一方、当然先行者より劣る後発組は魅力で負けやすい上、似たようなライバルが多すぎて埋没し失敗…となりがち。ビジネスでもよくある話ですよね。

 うちでは、町おこし・地域活性化が失敗する理由 成功事例は真似できないという話をやっています。みんなで同じことをやれるものでは結局町おこしをしづらいんですよ。例えば、地域のゆるキャラは一部の先行者が成功する一方、大量に発生した後発組は差別化できずあまり効果を得られませんでした。真似できる時点で失敗しやすいのです。


●神山町の成功を見た全国の自治体、上っ面だけ真似て失敗する…

2022/09/01追記:前々回書いたように、徳島県神山町がITやサテライトオフィス誘致で成功したのは、アートプログラムの継続的な開催という一見無関係なものでした。このため、上っ面だけを真似た他の町のサテライトオフィス誘致は失敗していることが多い模様。記事冒頭では以下のような話がありました。

<地方創生のロールモデルとして、脚光を浴びてから10年経つ徳島県神山町。その契機は「ITベンチャーが徳島の山奥の町に続々とやってきた」というNHKの報道によるものだった。それ以降、神山町の成功をみた全国各地の自治体が、サテライトオフィスを利用した企業誘致合戦を始めるようになった。とはいえ、いくら自治体が笛を吹けど、なかなか企業が踊らず、という声も多く聞かれる>

 前回書いたように、アートプログラムを真似たとしても先行者のようにはうまく行かない可能性があります。また、「アートプログラムの開催」ではなく「アートプログラムの”継続的な”開催」と書いたように、神山町でも非常に長く時間がかかっていたことは重要でしょう。そもそも時間がかかるのです。

<地方で創生事業に関わる人は、必ず何がしかの成果を求められることが普通だろう。自治体からヒモ付きの補助金が与えられれば、ある意味では当たり前のことだ。だが、最初から目先の成果を追って、見かけだけのモノを急いで作り上げても、すぐに瓦解してしまう。やはり土台となる礎から地道に積み上げていかねばならないのだ。
「自分たちにとって、地域づくりは仕事ではなかったので、何も成果を求められず、特に期限もなかった。ゆっくり物事を積み上げたら、結果的に揺るぎないものができた。これがグリーンバレーの価値なんやと思う。僕からすれば、サテライトオフィスを誘致すれば地方創生がうまく行くとか、そんな簡単なもんやない(中略)」(大南氏)>

 成果が出るのに時間がかかり、成果が出るという保証もないため、税金を使う公主導でやるのは難しいとも言えそう。「じゃあ、成果を求めずに税金投入すれば?」と思うかもしれませんが、成果なしでの税金投入を許すと、あらゆる無駄遣いが肯定されて自治体や国は破綻。身内への利益誘導も誘発するでしょう。根本的に向きませんね。


●ITよりゲームによる地域活性化の方が現実的?位置ゲームが有望

2023/05/17まとめ:ITじゃなくてゲームという話なのですが、全く読まれない過去投稿「携帯ゲームコロプラを使った地方活性化」をこちらにまとめ。「ゲームを使った地域活性化」は今となると物珍しいものではないでしょう。ただ、コロプラの話は2009年のもので、当時としては物珍しさがあり、本当かいな?と信じられませんでした。

2011/5/9:おもしろいと思った<有田焼の老舗を救った携帯ゲーム>(日経ビジネスオンライン 井上 理)という記事は、2009年12月22日というだいぶ前のもの。ただ、書くのが面倒で放っておいたら、えらく時間がかかってしまいました。180年前の天保元年に創業された有田焼の老舗「しん窯」の話です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091217/211712/

 「しん窯」では2009年6月から遠方からの客が突如月100人以上増加。売り上げの3割を占める即売所の月商も3割ほど膨らみました。この直前までのしん窯での売り上げはピークの3分の1以下。小学生や中学生の見学を進んで受け入れており、希に窯が賑わうことはあったものの、普通に買い物をしてくれる客は月に10~20人程度まで落ち込んでいたといいます。

 「しん窯」に限らず、約400年の伝統を誇る日本を代表する陶器、有田焼自体の状況が芳しいものではない状況でした。景気の悪化とともに巷には中国製の安い陶器が溢れ、旅館やホテル、飲食店など業務用の需要も低迷の一途を辿ります。2008年、有田焼主要企業の売上高は、バブル期のピークの4分の1、約65億円まで落ち込み、伝統を守り切れず廃業する窯は、後を絶たないそうです。

 しかし、それが冒頭のような客の入り。人で溢れかえる店内。飛ぶように売れていく焼き物。バブル期でもこんな光景を見たことがないとのこと。2008年来の経済危機の影響で、百貨店など流通経由の売り上げは激減していたものの、新たなの客が増えたことで助けられました。

 では、この新たな客とカネを運んだのは、どこだったのか?と言うと、それは「メディア」です。しかし、それはテレビでも、新聞でも、雑誌でもなく、携帯電話のゲームという「メディア」でした。コロプラ(2009年当時はほぼ無名。その後別のゲームのヒットで大ブレイク)という20人ほどのベンチャーが運営する「コロニーな生活☆PLUS(コロプラ)」という携帯電話向けゲームがあり、「しん窯」を訪れたツアー客は全員、このゲームの熱心なユーザーだったそうです。

 コロプラというゲームは携帯電話のGPS(全地球測位システム)機能や基地局による位置情報を活用した、「位置ゲー」と呼ばれるジャンル。無料であり、2009年12月時点の登録会員数は約65万人。このゲームの目的は、水や食料などの資源を配置したり、様々なアイテムを使って、「コロニー」と呼ばれる自分の島を発展させることです。

 そして、ポイントとなるのが、ここで他人に差をつけるアイテムは仮想通貨で購入する必要があるということ。仮想通貨の稼ぎ方としては、一つが移動。位置情報を登録すると、現在の位置情報と前回の位置情報から移動距離が算出され、1kmあたり1仮想通貨がもらえます。

 さらに、重要なポイントがもう1つ。ゲームにアクセスした、現実世界のその場所でしか購入することができない、ご当地のお土産アイテムがあるのだそうな。例えば、北海道全域でアクセスすれば「カニ」を、札幌市内では「時計台の写真」を、夕張駅付近では「夕張メロン」といった感じです。

 そのご当地アイテムの数は約700種類で、いかに多くのお土産を集めるか、制覇するかが、ユーザーのあいだで流行っており、仮想通貨を使った売買の対象にすらなっているとのこと。そして、このお土産の1つというのが、しん窯にもあり、現実世界で自分や友人へのお土産を買うと、コロプラという仮想世界でもレアなお土産を得られるという仕掛けでした。

 この仕組みを導入した商店や企業は地方を中心に全国約30カ所まで増え、軒並み売り上げを伸ばしているそうです。日光を代表する銘菓「甚五郎煎餅」で有名な栃木県日光市の石田屋は、秋の行楽シーズン、ケータイ片手の若者で行列ができるほど賑わったとのことですし、秋田県大潟村、八郎潟の干拓地にあるケーキ屋「野の花シフォン」は、県外から1カ月で200人以上ものユーザーが押し寄せ、月商が3割ほど上がったということです。

 かつて、検索連動型広告の黎明期に、地方の商店が救われたという話が話題となったことがあり、この話も一見それと似ているように見えるのですが、似て非なるものだと記事では言います。「検索連動型広告」とコロプラのアイテムによる地域活性化の違いとしては、以下のような点が挙げられていました。

 1.レア土産は、広告の機能を果たすが広告ではない。
 2.ゲームのアイテムとして練り込むことで、何らその商品に興味のない潜在顧客に対して、自然と商品の知識を与えることができる。
 3.移動を基軸とする位置ゲーだからこそ、衰退に悩む地方だろうが、商店があるその場へと消費者を誘うことができる。

 ”つまり、仮想世界から現実世界の特定の場所へとユーザーを連れ出すことができる「パワー」を持った、実にユニークなメディアなのだ”としていますが、3は特にユニークですね。移動そのものが目的となっているために、確実に顧客を呼び込むことができます。これは従来型の広告だと、真似が難しい点でしょう。

 このツアーは、大手情報サービス業のリクルートが企画・催行したもので、近年、宿泊旅行者数、延べ宿泊数ともに微減傾向にある国内旅行需要の、特に落ち込みが激しい20歳から34歳の若年層に向けた観光産業の活性化策の1つだったようです。「位置情報を利用する『ジオメディア』は、地域活性や観光産業とのシナジーが高い」 との読みでした。

 さらにJR九州はコロプラ内に特設のイベントゲーム「九州一周塗りつぶし位置ゲーの旅」を用意し、JR九州管内の50駅、それぞれの場所で位置登録をして、地図上の駅を塗りつぶすゲームで、訪れた数が多いほど、レアなアイテムがもらえるという「コロプラ★乗り放題きっぷ」を発売。 このように大手企業からも注目されているコロプラですが、これは新たな広告モデルと言って良いようです。

【従来型の広告】
・潜在顧客の注意を引き、興味関心を持ってもらうこと。その後は、サンプル品の配布などの販売促進や小売店での値引きといった個別対応。その広告を潜在顧客が見たかどうか、影響されて買ってくれるかどうかは、神頼み。
・広告料金:メディアパワー=視聴者や読者(潜在顧客)の数で、パワーが大きいほど、より高額な広告料金。
・広告業界に根付く、古典的な「AIDMA(アイドマ)理論」:Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲望)→Memory(記憶)→Action(行動)


【コロプラが示したモデル】
・潜在顧客の注意を引き、興味関心を持ってもらい、商品を欲しいと思わせ、移動させて、買ってもらうという、消費行動の上流から下流までを垂直統合したもの。
・広告料金:広告主はモノが売れた時点で代金を支払う。
・「新AIDMA理論」:「Memory(記憶)」を「Move(移動)」に置き換えて、Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲望)→Move(移動)→Action(行動)

 リクルートのツアーの事後アンケートでは、92%が「満足」「大満足」と回答するなど評判は上々。また、ギャル風の女性客は「最初はアイテム狙いだったけど、参加して良かったよねー。陶器とか可愛かったし。楽しかった。また来たい」と記者に話していたとのこと。こうやってみんなが満足できるのですから理想的な話。アイデアがあればまだまだこんなこともできるのだと、思い知らされた事例でした。


【本文中でリンクした投稿】
  ■出生率高い地域で過疎化 原因は別なので少子化対策では地域活性化しない
  ■情報技術の進展で、中国・韓国と日本の関係はますます重要になる
  ■町おこし・地域活性化が失敗する理由 成功事例は真似できない
  ■アメリカでは高所得な若者もクルマ離れ・マイホーム離れ ミレニアル世代の新しい価値観
  ■売れる商品はモノではなく「体験」を売る 高くすれば簡単に売れるように?

【関連投稿】
  ■伝統を守るべきという無意味で非論理的な主張 なぜと聞かれて説明できない暗黙のルール
  ■伝統とは変わらないことではない 虎屋黒川光博社長は「伝統は変化の連続」と理解
  ■日本の古き良き伝統 年功序列と自治会(町内会)で移住者を村八分
  ■雑学・歴史についての投稿まとめ

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