日本企業の得意なところであり、長所なわけですが、製品の高品質化・高性能化というのは、よくやられる選択肢です。ただ、高性能にしたからといって売れるとは限らない…というのは、近年の日本企業の不振で実感するところでしょう。
この高性能とは違う形で差別化して、棲み分けるという例について、この投稿では集めています。例えば、全然性能にこだわっていないイヤホン。イヤホンが性能にこだわらないのはダメだと思うでしょうが、これにいたく名城大学経営学部教授が感心していました。売り場を普通のイヤホンとは変えることで、普通イヤホンを買わない人たちに買わせて、新たな市場を開拓していたためです。こういう工夫の仕方もあるんですね。
2023/08/29:
一部見直し

●音にこだわるというのがイヤホンの差別化の常識
2016/5/10:多くの記事のタイトルは作者ではなく編集者がつけており、そのせいで妙ちくりんになっていることがときどきあります。
1個30万円、音にこだわらず広告もなし…なぜあの「非常識」イヤホンはヒット? Business Journal / 2015年8月21日 6時0分(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)という記事も、タイトルが間違いじゃないかな?と感じたものでした。
このタイトルだと、音にこだわらなかった「非常識」イヤホン=1個30万円のイヤホンだと感じるんですけど、1個30万円のイヤホンは音にこだわった常識的なイヤホンなのです。記事では、「すべて、音にこだわっている」という共通点のあるイヤホンの一つとして紹介されていました。
・耳をふさがずに音を聴く骨伝導式。骨の振動によって音を聴くことができるので、難聴予防や音漏れがないなどのメリットがある。
・クラシックやアニメソング専用にチューニングされたイヤホンがある。
・ソニーの子会社であるソニーエンジニアリングから発売されている「Just ear XJE-MH1」は、一人ひとりの耳の形状に合わせて最適な音質を実現するテイラーメイドの商品。受注時に耳の型をとり、
使用環境や好みの音楽に応じて、音質も調整されるというこだわり。一方で、受注生産で世界に1台だけのイヤホンなので、
市場価格は30万円前後とかなり割高。
●日本企業が好きな高性能化…でも高機能なら売れると思ったら大間違いだよ
日本企業は機能や品質を高くするのが得意ですし、大好きですよね。オーディオマニアなんかは変態的になっており、一般人から見ると理解できない謎の高額商品に需要があります。1個30万円のイヤホンというアイデアも悪くなかったように見えました。
ただ、とりあえず、作者の大崎孝徳・名城大学経営学部教授が感心したのは、上記までで例示されていたような高機能製品ではありません。"音にこだわらなかった「非常識」イヤホン"の方に感銘を受けていたのです。
だいぶ前の話なのですけ大崎孝徳教授が大変感心したイヤホンというのは、エレコムが発売した女性向けイヤホンでした。エレコムはいち早く女性にターゲットを絞り、デザインや色、柄などを工夫したイヤホンを開発しています。
この女性向けという着眼点がまず良いようです。というのも、女性だけが対象となる一部のものを除けば、世の中の製品の多くは男性用につくられているものでした。例えば、パソコンも、発売当時は黒やグレーといった色が多く、イヤホンもそうだったといいます。
つまり、「イヤホンといえば『音』」という常識から離れ、独自に市場のセグメントを分析した上で、ターゲットを抽出し、独自のポジショニングを行った…としていました。パソコンで言えば、そもそもデザインを軽視していたのを重視するようになったとも考えられそうですね。これも画期的なアイデアです。
●メディアで話題の製品には高機能ではなく別の理由があった
イヤホンの話に戻ります。女性向けという特徴程度だと全く大したことなさそうに見えますが、当時としては画期的だったとのこと。その証拠に"女性向けイヤホンは、そのユニークでわかりやすい特徴から、当時、多くのメディアでニュースとして取り上げられました"。
広告なしで"大きな宣伝効果を"生み出したのです。これは大きいですね。"イヤホンはそれほど市場規模が大きくないので、マスメディアでの広告展開は現実的では"ないと指摘しており、余計に効果が大きくなっています。
また、"通常のイヤホンは、家電量販店などで扱われていますが、エレコムの女性向けイヤホンは雑貨屋などでも販売されてい"たとのこと。これは単なる販売場所の多さだけでなく、家電量販店と比較して"競合する商品はきわめて少ない"という有利さまであります。大崎孝徳教授は「流通での差別化」と呼んでいました。
田崎真珠(TASAKI)復活は品質のこだわりではなくファンド出資のおかげでは、品質のこだわりで売れると思ったら大間違いだよという話をやっています。
そちらでも書いたように、製造業では品質信仰・技術信仰のようなものがあり、消費者のニーズと乖離していっていることが多いので、注意せねばなりません。
●新たな市場を作って差別化し棲み分けを狙う方が良い
2019/01/11:最初に投稿したときには書いていなかったのですけど、カテゴリを変更して差別化したという言い方をすると、他の例に応用するときの参考になるでしょうか。「棲み分け」という言い方をすると、ビジネスではさらによく使われる言い方ですね。
あと、ジャンルを変えたということで、新たな市場を開発したという言い方もできそう。
仕事・ビジネスの名言2 「誰もやりたがらない小さい市場を狙いなさい」(沖有人スタイルアクト代表)などでやっているように、新たな市場を自ら作って独占しよう、ということもよく言われています。
ただ、このときの投稿で「誰もやりたがらない小さい市場」とあったように、市場が有望すぎた場合、独占していたと思ったのに、あっという間に真似されて、ダメになる…ということもあります。なかなか難しいところです。
●まさに棲み分け、自動販売機でジュースみたいに醤油だしが買える!
2020/01/22:
変な自動販売機 タワーから中古車・丸ごと魚の入った出汁専用自販機で紹介した、自動販売機でジュースみたいにして売られている関西風のだし製品。向こうでは主にユニークさを強調して紹介していました。
ただ、これ、エレコムのイヤホンのように、売り場を変えることで普通のだし製品とは棲み分けしているとも言えそうな感じ。普通のだし製品が、自動販売機で売っているってことはありえませんからね。
なお、向こうでも書いたように、販売している二反田醤油は当初から自動販売機で売ろうと思っていたわけではありません。まずデパートやスーパーでの販売も試みたものの、イマイチであり、失敗したような形になっていました。なので、このエピソードはまさに「競合製品との競争を避けて棲み分けをはかった」ものだと考えられるでしょう。
●スポーツではなくエンターテインメントにしたら客が5倍に!
2020/09/10:このページに追記するのが良いかな?と思った
フェンシング2.0に挑む会長・太田雄貴の奮闘 | スポーツ | 東洋経済オンライン(2018/10/12)という話。フェンシングのようなマイナースポーツのチケットが即完売というのは難しいんだそうですが、それを成し遂げたという話です。
しかも、価格的にはむしろ値上げでした。前年は1000円だったチケットを、2018年の第71回全日本フェンシング選手権大会では、S席5500円、A席4000円、B席2500円という価格で即完売です。ただ、その話に行く前に、北京オリンピック銀メダリストの太田雄貴さんが2017年8月、日本フェンシング協会会長になって行った前年の大会もすでに成功したものでした。こちらも工夫があります。スポーツではなくエンターテインメントにしたという形です。
<会場を満員にするために、競技のエンターテインメント性を高めることが必須と考えた太田は、昨年の全日本選手権でLED(発光ダイオード)を用いて、どちらにポイントがついたのかをわかりやすく表示する演出をしたり、観客が場内ラジオで競技解説を聴けるようにするなど、20以上もの施策を実施した。結果、決勝戦で1600人もの観客を集めることができた。
観客動員数300人だった2016年度の全日本選手権からすると、前年比で500%以上という驚異の集客増につながったのだ>
●五輪メダリスト太田雄貴氏が会長になり、フェンシングを改革
ただ、前年の場合、<太田が取り組んだ新施策の中で、中核になったのは「全種目の決勝戦を最終日に集約して行う」ことだった>とのこと。最もコンテンツ価値の高い決勝戦を1日に集約したことで、決勝戦の集客効果は一気に高まったとされています。エンターテインメント化だけの力ではなく、むしろ決勝戦集約がメインのようでした。
それより、2018年の方が、よりエンターテインメント化という狙いが強いかもしれません。中央の舞台を円筒状の客席で囲むような造りで、主に舞台公演で使われる東京グローブ座で全日本選手権を行うという、会場選びからしてエンターテインメント的な選択をしました。この選択には、主に2つの理由があったそうです。
<1つは、700人という小さなキャパシティだ。これによりフェンシングファンには、“今年の全日本選手権はチケットが取れないかもしれない”という心理も生まれた。昨年の入場者数が1600人のため、今年のチケット倍率は単純計算しても2倍以上と推測される。
もう1つの狙いが、スポーツをエンターテインメント化することによる、客単価の向上と非日常体験の提供だ。(中略)
「どこかでブレークスルーさせたいと思っていました。普段、コンサートや劇団四季のようなミュージカルルを観に行く人は、1万円を支払うことに対して、抵抗はないわけです。そこに1万円の価値があると感じているから。
一方で、スポーツとなると、どうしても受益者負担がない世界になってしまう。1000円では僕らはいつまで経っても収益化できない。だから、スポーツとしてのフェンシングからアート・芸術の世界に進化させたかったというのがあります。同じスポーツの土俵では勝てないなら、早めにこっち(アート・芸術)にもっていくというのが、ポイントだと思っています」>
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