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国産ワクチンはなぜ遅い?日本の製薬工場はレベルが高く、新型コロナウイルスワクチンも製造


2021/11/03冒頭に追記:
●国産最速とされたアンジェスと大阪大のDNAワクチンが遅れている理由
2022/10/10追記:
●新型コロナウイルスワクチンでノーベル賞候補だった古市泰宏氏
2022/11/01追記:
●日本人は応用が苦手?アップルの成功見て「大した技術じゃない」 【NEW】
2022/10/17まとめ:
●有効性を証明できない薬を承認させようとする製薬会社に驚き…
●事前に決めた評価方法を終わってから変更して「効果あり」と主張
●元首相も期待した国産の薬が潰された!あのテレビ局がミスリード


●国産最速とされたアンジェスと大阪大のDNAワクチンが遅れている理由

2021/11/03追記:長くなってきたので冒頭に追記。創薬ベンチャー「アンジェス」(大阪府茨木市)が大阪大と共同で開発を進める「DNAワクチン」はウイルスのたんぱく質をつくるDNAを使った新しいタイプで、2020年6月に臨床試験(治験)を開始。当初は「国産最速の実用化」を予測する声もあったそうですが、現在も最終段階の治験に進めていません。

 いったい何があったのか聞いた…というのが、国産ワクチン「先頭ランナー」いまだ最終治験進めず 開発者が語る訳 毎日新聞 2021/11/3 10:00(最終更新 11/3 10:00) という記事。記事によると、遅延の理由は、すでにあるメッセンジャー(m)RNAワクチンとの違い。一言でいうと、ファイザー製やモデルナ製より効果が低いためだといいます。

<治験を通して、DNAワクチンはメッセンジャー(m)RNAワクチンと比べて発熱や倦怠(けんたい)感が出にくく、安全性が非常に高いことがわかってきた。一方、(遺伝情報の通常の転写プロセスと同様に)やはり体内でDNAからmRNAにしなければいけないので、有効性に関しては、残念ながら今の用量では現状の(mRNAワクチンの)米ファイザー製やモデルナ製には及ばないこともわかってきた>

 現在は、さらに有効性を上げるため、投与量を増やしたり、少量の火薬を使って皮膚からワクチンを吸収させる火薬式の針なし注射器を開発して、免疫細胞が多く、より高い効果が見込める皮内に正確に投与できるようにしたりと、改良法を確かめているところ。それで時間がかかってしまっているようです。

 この件で、あれ?と思ったのが、「単独での有効性に関してはmRNAワクチンが非常にすばらしい。ただ、長期間の副反応とか、繰り返しの投与による副反応はわかっておらず、mRNAだけを頼るのは危険だ」というかなり過激な発言。今、日本で投与されているmRNAワクチンの不安を煽ることで、自社ワクチンの優位性を示すもので、よくありませんね。

 「より安全なワクチンが必要」だけならわかるのですが、現在接種が進むmRNAワクチンでの反ワクチンを加速させかねない言い方。「この発言はまずいな…」と思って読み飛ばしていた冒頭に戻り、インタビューされていた人の名前をよく見てみると、「アンジェス創業者の森下竜一・大阪大寄付講座教授」と書かれていました。あの森下竜一教授です。

 森下竜一教授ではいくつか書いており、例えば、ファンケルのえんきんの効果を専門家が疑問視 根拠論文がひどすぎえんきんの論文の掲載誌は、機能性表示食品の提言者が主任編集者といったものが関連。また、安倍首相とも近い人物とされていた方。その森下竜一教授の発言と聞くと、なんとなく納得してしまいました。


●新型コロナウイルスワクチンでノーベル賞候補だった古市泰宏氏

2022/10/10追記:新潟薬科大客員教授の古市泰宏さん死去 81歳 ノーベル賞を期待 毎日新聞 2022/10/9 14:38(最終更新 10/9 18:13) という記事が出ていました。国立遺伝学研究所研究員などを経て、2007年から新潟薬科大の客員教授を務めていた方だそうです。

<新型コロナウイルスのワクチン技術の基となる研究でノーベル医学生理学賞や化学賞の受賞が期待されていた新潟薬科大客員教授の古市泰宏(ふるいち・やすひろ)さんが8日、神奈川県鎌倉市内の自宅で病気のために亡くなった>
<1970年代、遺伝子の情報をコピーして運ぶ役割を担う「メッセンジャー(m)RNA」に「キャップ」と呼ばれる構造の物質があることを発見。キャップはmRNAが細胞内でたんぱく質を作るのに不可欠な役割を果たすもので、この発見が新型コロナウイルス感染症の重症化などを予防するmRNAワクチンの迅速な開発を後押しした>

 この記事のヤフーニュースコメントでは、以下のように「なぜ生前に古市泰宏さんをもっとマスコミは取り上げなかったのか?」という、マスコミ批判コメントが1番人気になっていました。マスコミがここらへんを大きく取り上げた方が良かったというのは、理解できるところ。ただ、後述するように、全般的な主張には問題があります。

<欧米で新型コロナワクチンが、数社で完成し、多くの人々に接種された。そして欧米の研究力・開発力は凄いし、日本はまだまだだ・・・との報道がほとんどでした。古市さんの研究が重要な役割を果たしたのなら、何故多くの研究機関、多くのメデイアから彼を賞賛するアナウンスがなかったのでしょうか。
これこそが日本の研究機関・メデイアの視野の狭さを表しているのでは>
https://news.yahoo.co.jp/articles/d767a476133d98e85fb82ecc6487cfe31941a3e4

 上記のコメントは「日本はまだまだ」という報道への批判がメインなんですが、この日本のマスコミ報道自体は妥当です。このことは日本を韓国に置き換えてみるとわかりやすいでしょう。mRNAを開発していない韓国マスコミが「ワクチンの基礎技術は我が国で開発された。韓国はすごい!」と報道したら…と想像してみてください。

 こうなった場合、たぶんそれこそ右派の多いヤフーニュースコメント欄は「負け惜しみ~」「また韓国起源説(笑)」というコメントで溢れかえったでしょう。そう考えると、日本マスコミの報道はむしろ悪くなかった感じ。日本すごい!の人と韓国すごい!の人は、メンタリティ的によく似ている…ということもわかる話です。


●日本人は応用が苦手?アップルの成功見て「大した技術じゃない」

2022/11/01追記:ノーベル賞級の研究の件ですが、初期では重要な発見をしているのに、応用が遅れてしまう…というのは、日本でよくあるパターン。量子コンピュータや3Dプリンターなんかがそうでした。日本の新たな伝統芸能かもしれません。こうも続くと残念さを通り越して、なんだかほほえましいような妙な気持ちになってきそうです。

 こうした事態に、応用でも勝つには政府が支援すべき!という声も出てくるかもしれません。ただ、そこは関係なさげ。私はそもそも国の関与はマイナスなんじゃないか?とすら思っていますが、もともと日本は欧米から「社会主義国」と揶揄されるほど、政府の関与が強い国。にも関わらず、成功していないというのが現実です。

 製薬や量子コンピュータや3Dプリンターはわかりませんけど、世界で今最も成功しているグーグル、アマゾン、アップルという企業を見ると、アメリカ政府が特別に支援して大きくなった企業ではなく、民間で勝手にでっかくなった企業ばかりですよね。したがって、政府支援はあまり関係ないと思われます。

 ちょっと違う例ですが、アップルは応用のうまさでは良い例。アップルが台頭したとき、日本では「アップルの技術は大したことない。日本メーカーでも作れる製品」と悔しがっていました。ただ、本質的な問題は技術ではなく、どういう製品を作りどういう風に売るかといったところ。日本人はこれらが苦手なのかもしれません。


●有効性を証明できない薬を承認させようとする製薬会社に驚き…

2022/10/17追記:別のところで書いていた国産ワクチンの話をこちらにも転載しておきます。塩野義製薬が開発した国内初の新型コロナ飲み薬である「ゾコーバ」の「緊急承認」が見送られたという話。最初、緊急承認が見送られた理由がよくわからなかったのですが、いろいろ読んでいくと、薬の開発のいい加減さに驚くもので、海外製と比較にならないほどひどいと感じるものでした。

 最初に読んだのは、国内初コロナ飲み薬、「緊急承認」見送り 塩野義製薬、第7波で期待の一方慎重論多く継続審議に |「サイエンスポータル」(2022.07.22 内城喜貴/科学ジャーナリスト)という記事。この記事の時点では、まだ見送りの理由がよくわからない…と思ったものですが、概要がわかります。

<厚生労働省薬事・食品衛生審議会の医薬品第二部会と薬事分科会の合同会議が20日夜開かれた。この日の審議議題は塩野義製薬が開発した国内初の新型コロナ飲み薬である「ゾコーバ」の「緊急承認」を認めるかどうかだった。
 (中略)新開発の薬を速やかに使えるよう5月に創設された緊急承認制度の初適用は見送られ、国産初の軽症者向け飲み薬の実用化は実現しなかった>

 記事の時点ではよくわからない…と書いたものの、実を言うと、この記事の時点でも効果に疑問が残るものでした。軽症・中等症の428例のデータでは、「統計学的有意」な差がなし。「有意」というのは「意味がある」という意味。つまり、意味のある有効性の差を出せなかったというのです。そんな薬を承認しちゃ、まずいですよね。

 なお、鼻水、喉の痛み、咳、息切れの呼吸器症状では有意差があり。ただ、12症状改善の総合評価では偽薬群(効果がないニセの薬を飲んだ人たち)と比べ明確な差は出ていません。このように一部でしか良いデータが出ないものは、有意差があっても偶然であるおそれがあります。

 ちなみに仮に有利なデータだけ抜き出して他を隠した場合、もう立派な不正の一種。チェリーピッキングと呼ばれます。今回は一応不正ではないと思いますが、これもチェリーピッキングに該当するとみなしている人もいます。また、たとえ呼吸器症状のみ効果ありだとしても、緊急承認に必須の緊急性が弱いと感じました。

 一方、この記事よりはっきりと問題を指摘していたのは、【解説】新型コロナ経口薬「ゾコーバ」の緊急承認が見送られた3つの理由-エビカツ横丁という記事です。こちらだともっとはっきり書いていて、「そもそも全然有効性を証明できていないのに承認しようとした」という書き方でした。

・新型コロナ経口薬「ゾコーバ」の緊急承認が見送られた3つの理由
(1)そもそも治験で全く結果を出せていない上、後付け解析など禁じ手も
(2)非代替性がない
(3)安全性でも先行 2 剤に対し特に利する点がない

 最初の記事では、「何のための緊急承認なのか?」という感じの批判の声を載せていたものの、そもそも十分に効果が確認できないものを薬として承認してはいけません。承認ありきの審査では、むしろ何のための審査なのか?という話に。企業の利益重視(政治的意向も疑われています)であり、副作用のリスクまで考えると安全軽視だとも言えます。

 新型コロナウイルスでは「国産が安心、海外は…」と海外のワクチンが不安がられただけでなく、安全性が無視されているといったデマや陰謀論も出回りました。これらは不当な批判でしたが、今回日本の薬を承認していた場合は、こうした批判が妥当なものになってしまったでしょう。このひどさでも今回承認に賛成の人が一部いたようなので、危ないところでした。

 次回もう少し補足しますが、開発メーカーはこのような状態で承認をもらおうとしたのですから、日本の方が海外よりむしろひどい…という話。国産で安心どころではありません。また、海外より遅れているのに未だに薬を開発できない…というのも、「日本製はすごい」という思い込みとは逆になっています。


●事前に決めた評価方法を終わってから変更して「効果あり」と主張

 上記でも出てきた【解説】新型コロナ経口薬「ゾコーバ」の緊急承認が見送られた3つの理由-エビカツ横丁からもう少し。最も問題とされていたのは、「(1)そもそも治験で全く結果を出せていない上、後付け解析など禁じ手も」というところ。この最後に出てくる後付け解析というのは、たいへん悪徳です。

 前回書いたように、仮に有利なデータだけ抜き出して他を隠した場合、もう立派な不正。なので、実験前にあらかじめ評価方法を定めておき、良くても悪くてもデータを出し、事前に決めておいた評価で分析する…というのが大事です。終わってから有利なところだけ強調するというのは、ずるいし問題だとわかりますよね。

 ところが、どうも今回の日本の製薬会社がこれをやってしまった模様。当初の主要評価項目であった12症状スコアであったのに、「呼吸器症状だけに限った5症状スコア」という評価項目を打ち立て有意性を主張してしまいました。私はそこまで書かなかったものの、エビカツ横丁はこれをもうチェリーピッキングとみなしています。

 また、「呼吸器症状だけに限った5症状スコア」すら実は微妙で、なおかつ医療現場で求められるレベルではないだろうとも指摘。今回のようなデータ上の改善は「代用アウトカム」と呼ばれ、本当に求められるのは「真のアウトカム」だそう。本来求められる重症化予防効果が出なかった今回の薬を緊急承認する意味はないとされています。

 「データ上は変化が見られるが、効果を実感できない薬を飲みますか?」「治したいのはデータではなく人間」といった言い方もされていました。ウイルス量を減らすことなら今回確認されたものの、そこは医療現場では検査すらされておらず、患者の症状の改善こそが問題で、その効果は今回得られなかったといいます。


●元首相も期待した国産の薬が潰された!あのテレビ局がミスリード

 前述の通り、国産の新型コロナウイルス経口薬は現時点だと効果の証明は全くできておらず、絶対承認してはいけないもの。ただ、エビカツ横丁さんによると、「待望の国産治療薬が潰された!」という陰謀論や,まるで制度や審議過程に問題があるかのようなミスリーディングな報道も見かけたといいます。

 この「ミスリーディングな報道」として例示されていたのが、フジテレビのBA.5に効果確認も…国産初の飲み薬「ゾコーバ」承認見送り 感染者増に医師「まだまだ増える」|FNNプライムオンライン(2022年7月21日)でした。相変わらず、フジテレビはロクでもないことばっかりやっていますね…。

 <歯止めが掛からない感染拡大。そんな局面を変えるかもしれない“ある薬”の審議が、20日に行われました>とした上で、<またしても緊急承認は見送りとなりました>として批判的に報道。緊急承認に賛成する「専門家」の声だけ紹介して、承認されるべき国産初の飲み薬が潰された…という流れにしています。

 このフジテレビはなぜか反日認定されていますが、会長が安倍元首相と仲が良く、安倍元首相の甥っ子など、自民党議員の親族が何人も入社したことがあるテレビ局。番組づくりは独立していたものの、最近は右派系のデマニュースを流して慌てて削除するなど、右派色が目立ち始めていたところなんですよね…。

 …と思いながら読んでいたら、<この薬に関しては、先日亡くなった安倍元首相も、自身が率いる派閥の総会で「感染しても薬を飲めば治るということであれば、5類への見直しも加速できるのではないか」と期待を寄せていました>と、突然、安倍元首相が記事に出てきてびっくり。思想がわかりやすい記事でした。


●日本の製薬工場はレベルが高く、新型コロナウイルスワクチンも製造

2021/04/07:世界的にもレベルが高い日本の製薬工場は、新型コロナウイルスワクチンを製造する工場にも選ばれてる…といったニュースをテレビで見た記憶があります。ネットで検索すると、直接該当する記事はありませんでしたが、<コロナワクチンの大半を日本国内で製造へ アストラゼネカ 2021年2月20日 4時59分 NHK>あたりが関連しそうな記事です。

<イギリスの製薬大手アストラゼネカは、オックスフォード大学と共同で新型コロナウイルスのワクチンを開発し、今月5日に日本国内での使用に向け、厚生労働省に承認を求める申請を行っています。(中略)
田中執行役員(引用者注:アストラゼネカの日本法人でワクチンの責任者を務める田中倫夫執行役員)は、日本政府と供給契約を結ぶ6000万人分のワクチンについて、承認されれば、4000万人分以上を兵庫県芦屋市に本社がある製薬メーカー「JCRファーマ」の工場で生産し、速やかに供給していく考えを示しました>
<アストラゼネカは、承認されれば、新型コロナウイルスのワクチンを、国内の製薬会社に委託して4000万人分以上を製造することにしています。
このうち原液は、兵庫県芦屋市に本社がある製薬メーカー「JCRファーマ」が担当し、神戸市内の工場で製造します。>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210220/k10012877561000.html


●国産ワクチンはなぜ遅い?緊急時に備える制度がそもそも不十分

 ネットでは「やっぱり日本製のワクチンが安心」という声が出ており、日本製ワクチンの需要は大きいでしょう。ただ、上記は日本で作ったワクチンではありますが、アストラゼネカのワクチン。「国産ワクチン」という場合、日本の医薬品メーカーが開発したものを指す場合が大半でしょう。

 これに関連する国産ワクチン、なぜ出てこない? 塩野義・手代木社長に聞く:日経ビジネス電子版(2021.3.30)というインタビュー記事がありました。塩野義製薬を含む日本の製薬会社のワクチン開発が欧米勢より遅い理由が、一つではなくいろいろと挙げられています。

 日本の製薬会社は規模が欧米に比べて小さいとか、バイオ医薬品の潮流に全体として乗り遅れたとか、そういった理由もあるものの、最も問題なのはそこではないと手代木功・塩野義製薬社長は説明。日本は「緊急事態だという割には、緊急時に備える制度が不十分」などの理由を挙げていました。なお、平時の備えに問題があるという話は後半でも出てきます。

「米国では、Emergency Use Authorization(EUA、緊急使用許可)という、通常の薬事承認ではない制度があります」
「ワクチンの種類で分けると、ファイザーと米モデルナのmRNAワクチン、英アストラゼネカと米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のウイルスベクターワクチン、米ノババックスの組み換えタンパク質ワクチンの3つが、圧倒的に開発が速かった。しかし、日本にはこれらの開発基盤がなくて、不活化ワクチンという伝統的な技術しかありませんでした」


●早ければ良いという問題ではない…が、今回のワクチンはすごかった

 一般論でいうと、開発は早ければ良いというものではありません。私は安全や効果軽視の出来が悪いワクチンができる可能性を心配していました。開発段階ではありませんが、日本では小林化工や日本を代表するジェネリック薬品大手の日医工でずさんな薬の作り方をしていることが判明、被害者が出て死者すら報告されています。安全性は軽視しちゃいけません。

 ただし、新型コロナウイルスの場合は超スピード開発なのにも関わらず、安全性でも効果でもハイレベルなワクチンが開発されました。これは私にとっては完全に予想外で驚きました。すごいですわ。そして、この先行組が良いワクチンを作ったことで、後発組のワクチン開発が極めて困難になった…ということが指摘されていました。

「有効性が確認されているワクチンが既にあるなかで、健康な人にプラセボ(引用者注:ニセの薬。候補薬に効果があるかはそもそも不明であるため、必ずニセの薬を飲んだ人と比較する必要がある)を接種することは倫理的な観点から難しいからです。(中略)
 何もワクチンがない時点なら、プラセボとワクチン候補の比較試験をするしかありません。しかし、有効性のあるワクチンができた後では、健康な人にプラセボを打つことは正当化しにくい。そのため、ファイザーなどがワクチンを提供し始めた後は、世界中の会社がプラセボとの比較をするフェーズ3を実施することが難しくなっています」

(2021/04/15追記:以上のように書いていましたが、その後、英アストラゼネカ製の新型コロナワクチンの接種者に血栓の症状が報告されて、ワクチンと関連がある可能性が出てきました。「ワクチンを接種するメリットはリスクを上回っている」とも指摘されているものの、ドイツやフランスなどは接種対象に年齢制限を設けているそうです。アストラゼネカのワクチン「血栓と関連」 EU専門機関 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタルより)


●感染症研究は儲からない…日本は感染症にお金を回さない方針だった

 ところで、先にあった平時の備えに問題があった…という話は、最後でも登場。次のパンデミックが起きるときに備えて、重症化した際の医療体制を構築することが大切だとしていたのです。例えば、ワクチン、治療薬、診断薬の3つを1年でできるような体制づくりを、産業界や学術界も含め国全体として進めておくことが必要としていた他、以下のように指摘していました。

「現状では国内の感染症研究者はどんどん減ってきて非常に少ない。どうしてこのような状況になったかというと、感染症の研究をする人にお金が回らないからです。製薬会社も悪い。ほとんどのメーカーが感染症をやらずに、がんなどお金になるものばかりやってきました。
 がん研究者には潤沢にお金が回るんですよね。一方、感染症はお金にならないから、大学も研究室を維持できずにどんどん縮小してきました。
 こうした状況を何とか変えなければなりません。パンデミックが起きたら、何十兆円もの経済的な損失が出ます。それほどの損失が仮に10年に1回出るとしたら、研究体制や生産体制の構築に、平時から毎年数千億円の規模で基盤整備を進めた方が安くないですか。それには、国のサポートと国民のコンセンサスが不可欠です」


●新型コロナウイルスワクチン製造大国のはずが海外輸出で国民は接種できず

2021/04/24:<ワクチン製造大国のはずが、国民には「在庫切れで接種できず」…海外には6400万回分輸出>(2021/04/13 11:50 読売新聞)という新型コロナウイルスワクチンのニュース。日本のこと?と思う人もいらっしゃるかもしれません。私も最初日本でも新型コロナウイルスワクチンをたくさん作っていたの?と思いました。でも、違います。
https://news.infoseek.co.jp/article/20210412_yol_oyt1t50171/

 この場合は幸い…ではなく「残念ながら」と言うべきでしょうが、日本は新型コロナウイルスワクチンは全然作っていませんので日本じゃありません。インドの話でした。インドは製造業は遅れていると思っていたので意外。中国製造業の魅力は人件費以外にある 熟練労働力やサプライチェーンなどで書いたように、工場では暴動や盗難も起きているようですが、伸びてはいるようです。

 ところが、新型コロナウイルスワクチンの製造大国であるはずのインドが、ワクチン不足に陥っているとのこと。都合悪いことを否定する日本の政治家のように、保健家庭福祉相は「ワクチン不足は根拠がない」と言っていますが、事実ではない模様。政府は、輸出を制限して国内に回そうとしたが、手を打つのが遅く、在庫不足が一気に表面化したと読売新聞では書いていました。ワクチン不足は国内でワクチンを作る・作らないだけの単純な問題ではないとわかる話でもありますね。


●中国のワクチンは有効率わずか50% 早く作れても全然意味がない?

2021/05/02:中国ワクチン、有効率わずか50% 南米に動揺と失望が広がる | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト(2021年4月21日)という記事が出ていました。中国疾病管理局のガオ・フー局長は、「現行のワクチンがあまり高い保護率を有していない問題を解決してゆく」と発言したそうです。

<中国では現在、集団接種用に5種類のワクチンを使用しており、各製造元は有効率を50%から79%と公称している。香港ヘラルド紙はファイザー製ワクチンの感染予防面での有効率が97%となっているのに対し、中国シノバック製は50.4%であったとの数字を伝え、有効率の低さを問題視している>
<ブラジルのネットメディアでは以前から、「ブラジルは二流のワクチンに甘んじている」とする内容の記事が複数出回り、国民は不安に駆られていた。(中略)ワクチンへの信頼が揺らぐなか、中国高官が有効率の低さを認めたというニュースが舞い込み、不信はさらに深刻化すると見られる。ブラジル当局は中国シノバック製ワクチンについて、新型コロナの中度および重度の症状を防ぐという意味では78%の有効性があるが、純粋に感染を防ぐという面での有効率は50.4%にまで低下すると認めている>

 ただし、そもそも従来型のワクチンの有効率としては別に全然低くないのでは?と、はてなブックマークでは指摘。50%の有効率で無意味なら、従来型のワクチンを用いるインフルエンザなどの他のワクチンも無意味という、反ワクチンのトンデモ主張になってしまいます。また、従来の方法で作った日本の国産ワクチンも無意味ということになりますね。

<このタイプのワクチンの特性考えれば50%ってそこまで悪い成績ではないんだけどな>
<中国シノバックのワクチンは従来型の不活性化ワクチンなので既存のインフルエンザワクチンと同様に有効率50%程度なのは普通。それにしてもmRNAワクチンは優秀と思う。日本もmRNAワクチンの開発能力と生産設備がほしい>
< mRNAとかウィルスヴェクターという新しいワクチンが画期的な有効性を示しているだけで、シノバックの不活化ワクチンで50%というのは全然悪くないのでは?従来型だけに安く大量に供給できているという利点もあるはず>


●50%のワクチンは意味ないの?インフルエンザワクチンの有効率

 補足のためにちょっと検索。インフルエンザワクチンの発症予防効果について | カピバラあかちゃんこどもクリニックによると、<通常のインフルエンザワクチンは有効率は約30%、鼻スプレー型のフルミストは有効率は約80%>とされていました。30%のインフルエンザワクチンに意味があるのですから、50%でも十分意味があると考えられそうです。

 また、そもそも高性能ワクチンは金持ち国しか使えないという大きな問題もあります。中国を叩くより、途上国に高性能ワクチンを回さない先進国を批判すべきでしょう。実を言うと、記事でも以下のように「今すぐ手に入るワクチンがあるのが大事」と書いている部分が少しだけありました。「ワクチンは無意味」と、反ワクチン的な報道をするのは問題がありますね。

<ただし一部には、現行のシノバック製ワクチンに一定の意義を認める声もある。ブラジルのある住民はワシントン・ポスト紙に対し、「より優れたワクチンがあったとしても、それは、届くことはなかったのだから」と述べている。シノバック製を不信の種と見るか今手に入る希望と見るか、捉え方は分かれそうだ>


●武田薬品工業が中心で共同開発の治療薬、有効性確認できず断念

2021/05/11:治療薬なのでワクチンとは違うのですが、新型コロナ: 武田、コロナ薬の共同開発断念 治験で有効性確認できず: 日本経済新聞(2021年4月6日)というニュースが出ていました。とはいえ、薬品開発で失敗するというのは、よくあることです。武田薬品工業らが特別レベルが低かったというわけではないでしょう。

<武田薬品工業は6日、米CSLベーリングなどと進める新型コロナウイルス感染症治療薬の開発を断念したと明らかにした。回復した患者の血液成分からつくる薬で、武田は買収したアイルランド製薬大手シャイアーの技術を活用したが、臨床試験(治験)で有効性が確認できなかった。国内メーカーが関わる有力な候補薬の1つとして期待されていた>

 この失敗に「日本は新型コロナウイルス患者が少なくて治験しづらいため?」といった話が出ていたものの、国際的な開発のために関係なし。また、患者が少なかった場合は、普通にそれを理由として説明するでしょう。そう説明した方がイメージが良いですからね。ちなみに、エボラ出血熱のときは、このパターンでの治験終了がありました。

 今回の治験では、薬を投与しない患者と比較するのではなく、重症化リスクのある成人のコロナ患者に対して抗ウイルス薬「レムデシビル」と併用して投与し、レムデシビル単体の投与に比べて、症状が悪化するリスクが低減するかどうかを見たそうです。レムデシビルはすでに有効性がはっきり確かめられているためでしょう。結果、新薬は有効性評価項目を達成できませんでした。

 武田薬品工業社長は「武田が触媒の役割を果たした」と強くアピールしていただけに、失敗は残念なところ。ただ、前述の通り、失敗はよくあることではあります。記事によると、武田薬品と同様の早期開発組には米メルクなどまだ多数残っている他、塩野義製薬など遅れて開発しているところもあり、まだまだ新薬開発成功の可能性がありそうでした。


●ワクチン大国でなぜ感染拡大?首相が感染対策より選挙優先で不在に

2021/06/09:何個か前で書いた「新型コロナウイルスワクチン製造大国のはずが海外輸出で国民は接種できず」の続報的な話。また、そのとき書いた「ワクチン不足は国内でワクチンを作る・作らないだけの単純な問題ではないとわかる」という感想がまたしても当てはまる話にもなっています。国内製のある・なしより、政治家選びの方が大事かもしれません。

  今回読んだのは、前回と同じ読売新聞で、<ワクチン大国なのに不足・感染対策より選挙…「助けてくれない」インド首相に批判>(2021/06/06 12:00)という記事です。現在のインドは、民族主義的な右派のモディ政権で、経済重視対応も右派らしいもの。右派の読売新聞は嫌いじゃなさそうな政権なのですが、無能政府!といった勢いでかなりボロっクソに書いています。

<インドのナレンドラ・モディ首相の支持率が下落している。新型コロナウイルス対策よりも選挙での党勢拡大を優先するなどしたため、世界最悪クラスの感染爆発を招いたうえ、ワクチンの製造大国なのにワクチン不足に陥ったからだ。国民の不満を解消するのは容易ではない。(ニューデリー支局 小峰翔)>
<ニューデリーは当時、1日の新規感染者数が約2万8000人とピークに達し、病院のベッドは満床続きで医療用の酸素が不足していた。そんな緊急時にモディ氏は首都を離れ、西ベンガル州の地方選を戦う与党・インド人民党の応援に出かけていた>
<インド型(デルタ型)の変異ウイルスが流行し、5月には1日の新規感染者数が40万人を超えた。だが、モディ氏は抑え込みに有効なロックダウン(都市封鎖)に消極的で、地方政府には導入に慎重な判断を求めた。経済にさらなる打撃を与えることを恐れたとみられる>
https://news.so-net.ne.jp/read/Category/9db50e94-424b-4977-93a8-f5ebf6673eab/dc94194f37c764e11d411d616458e3ea_1ba3a02e54e840e8f49a9e0ebcaeaaae

 「感染対策より選挙優先」は、日本で言うと、吉村大阪知事・大阪維新の会の大阪都構想優先や、河村たかし名古屋市長などの愛知県知事リコール運動ですかね。アメリカ大統領選挙では、感染対策を優先した選挙活動を行ったバイデン候補と違って、トランプ大統領はむしろ感染拡大させるような選挙活動をしていました。いずれの政治家も右派です。

 宗教重視も右派の特徴でモディ首相はやはり当てはまるのですが、<ヒンズー教の宗教行事への数百万人規模の訪問も規制せず、地方選対策で強行した選挙集会にはマスクを着けない支持者らが殺到し、モディ氏は「拡散者」(医師会副会長)などと批判を浴びた>ともありました。宗教重視含めて、トランプ大統領との共通点が多いです。

 ただし、インドのコンサルタント会社「オルマックス・メディア」によると、2021年5月のモディ首相の支持率は48%。2020年2月の調査開始以降で最低だったとはいえ、十分に高い数字。これもトランプ大統領と同じと言えますし、日本の政権でもそうですね。政権の対応が最悪であっても、支持し続ける層がいるために、支持率はなかなか下がりません。

 右派的な特徴については、読売新聞でも「人口の8割を占めるヒンズー教徒寄りの政策や経済改革に取り組み、国境問題で対立する中国への強硬姿勢を打ち出して支持を集めた」と指摘。ただ、この特徴のために、ハイデラバード大学のタンウィール・ファザル教授は、今後支持層が好むイスラム教叩きで支持を集めるという、より悪い事態も予測していました。


【本文中でリンクした投稿】
  ■中国製造業の魅力は人件費以外にある 熟練労働力やサプライチェーンなど
  ■ファンケルのえんきんの効果を専門家が疑問視 根拠論文がひどすぎ
  ■えんきんの論文の掲載誌は、機能性表示食品の提言者が主任編集者

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