彼はイスラエルにいる頃、教科書執筆の機会を得ました。執筆は順調で、1年ほどで全体のうちの2章分を書き上げました。この時、彼は執筆チームのメンバー全員にこの教科書が完成するまでにあと何年かかるかの予想を聞きました。全員の予想は2年を中心に最短で1年半、最長で2年半というものでした。
結果はどうかと言えば、教科書が実際に完成したのはずっと後の8年後でした。予測の4倍オーバーの期間を要したことになります。
そう、もうおわかりのとおり、カーネマンを含めたメンバー全員は目の前の進捗がスムーズだったため、楽観バイアスによる「計画錯誤」に陥っていたのです。楽勝だと思ったら、全然そうではなかったのです。
ノーベル賞を受賞するほどの認知心理学者のカーネマンであっても、この錯誤に陥るということです。いかに人間の認識が非合理的にできているかということがこれでわかると思います。
エキスパートは属しているチームとは無関係の「他の教科書執筆チームは、これまでの実績に基づけば、あとどれくらいで完成するか」と、客観的な立場で予測したところ「7年以内には完成できない」との回答になったのです。
実際は8年後だったので、正解にかなり近い予測ができたことになります。
同じ人間が目の前の内部情報にもとづいて結果を予測した場合と、過去の類似のケース(外部情報)に基づいて結果を予測した場合とで全く違う予測を出したということです(『ファスト&スロー(下)』ダニエル・カーネマン著)。
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