2016/6/26:
●罰則がうまく行かない理由 行動経済学の実験の意外な結果
●罰金そのものの問題ではなく、300円の罰金という価格設定が問題か?
●成果主義がうまくいかない理由も、実は経済学の実験でわかっている
●インセンティブが失敗する一方でブラック企業が成功する理由とは?
【クイズ】ワタミグループの理念として正しいものはどれでしょう?
(1)様々な社会貢献型ビジネスをグループで展開し、ステークホルダーの皆様から、感謝と信頼を集め続けることを目指します
(2)世界中の人々に安全でおいしい食を手軽な価格で提供する
(3)独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
●罰則がうまく行かない理由 行動経済学の実験の意外な結果
2016/6/26:成果主義はむしろ大好きだったのですが、都合の悪いことに成果主義にとって良くない研究というものが多いです。今回もそういう話。ただ、今回最初にやる話は、罰則がうまく行かない理由と説明した方が良いものですね。
日本企業は劣化などしていない 昔から悪かったのが今目立っているだけで紹介した記事では、以下のような実験の話も載っていました。
『その問題、経済学で解決できます。』(ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト著、東洋経済新報社)には、行動経済学では有名な、イスラエルの保育園の「お迎え」を巡る話が載っています。
著者のニーズィー教授らが行った実験では、保育園の「お迎え」に遅刻する親に対して罰金(米ドルで3ドルほど)を課してみました。すると、遅刻が減るどころかなんと増えました。罰金のない状態よりも遅刻する親が顕著に増えたというのです。
(
日本企業は劣化したのではなく、もともといい加減だった|山崎元のマルチスコープ|ダイヤモンド・オンライン 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] 2016年4月6日より)
●罰金そのものの問題ではなく、300円の罰金という価格設定が問題か?
これで罰金そのものが意味がないと結論づけるのは早まっているでしょう。厳罰ならどうかわからないため。数百円程度ですと安いですからね。
罰が300円のときと、300万円のときと、死刑のときで、人間の挙動が全く変わらないと本気で主張する人はいないでしょうから、この結果をすべての罰に当てはることはできません。
ただ、おもしろい実験結果ではあります。逆に大義名分を与えたというか、遅刻の罪悪感を帳消しにして「遅刻してもいいんだ」と思ってしまったのかもしれません。作者の山崎元さんの場合は以下のような解釈をしていました。
<この場合、親たちは遅刻の意味を、「約束を破ることの罪悪感」から「3ドルのコストで償える迷惑の価値」に読み替えた(注:筆者の解釈である)。従って、「私は3ドル払う用意があるのだから、遅刻することは許される選択肢の一つだ」と考えるようになったので、罪悪感なしに遅刻できるようになったのだ>
●成果主義がうまくいかない理由も、実は経済学の実験でわかっている
ニーズィー教授らは、罰金の反対側のインセンティブについても実験しているのです。これが私がショックだった成果主義の残念さに関係する実験でした。また、さっき出てきた罰金の金額の多寡が強く関係するだろうと読み取れる実験結果でもあります。
まず、イスラエルの募金の日に慈善目的の募金を集めるに当たり、募金集めに向かう高校生180人を60人ずつ以下の3グループに分けました。
【グループ1】慈善事業の意義を十分に説いて募金集めに向かわせる。
【グループ2】グループ1に聞かせた話に加えて、集めた募金額の1%相当の報奨金を個人に払うと約束して募金集めに向かわせる(1%は集めた募金の中からではなく別途払われることが事前にはっきり告げられている)。
【グループ3】集めた募金額の10%が払われると告げて募金集めに向かわせる。
グループ1に金銭的なインセンティブはなし。グループ2は募金の意義に加えて募金集めの成果を損なわない金銭インセンティブが1%あります。さらにグループ3は10%とグループ2よりも大きなインセンティブがありました。
結果を見ると、なんと一番お金を集めたのは金銭的なインセンティブがないグループ1。そして、最もダメだったのは、グループ2だったといいます。実験結果について、書籍の著者は「この話のキモは、お金はたっぷり支払うか、あるいはまったく支払わないかのどちらかでないといけない、ということだ」と書いていたそうです。
大きなインセンティブを与えるというのは、確かに効果が出ています。ここだけ見ると私の好きな成果主義に有利な結果でした。しかし、意義を理解させる組に負けたというのはショックです。
ただ、ニーズィー教授らはこのポイントを強調していませんでしたので、ひょっとしたら大きな差はなかったのかもしれません。仮にそうだとしても、インセンティブなしの組とほぼいっしょというのですから、やはりショックなことには変わりありません。インセンティブが効果的と言える実験だった…とはどうしても言えませんね。
●インセンティブが失敗する一方でブラック企業が成功する理由とは?
なお、「意義を十分に説いて」というのは、ワタミのように崇高な理念を掲げて労働を搾取するという企業にも当てはまってしまいますので、これが効果的というのもちょっと危うさを感じます。
【クイズ】ワタミグループの理念として正しいものはどれでしょう?
(1)様々な社会貢献型ビジネスをグループで展開し、ステークホルダーの皆様から、感謝と信頼を集め続けることを目指します
(2)世界中の人々に安全でおいしい食を手軽な価格で提供する
(3)独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
【答え】(1)様々な社会貢献型ビジネスをグループで展開し、ステークホルダーの皆様から、感謝と信頼を集め続けることを目指します
「(2)世界中の人々に~」はすき家などのゼンショー、「(3)独自の企業活動を通じて~」はユニクロのファーストリテイリングからそれぞれもらってきました。
これらも「お前が言うな」なわけですが、ワタミの場合は特に社会貢献を前面に出していた会社で、社内に崇拝者も多かったです。渡邉美樹元会長が自民党に呼ばれて、参議院議員になったというのも、こういった姿勢が認められたこともあったのでしょう。ブラック企業がうまくいく理由となっているという意味では、怖い実験結果でもあります。
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