EU離脱の話をまとめ。<EU離脱を決定したイギリスの末路>、<ホンダ日産の工場撤退閉鎖が波紋、イギリス議会で討論になるほどの衝撃>、<ソニーもパナソニックも欧州統括会社移転を移転>、<英国大混乱!EU離脱対応、「評価しない」が「評価する」の3倍>などの話をやっています。
その後、<EU離脱でイギリス離脱に…国内工場建設計画をとりやめて国外に>、<EUとイギリスの輸出入が激減 一方であの国との貿易が増えてしまう>などを追加しました。
冒頭に追記
2022/11/18追記:
●EU離脱でイギリス離脱に…国内工場建設計画をとりやめて国外に
●EUとイギリスの輸出入が激減 一方であの国との貿易が増えてしまう
2022/11/24追記:
●自業自得?EU離脱で「悪くなった」が「良くなった」の3倍以上に 【NEW】
●経済悪化・国民不支持でも離脱強硬派は「離脱見直すな!」と激怒 【NEW】
【クイズ】国民投票の開票結果が判明した翌朝、Googleトレンドで最も検索結果が増加したワードは以下のうちどれでしょう?
(1)「EUとは?」
(2)「EUの加盟国は?」
(3)「EUを離脱したら、なにが起きる?」
●EU離脱でイギリス離脱に…国内工場建設計画をとりやめて国外に
2022/11/18追記:EU離脱派がバラ色の未来を誇張した一方で、「離脱でイギリスは終わる」という主張もありました。私は「良くも悪くも大きくは変わらない」という可能性も考えていて、今回読んだ記事であった<EU規則をそっくりそのまま複製したイギリスの新しい国内規制に対応を余儀なくされている>というのがそういう話です。
ただし、<EU規則をそっくりそのまま複製したイギリスの新しい国内規制に対応を余儀なくされている>企業である化学企業ロビンソンズのエイドリアン・ハンラハンさんは、「慣れろと、政府は我々にそう言っている。とんでもない話だ」として、「変わらない」ではなく「悪化した」という考えのようでした。
化粧箱メーカーのカレン・ロウエンさんは、今では欧州よりもアメリカやオーストラリアに製品を供給する方が安上がりだと説明。欧州で商売が成立しづらくなったということなので、これもやはりマイナスの話でしょう。このためなのか、別の企業はイギリス国内での工場建設をやめて、ポーランドに工場を建設するそうです。
<環境にやさしい最先端のラジエーターを製造している企業は、(引用者注:イギリスの工業都市である)バーミンガムで拡大する予定だった工場をポーランドに移すと言う。別の参加者は、150年続いたビジネスを続けるために闘っているのだと話しながら、声を詰まらせた>
●EUとイギリスの輸出入が激減 一方であの国との貿易が増えてしまう
これらの話があったのは、
【解説】 ブレグジットから1年、イギリス企業はどんな影響を受けたのか - BBCニュース(2022年1月1日 ファイサル・イスラム、経済編集長)という記事でした。新型コロナウイルスの流行を受けたロックダウンの影響を除いても、データから以下のようなものが見えるとまとめていました。
・ブリテン島は、英仏海峡間の通商が止まり、多大な社会的・経済的困難が生じるとされた「合理的な最悪のシナリオ」は回避した
・ブレグジット後の2カ月間は特に、輸出入の双方に、非常に大きな物質的なダメージがあった
・イギリスの輸出はその後の数カ月で回復したが、完全というわけではなく、衣料や食品などの業界はなお困難に直面している
・英・EU間貿易(輸出入双方)全体が、2021年の世界的な貿易回復の波に乗れず、2020年のパンデミックの低水準にとどまっている
・北アイルランドではアイルランドとの貿易が拡大したが、ブリテン島では落ち込んだ
他の地域と比較しているのは説得力がありますね。2021年は新型コロナウイルス問題の反動でEUの貿易が回復した年でしたが、大きく増えた貿易相手はアメリカと中国だけでイギリスは2%の微増。今のところ、イギリスのEU離脱は、EUがイギリスから離れて、アメリカと中国との関係を深める結果になっています。
同様にEUからの輸入も激減。<ブレグジットで新たに追加された検査は主にEUへの輸出品を対象にしており、イギリスへの輸入に対するものではない>のに減っているため、記事では「意外な結果」としています。とりあえず、EUとイギリスが疎遠になるということで、方向性としては一致していますね。
このイギリスの輸入量でも、アメリカ・中国と関係強化という点は同じ。EUからイギリスへの輸入で「全体の30%減」と影響が大きかったのは自動車でした。一方、同じ時期の非EU加盟国からの自動車輸入は16%拡大しており、これはアメリカや中国からのテスラ車の輸入が影響しているとのことです。
これ、アメリカはともかく、中国はどうなんでしょうね。中国への警戒感はリベラルも強いですが、より警戒感が強いことが多いのは一般的には右派の方です。EU離脱に積極的だったのも右派が多かったので、右派の選択が右派が嫌う中国との関係を深めてしまった…という皮肉な結果になったように見えます。
こうなると、今度は「EU離脱」ではなく、脱中国!みたいな話も出てくるかもしれませんが、わざわざ自分で関係を深めておいて断絶をはかるので、そうでない場合と比べて難しい上に、関係を深める前以上に国内経済に大きな影響が出ることは確実でしょう。行き当たりばったりで、迷走している感じがします。
●自業自得?EU離脱で「悪くなった」が「良くなった」の3倍以上に
2022/11/24追記:今後また変わるかもしれませんが、「EU離脱から2年」という節目の時点では、イギリス人はEU離脱について否定的な評価を下している人が多いという調査結果になっていたとのこと。離脱を投票で選んだので、自業自得なんですけどね。日本人もこうならないように、投票ではもっとよく考えましょう。
・英 EU離脱から2年 否定的に捉える人が過半数 不満の声強まる(2022年1月31日 4時59分 NHK)
<ジョンソン首相(引用者注:その後不人気になり辞任)は、離脱によって主権を取り戻して国を発展させると繰り返し強調してきましたが、社会や経済への影響も広がる中、離脱を否定的に捉える人が過半数を超えるなど、不満の声も強まっています>
<イギリスは2020年1月31日にEUから離脱し、急激な変化を避けるための移行期間を経て、去年1月からは双方の貿易に段階的に通関手続きが必要となるなど、手間やコストがかかるようになりました。
今月からの新たな通関手続きなどによって現在もフランスに向かうトラックが国境付近で長蛇の列を作っています。
また、イギリスで働く際に必要なビザの取得には英語力が不可欠となるなど条件が厳しくなりました。
このため、新型コロナウイルスの感染拡大もあって帰国した東ヨーロッパなどからの多くの労働者が、イギリスに戻らず、企業や介護の現場などで人手が不足する事態となっています>
<今月発表された世論調査では、離脱による現状について
▽「とても悪くなった」「かなり悪くなった」と回答した人は52%で、
▽「とてもよくなった」「かなりよくなった」と答えた15%を大きく上回っています>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220131/k10013458111000.html
●経済悪化・国民不支持でも離脱強硬派は「離脱見直すな!」と激怒
上記記事は古かったので、今はもう「EU離脱から3年」に近くなっています。そこで最近の記事も…と検索。出てきたのは、
英国、EU離脱の再考始まる-「反対」「間違っていた」が調査で半数超 - Bloomberg(2022年11月23日 2:25)という記事であり、やはりネガティブな流れは変わっていないようです。
<ストラスクライド大学のジョン・カーティス教授(政治学)が監督した新たな世論調査によれば、EU離脱への反対は英国民の57%に上った。賛成は43%。ユーガブは先週、EU離脱は間違っていたとの回答者が56%と、これまでの最高に上昇したことを示す調査結果を発表した。離脱に賛成票を投じた人の約19%は、その決断を今は後悔しているという>
イギリスは、長引く不況や深刻な生活費危機、労働者不足に直面。一方で、直近に出た秋季財政報告では、何年にも及ぶ増税と公共支出削減が続く見通しが示されました。政府も国民もお金がなくて、国民支出を減らすものの、それでもなお足りなくて国民から搾り取る…というえらいことになっています。
こうした苦境と国民の不支持もあって、政権高官らがEUとのより緊密な「スイス型の関係」を模索するような声も…。しかし、EU離脱強硬派はこれに激怒しているとのこと。EU離脱で手に入れた規制上の自由を損なうものには一切反対…だといいます。ただ、本当の問題はそれが国益になるかどうか?なんですけどね。
●英国民投票、高齢者より若者が残留の傾向
2016/6/26:EU離脱の英国民投票について。高齢者より若者が残留の傾向であったことや不思議なことに移民が少ない地方ほど離脱であったことがわかっているそうです。また、離脱が決定して、今頃慌ててEUについて調べ出す人々も多かったみたいですね。グーグルの検索キーワードで判明しています。
傾向は飽くまで傾向なので例外はたくさんがあります。これを誤解してはいけないのですが、「私の周りでは違うから違う」って言っちゃダメですよ。それだと疑似科学の人といっしょになっちゃいます。というわけで、飽くまで傾向だというのは注意しておいてほしいのですが、イギリスのEU離脱の国民投票、接戦とは言え、結構傾向が出ているようでおもしろいです。
まず、日本でこの前調査があった夫婦別姓問題みたいに、年齢で結構きれいに傾向が分かれたという話から。
(関連:
夫婦別姓、反対が多いのは高齢者だけ 子供を作る世代は賛成多数)
英 若者の70%余「残留」 高齢者の60%「離脱」 | NHKニュース 6月26日 11時59分
この聞き取り調査は、これまでイギリスの選挙などで世論調査を行ってきた保守党のアシュクロフト元上院議員が中心となって実施したもので、国民投票の当日の23日、実際に投票した有権者、およそ1万2400人を対象に行われました。
それによりますと、「残留」に投票した割合は若者の間で高く、18歳から24歳までが73%、25歳から34歳までが62%に上りました。
一方、年齢が高くなるにつれて「離脱」に投票した割合が増え、55歳から64歳までが57%、65歳以上では60%に上り、世代によって投票行動に大きな違いがあったことが明らかになりました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160626/k10010572361000.html
●不思議な事に移民が少ない地方ほど離脱
英国民投票でのはてなブックマークコメントを見ていたら、何でそんなに頭に血が上っているの?という勢いで、残留派に批判的なコメントが優勢でした。
はてなブックマークでは、リベラル叩きのコメントが跋扈することもあるものの、どちらかと言うとリベラルなことが多いです。今回のコメントを見ても、金持ちに貧乏人が一矢報いた!みたいなものがあったので、たぶん貧しい人に味方しなくちゃ!という思いが強いのだと思われます。
ただ、その論理で行くと、アメリカのドナルド・トランプさんの支持者に共感しても良さそうなのですけどね。そうはなっていません。さすがにトランプさんは露骨に人種差別的でダメなのかもしれません。EU離脱派の隆盛が「トランプ抜きのトランプ現象」とも言われたように、イギリスだとドナルド・トランプさんのような問題児は悪目立ちしていませんでした。
(2019/02/21:ただし、
EU離脱派はクズばかり 480億円浮く!というデマ、投票直後に撤回でやっているように、ミニトランプ的な政治家はいましたし、保守派というのも共通点です)
トランプさんは良いとして、以下なんかは特に反発を受けていたサイトです。確かに人を馬鹿にした感じがある…のですけど、これまた傾向としては興味深いものが見えています。移民が少ないはずの地方で離脱が多いというのです。
Brexitというパンドラの箱 | 世界級ライフスタイルのつくり方 June 25, 2016
ガーディアンのこの記事からだが、老人でも大卒だと残留派が多い。 移民も来ないような地方の低学歴ワーキングクラス(労働者階層)・ミドルクラス(中間層)が、精神論でアンチエスタブリッシュメントなポピュリスト政治家の言うことを信じてしまったのである。 つまり日本で例えると地方のマイルドヤンキー(高齢マイルドヤンキー含む)が東京都民の大多数が反対するにも拘らず、右派に同調してしまいそれが「国民の声」として「民意」となってしまった、に等しい。
●学歴と年齢の傾向はトランプ現象と瓜二つ
トランプさんは良いとして…と書いたものの、実を言うと、高学歴ではない高齢者(加えて低所得者)が多く支持というのは、ドナルド・トランプさんの熱心な支持者層とピタリ一致します。
日本の保守派とドナルド・トランプ支持者の違う点 ナショナリズム・外国人排斥・懐古趣味などを比較で紹介した記事は、トランプ支持者とEU離脱派が似ているとしており、それを裏付ける結果です。
もちろんこれも飽くまで傾向であり、ドナルド・トランプさんもそうであるように、かなりの多くの人が支持しないと得票の過半数を取ることはできません。
●今頃慌ててEUについて調べ出す人々
あと、Googleトレンドによると、開票結果が判明した翌朝、1時間あたりの検索が3.5倍に跳ね上がったワードが「EUを離脱したら、なにが起きる?」だったという話がありました。しかも、2位が「EUとは?」で、3位が「EUの加盟国は?」ってのがまた頭が痛い話です。
(
【EU離脱】えっ今さらその言葉をググるの? 離脱に投票し後悔する人たち 溝呂木佐季 BuzzFeed News より)
【クイズ】国民投票の開票結果が判明した翌朝、Googleトレンドで最も検索結果が増加したワードは以下のうちどれでしょう?
(1)「EUとは?」
(2)「EUの加盟国は?」
(3)「EUを離脱したら、なにが起きる?」
【答え】(3)「EUを離脱したら、なにが起きる?」
同じ記事では離脱に投票して後悔している人の話が載っていましたので、離脱派は何も考えずに投票して今頃後悔してやがる…といったニュアンスの記事です。
これに対し、「離脱派じゃなくて残留派が検索しているかもしれないじゃん」という反論もありましたし、「離脱が実際に決定した際に関連するものの検索が多くなるのは当然でしょ?」という声もありました。
ただ、離脱派が検索しているにしても、残留派が検索しているにしても、ここらへんのキーワードは本当なら投票前にたくさん検索しておいて欲しかったところですね…。
●EU離脱を決定したイギリスの末路
2017/12/17:この投稿の後にも、
EU離脱で3億5000万ポンドが浮く!投票後、デマでしたと離脱派告白 イギリス脱出を検討する人も増加といった話を書いていました。離脱派は嘘ばかりついていたのです。ただ、実際には残留派が言うほど深刻な問題も起きず、良くも悪くもそう変わらないのではないかと思われます。
一方で、離脱することでの問題が既に起きているという記事も出ていました。
英国、EU移民に見限られ農作物収穫できず EU離脱への後悔「ブリグレット」広まる | NewSphere(Nov 30 2017)というものです。
アメリカでは人手不足が起きていて、移民排除のメッセージがマイナスに働いているといった話を、
意外!メキシコ不法移民で損するのは合法移民で、米国人は得していたでやっており、そちらへの追記も考えましたが、イギリス関係ということでこちらに追記することにしました。
英農業生産者組合、National Farmers Union (NFU)によれば、野菜や果物の収穫のためイギリスで必要とされる季節労働者は約8万人で、最近はその75%がルーマニアとブルガリア出身者です。しかし、離脱決定で既にイギリスを目指す労働者の数は減少。ビザなし移動の自由が不透明となった他、保守派が良いことだとするポンドの下落が響いています。
上記二つが大きな理由とされていたものの、ルーマニアやブルガリアの経済が好調なことも、出稼ぎ者の減少の理由の一つだとされていました。
●移民に見限られ農作物収穫できず大損失
NFUは今年9月の時点で、移民労働者の不足は29%に達していたとしていました。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、あるリンゴ農家が、収穫期を過ぎて生食用としてスーパーにに出荷できなくなった100箱ほどのリンゴをジュース用に回したことを伝えています。ジュース用は、価格が5分の1と大きく目減りする選択です。すごい差ですね。
また、スコットランドのブルーベリー農家は、約50万ポンド(約7500万円)分を収穫できず。ケント州の果樹園でも、ラズベリーを摘みきれず、約70万ポンド(約1億円)の損失だったといいます。アメリカ同様大げさに言っているわけではなく、マジで困っているようです。
保守派はもともと、外国人ではなく自国の人の雇用が増えるから良い!と主張していました。しかし、アメリカの例でそうであったと同時に、日本でもそうであるように「農作業をやれ」と言われて喜ぶ人ばかりではないでしょう。アメリカでは重労働であることが強調されていました。今回のフィナンシャル・タイムズ紙の場合は、失業率が低いことと、収穫作業が季節労働であることから、イギリス人労働者を雇って穴埋めすることは困難だと説明しています。
こうした事態は農作業の生産をやめることに繋がります。雇用を作り出すどころの話ではありません。そこまで行かなくても、農作物の価格が上昇することは間違いないでしょう。英国民を苦しめる形です。輸入品が増加して、国内品を圧迫するといったことが起きる可能性もあり、当初の目的とは違う結果も招くかもしれません。
今のところEUはかなりイギリスに対し寛大な処置をする方向性であり、言うほど悪くならない感じなのですが、基本的にはEU離脱は良くない決定だったと考えられます。
●ホンダ日産の工場撤退閉鎖が波紋、イギリス議会で討論になるほどの衝撃
2019/02/21:私はイギリスのEU離脱は馬鹿げていると思っていましたが、一方で良くも悪くもそう変わらないのではないかと予想していました。しかし、予想外にEUが強行で妥協せず。イギリスはイギリスで離脱反対だけでなく、強行離脱のハードブレグジットかソフトブレグジットかですらまとまらず、めちゃくちゃになっています。
このEU離脱のせいでなく、言い訳に使われている可能性もあるのですけど、工場閉鎖などのニュースも多くなってきました。ホンダは2022年をめどにイギリス南部にある工場を閉鎖する方針を固めました。ヨーロッパ市場での販売の低迷に加え、イギリスのEU離脱による影響が見通せないことも背景にあると報じられています。スウィンドンにある工場では、およそ3500人を雇用しており、地元の影響は大きいようでした。
ホンダ 英工場を閉鎖の方針 英EU離脱も背景か NHK 2019年2月19日 12時00分より)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190219/k10011819761000.html
また、この前にも日産自動車もイギリスで計画していたSUV=多目的スポーツ車の生産を取りやめることを決めて、やはり衝撃を与えていました。ホンダの件は、イギリス議会で討議が行われるほど波紋を広げています。自業自得なんですけど、日本でもEU離脱支持派が多かったですからね…。
●工場が地域経済を支えていた…日産撤退でイギリス人が衝撃を受けた理由
2019/04/02:日産の工場生産中止がなぜ衝撃的だったか?という話について補足。日産のサンダーランド工場は英国最大の自動車工場で、従業員は7000人。しかも、サンダーランドは英国の中でも経済的に厳しい地域で、日産の自動車工場とその関連企業に支えられている側面が強い地域。当然、日産の投資が落ち込めば、地域経済に与える影響は甚大だと考えられているそうです。
なお、これを伝えた記事自体は、
瀬戸際の英政府、日産ゴーン前会長との密約を暴露:日経ビジネス電子版(大西 孝弘 ロンドン支局長 2019年2月5日)というタイトル。
イギリス政府が、日産のカルロス・ゴーン社長(当時)宛の書簡で、ブレグジットの影響を軽減し、最大8000万ポンド(約115億円)の支援を提示した密約を暴露した…というのがメインの話でした。これもそこまでして圧力をかけるほど、日産の影響が大きかったという話ではあります。
●ソニーもパナソニックも欧州統括会社移転を移転
ついでにもう一つ追加。ソニーは2019年1月に、イギリスにあった家電部門の欧州統括会社をオランダに移すことを明らかにしていました。英国から人員などは移転しないのですけど、これもイギリス人にとっては嫌な話でしょう。
英国が欧州連合(EU)から特別な取り決めのないまま離脱した場合の混乱を避けるのが目的。「合意なしの離脱」になれば直後からEU域内に法人がなくなり、輸入や販売手続きで混乱するおそれがあったそうです。
日本企業ではパナソニックが昨年、やはりイギリスにあった欧州統括会社をオランダに移転していた…という例もあったそうです。パナソニックの場合は、一部の人員も移しているということでした。
(
ソニー、欧家電統括会社をオランダに ブレグジット余波:朝日新聞デジタルより)
●スーパーの棚は空っぽ、ガソリン・ワクチン不足でパニックに
2021/11/13追記:久しぶりにEU離脱に関するニュースがありました。<スーパーの棚は“空っぽ” イギリスを苦しめるのは…>(2021年10月14日 16時47分 NHK)という記事です。新型コロナウイルス問題でのロックダウン後にスーパーの商品がなくなり、地域によってはなかなか正常化しませんでした。ただ、商品が足りないわけではないともいいます。
どういうこと?と不思議ですが、その答えは商品を運ぶ大型トラックの運転不足でした。この運転手不足は他にも影響。インフルエンザワクチンの輸送が滞っていて、一部では問題に。さらに、「市場には、少し古くなった野菜が並ぶようになった。輸送に時間がかかっているのかなと思っている」として、レストランも困惑しています。
以上のように新型コロナウイルス問題でのロックダウンの話があったのですが、問題が大きくなったのは、実際には新型コロナの感染対策がほぼ撤廃され、夏休みが明けたころからだとされていました。むしろ新型コロナウイルスの影響がなくなってからの方が問題が大きくなってしまったんですね。ガソリンでもパニックが起きたとされています。
<経済活動が以前の姿に戻り、物流が活発になったことで運転手が足りない状況が浮き彫りになったのです。この事態を象徴するのが、ガソリン不足です。増加する需要に対して大型のタンクローリーを運転できるトラック運転手が足りず、ガソリンスタンドへの輸送が滞りました。販売するガソリンがないとして、一部のスタンドは閉鎖>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211014/k10013306601000.html
●運転手などの労働者不足、EU離脱で起きることはわかっていた
実を言うと、この運転手不足、実はいつ起こってもおかしくないと言われ続けてきた問題だったとのこと。その背景にあるのがイギリスのEU離脱です。ここでやっとEU離脱の話が出てきました。
<EUからの労働者はこれまで、大型トラック運転手をはじめ、レストランやホテルといったサービス業などさまざまな分野で、イギリスの経済活動を支えてきました。しかし、ことし1月の完全な離脱を受けて、イギリスはEUからの移民の受け入れを厳格化。(中略)このため、離脱すればEUからの労働者が減少すると指摘されていたのです。さらに、新型コロナの感染拡大で多くの労働者がイギリスから自国に戻ったことが追い打ちをかけ、予想以上に影響が広がる事態となりました>
ジョンソン首相は、企業はEUなどからの低賃金の労働力に頼るのではなく、人材育成などに投資し、みずから人を育てるべきだと強調。今は、高賃金で高いスキル、そして高い生産性による経済への移行段階だとしていました。この意見に賛同し離脱派が正しかったとする人もいたのですが短絡的。ワクチンなどで人命が関わる問題になっているのに歓迎ってのは、非人道的な話。移行が急激すぎるというのが、問題だったと考えられます。
私は経済的には比較的右派に近い主張で、「労働生産性の低い企業・利益を出せない企業・低賃金の企業は潰れるべきで、労働者はより条件の良い企業に移ることで多くの人が幸せになる」という考え方。ただし、短期間に多くの企業を潰すと、失業した大量の人々を他の企業が受け入れることができず、弊害が大きくなります。今回の例も似た構図。TPPなんかも似たもので、いきなり関税撤廃…とはせずに、長めの準備期間を設けるものです。
こうしたことを考えると、ジョンソン首相は、ただ理想論を強硬に主張しているだけであまりにもズサン。考えが浅すぎる…というか、たぶん特に考えていなかったんでしょう。ただ、日本でも信じてる人がいるくらいですから、「イギリスは理想的な社会の実現に近づいている。今は耐えるとき」といったメッセージを信じる人が多数いると予想。人は強気で言い張る人を信じでしまう特性があり、ジョンソン首相はその典型的なカリスマの人気政治家ですからね。
●約50人!大量の閣僚・高官が辞任表明し、EU離脱進めた首相が辞任
2022/07/08追記: EU離脱の中心だったボリス・ジョンソン英国首相がついに辞任へ。ジェネリック・トランプ、英国のトランプなどとも言われたのですが、最後は本家トランプ超えとなる感じで、閣僚3人 高官40人以上(合計しておよそ50人との報道も)という多数の幹部が辞任表明する事態に…。ぶざますぎる最後です。
<相次ぐ不祥事で求心力が低下しているイギリスのジョンソン首相を巡って、複数の閣僚のほか40人を超える政府高官が辞任を表明する異例の事態となっています>
<ジョンソン首相を巡っては、新型コロナウイルスの厳しい規制が続く中、首相官邸などでパーティーが繰り返された問題のほか、先週には、みずからが任命した与党・保守党の幹部が性的なスキャンダルで辞任し、その対応をめぐっても批判が強まっています>
(英ジョンソン首相 閣僚3人 高官40人超辞任表明 政権運営厳しく 2022年7月7日 11時58分 NHKより)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220707/k10013705611000.html
側近を含む閣僚などから直接辞任を迫られていた…ということで、ここらへんはむしろアメリカのトランプ大統領よりも日本の自民党・菅義偉首相の最後に似ています。国民に新型コロナウイルスの厳しい規制の中、自分らはパーティーをしていたことへの批判が最も大きな原因で、ここらへんも自民党と似た感じです。
上記の記事の時点ではジョンソン首相は続投すると言っていましたが、そのすぐ後に辞任表明。< ジョンソン首相辞任表明 新政権への円滑な移行が焦点に>(NHK 2022年7月8日 5時14分)によると、自らの非は一切認めず、実績だけをアピールしていたそうで、こちらは英国のトランプらしいところでした。
<イギリスのジョンソン首相は7日、ロンドンの首相官邸で声明を発表し、与党・保守党の党首を辞任して首相の座からも退くことを明らかにしました。
声明の中でジョンソン首相は2020年のEU=ヨーロッパ連合からの離脱や、新型コロナウイルスのワクチンの接種などの実績を強調し「世界で最もすばらしい仕事を手放すことがどれほど残念かわかってほしい」と述べ、無念さをにじませました。
一方で首相官邸などでパーティーが繰り返し開かれていた問題など、みずからの求心力が低下するきっかけとなった一連のスキャンダルへの言及や謝罪はありませんでした>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220708/k10013707341000.html
●英国大混乱!EU離脱対応、「評価しない」が「評価する」の3倍
なお、ジョンソン首相の訴えた「実績」は右派らしくデマに近いものです。新型コロナウイルスのワクチン接種を進めたのは事実ですが、前述の通り、そもそも新型コロナウイルス対策が最も批判されたところ。新型コロナウイルス対策を軽視し、「死体が積み上がる方がましだ」と言ったとも、以前側近が暴露していました。
また、EUからの離脱を進めたのも事実なのですが、これがイギリスに利益をもたらしたことは証明されていません。それどころか悪影響だった可能性も…。政府のEU離脱対応を評価しない国民が圧倒的に多いという調査があり、こちらもやはり実績ではなくむしろ逆に悪い点だった感じ。最後まで国民を見ない首相でしたね。
・
世界経済総予測2022 :EU離脱を“後悔”しているかもしれないイギリス国内の大混乱=石野なつみ | 週刊エコノミスト Online(2021年12月20日)
<21年9月に行われた民間の世論調査。英政府のEU離脱への対応を巡り、「評価しない」という回答が53%を超え、「評価する」の18%を大きく上回った。その原因は市民生活の混乱だ。例えば、9月下旬にはガソリンの備蓄不足が発生。英国軍も投入して輸送支援した結果、沈静化したが、ガソリンスタンドに長蛇の列ができる事態が続いた。
英政府は、経済活動の回復や国内の風力発電力不足、コロナ危機で重量物運搬車(HGV)の免許試験が中止されたことが原因と主張する。ただ、EU離脱を受け、欧州域内からエネルギーを安定した価格で調達できなくなり、またEU出身のHGV運転手が帰国してしまったことが状況を悪化させた。英政府は外国人運転手対象の短期ビザを提供したが申請数は少なく、長期的な解消の見通しは立っていない。
食肉加工業の労働力不足も深刻だ。国内で食肉加工ができず、EU加盟国に枝肉を送り、精肉にして再輸入する業者も少なくない。また、クリスマスを前に七面鳥やアルコール飲料などが欠品する懸念も高まっている>
●支持率7%まで急低下!ジョンソン首相の後任、わずか45日で辞任へ
2022/10/25追記:大混乱の末に辞任したジョンソン首相の後任であるリズ・トラス首相がまた混乱を引き起こした末、1ヶ月のスピード辞任。ジョンソン首相は無責任EU離脱派でしたが、トラス首相もまた無責任。都合の良い主張で人気を得たのは良いものの、根拠が無かったために政策を実現できなかったという点では同じです。
ジョンソン首相の場合、EU離脱でバラ色の未来が来ると主張していたものの、根拠がなかったため、もたらされたのは混乱でした。トラス首相の場合はそもそも残留派だったのに、離脱派に切り替えて人気を得た…というタイプだった模様。トラス首相は人気を得るためにコロコロと変わるタイプだったみたいですね。
・トラス氏の知り合いで、今は保守党系のウエブサイトを運営するポール・グッドマン氏(引用者注:コメントの意図としては、批判ではなく褒めているようです)
「イデオロギーの信奉者だという定評があるし、確かにそのイデオロギー的な根っこは明確だが、そもそも彼女は自由民主党員だった。ブレグジット国民投票では残留派だったはずが、その後は離脱派のアイドルになった」
「かつては自由民主党員だったが、今では保守党右派のリーダーだ。そして今回の党首選では、まるで新顔のようにふるまった。実はもう10年近く前から内閣にいたのに。なので彼女は、自分を作り直し、作り替えていく能力が、非常に優れている」
(
【解説】 リズ・トラス氏はどういう首相になるのか - BBCニュースより)
トラス首相が辞任した理由は、要するに不人気のためでした。投票に選ばれたのになぜ?と思うかもしれませんが、人気を得るために嘘をついており、この嘘が露呈して政策を撤回。党員からの支持も得られなくなったのです。ただ、日本だと嘘つき政治家でもこうはならず、イギリス人の断固とした反応には驚かされます。
<トラス氏は、打ち出した減税策の多くを撤回するなど混乱を招き、身内の保守党議員からも辞任を迫られ、政権の座を降りることになった。就任からわずか45日での辞任表明だった。トラス氏は史上最も在任期間の短い英首相となる見通し>
<トラス氏の後継者探しを急ぐ保守党では、党内に深い分裂が生じている。過去12年間政権を担ってきたが、世論調査の支持率では最大野党の労働党にリードされている>
(
トラス首相辞任で英保守党、またも党首選へ 4カ月で2回目 - BBCニュースより)
<トラス首相は就任後、光熱費の高騰を防ぐ対策や大規模な減税策を発表。しかし、それらを金融市場は、財源なきバラマキ政策だとみなしました。結果、ポンドと国債の価格は急落。トラス首相は今週はじめ、打ち出した政策を撤回>
ロンドン市民:「彼女は、約束したことをすべて撤回しました。きつい言い方をすれば、嘘つきです」
(
“四面楚歌”トラス首相、英史上最短で辞任「レタス並みの短命」 より)
<就任からわずか1カ月あまり。減税政策の失敗から与野党ともに辞任を求める声が高まっていました。(中略)
トラス首相は選挙戦の時から、良いことを言い過ぎた、リップサービスに近いようなことを言い続けてきたことがあります。具体的には大型減税、所得減税や法人税を減税すると言っていました。対立するライバル候補からは「財源は何なんだ」と追及されていましたが、党内基盤が弱いトラス首相が選挙で何とか勝つために、こういったことを言い続けていました。
一応、国債を売るとは言っていましたが、実際に国債が売られると、金利が上がり、通貨が安くなり、株も安くなるという“トリプル安”の状況に追い込まれました。ただでさえ厳しい経済状況のため、突き上げがさらに加速したとみられます>
<トラス政権の支持率は7%で、指示しないは77%に上っています>
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就任1カ月で支持率7%…英・トラス首相が辞意表明 なぜ今?退場劇のポイントは?解説より)
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