2011年4月26日に少子化シリーズで書いていた「少子化対策編」について見直し。<少子化対策の正攻法「社会保障をさらに充実させる」はお金がかかる>などの話をまとめました。さらに、<「晩婚化」が少子化の理由は嘘…少子化対策の秘密兵器「婚外子容認」>と、<保守派が大嫌いな事実婚…右派の橋下徹氏がまさかの事実婚賛成>を追加しています。
2021/11/22まとめ:
●新聞が「家庭や子供を持つ喜びを知らないから少子化」と若者批判
●日本に必要な少子化対策は男性の雇用と収入の安定で、女性は不要?
●「少子化は『国難』だ、だから、子どもを生め」という戦前の思想
●少子化対策の正攻法「社会保障をさらに充実させる」はお金がかかる
2011/4/26:対策は不可能だからお金をかけるべきではない!という極端な論者もいますが、とりあえず、少子化対策としては様々な政策が出されています。例えば、
少子化 Wikipediaでは、社会保障の充実と同時に生産性向上することを挙げていました。
<老人の親や子供の面倒を国がみることで、生産年齢人口が就労できることを可能にし、仕事と育児や親の面倒の両立支援により労働人口を微減に留め、生産性の上昇によって一人あたりGDPを増大させ続けることは可能である>
ただ、これは結構たいへんな話。経済成長は少子化があろうとなかろうと必須ですが、成長していないということは、自治体の懐も寂しいわけです。そして、この少子化対策=「老人の親や子供の面倒を国がみる」というのは、とんでもなくお金がかかります。それでもやらなけりゃ日本はダメになる…ということで、やるしかないんでしょうけどね。
●社会保障充実は難しい…先行国スウェーデンでも財源の問題が発生
財源の問題では、スウェーデンの話がありました。スウェーデンは1980年代後半に出生率が急激に回復したことから少子化対策の成功例と言われ、日本において出産・育児への充実した社会的支援が注目されているものの、実情はバラ色とは言えません。
確かに一時的に成功したかのように見えたスウェーデンの政策ですが、1990年代後半、社会保障の高コスト化に伴う財政悪化により政府は行財政改革の一環として各種手当の一部廃止や減額、労働時間の長期化を認める政策をとったそうです。
そこで、イギリスと同様男女共に働きつつ育児をすることが容易になる労働体系の抜本的見直しや、更なる公教育の低コスト化を図ったとのこと。日本より税金がはるかに高いスウェーデンですら、これです。今の税収では、かなり難しい話でしょう。
●スウェーデンを見ると福祉の充実は少子化対策として効果ありそう
ただ、スウェーデンに関して言えば、Wikipediaの結論とは異なり、順を追って見ていくと福祉と出生率との相関性は出ているようにも見えました。
1980年代 1.6人台
↓
各種手当の導入など
1990年代前半 2人を超える
↓
各種手当の一部廃止や減額など
2000年 1.50人
↓
労働体系の抜本的見直し、公教育の低コスト化
2005年 1.77人
2006年 1.85人
なお、後に
出生率が低いのは必然 少子化対策と言いつつお金を出さない日本で書いているように、日本はずば抜けて少子化対策の費用が低いとのこと。そうなると、少子化問題が一向に改善しない理由も明らかな感じ。少子化対策はお金がかかる…としましたが、今の日本はそもそもお金をかけなすぎなようです。
●「移民受け入れ」という少子化対策もあるがむしろ嫌われる政策?
「移民受入」というのも少子化対策の一つです。人口減少下において労働人口を確保するためには、1960年代のヨーロッパ諸国のように、移民を積極的に受け入れざるをえないといった話がありました。ただ、これも日本人は嫌いでしょう。評判が悪く、私も賛成していないものです。
移民受け入れへの反論としては、デメリットが多くメリットが少ないという「文化摩擦、社会の階層化、差別など深刻な社会問題が生じかねない」というものがよく言われています。日本で移民を嫌う人の理由はほとんどがこれですね。(2021/04/17追記:右派に多いのですが、その右派である安倍政権でむしろ移民政策が強く推進されました)
これ以外にも、意外な指摘があるんですよ。「移民は1~3世代で少産のライフスタイルに同化する傾向にある」というものです。私が賛成しないというのは、排外主義的なものではなく、こちらが理由。実際、ドイツでは移民も一般的なドイツ人のライフスタイルと同様、少子化傾向が続く現象が起こっており、移民を受け入れても少子化の根本的な解決にはつながらず、現状の先送りにしかならないとみられているようです。
●「人工中絶を禁止する」「無理やり早く結婚させる」という奇策も
対策の中には、「女性の人工中絶を禁止する」というものがありました。日本では馴染みないトンデモっぽいものなんですけど、海外の右派政治家は結構口にするものです。アメリカでは、強姦された人でも生むように言っている右派の政治家が何人もいらっしゃいました。
ただし、人工中絶を悪しきものとする倫理観が高いカトリック国のイタリアとドイツも、人工中絶数が多いロシアも、ともに日本並みに出生率が低く、人工中絶数と少子化の度合いに直接の関連性はみられないとのこと。また、受け入れ側にその意志や準備がないのに子供を産めというのは、そもそも乱暴な話ですよね。現実的ではありません。
さらにトンデモになりかねない話ですが、「男女ともに早期結婚させる」という主張がありました。かなり大げさに言われているところがあり、科学的根拠のある主張と言えない部分も多分に含まれているのですが、確かに、晩婚化は高齢出産につながり、女性の出生能力が減少する…といった面があります。
女性ばかり言われるものの男性も同様で、高齢により男性の精子の質も劣化し、子供ができる可能性が低下し染色体異常が発生しやすくなるとも言われています。日本でも、不妊の理由は男性側・女性側の原因が概ね半々だとしていました。よって、男性・女性ともに早期に結婚し子供を作ることが、少子化対策としては望ましいのだそうです。
ところが、これを政策としてどうやるの?という話になると、途端に非現実的になってきます。東南アジアのどこかの国でやっていた、自治体主催の婚活パーティーでもやりましょうか? …真面目な話、個人の価値観である結婚を早くするように強制する…というのは難しいでしょう。
現実的な選択肢としては、結婚のハードルとなっているものを一つ一つ取り除いたり、改善したりしていくという地道な話ですね。結局、魔法のような解決策はないのだと思われます。あと、このすぐ下の追記したところで出てくるのですが、実を言うと、「晩婚化」は少子化の本質的な問題ではなかったようです。
●「晩婚化」が少子化の理由は嘘…少子化対策の秘密兵器「婚外子容認」
2017/06/10:ここから追記の話。
国の少子化対策、本気度足りず 目標に程遠い出生率|2017/5/27 日本経済新聞 朝刊(出口治明)という記事がありました。最初の少子化シリーズを書いたときには悲観的だったものの、日本は海外で成功している政策を全然やっていないことを後に知りました。これは逆に言うと、良くなる余地が大きいということです。
この記事もそういう指摘で、「先駆者フランスの取り組み」を紹介。"1990年代、当時の大統領が打ち出した「シラク3原則」は、子どもを持つことで新たな経済的負担が生じないよう給付を増やす、原則無料の保育支援を提供する、女性の育休期間は勤務していたものとみなす(評価を下げない)というもの"でした。
フランスではこれらを法制化した上でさらに、婚外子を差別しないPACS(民事連帯契約)も導入。女性が結婚・出産の形を自由に選択でき、仕事との両立も可能な環境を整えています。このような様々な法整備を進めた結果、94年から10年余りで出生率は1.66から2.0前後まで上がったといいます。大成功です。
フランスを見ると、前述の晩婚化が問題だというのが嘘だ…ということもわかってしまいました。日本人女性の平均初婚年齢(2015年)は29.4歳、第1子出産年齢は30.7歳で、フランスやスウェーデンなど欧州では、初婚年齢は30代。結婚する年齢が変わらないのにも関わらず、出生率が大きく違うのです。
同じ晩婚でも出生率が大きく違う秘密は出産年齢。第1子出産が28~29歳であるというのが、日本では考えられない話。つまり、先に子供を生んでから結婚している人が多いということですね。一緒に暮らし、子どもができたら結婚するというのが自然な流れで、日本のように結婚しないで出産することに負い目を感じる必要がないと、出口治明さんはおっしゃっていました。
●保守派が大嫌いな事実婚…右派の橋下徹氏がまさかの事実婚賛成
これは非常に右派に受けが悪いものだと思われるのですが、意外なことに橋下徹さんは似たようなやり方に賛成なようです。
橋下徹氏 少子化対策に「事実婚」制度化を提案「認めていかざるを得ない」 2017年6月6日 19時24分 トピックニュースという記事を見つけました。記事によると、「橋下×羽鳥の番組」(テレビ朝日系)で橋下徹さんが、少子化対策として「事実婚」制度を提案しました。
ただ、データ的な裏付けのない話だったのにはがっくり。橋下徹さんはいつもそうですね。結婚をしていないので出産に踏み切れない事実婚カップルは東京、大阪には多いだろうと「予測」し、その上で、解決策として「日本社会として『事実婚』っていう制度も認めていかざるを得ない」という主張だそうです。
また、番組では、マイナスイメージのある「できちゃった婚」を「授かり婚」と呼称を改めるべきといった話もあったとのこと。このように晩婚化ではなく、日本人の結婚観が少子化を進めている…という認識はありそうでした。右派らしくない考え方でしたので、びっくりした話です。
●新聞が「家庭や子供を持つ喜びを知らないから少子化」と若者批判
2011/4/26:
【主張】少子化問題 国民の機運高める年に 子供育てる喜びの再確認を - 産経ニュース(2015.1.3 05:02)という産経新聞の社説が出ていました。実に産経新聞らしい主張をしています。ただし、産経新聞の大好きな安倍晋三政権の女性の活躍の推進にも反しそうな内容ではありますね。さすがに直接は書かれていませんが、女性は家庭に引っ込んで子育てするのが理想だ…という主張が見えるものでした。
この社説のタイトルは前述の通り、<少子化問題 国民の機運高める年に 子供育てる喜びの再確認を>という精神論であり、国の対策と言えるような対策ではありません。そのため、
はてなブックマークでは、「子供育てる喜びの再確認を/こういうあほな精神論をタイトルにするいつもの産経」(bogus-simotukare 2015/01/03)と批判されています。
もちろん精神論は本文にもあるわけで、記事の最後は<出生数が増加に転じるかどうか。最終的に決めるのは国民個々の心持ちだ。家庭や子供を持つ喜びを再確認することこそ、真の解決につながる>とまとめていました。まるで今子どもが生まれないのは、国民が家族や子どもを持つ喜びを知らず、持ちたいとも思っていないかのようです。
●日本に必要な少子化対策は男性の雇用と収入の安定で、女性は不要?
結婚したくてもできない、子どもを持ちたくても持てない人がいるのが問題なのに…と思いますが、産経新聞なりにその部分を書いている部分はありました。ただ、例によってトンデモ。<少子化の主要因は非婚・晩婚だ。その理由はさまざまだろうが、男性の雇用や収入を安定させることが急務だ>などと書いているのです。
産経新聞らしいのは、"男性の雇用や収入を安定"とわざわざ男性に限っていることでしょうね。さすがにはっきりと書いていないんですが、ここに産経新聞の理想の家族観が隠されています。「夫が仕事をして、女性は家庭を守り育児をする」という考え方ですね。これは右派全体の理想の家族観とも言って良いでしょう。
というのも、女性も働くことも良しとしているのであれば、わざわざ「男性の」とつける必要はありませんからね。おそらく男性だけが働き、その給料で一家を支えるような姿を夢想しているのでしょう。女性の雇用や収入を安定は不要であり、男性は仕事・女性は家庭という実に保守派らしい考え方です。
●「少子化は『国難』だ、だから、子どもを生め」という戦前の思想
記事は細かく区切って4ページもあるんですが、前半は「少子化は『国難』だ、だから、子どもを生め」といった国中心の考え方も見えます。別の部分では否定する素振りを見せていますが、"戦時中の「産めよ殖やせよ」"的な思想であり、これもまたお国のために個を犠牲にして滅私奉公すべきという産経新聞らしい思想。その産経新聞が触れていた「産めよ殖やせよ」は、以下のような部分で出てきました。
<これまで少子化対策が効果を上げなかったのは、戦時中の「産めよ殖やせよ」への忌避感からか、政府が結婚・出産に関与することへの反発が強く、政府や地方自治体が及び腰になっていた弊害が大きい。その結果として、批判が出にくい、子育て支援策に比重が置かれてきた面がある>
産経新聞は既存の少子化対策を非難しているようです。しかし、<女性の就業率が上昇すると出生率が高まる理由 子育て支援の拡充>(
出生率が低いのは必然 少子化対策と言いつつお金を出さない日本にまとめ)>で見たように、日本は先進国平均と比較すると少子化対策の予算は極めて低いです。OECD諸国の家族社会支出/GDPが2.4%程度であるのに、日本は半分にも満たないのです。
既存の少子化対策がうまく行っていないように見えるのは、日本の子育て支援策がむしろ不十分なためでしょう。"子育て支援策に比重が置かれてきた"からという認識は、完全に間違いだと思われます。というのも、OECD諸国全体の出生率と家族支援策(家族社会支出/GDP)には、相関性が見られるためです。
あと、私はあまり気にしなかったんですが、「企業や自治体には出会いの場や雰囲気づくりを求めたい。縁談を進める『世話焼き』の復活も望まれる」というところも、しょーもなさすぎる…といった感じでツッコまれていました。以上ですけど、実に右派らしい、産経新聞らしい内容で見事だなと逆に感心してしまいます。
【本文中でリンクした投稿】
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出生率が低いのは必然 少子化対策と言いつつお金を出さない日本 ■<女性の就業率が上昇すると出生率が高まる理由 子育て支援の拡充>(
出生率が低いのは必然 少子化対策と言いつつお金を出さない日本にまとめ)
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