少子化シリーズをやっていたときに、一番興味を感じたのが、少子化にはむしろメリットがある!という意外な話でした。別のところで書いていた<日本の人口減少・少子化はメリット 文化の成熟は減少期に起きる>という話もまとめて、こちらのページは「少子化のメリット」特集にしています。
●少子化のメリット 人口密度の低下、地価下落
2011/4/26、2017/06/10:少子化は逆に良いという主張は予想外で、非常に興味深いと思いました。思わず期待して読んじゃいましたが、本当にそんなことあり得るんでしょうか?
・人口の減少による人口密度の低下は望ましい。
このメリットは
少子化 Wikipediaにあったものですが、都市部の過密解消、地価下落、住環境や自然環境の改善などに寄与するという考え方。地代の低下が起これば、これは企業の収益や家計の負担の低減になるのだから、望ましいというわけです。
ところが、この地価下落において「担保価値の低下が社会の活力を失わせる」といった感じで、全く正反対の見方もされていました。
下落が続く日本の地価 三菱UFJリサーチ&コンサルティングというPDFでも、これと同様の見方をしてつつ、「地価下落は、経済活動の低迷を反映するという意味では決して望ましいことではないでしょう」ともあります。
「人口密度の低下」そのものついても、Wikipediaに反論が載っていました。近代の社会システムは労働力と資本の集約を前提としており、都市部への人口集中が続く限り、人口の減少は過疎地の増大と地方都市の荒廃をもたらすだけだとのこと。今現在も日本は人口増加が止まりながら、過疎化と都市部への人口の集中が継続。なので、「少子化のメリットとは言えない」という反論の方が説得力を感じてしまいます。
●クソ狭い日本で人口増加はいつか破綻する
Wikipediaでは、他の少子化のメリットと言うよりは、人口増加主義がどこかで破綻するという話もありました。
・ピラミッド型の人口分布を未来永劫維持しようとすれば無限の人口増加を続けなければならず、資源に限りのある地球上でこのような状態が維持できることはあり得ない。まして、ただでさえ国土の狭い日本で人口増加を追求すれば、ほどなく破綻に至るのは明らかである。
実はこれ、
永遠に人口増は無理 少子化は本当に経済停滞に繋がるものなのか?でも出てきたもの。向こうで書いたように、人口動態の推移を考えると、人口爆発の危険性は心配しなくて良さそうです。
●少子化で過剰なインフラを廃してコンパクトに
さらに以下のようなものもありました
・人口減少によって、自然環境への負荷軽減や食料自給率の向上。
人口減少により過剰となるインフラを廃棄・縮小したり、山間部の農地を山野に戻したり、過度に郊外化した市街地を集約して山林や農地に変えていくなど「縮小社会」への転換で対応しましょうという話。でも、そう簡単に人を集約できるかというと、かなり難しい気がします。みんな土地を離れたがりませんし。そうなってしまうと、使う人は少ないのにインフラだけ広く必要になって、むしろデメリットになりそうです。
今問題になっている過疎化ってのが、そもそもそういうものですよね。過疎化している地域を自治体が捨てることができれば本当は解決なのですが、現実はそういうことが許されません。うまく行けば魅力的な話っぽいですけど、絵に描いた餅でしょう。
●みんなが考える少子化のメリット
あとは問題点と同じく、
少子化について 教えて!gooから、やや視点の異なるものを取り上げます。(文章は一部改めています)
・一人の子供にかけられる教育費や、親と接する時間が増える。
一瞬良さげに見えますが、精神論とか、個人の価値観とかの話ですので、少子化の問題点のときと同じくやはりパス。
・子育てに手を取られず、自分の人生を好きに楽しめる大人が増える。
少子化の問題点はズバリ二点 経済の停滞と社会保障の維持困難でやったように、経済的にはマイナスが確実です。なので、ひょっとしたら余暇を楽しむどころじゃなくなるかもしれません。
・相続されない資産が増え、多くの土地や金が国に返還される。
これはなかった視点。でも、少子化による経済停滞が起きることははっきりとわかっているため、相対的に大したメリットではないということです。
・お受験や偏差値主義が多少は解消に向かう。
おもしろい視点ですね。現状すでに日本では少子化は起きていますから、現在と過去を比べることでもう答えが出すことができそうです。
ただ、韓国では逆に少子化によって、教育競争が激しくなったという記事もあったような。あと、そもそも親が教育へお金をかけたいと思うがために、子供を少なくしているという指摘も読んだことがあります。(2人育てる場合、資金が分散するため)
・女性の労働者としての価値向上。就職者が有利になる。
「女性の労働者としての価値向上」はたぶん産休・育休なしで働けるからって意味でしょうね。でも、「就職者が有利になる」はよくわからず。
なお、少子化対策として、産休・育休を行使する女性への不利な扱いをやめることが効果があるとわかっています。
●少子化でむしろメリットはやっぱり嘘くさい
最初の投稿時には、少子化のデメリットについて怪しいと感じたものの、こちらのメリットも心許なく説得力を感じませんでした。
さらに、少子化で経済が停滞するのは間違いないという決定的なデメリットを後に知ってしまったため、全く勝負にならなくなってしまった感じですね。
少子化のメリットという話は興味があって、その後も<日本の人口減少・少子化はメリット 文化の成熟は減少期に起きる>を書いていました。これを同じページにまとめましたので、こちらも興味ある方はどうぞ。果たして説得力がある内容でしょうか?
●歴史人口学者・速水融教授「人口が減ることは近代化における自然な流れ」
2015/8/13:人口減少はデメリットではない…という話は納得できないことが多くてがっくりするのですけど、懲りずにまた読んでみました。タイトルは、
「人口減少=悪」ではない次世代に向けて発想を転換せよ ――速水 融・慶應義塾大学名誉教授|シリーズ・日本のアジェンダ 崖っぷち「人口減少日本」の処方箋|ダイヤモンド・オンライン(室谷明津子 [フリージャーナリスト] 2015年5月7日)です。
話を聞いている速水 融・慶應義塾大学名誉教授というのは、日本では数少ない歴史人口学者だとのこと。「歴史人口学」というのあ、地域に残る人口史料を分析し、人口の推移や庶民の生活を明らかにする学問。近世を中心に、明治時代以前の人々の膨大な史料を読み込み、人口の増減によって社会がどう変化するかをつぶさに観察してきたといいます。
その立場から言いたいのは、人口が減ること自体は社会の近代化における自然な流れであって、心配する必要はないとしていました。日本以外の国でも人口は減少すると考えられています。合計特殊出生率(TFR)といって、1人の女性が生涯で何人の子どもを産むかという指標で、人口動態を予測できるとしていました。
<これまでの研究で、TFRが2.07人を切ると、20~30年以内にその地域の人口が減るということが分かっています。(中略)
現在の世界全域のTFRは2.50 人となっていますが、これはアフリカをはじめとする発展途上地域が押し上げているのであって、先進地域に限って見ると1.68人にまで低下している。欧州の主要国ではTFRが軒並み下がっていて、今後10年以内に全地域において人口減少が進むでしょう。
先進国では特に、ドイツ、イタリアのTFRが低いですね。この2ヵ国と日本に共通するのが、もともと父系が強い「マッチョな社会」である点>
●「人口が減ることは良いこと」とする速水融教授の説明がブーメランに
上記のところまでは特に問題ありません。問題なのは、人口減少がメリットだという主張ですね。速水融名誉教授はまずよく言われる人口密度・土地の活用に関する話をしていました。「私は人口が減ることはむしろ日本にとっていいことだと考えています」として、以下のような話をしていました。
<人口密度を比較すると、1平方キロメートルの空間に対して英国は261人、ドイツは229人、国土の広い中国では141人となっています。対する日本は342人と、明らかに人間が密集し過ぎている。せめて欧州並みにゆったりと空間を使える方がいい。私が考える日本の理想的な人口規模は、7000万~8000万人。終戦直後くらいの人口です。徐々に減っていって、それくらいの規模で安定させるのがいいと思います>
ただ、これは机上の空論なところがあります。前半で書いたように、この主張には説得力を感じません。速水名誉教授自身、「私は、現在の日本の人口は多過ぎるので減るほうがいいと考えていますが、「減り方」については深刻な問題があると思います」とおっしゃっていました。
<まず、人口の偏在です。東京や大阪といった大都市への一極集中が進み、まるで打ち捨てられたような地方が増えています。(中略)
一方で、多くの地方がそうした恩恵に与れず、人口減少によって学校や公共機関といった最低限のインフラさえ、自分たちで賄えなくなくなりつつあります>
これらは仕方がないことですし、自然だとも言えます。都市運営においては人口密度が高い方が効率的で、まばらに人が点在している方が非効率的です。なるべく集中させるようにしないと、インフラ整備が難しくなってきます。むしろ集中させるべきかもしれません。というかこれ、普通に人口減少が悪いという話な気がしますね…。
●日本の人口減少・少子化はメリット 文化の成熟は減少期に起きる
ここまで読んだ感じ、普通に人口減少がデメリットという話。それよりおもしろかったのは、「文化の成熟は減少期に起きる」という今までにない視点での人口減少メリット論です。歴史を振り返ると、文化が成熟し花開くのは、人口が減少または停滞している時期と重なるとされていました。
<例えば江戸時代には、人口も領土もほぼ一定に推移した状況下で、世界に類を見ない文化の爛熟期を迎えました。また、14世紀にペストが大流行した欧州では、イタリアを中心に大勢の死者が出ましたが、この時期に同国からルネサンスが始まったのは偶然ではないと思います。
人口が激減し、国力が衰えて没落してもおかしくなかったイタリアで、「再生」を表す芸術運動が興り、欧州中に広まったのです>
速水融名誉教授はこの理由を、追い込まれてやむなく…というものだと考えています。
<思うに、人口が増加する時代にはモノを増産して消費も増え、経済がどんどん拡大していきます。一方、人口減少社会では生産量を増やす必要はなく、人口が減ることで1人当たりの所有物が増えます。
社会が成熟し、人々は余暇を楽しむようになる。経済は停滞しますが、代わりに芸術・文化にお金が回っていくのではないでしょうか>
これは非常におもしろい視点でした。ただ、おもしろいというだけで、学術的にはどうかな?と思うところ。多くの例を比較して数値化しないと、納得できません。速水名誉教授も「もちろん、人口減少社会になれば、必ず文化が成熟するというわけではありません」としており、信頼性の高い仮説ではなさげです。
あと、読み直していて思ったのは、この説に従うと、日本がイケイケドンドンで人口を増やしながら経済的に成長してきた高度経済成長時代の日本では、成熟した文化が生まれていなかった…みたいな話になりかねないということ。日本はすごい文化を生み出した!と主張したい人たちには、受け入れられない考え方かもしれません。(ここだけ2021/06/03追記)
また、「人口が増加する時代にはモノを増産して消費も増え、経済がどんどん拡大していきます」と書いていたように、これまたブーメランで人口増加のメリットを語っている感じ。人口減少社会って、基本的に仕事で成功しづらいハードモードな社会なんでしょうね。ということで、やっぱり人口減少がメリットだという主張には納得できませんでした。
●人口減少は避けられないのだからもっと研究を!
最後の部分で速水融名誉教授は、「日本の社会にとって最適な人口規模はどの程度なのか、その規模で安定させるにはどのような政策が必要なのかなど、まだまだ人とお金を投入して研究されるべきテーマがたくさんあります」とおっしゃっていました。
最初の「人口が減ること自体は社会の近代化における自然な流れ」はその通りだと思うと書いたように、人口減少は避けられない道だというのは、事実なのでしょう。
ですから、研究テーマは別として、人口に関する研究はもっと進められるべきという点は大いに賛同します。政治的にも「人口が減るから衰退します、仕方ありません」と放置することは許されません。逆に言えば、これまで政治家が人口問題を放置して結果が今の日本なんでしょうね。
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