標準治療と先進医療だと先進医療の方がすごそうに聞こえるのですが、標準治療の方が根拠がある有効な治療法で現在知られている最高のものです。ただ、標準治療も絶対的なものではなく、効果が出る人も限られています。ここらへんがわかりづらく理解できないので、医療不信やトンデモ・疑似科学が蔓延する理由となっていそうでした。(2017/08/04)
2017/08/04:
●最高レベルではない!名前が悪い先進医療 実際には実験台
●わかりづらい…がんの標準治療は普通ではなく最高レベル
●治療を始める前に診療ガイドラインを知っておくのがオススメ
●最良の治療法であっても効果が出ない人は多い…という厳しい現実
2019/10/06:
●有効性や安全性が高いのは先進医療?それとも保険診療?
●健康保険が効かない先進医療のための特約は必要なのか?
2020/08/30:
●安全性などの根拠論文に不正があり、先進医療が中止の可能性…
2021/02/03:
●根拠論文でも不正確定で先進医療の臨床研究中止 健康被害10件報告 【NEW】
●最高レベルではない!名前が悪い先進医療 実際には実験台
2017/08/04:どこで書いたか忘れてしまったのですが、医療保険で特約を勧められる「先進医療」というのは非常に良くない名前だと思います。良くないと思う理由は、「先進」というと、レベルの高い治療法のように思われれてしまうため。実際、保険屋さんは「やっぱり先進医療を受けたいですよね」と、保険料の上がる特約を勧めてきます。
しかし、実際には「先進医療」というのは、効果が確立されたものではありません。むしろきちんと医学的根拠があるとわかったものは、普通の治療法の方に入ってしまい、「先進医療」ではなくなります。
この「先進医療」はがんだけではなく、いろいろな病気の治療法で使われているのですが、
【医療費】先進医療とは?先進医療を受ける時の費用と注意点 - 大腸がん情報サイトというページで「先進医療」では、次のような説明がありました。
まず、先進医療とは、厚生労働大臣が定める先進的な医療技術と説明。ここだけ見ると、すごそうな治療法に見えるのですが、必要な医療は基本的に保険診療で行われており、有効性と安全性が確認された医療が保険適用となります。
逆に言うと、先進医療はまだ有効性と安全性が十分には確認されていないものなのです。ただ、それでも期待できて将来が有望な治療法ということで、厚生労働省に認められて、例外的に普通の治療と併用して受けられることになっています。
この例外を認めている理由はもう一つあり、治療実績の蓄積による保険適用を目指すために認めているとも書かれていました。つまり、今はまだ実例が少ないので実験してデータを蓄積してもらうという意味合いもあり、極端な言い方になってしまいますが、いわゆる「実験台にしている」という状態です。
これは「先進医療」という名前のイメージとはかなり異なっており、私は名称の変更が必要だと感じています。
●わかりづらい…がんの標準治療は普通ではなく最高レベル
上記サイトでは出てこなかった言葉ですが、「標準治療」という言葉もあり、これがまた誤解を招きます。
標準治療(ひょうじゅんちりょう):[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]では、「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療」と説明されていますが、「標準治療」だと最高レベルというイメージの名前じゃないですよね。
例えば、
ひょうじゅん【標準】の意味 - goo国語辞書では、「標準」を以下のように説明しています。ハイレベルではない普通のレベルといった印象を受けるでしょう。
1 判断のよりどころや行動の目安となるもの。基準。
2
平均的であること。また、その度合い・数値。並み。 同様の指摘が、
小林麻央さん報道で注目 がんの「標準治療」本当の意味を知っていますか? | 文春オンライン(鳥集 徹 2017/07/26)でありました。
"日本語では「標準」と言われると、「松竹梅」の「梅」、つまり「並」の治療のように感じます。しかし、医学的には「松」、つまり「特上」の治療を指すのです"
●治療を始める前に診療ガイドラインを知っておくのがオススメ
この記事では、各医学会や研究会が作成した「診療ガイドライン」に目を通すことをオススメしていました。「診療ガイドライン」というのは、特定の病気について、科学的根拠に基づいた診断や治療の仕方をまとめたものだそうです。
実際には、診療ガイドラインの中には、診断基準や治療法の選択に関して、議論の分かれているものもあるといいます。ここらへんも誤解が多いところなのですが、論文や研究者によって意見が異なるということはよくあること。現実はそう単純ではないのです。
ただし、「各学会の専門家が最新の研究成果に基づいて作り上げたものなので、現時点での日本の医療のスタンダードが示されていると考えていい」「現時点ではもっとも有効と考えられている検査や治療」などとされていました。
科学というのがもともとそういうもので、「今最も確からしい」という説が定説・通説となっている状態であり、絶対的なものではありません。とりあえず、現時点で最も確からしいものが、診療ガイドラインだと考えられます。そういうと頼りないと思うかもしれませんが、他の治療法はそもそも確かさが足りてないのですからずっとマシ。ベターではあるのです。
●最良の治療法であっても効果が出ない人は多い…という厳しい現実
診療ガイドラインが絶対的でないこととしては、以下のようなケースも例示されていました。
・ある薬物療法が推奨されるとしても、年齢や臓器の状態、体質などによっては、当てはまらないことがある。
・診療ガイドラインでは手術が推奨されない進行がんであったとしても、患者さんが強く手術を希望している。
・高齢者などでは、手術や抗がん剤治療を行うのが標準治療であったとしても、「治療でしんどい思いをするより、残された人生をできるだけ快適に自由に過ごしたい」と生活を優先する。
これもまたがんに限らない医療全般の誤解ですが、標準治療が「最良」と言っても、100%の効果が得られるわけではないということも強調されていました。現在知られている最良の治療法であっても効果が出る人は半分以下というケースがあるそうです。
となると、効果が出なかった人たちにとっては、「体にダメージを与えただけ」になってしまいます。なので、上記例外ケースの最後にあった「治療でしんどい思いをするより、残された人生をできるだけ快適に自由に過ごしたい」といった選択肢も十分に考えられるわけです。
ただ、問題なのは、ここから飛躍してしまい、「今の医学は意味ない。患者を痛めつけているだけ」といった極端な主張が出てきていること。トンデモな主張をする人が多く、お医者さんでもそういう主張をして支持を集めて稼いでいる人もいますからね。
ここらへんについては、たとえ半分以下であっても救われる人が十分多くいるわけで、その治療法は十分すぎるほど意味があると言えます。だって、その人たちは、この治療法を行わなければ救われなかった人たちなのですからね。本人が治療を受けるかどうかは自由ですが、彼らのチャンスを潰すようなことを言うのは間違っています。
●有効性や安全性が高いのは先進医療?それとも保険診療?
2019/10/06:別の人の説明もあったので追記。外科医の中山 祐次郎医師によるものです。中山 祐次郎医師も先進医療について、<「先進」という名前はついていますが、ちょっとこの言葉のイメージはぴったりではありません>としていました。そして、実際には、「これから保険診療の一つとして認めるかどうかの候補生のような新しい治療」と説明しています。
先進医療は新しいものではあるものの、保険診療を超えた先進的なもの、という意味ではないことに注意が必要とも記載。さらにはっきりとしたものでは、「大ざっぱに言えば有効性や安全性が高いレベルで証明されていない」とも書かれています。
また、先進医療ではなくて保険が効く「保険診療」については、逆に有効性や安全性が確認されているとされていました。概ね最初の話と同じですね。保険が効く一般的な治療で有効性や安全性が高く、先進医療の有効性や安全性の方が不確実だということです。
●健康保険が効かない先進医療のための特約は必要なのか?
全体の話題とは逸れるのですけど、これらの話があったのは、
先進医療とは何か、保険には入るべきか?:日経ビジネス電子版という記事でした。先進医療の必要性についても少し紹介しておきましょう。
結論から言うと、中山 祐次郎医師は「ご自身で決めていただく」というスタンス。人によって考え方が違うので最終的にはご自身の判断によりますし、置かれている状況というのも異なるでしょう。一律に決めることはできません。ただし、その判断の元となる情報は出しますよ…といった流れの記事です。
まず、「先進医療が使えるような状況になる可能性はそれほど高いわけではない」ということ。私が以前、
がん治療で先進医療が使われる割合は高いから特約が必要って本当?で見た感じだと、「それほど高いわけではない」どころではなく、「ほとんどいない」という印象。中山医師にも正確な数字はわからないそうですけど、226人に1人程度と概算していました。パーセンテージで言うと、0.4%ですね。
また、現在行われているがん治療の先進医療はほとんどが重粒子線と陽子線であり、これらは治療に約300万円を要するとのこと。これは初めて知りました。先進医療は多数あるものの、がんの場合はほぼこの2つなんですね。こちらは先ほどとは逆に保険が必要だぞと思わせる情報です。
さらに、生命保険会社の商品開発をやっている方によると、「特約付きの医療保険料は高くない」とのこと。なぜかと言うと、前述の通り、現状先進医療を使う人はほとんどいないので、保険料も安くなっているため。保険が下りる機会がほとんどない分、安くなっているのです。これも保険に入った方が良いかな?と思わせる情報でした。
ただし、中山医師自身は特約どころか、医療保険そのものに入っていません。その理由は、日本は公的保険が充実していて高額療養費制度もあるので、医療保険は今は不要と考えているため。ここらへんはさっき書いたように人それぞれなので良いのですが、私も同様の考えにたどりつき、以前入っていた医療保険を解約しています。
さらに、中山医師の場合は、別の重要な視点についても指摘。前述の「先進医療は実験のような段階」という理由により、今後効果と安全性が十分に確かめられた先進医療は、保険が効く保険診療の方に入っていくことを指摘していました。
●安全性などの根拠論文に不正があり、先進医療が中止の可能性…
2020/08/30:大阪大と国立循環器病研究センター(国循)が、以前所属していた野尻崇医師が発表した論文5本に捏造(ねつぞう)・改ざんがあったと発表しています。そして、野尻崇医師の不正論文については、このページで書いていた「先進医療」に関わる論文があり、これが問題となってきました。
阪大の報告によると、捏造や改ざんがあった5本の論文のうちの1本は、先進医療の安全性の根拠になっている論文でした。肺がんの手術前後の患者に心不全の薬「hANP」を注射することで、がんの転移による再発を抑えられるかを調べるのが目的の研究に関わるものだったようです。
これとは別の論文という意味だと思うのですが、先進医療をするための根拠となった最も重要な論文についても疑義が出ているともいいます。そのため、厚生労働省の先進医療技術審査部会は2020年8月20日、その論文が根拠の一つとなった先進医療について、「中止も想定しないといけない」と指摘。この論文の科学的な妥当性について、次回の部会までに報告するよう求めていたそうです。
(
「先進医療の中止も想定」 阪大の研究不正で国審査部会:朝日新聞デジタル(後藤一也 2020年8月21日 7時30分)より)
今回の件で本当にこの先進医療が中止となるかは不明。また、不正疑惑という特殊な理由でもあります。ただ、これまで書いてきたように、そもそも先進医療というのはその定義からして、「有効性と安全性が十分に確認できていない」というものなので、不正ではなく、ミスなどでも同様のことは起きるでしょう。「優れている」という誤解を招きやすい「先進医療」という言い方はどうかと思いますね。
●根拠論文でも不正確定で先進医療の臨床研究中止 健康被害10件報告
2021/02/03:大阪大の先進医療の件で続報がありました。先進医療の臨床研究において大事な根拠論文においても、図表計8項目でホルモン剤「hANP」のがんの転移に対する有効性を誇張するなどの結果になった不正が見つかりました。捏造・改ざんと認定されています。当然、大阪大学は臨床研究を中止することも決めました。
この臨床研究では、すでに160人の肺がん患者が手術時にhANPの注射を受けてしまっています。そして、臨床研究と因果関係が完全に否定できない健康被害が10件報告されているとのこと。これらは注射によるものではなく、がんの手術自体が原因と判断して、研究を続けていたものだそうですが、根拠のない治療方法だったため、メリット無しでリスクのみを背負っていた状態でしょう。
今回の例は不正という極端なものでしたが、繰り返すように、先進医療というのは、有効性・安全性ともにまだ十分に確かめられたものではないために、標準治療と比較して有効性・安全性の確認が不十分なのは当然。「先進医療は危険!」という極端な理解をされてもそれはそれで困るのですが、先進医療の方が優れているとは限らないことに注意が必要です。
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