潰れそうに見えるのに潰れない店の理由は、いろいろとあります。その中には参考にできないものもありますが、超ニッチ・超高付加価値店というのには、ヒントがありそうでした。
川崎の辻野帽子店は、一日の来店者はわずか3人のお店であるにも、絶対に潰れない理由があるといいます。これは、超ニッチ・超高付加価値的なものです。また、辻野帽子店には技術的な優位性もあり、同じ記事で出ていた馬場寝具店にもそういったものがありました。
●超ニッチなど…潰れそうに見えるのに潰れない店、3つの理由
2016/8/15:潰れそうに見えるのに潰れない店の理由について書かれた
潰れそうなあの店が潰れない秘密:日経ビジネスオンライン(西 雄大 宇賀神 宰司 2016年7月5日)という記事。ここで挙がっていたものをまとめると、以下のようになりいます。
(1)先代の遺産がある
1.不動産収入などがある
2.来店しないお得意さんがいる
(2)超ニッチ・超高付加価値店
限られた顧客に高利益率の商品・サービスを提供
(3)助け合いで成り立っている
上記のうち、「(1)先代の遺産がある」は参考にならず。不動産にせよ地縁にせよ「先代からの遺産」によるところが多く、一般企業の経営に参考にならないためです。なので、(2)と(3)が記事では中心だったのですが、「(3)助け合いで成り立っている」も私は気に食わないですね。これは「不健全」なのです。
「(3)助け合いで成り立っている」は、「みんなが少しずつ我慢することで、みんなで生きていくシステム」ということで我慢を強要していること、我慢できない人が多く現れた場合に破綻することに問題を感じます。この(3)は以下のような「共同店」という沖縄独特の業態の話でした。
<共同店は文字通り、集落の全世帯・全住民が出し合った資金を元に共同運営する仕組みを取る。戦後に都市化が進む中で急減したが、かつては本島全域に普及していた。今もヤンバルをはじめ交通の便が悪いエリアや、宮古島などの離島に点在する。
運営方法は店ごとに違いはあるが、原則として集落に移り住んだ者は自動的に組合員となり、組合費の納付が求められる。産まれたばかりの赤ん坊も同様で、出生してから一定期間に親が加入金を支払わねばならない。多くの場合、組合費は一生に一度、納付すればよく、店の運営は住民から選ばれた代表者が担う>
組合員となる…というシステムだけなら、生協など他の地域でもあり、健全に成り立っています。ただ、この共同店の場合は我慢しているところがある…というのが問題。何を我慢しているか?と言うと価格でした。東京のドラッグストアの価格に比べ4~6割高い商品もあるというのです。
ここ以外に選択肢がない…というのであれば、それでも仕方ありません。実際、自動車が運転できない高齢者は3時間かかるバスを利用して、安いところに買いに行く手間を考えると、そういう状態。ただ、運転できる若者はこれを「高齢者のために」と我慢しているとされていました。
以前書いた移動スーパーの投稿でも、「自分で買い物に行ける方たちも高齢者を助けると思って、少し割高でも5回に1回は移動スーパーを利用する習慣を身につけてほしい」と社会貢献するよう呼びかける専門家が登場。ただ、私はこういう慈善活動を客に求める行為は間違っていると思うんですよね。情を人質にした緩い脅迫のようにも見えて、むしろ不健全だと感じます。
●潰れそうなのに!一日客3人の川崎の辻野帽子店が潰れない理由
嫌な話はこれで終わりで、後は「(2)超ニッチ・超高付加価値店」の非常におもしろかった話。JR川崎駅前の辻野帽子店は、駅前で人通りが多いにもかかわらず、入店する客はほとんどいません。取材当日の午後、店を訪れたのは1人だけだったという有様。1日の来店者は約3人と見られます。
ところが、このようなお店で、絶対に潰れないお店がいくつもあるとのこと。理由は高付加価値なのですが、"そんじょそこらの高付加価値ビジネスではない"とのこと。客の限られ方や利益率の高さは尋常でなく、客は年間数十人、利益率9割以上といった店もざら。辻野帽子店の場合は以下のような理由がありました。
<一つは、競合相手が極端に少ないことだ。冒頭に登場した辻野帽子店はその典型的事例で、東京帽子協会によると「同レベルのサービス、品ぞろえを提供できる店は、関東で3店しかない」。だとすれば、「約1万平方キロメートル、人口1300万人に1軒」(=関東1都6県の人口4260万人、面積3万2420平方キロメートルに3軒)の超希少店となる。
おのずと一般に流通していない商品も多く、それらを求め、帽子愛好家が全国から訪れる。その数、約500人。春夏2回、訪れるとして年1000人。1日の来店者は約3人となる。 確かに数は少ない。が、この3人は、好きな帽子を手に入れるためなら金に糸目をつけず、ほぼ確実に、平均単価約3万円の帽子を来店するたびに買っていく。この「単価3万円」「年間来客数のべ1000人」といったシミュレーションは、同店の年商や取材当日の来店客数とも整合が取れる>
●ネット通販だけでなく他の帽子屋さんもできない技術的な優位性も
ただ、辻野帽子店には技術的な優位性もあります。実店舗にはネットのような通販では実現できないものがあるのです。辻野帽子店に「遠くは北海道からも熱烈なマニアが訪れる」(辻野取締役)というのは品ぞろえだけでなく、ここでしか受けられないサービスがありました。「フィッティング」というものです。
フィッティングというのは、帽子のサイズ調整、かぶり方指導。これはその場にいないとできませんよね。現在、服と違って帽子の多くは適合サイズに制限がない、みんながかぶれますよ、というフリーサイズで売られています。ただ、実際にはフリーサイズの帽子で、みんなの頭にぴったり合っているわけではありません。
辻野取締役は「人間の頭の形は千差万別で、顔の左右非対称ぶりも様々。本来なら1cm単位でサイズを合わせ、かぶり方を決める必要がある。フィッティングなしには、どんな人でも本当の意味で帽子は似合わない」と強調。そして、このようなフィッティングサービスを本気で提供するには、見立てる技術に加え、大量の在庫が必要になるというのもあります。かなり難しいようなのです。
●徹底的な低原価で利幅を確保
潰れそうで潰れないお店の仲内は、徹底的な低原価で利幅を確保しているところもあります。以下は馬場寝具店というお店の例ですが、こちらもやはり技術的な優位性が見えました。
収入の柱は、約500人いる固定客を対象にした布団の「打ち直し」と「洗い」。打ち直しとは布団の中の綿を詰め直すことで、洗いは文字通り、布団に染み付いた汗や汚れを洗うことだ。料金はシングルサイズで6480円(税込み)からだが、発生するコストは洗剤代とクエン酸代、水代、綿代程度。料金の大半は技術料だ。
また、500人の固定客は10~15年に1度という低頻度ながら、布団を確実に買い替える。いずれも平均単価20万~40万円の高級布団のため、こちらの利益も大きい。
500人の常連客について、馬場寝具店は、「家族構成はもちろん、一人ひとりが好む枕の硬さや高さ、素材まで把握している」(馬場社長)。常連客は高級布団を使う富裕層世帯であることもあって、多少値段が安かろうとアフターサービスなどほぼなきに等しい量販店などへ“浮気”することはレアケースだという。
●低原価路線の潰れそうで潰れないお店は意外にいっぱいある
ここまで極端ではないものの、例えば、和菓子店も低原価が強みだとのこと。倒産の多い文具店の中でも、和文具中心の品ぞろえをしている店は、"値段が高くても売れるので利益率が高"くなっています。また、自転車店の場合はパンク修理や電動アシスト自転車の点検が稼ぎどころで、低原価と技術の両方があります。
金物店もやはり技術料でもうけている店で、合鍵作りが自転車店のパンク修理にあたります。"加えて、うっかり鍵を忘れて外出してしまった人からの依頼を受け、玄関の鍵を開ける「鍵開け」もうまみが大きく、1回の出動で、出張料込みで1万円以上の手間賃を取れることもある"とのこと。
こういう方向性の話の方がおもしろいですね。祖先の遺産みたいな話や、客に慈善活動を求める話と違って、経営のヒントにもなるでしょう。
●ホコリをかぶった熱帯魚店が大儲けしている理由
2018/07/26:古びた店舗、埃を被った商品、店主は奥に入ったまま、来店客は1日数人…なのに、潰れないどころか、業績は上々というお店の例が、
なぜ明らかに客が入ってないあの商店はいつまでも潰れないのか? まぐまぐニュース! / 2018年7月24日 2時56分(佐藤きよあき、コンサルタント)にいくつか載っていました。
その中で、参考になりそうだったのは、お店の開いている時間はごくわずかしかない暗い熱帯魚店。しかし、たったひとりの経営で2,000万円の売上を上げているとのこと。
まず、ネット販売で、店頭の不足分を補っているとあったものの、これはオススメしづらいです。私はネット販売をちょくちょく使っていてありがたいものの、意外に手間暇のコストがあるために効率が悪くなりがち。特に1人でやっている人は飽くまで暇があるときに…程度でしょう。実際、全体の5%しかないそうです。
店頭の売り上げは、熱帯魚15%、エサ&水槽15%であり、3割ですね。ネットと合わせると35%。では、残りの65%は何か?と言うと、ホテル・飲食店へのリース&メンテナンスなのです。これは良い!と思いました。
熱帯魚というのは意外に手間の掛かるもので、これを貸し出し、さらにメンテナンス料で儲ける仕組み。作者であるコンサルタントの佐藤きよあきさんは、お客さまの“手間”を取り除く発想は、これからのビジネスの基本だと、言っていました。
私がいいと思ったのは、熱帯魚の管理というのは、技術を活かしたものであり、素人にマネできないもの。当初の投稿での事例と似たところがあります。また、基本的に一般消費者ではなく、法人を相手にした方が良いもの。いわゆるBtoB企業であり、一般的に優良企業が多いといわれています。凋落する日本の家電メーカーでも勝ち組は、一般人ではなく、企業を相手にしていることが多いです。
●月に数人しか来ないカーテン屋さんが年商1億円!
もう一つ良い事例だと思ったのが、月に数人しか来ないカーテン屋さんの話。「日に数人」ではなく「月に数人」です。
まず、この店が潰れない理由として挙げられていたのが、「カーテンは、窓の数だけ儲かると言われ、替える時はすべての窓を替えることが多い。部屋まるごと。一軒まるごとである」ということ。ただ、これだけじゃダメだと思うんですよ。
良いと思ったのは、カーテンだけでなくカーテンに合わせていろいろなものを売り込んでいる点でした。
・抱き合わせの絨毯販売。カーテンを替えると、イメージチェンジで絨毯も替えたくなる。
・壁や天井、フローリングなど、内装リフォームをすべて引き受け、1軒50万円程度になる。
"客単価が大きくなれば、来客数は少なくても、儲けることができます。また、カーテンだけではなく、その周辺で、コーディネイト提案ができます"と、佐藤きよあきさんは言っていました。この「コーディネイト」というのがキーワード。
カーテンを家まるごとだけじゃダメだと思ったのは、落ちぶれている大塚家具がこのパターンであること。昔は家具をまとめて買ってもらう客で繁盛していたものの、不景気である昨今はそのような顧客は少なくなっています。別のやり方が必要です。
その解決策として成功しているニトリが選んだのが、「トータルコーディネート」という答え。家具だけではなく、統一感のある周辺のものを取り扱うことによって、売上を増やすことができました。大塚家具とニトリの違いで最も重要なのは、家具の価格ではなく、取り扱う商品の違いなのです。
(関連:
大塚家具とニトリ・イケアの比較 価格よりトータルコーディネートがポイント)
なお、カーテン屋さんとニトリが異なるのは、ニトリは総取り替え需要狙いだけでなく、来店機会を増やす狙いもあること。そもそも大型家具を買う機会が少ないので、それ以外のよく来てもらえる商品を扱っているのです。ドラッグストアがお菓子や食品などを取り扱っているというのも、これと似た狙いがあります。
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