恫喝訴訟(SLAPP・スラップ訴訟)に関する話をまとめ。<ブラック企業のユニクロやワタミが法的措置の脅しをかけていた!>、<いきなり提訴を裁判所が批判「国民の批判は保障されるべき」>、<マスコミが偽装請負の報道をしなかった理由も恫喝訴訟だった!>などの話をまとめています。
2023/03/18追記:
●いきなり提訴を裁判所が批判「国民の批判は保障されるべき」 【NEW】
2022/07/17追記:
●マスコミが偽装請負の報道をしなかった理由も恫喝訴訟だった!
2022/02/21追記:
●リツイートした人も訴える!根拠とされた名誉毀損判決が実は…
2021/04/03追記:
●東京五輪組織委員会、パワハラ・私物化報道で文春に発売中止要求
【クイズ】東京、名古屋、大阪高裁の判事で構成される「損害賠償実務研究会」によって決定された名誉毀損の慰謝料の金額で最も低いのはどのような人々でしょう?
(1)一般人
(2)芸能人
(3)政治家
●SLAPP・恫喝訴訟・スラップ訴訟とはそもそもどういう意味?
2016/8/21:なぜか使っていなかったスラップに関するブックマークが出てきたので、今回はこれに関して。ですが、その話に行く前にまずスラップとは何か?何がいけいないのか?という話からしましょう。
「スラップ訴訟」ともいいますが、Wikipediaでは単にスラップとしています。
スラップ - Wikipedia(最終更新 2016年6月13日 (月) 00:33)では、英語では、 SLAPPで、「strategic lawsuit against public participation」であると説明。ですが、日本語の威圧訴訟、恫喝訴訟といった言い方の方がイメージが湧きやすいでしょうね。定訳はないが「市民参加を排除するための戦略的訴訟」というのが語感に近い…としています。
より具体的には、大企業や政府などの優越者が、公の場での発言や政府・自治体などの対応を求めて行動を起こした権力を持たない比較弱者や個人・市民・被害者に対して、恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟です。
この弱い・強いは一定の定義がないために、一方的にデマで誹謗中傷しておきながら、訴えられると急に弱者ぶるといったところもあるので、ちょっと難しいところはあります。
●スラップ訴訟は言論封殺の有力手段だが、日本では野放し状態に
Wikipediaではさらに「経済的に力のある団体が原告となり、対抗勢力を被告として恫喝的に行うことが多い」と説明。以下を読んでわかるように、いわゆる言論封殺と考えてもわかりやすいかもしれません。
<被告となった反対勢力は、法廷準備費用・時間的拘束等の負担を強いられるため、訴えられた本人だけでなく、訴えられることの怖さから、他の市民・被害者やメディアの言論や行動までもが委縮し、さらには被害者の泣き寝入りも誘発され、証人の確保さえ難しくなり、仮に原告が敗訴しても、主目的となるいやがらせは達成されることになる。そのため原告よりも経済的に力の劣る個人が標的にされやすい。あえて批判するメディアを訴えずに、取材対象者である市民を訴える例もある>
表現の自由を揺るがす行為として欧米を中心に問題化しており、スラップを禁じる法律を制定した自治体もあるとのこと。例えば、カリフォルニア州では、「反SLAPP法」に基づき、被告側が提訴をスラップであると反論して認められれば公訴は棄却され、訴訟費用の負担義務は原告側に課されるとのこと。
ただ、「て欧米を中心に」とあるように、海外では問題視されているようですが、日本ではまだあまり認知されていないようです。
私がブックマークしていた
ユニクロだけではない「恫喝訴訟」(今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。 2014年12月11日 13時37分配信)でも恫喝訴訟についての説明があります。ここで今野晴貴さんは、以下のように説明しています。
<大企業による、言論弾圧を目的とした「高額訴訟」は「スラップ訴訟」と呼ばれ、世界的にも問題になっている。
英語のStrategic Lawsuit Against Public Participationの略語で、直訳すると「市民参加を妨害するための戦略的民事訴訟」となる。SLAP(平手打ち)という同じ発音の動詞とかけて、アメリカでデンバー大学の社会学者・ペネロピ・キャナンと、法学者・ジョージ・プリングが1980年代に考案・提唱し、広がった法概念だ。
問題が広がった結果、一部法規制の対象ともなっているのである。日本では二〇〇〇年代に表面化し始め、「恫喝訴訟」や「口封じ訴訟」とされているが、法的に規制されていないために、ブラックな企業の格好の「言論弾圧の手段」となってしまっている>
●ブラック企業のユニクロやワタミが法的措置の脅しをかけていた!
言論封殺や言論弾圧といった話をすると右派支持の人は嫌な顔をしそうですが、こうした問題は政治家だけの問題じゃないんです。例えば、ユニクロやワタミなんかの大企業がやって問題になっているんですね。まあ、ワタミの渡邉美樹さんも自民党なので政治に関わる案件なので、ここらへんも政治関係と言えば政治関係なんですが…。
ユニクロの場合はなんと2億円以上の損害賠償を訴える名誉棄損訴訟を行っていました。幸いユニクロ側の敗訴が確定していますが、相当な圧力です。問題となったのは、書籍『ユニクロ帝国の光と影』。当時はユニクロが「ブラック企業ではないか」と世間から疑いをかけられる以前の話であり、先見の明があったわけですけど、ユニクロとしてはそれを防ごうとしたんでしょうね。
今野晴貴さんは、<今回裁判所で認定された長時間労働などの「事実」は、指摘しようとすると、同社から巨額の賠償金を訴えられる恐怖から、メディアで黙殺されてきたのだろう>と萎縮効果があったのではないかとしていました。今野さん自身も<ユニクロの柳井社長から直接「通告書」を送り付けられてきた経験がある>とのことでした。
また、<「恫喝訴訟」を活用しようとする企業はユニクロだけではない>として、ワタミの例を挙げていました。渡邉美樹さんが自民党からの参議院選挙出馬が検討されているタイミングで、ワタミからも「通告書」を送り付けられたんだそうです。こういう政治家になろうとするタイミングで不利な情報を潰すということはちょくちょくあります。
●スラップ訴訟に見える「強いものより弱いものを恫喝」…という思想
ワタミの場合は実際には訴えなかったようで、「不履行の場合は法的措置に及ぶ所存につき申し添えます」ということで脅していました。ここで象徴的なのが、ワタミは出版元である文芸春秋にも通告書を送付しているものの、トーンが弱いということ。ユニクロにいたっては、出版社は無視しています。
企業であってもこうした脅しは効いて萎縮に繋がり大問題ではあるのですが、弱い個人に高額訴訟をふっかけた方が効果的なのでこのように狙い撃ちにされるようです。「強いものより弱いものを恫喝」…といった思想が、スラップ訴訟と呼ばれるものには共通点としてありそうですね。
ただし、ユニクロの例でわかるように、出版社も萎縮しないわけではありません。これは、最初のクイズの件、
名誉毀損の慰謝料の金額、政治家・芸能人を優遇・一般人を冷遇からもわります。日本の名誉毀損の慰謝料基準がおかしいことも、こうした弱い者いじめの圧力問題を大きくしているんですよ!
【クイズ】東京、名古屋、大阪高裁の判事で構成される「損害賠償実務研究会」によって決定された名誉毀損の慰謝料の金額で最も低いのはどのような人々でしょう?
(1)一般人
(2)芸能人
(3)政治家
【答え】(1)一般人
結局、政治の話になっちゃうのですが、実はマスコミの報道を嫌った自民党と公明党が圧力かけたせいで、損害賠償の金額が引き上げられちゃったとのこと。しかも、本来公人として一番報道される必要がある政治家の賠償金額が、報道される必要性がほとんどない一般人より多いという奇妙なことに…。いろいろとおかしな世の中になっています。
●いきなり提訴を裁判所が批判「国民の批判は保障されるべき」
2023/03/18追記:<ツイート投稿者を「いきなり提訴」した世耕議員を裁判所が批判、名誉毀損訴訟が異例の和解>(23/3/17(金) 13:00配信 弁護士ドットコムニュース)というニュース。自民党の世耕弘成参院議員が青山学院大・中野昌宏教授を名誉毀損で訴えた件で、和解が成立したという話です。
中野昌宏教授が2018年と2019年、世耕弘成議員について「原理研究会(旧統一教会)出身だそうですね」などの内容をツイート。当時は統一教会を問題視する記者の方が自民党支持者に叩かれていた時期だったのですが、これについて世耕弘成議員が提訴。提訴を中野教授側はスラップだとしており、裁判所も問題視していました。
<和解条項で地裁は「公人の政治的姿勢、言動等に関しては、国民の自由な論評、批判が十分に保障されなければならない」と指摘。その上で「その上で(世耕氏側が)事前の削除要請・交渉もなく、訴訟を提起するという方法をとったことについて、公人に対する言論を萎縮させるおそれがあるものと被告に受け止められ、反訴が提起されるに至ったことは、裁判所ならびに原告および被告にとって遺憾」と表明した>
<中野教授側は事実を摘示したものではなく論評だと主張。(中略)批判した者を黙らせる目的の「スラップ訴訟」だとしていた。
今回、裁判所が公人による安易な提訴に苦言を呈した格好となったことについて、中野教授は「弱い者を解放する反スラップ訴訟法がない日本で、裁判所が配慮してくれた」と安堵の表情で語った>
https://news.yahoo.co.jp/articles/1b64b7de8d0ad28afc28da443835681da949d9c9
●マスコミが偽装請負の報道をしなかった理由も恫喝訴訟だった!
2022/07/17追記:別件に絡んで読んでいた
偽装請負 - Wikipediaで恫喝訴訟の話が出ていましたので、こちらでも紹介。「請負などの非雇用契約を偽装した違法派遣」は、契約形態を偽装・隠蔽偽装しているために違法行為ですが、あまり報じられていませんでした。その理由は恫喝訴訟(スラップ訴訟)だったそうです。
労使双方が対策に乗り出すことになったのは、2006年7月末以降断続的に朝日新聞などが偽装請負の実態を報じたことなどによって問題が顕在化したため。この報道以降と以前とで全然違うため、派遣業界などでは、日付を取って、7・31ショックと呼ばれているほどだそうです。
同じページでは、<問題については、2003年ごろから経済誌などによる特集報道がいくつかなされていた。しかし、世間一般が広く認知するに至ったのは、先述の朝日新聞による報道が大きく寄与している>とも記載。以下のように、恫喝訴訟を行っていたことが理由だ…と説明されています。この恫喝訴訟は本当問題ですよ。
<この報道までは社会的認知度が低かった主たる要因として、ラディアホールディングス・プレミア(旧クリスタル→グッドウィル・プレミア)が些細なことでも非難記事を書かれる度に法外な損害賠償訴訟提起を連発したこと(いわゆるSLAPP)、さらにはマスコミのスポンサーとなっているなどの事情ゆえに報道しにくくする状況があるため、報道した機関または他機関に関連報道を躊躇させる状況を作ってきた事などがあげられる>
●リツイートした人も訴える!根拠とされた名誉毀損判決が実は…
2022/02/21追記:日本維新の会の松井一郎さんがある動画を紹介した水道橋博士さんのツイートに「法的手続き」などと言っていました。実際に訴えなくても「訴えるぞ!」だけで、十分恫喝の役割を果たして悪質です。ただ、水道橋博士もどうかと思うところがあるので、経緯がよくわからなかったんですよね。
で、記事を検索してみると、
【日本維新の会】大阪がコロナ禍で大変な時に“法的手続き”とか言ってる場合か、松井市長|日刊ゲンダイDIGITAL(2022/02/17 ラサール石井 東憤西笑 )で流れが書いてありました。松井市長が政治家なのに、説明下手かつ説明不足だったのでよくわからなかった部分が記事を読んでやっとわかります。
<博士は(中略)「これは下調べが凄い」「維新の人たち&支持者は事実でないなら今すぐ訴えるべきだと思いますよ(笑)」と呟いた。
これに反応した松井氏は「これらの誹謗中傷デマは名誉毀損の判決が出ています」「法的手続きします」と呟き、また「リツイートされた方も同様に対応致します」と一般人も訴えるかの物言いだ>
著者のラサール石井さんは、<最初見た時は、博士の添付した動画がすでに名誉毀損の判決の出たもので、それを使用したから訴えるという話だと思った>と書いていました。私もそう思っていたのですが、「動画がすでに名誉毀損の判決の出たもの」というわけではないというので、驚きです。
ということで、「これらの誹謗中傷デマは名誉毀損の判決が出ています」がデマ。どうも松井市長が言っているのは全く別件である、平成31年に、「松井氏は過去に強姦事件を起こした」と書き込んだSNSに対して損害賠償を請求し、2021年1月に大阪地裁が被告側に330万円の賠償金支払いを命じ勝訴した件のようです。
この時点で松井市長のツイートは誤解させる悪質なツイートですが、そもそも今回の動画は「松井氏は過去に強姦事件を起こした」がメインではない上に、動画では強姦に関しては噂はあるがその証拠はないとむしろ否定しいていたとのこと。これらの話が事実なら嘘による無理やりな恫喝ということになりそうです。
<これをツイートしたからといって、博士を訴えるほどではなく、ましてや博士は「事実じゃないなら訴えたほうがいい」と示唆しているだけで、「あの人万引してますよ」と教えた人が万引で捕まったみたいになっている。そのうえRTした人を全部訴えるというのはますますわからない。
<現在、大阪のコロナ感染者、病院の逼迫具合、そして人口あたりの死者数はほぼ全国1位。株式会社に3億8000万円で丸投げしたインテックス大阪を使用する医療施設は1月末から2月15日までの間でたった3人しかいない。
はっきり言って訴訟なんかしてる暇はないだろう。ていうかTwitterやったりテレビに出ている暇もないだろう。現在の事態を猛省し真摯に謙虚に働かれることを切に望む>
●東京五輪組織委員会、パワハラ・私物化報道で文春に発売中止要求
2021/04/03追記:ライター個人狙いではないのですが、恫喝訴訟・スラップ訴訟に近い例かなと思って、
東京五輪組織委員会の「週刊文春 発売中止及び回収」要求に対する「週刊文春」編集部のコメント | 文春オンラインをこちらに追記。東京五輪組織委員会が露骨に圧力をかけたのは、
女性活躍(させてやる)、男性による上から目線にうんざり…で書いている開会式演出問題です。
<記事は、演出家のMIKIKO氏が開会式責任者から排除されていく過程で、葬り去られてしまった開会式案などを報じています。侮辱演出案や政治家の“口利き”など不適切な運営が行われ、巨額の税金が浪費された疑いがある開会式の内情を報じることには高い公共性、公益性があります。著作権法違反や業務妨害にあたるものでないことは明らかです。
小誌に対して、極めて異例の「雑誌の発売中止、回収」を求める組織委員会の姿勢は、税金が投入されている公共性の高い組織のあり方として、異常なものと考えています。小誌は、こうした不当な要求に応じることなく、今後も取材、報道を続けていきます>
コメント欄などを見ていると、「内部情報が漏れたことが一番の問題」という声がこの問題の反応では多く出ていました。これらのコメントは、東京五輪組織委員会擁護のつもりではなさそうなのですが、実はこうした考え方は東京五輪組織委員会に味方してしまうんですよ。あんまり言わない方が良いです。
なぜかと言うと、「内部情報が漏れたことが一番の問題」としてしまうと、
内部告発者が保護されず犯人探しの上いじめらるという日本文化で書いたような内部告発者潰しが正当化されかねないため。ケースバイケースではありますが、むしろ内部情報を漏らして良いと応援してあげた方が日本にとってプラスになる場合が多いでしょう。
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