井上明久・元東北大総長んは、「バルク金属ガラス」の世界的権威であり、ノーベル賞候補とも言われていたそうです。日本金属学会論文賞も受賞しています。ただし、この研究論文には不正疑惑が指摘されていたもの。本人や東北大は不正なしと否定しているものの、論文は撤回。日本金属学会論文賞も取り消される…といった事態になっています。
2016/10/2:
●ノーベル賞候補と言われていた井上明久・元東北大総長に不正疑惑
●常識的に考えてあり得ない論文数 総長になってからむしろ急増
●異常な論文数は中国人留学生の仕事だと思わせる記述があるも…
●ほとんど関係ないのに論文に名前だけ載せるのも立派な不正!
2019/10/15:
●ついに不正疑惑論文撤回!偉い人に対抗するには偉い人が必要だった?
2020/05/19:
●日本金属学会論文賞の記録を取り消し 本人は「不正なし」と主張
●ノーベル賞候補と言われていた井上明久・元東北大総長に不正疑惑
2016/10/2:以前から何度も書いている井上明久・元東北大総長の不正疑惑。今回、特に新ネタはないのですけど、そうだったんだ!と思ったのが、過去にはノーベル賞候補だと言われていたという話。これは知りませんでした。
古い記事ですので既に消えているものの、以前、“ノーベル賞候補者に不正疑惑…東北大が正式調査へ”. テレ朝news. (2013年3月16日) という記事が出ていたようです。
Wikipediaの引用元タイトルで確認できます。
また、ダメ元で検索してみると、2011年とさらに古い記事で「ノーベル賞候補」と紹介されているものを見つけました。
魯迅ゆかりの東北大学で研究不正疑惑に失望する中国人留学生たち|China Report 中国は今|ダイヤモンド・オンライン(姫田小夏 [ジャーナリスト] 【第78回】 2011年7月1日)という記事です。
記事では、東北大学総長の井上明久さんは、<新素材「バルク金属ガラス」の世界的権威と言われ、日本学士院賞、米国物理学会マックグラディ新材料賞など複数の賞を受賞する人物であり、ノーベル賞候補の一人とも言われている>としていました。
ところが、2007年以降、その研究に不正の疑いが持たれ、データの捏造、二重投稿など次々と指摘されることに。記事では、研究不正は名誉や地位、金銭にも結びつき、大学そのものの存立基盤を崩壊させ、また次世代を担う学生らのモラル荒廃をももたらすだけに、大きな問題だとしています。
●常識的に考えてあり得ない論文数 総長になってからむしろ急増
また、海外でも2011年2月に、世界最高権威の学術誌『Nature』が同総長の論文捏造疑惑に注目、同年6月25日には米国物理協会速報紙『Applied Physics Letters』に投稿した論文が、同紙発行母体である米国物理学協会(American Institute of Physics: 略称AIP)により、二重投稿を理由に取り下げられる、という事態となっていました。
この二重投稿とも関連しそうなのが、以前から言われていた井上明久さんの疑惑の一つである「考えられない量の論文」。記事でも触れており、東北大学のサイト「研究者紹介」によれば、2011年までに合計2784本の論文を書いたとされていたことをまず指摘。
また、同総長は05年までの登録数ですでに1900本の論文実績があることから、総長就任以後06~11年の5年間で書いた本数は800本と、総長になってむしろ増えていることも指摘。年平均にして約160本、1週間に換算すれば約3本以上を書き上げる、超人的大量生産ぶりだとしていました。
●異常な論文数は中国人留学生の仕事だと思わせる記述があるも…
私はこの論文の多さは、前述の二重投稿や捏造などの不正を行ったためではないかと見ていました。井上明久さんの件では、証拠となる当時の実験記録や試料などが「コンテナごと海に落ちた」と説明されるなど、不正を疑われて仕方ない話が出てきます。
ただ、記事では、<そこには、裏方として疑惑に巻き込まれた中国人留学生の存在がある>とあったので、この後てっきり影で超人的大量生産をさせられたのは中国人留学生だよ、って話になるのかなと思いました。
ところが、実際はそうではなく、疑惑の論文のセカンドオーサーが"チャンタオという北京航空航天大学から来た研究員"だったという話だけ。本当とは思えない論文数の多さには話が絡んできませんでした。
なお、この記事ではタイトルになっている「魯迅ゆかりの東北大学」というのは、魯迅がかつて留学していたということで、東北大学は日中友好のシンボルとしての役割を今も担っているという話でした。
●ほとんど関係ないのに論文に名前だけ載せるのも立派な不正!
あと、論文による不正もしくは不適切な行為とされるものの一つに、ギフトオーサーシップというものがあります。
科学における不正行為 - Wikipediaでは、以下のように説明していました。主に偉い人がやる不正な行為です。
<ギフトオーサーシップ>
<論文の成立に直接貢献していない者が、あたかも「論文の共同執筆者」であるかのように名を連ねるという不正行為。研究室の責任者の立場にいる者などが行うことが多い。これは、立場の強い者が政治力を行使して名を表示させるケースである>
ですので、二重投稿や捏造だけでなく、このパターンで論文の超人的大量生産をしていたとしても、やはり十二分に悪いことだと言えます。
●ついに不正疑惑論文撤回!偉い人に対抗するには偉い人が必要だった?
2019/10/15:研究不正においては、偉い人ほど不正だと認定されない、たとえ不正だと認定されても処分が甘くなるという報告があったと思います。日本の研究不正疑惑においても、この報告の内容が当てはまるケースが多く、ノーベル賞候補で大学で一番偉い総長にまでなったという井上明久元学長の場合は、絶対に進展はないだろうと完全に諦めていました。
ところが、その後、
東北大が捏造改竄告発無視の井上明久元学長の不正研究論文、撤回されるで書いているように、えらく時間がかかってから3つの論文が撤回されて驚くことに。完全に予想外です。
それが本当にキーポイントとなったかは不明なのですけど、ここに来て進展があったのは、日本金属学会元会長らも申し入れをしていたからかもしれないなと思いました。残念なことではあり、全く喜ばしい話ではないのですが、権威で不正を握りつぶされそうなときは、不正を追求する側も権威で対抗する必要があるのかもしれません。
●日本金属学会論文賞の記録を取り消し 本人は「不正なし」と主張
2020/05/19:ずいぶん昔の不正疑惑なのですけど、ここに来てちょくちょく続報があって驚きです。井上明久東北大学元総長(現・城西国際大学教授)に対し日本金属学会(乾晴行会長)が2020年3月、過去に授与した賞の記録を本人からの「返納申し出」を理由に取り消していたことがわかったそうです。
第48回日本金属学会論文賞を受賞した理由となったのは、1999年の論文。特殊な装置で鋳造した金属ガラスを一定の条件で加熱処理すると「準結晶」という特殊な結晶の出現を確認したというものです。ただ、これがピンポイントに問題がある論文なんですよ。写真の流用を指摘されていたものです。したがって、賞の取り消しはむしろ当然だと言えるでしょう。
なお、これを報じた
東北大元総長、依然不正認めず 不正論文疑惑、金属学会が賞取り消し | 週刊金曜日オンライン(三宅勝久|2020年5月18日4:42PM)は、「学会が取り得る最大の処分」という言い方をしていました。全然本人らには効いていないというニュアンスですね。
井上さんの研究不正を判断する立場の東北大学(大野英男総長)は「本学として特にお答えすることはございません」(広報室)と、まるで他人事だったとのこと。井上さん本人も代理人弁護士を通じて「不正でないことは東北大学調査委員会報告書などに書かれている」などと回答したそうです。
あと、この回答では、「当時の写真(正しい実験写真)は撮影5~6年後に共同研究者(中国人留学生)が中国に持ち帰る時に海難事故にあって失われた」ともおっしゃっていました。例の都合よく証拠が沈没してくれた論文の件ですね。
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