グーグルの忘れられる権利、ネット情報のプライバシー侵害などに関する話をまとめ。<「忘れられる権利」は「表現の自由」を侵害 弁護士も反対意見>、<盗撮常習者がグーグルに削除と慰謝料要求…している最中にまた逮捕>、<日本に忘れられる権利なんかない、裁判所が明言することに…>などの話をやっています。
【クイズ】グーグルが多くの検索結果を非表示とした件でのイギリスBBCの対応として、正しいものはどれでしょう?
(1)グーグルで表示されなくなった自社記事のリストを公開した。
(2)グーグルで非表示とされた記事をウェブ上から抹消した。
(3)訴訟リスク回避のために、一定期間が経過した記事をすべて削除するように仕様変更した。
冒頭に追記
2022/06/27追記:
●デジタルタトゥーは全部削除?ツイッター逮捕歴削除の判決が出る 【NEW】
●デジタルタトゥーは全部削除?ツイッター逮捕歴削除の判決が出る
2022/06/27追記:逮捕などされた人にとって有利な判決が出ることがありますが、そうではない判決もあるなど、一方的ではありません。今回の場合は、<ツイッターの逮捕歴に関する投稿 最高裁が削除命じる初の判決>(2022年6月24日 22時54分)ということで、逮捕などされた人にとって有利な判決が出ました。
<ツイッターで過去に投稿された自分の逮捕歴が閲覧できる状態になっているとして、男性がツイッター社に削除を求めた裁判で、最高裁判所は「逮捕から時間がたっていて公益性は小さくなっている」などとして、今回のケースはプライバシーの保護が優先すると判断し、削除を命じる判決を言い渡しました>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220624/k10013686711000.html
NHKが「今回のケースは~」とわざわざ書いていたように、結局、場合によりけりなんでしょうね。逮捕などされた人にとって一方的に有利な状態…ということはないと思われます。結局、一つ一つ、事例に合わせて判断していく必要があり、この判決によって全部削除すべきと決まったわけではなさそうでした。
<2012年に建造物侵入の疑いで逮捕された男性は、略式命令を受けて罰金10万円を納めましたが、その後もツイッターで名前や容疑が分かる逮捕時の報道を引用した投稿が閲覧できる状態になっていて、就職活動に支障が出たなどとしてツイッター社に削除を求めました。1審は削除を認めた一方、2審は削除を認めず、男性が上告していました。
24日の判決で、最高裁判所第2小法廷の草野耕一裁判長は「逮捕から時間がたっていて、すでに刑の効力はなく、ツイートに引用された報道もすでに削除されていて公益性は小さくなっている」と指摘しました。
そのうえで「投稿はいずれも逮捕の事実を速報することを目的にしていたとみられ、長期間にわたり閲覧されることを想定していたとは認めがたく、男性は公益的な立場でもない」として、今回の投稿についてはプライバシーの保護が社会に情報を提供し続ける必要性を上回ると判断し、2審判決を取り消し、投稿を削除するよう命じました。4人の裁判官全員一致の判断です。
逮捕歴に関するツイッターの投稿の削除をめぐり最高裁が判決を言い渡したのは初めてです>
<インターネット上で公開された書き込みや個人情報などは拡散されると消し去ることが困難なため、入れ墨に例えて「デジタルタトゥー」とも呼ばれています>
代理人弁護士が判決の影響はプライバシーに関するほかの事案にも及ぶ可能性があるとし「デジタルタトゥーで悩む人の救済にも役立つと思います」と述べたのは気になるところ。記事では、一律に削除優先ではなく「個別の具体的な事案に即して判断」とも説明されていましたが、拡大解釈されそうです。
●「忘れられる権利」は「表現の自由」を侵害 弁護士も反対意見
2016/10/29:最初に紹介する
ウェブ魚拓はサービス継続「忘れられる権利」対応で一部機能削除しただけ(2016/03/03 14:37 渡辺一樹 BuzzFeed News Reporter, Japan)という記事のメインはウェブ魚拓が「忘れられる権利」で停止すると発表したのは、飽くまで一部の機能であり、全部なくなるわけじゃないよという話でした。
ただ、おもしろかったのが、「忘れられる権利」は国による「表現の自由」の侵害なので、簡単に認めるべきではないと言っている弁護士さんもいたことです。「忘れられる権利」が認められると削除依頼がはかどり、むしろ弁護士さんの儲けどころになるのでは?と思っていたので、こういう観点は意外でした。
「忘れられる権利は、裏返すと『忘れさせられる義務』です。これは、過去について情報をやり取りする国民の権利を、国家が制限するものです。国が前科情報を公表してはいけないといった議論とは異なります。
仮に認められるとしたら、『表現の自由』を制限し、多くの人の自由を縛ることになります。
忘れられる権利は、プライバシー権の一種と位置付けられると思いますが、キャッチーなネーミングと議論の難しさがあいまって、委縮効果が大きいのも問題です。安易に認めるべきではありません。EUの尻馬に乗るような議論はしたくないですね」(ITと法律の関係に詳しい吉峯耕平弁護士)
●「知る権利」を侵害や検閲につながる可能性、萎縮のおそれ
この「表現の自由」という観点がどれくらいあるのか?と軽く検索してみました。
忘れられる権利 - Wikipediaにも載っていましたが、わりとあっさりとした記述でした。あまり「表現の自由」の問題は意識されていないのかもしれません。
<他方で検索エンジンは、人々がウェブ上で情報の発信と受領をマッチングさせるのに不可欠なインフラとして機能している。発信・受領される情報には、個人情報でありながら公益に資するものが相当量ふくまれる。そのため、検索結果に特定の情報が表示されないようにする措置を安易に認めると、情報発信者の「表現の自由」や情報受領者の「知る権利」を侵害する可能性が高い。そこで、プライバシーの一内容として「忘れられる権利」を認める必要があるのか、また、仮にあるのだとすれば「表現の自由」や「知る権利」といった既存の権利と、いかにバランスをとるべきなのかが議論されている>
他には神戸新聞が社説で懸念を示しているのを見つけました。
神戸新聞NEXT|社説|忘れられる権利/表現の自由とバランスを(2015/12/16)で、<安易な削除は表現の自由や知る権利を侵害しかねない。プライバシー保護とのバランスについて議論を深めていくべきだ>としていました。そして、2014年5月の欧州連合(EU)司法裁判所の判決において、世界で初めて「忘れられる権利」認め、積極的なように見えるヨーロッパにおいても議論があるという話が紹介されています。
判決後、グーグルは欧州限定で削除申請を受け付け、40万件以上を非表示に。しかし、懸念の声もあり、英BBC放送は「何が消されたか分からなければ議論できない」とし、表示されなくなった自社記事のリストを独自に公開したといいます。
公益に値しない情報を削除するのがEUのルールなのですが、検閲につながったり、検索サイトが責任回避のために必要以上に情報を削除したりする可能性もある…と神戸新聞では指摘していました。…ということで、最初にクイズにしたBBCはむしろ反発した対応を取っていたのです。
【クイズ】グーグルが多くの検索結果を非表示とした件でのイギリスBBCの対応として、正しいものはどれでしょう?
(1)グーグルで表示されなくなった自社記事のリストを公開した。
(2)グーグルで非表示とされた記事をウェブ上から抹消した。
(3)訴訟リスク回避のために、一定期間が経過した記事をすべて削除するように仕様変更した。
【答え】(1)グーグルで表示されなくなった自社記事のリストを公開した。
BBCは政府批判もガンガンやりますし、日本のマスメディアと違って肝が据わっています。ただ、そういうマスメディアばかりじゃないということが問題。最初の吉峯耕平弁護士も言っていたように、萎縮効果はかなり大きいでしょう。少し前によく言われた放送局への自民党の圧力は、実際には飽くまで「自粛」という形をとっています。僅かなものでも多大な影響を与えるものなのです。
●日本でも逮捕歴表示削除でグーグルに公益性認めた裁判がある
上記までが下書き時点のもの。今回のタイミングで出しておこうかと思ったのは、以下のようなニュースがあったため。「忘れられる権利」関係の裁判でグーグル側が勝利しました。大きく注目されているわけではないみたいなんですけどね。
東京新聞:逮捕歴表示の削除を認めず グーグル表示「公益性ある」:社会(TOKYO Web) 2016年10月29日 朝刊
過去に振り込め詐欺で有罪判決を受けた東京都内の男性が、名前と居住地でインターネット検索すると逮捕の事実を記したページが表示されるとして、米グーグルに検索結果の削除を求めた訴訟の判決で、東京地裁は二十八日、「逮捕の事実を低コストで知ることができるようにしておくことには公益性がある」として請求を棄却した。
判決によると、男性は現金引き出し役のリーダー格で、十年以上前に逮捕され、その後執行猶予付きの有罪判決を受けた。現在は会社社長を務めている。
岡崎克彦裁判長は「事件は社会的に強い関心を集めたもので、猶予期間の満了後五年程度しか経過しておらず、公共の関心が薄れたとは言えない。取引先が信用調査の一環として知ることは正当な関心事だ」と判断。「検索結果を見た知人が交流を敬遠することも予想される」と男性の不利益も認めた上で、受け入れるべきだと指摘した。(中略)
検索結果の削除を巡っては、さいたま地裁が昨年十二月の仮処分決定で、ある程度期間が経過すれば犯罪歴を社会から「忘れられる権利」があるとして削除を認めたが、高裁が覆すなど司法判断が割れている。
●最高裁でも削除認めず 個人のプライバシー保護に優越という判断
2017/02/01:最高裁でも削除を支持しない判決が出ました。これは大きいです。
ネット検索結果、削除認めず=逮捕歴「公共の利害」-初の判断基準示す・最高裁:時事ドットコム
インターネット検索サイト「グーグル」で名前などを入力すると、逮捕歴に関する報道内容が表示されるのはプライバシーの侵害だとして、男性が検索サービス大手の米グーグルに検索結果の削除を求めた仮処分申し立ての抗告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は1日までに、「男性の逮捕歴は公共の利害に関する」として削除を認めない決定をした。決定は1月31日付で、裁判官5人全員一致の意見。
最高裁は、検索結果の表示の社会的な意義などと比較して「個人のプライバシー保護が明らかに優越する場合は削除が認められる」という判断基準を初めて示した。(中略)
最高裁は、判断に当たり▽情報の内容▽被害の程度▽社会的地位-などを考慮すべきだと指摘。その上で「児童買春の逮捕歴は今も公共の利害に関する。男性が妻子と生活し、罪を犯さず働いていることなどを考慮しても、明らかにプライバシーの保護が優越するとは言えない」と結論付け、男性側の抗告を棄却した。
●盗撮常習者がグーグルに削除と慰謝料要求…している最中にまた逮捕
2017/03/21:最高裁は上記の件の他にも4件、差し止めや損害賠償などを求めた申し立てを退けていました。その中の一つは、「盗人猛々しい」人が含まれていたとする記事がありました。以下は、ある司法関係者の話です。
「京都府在住、50代の盗撮常習者です。09年、電車で女性のスカート内をビデオ撮影し、兵庫県警に条例違反容疑で逮捕されている。また12年にはサンダルにカメラを仕込んでスカート内をのぞき、同じく京都府警が逮捕。翌年4月には懲役8月・執行猶予3年の有罪判決が確定しました」
(
過去の罪が消せると思うか 「グーグル犯歴削除」を請求したタワケたち デイリー新潮 / 2017年3月21日 8時1分より)
その後、ネット上での逮捕記事を削除すべく、男は13年9月、グーグルとヤフーの両社を相手取り、慰謝料など1100万円を求める訴えを起こし、「軽微な犯罪。罪を反省して社会復帰を考えたが、逮捕歴が知られれば再就職にも支障が出る」と主張しました。
ただ、これらは敗訴し続けた上に、上告中の16年2月、またしても大阪・梅田の靴店で逮捕。さらに、公判中の9月、今度は梅田の書店で、スカート内にスマホを差し入れて逮捕と、全然盗撮癖が治っていなかったようです。
この人は情状酌量の余地がなくてわかりやすいのですが、難しいケースもあります。集団強姦事件とは無関係であるものの、早大のイベントサークル「スーパーフリー」に入会していた男性が、自分の名前を検索すると『スーフリ幹部』と表示され、犯罪に加担したかのような記述があったというものです。
「彼は逮捕されていないので、仮にネットで“有罪判決を受けた”と書き込まれてもプライバシーには当たらず、単なるデマでしかない。地裁判決は『検索結果の表示だけを見て、虚偽だと判断できない限りは削除しなくてよい』というものでした。つまり、デマなら原則として自由に載せられるという、ねじれた話になっているのです」(代理人の弁護士)
これは「忘れられる権利」とは関係なく、そもそもデマなんですからね。こちらの場合は私も削除されて良い、というか、削除されるべきだと思います。
●日本に忘れられる権利なんかない、裁判所が明言することに…
一方、本来の意味の「忘れられる権利」に関しては、京大大学院法学研究科の曽我部真裕教授が以下のようにおっしゃっていました。
「東京高裁では『そのような権利があるわけではない』と、さいたま地裁の判断が明確に否定されている。最高裁もそれを支持したわけで、今後は法改正をしない限り、『忘れられる権利』が法的に認められることはないと思います」
今のところ日本では、法改正を求める声は全く大きくなっておりませんので、法改正の動きも起きないでしょう。考えられるとすれば、ヨーロッパで忘れられる権利の定着が進んで日本も真似する、というパターンじゃないかと想像します。
●医師が逮捕歴削除を要求 仮処分で削除命令出たが裁判では敗訴
2017/09/02:ある現役の男性歯科医は、約10年前に逮捕されたことがありました。原告側がプライバシー保護のため請求内容などを秘匿する申し立てをしたため詳細は不明ですが、無実ではなかったようです。罰金刑を受けたことはわかっています。
この彼の名前を検索サイトのグーグルで自分の名前を入力すると、当時の記事が検索結果として表示されていたとのこと。そこでこの歯科医がグーグルを相手に検索結果の削除を求めた訴訟を起こしました。しかし、横浜地裁は1日、歯科医の請求を棄却する判決を言い渡しています。
(
グーグル検索で歯科医の逮捕歴、削除認めず 横浜地裁:朝日新聞デジタル 古田寛也 2017年9月1日18時46分より)
これだけだと特異な事例ではないと思ったのですが、実はこの逮捕歴の削除を求めた仮処分の申し立てを受け、東京地裁が2015年、グーグルに検索結果削除を命じる決定を出していました。実際、2017年9月1日現在、同社の検索結果には逮捕されたことをめぐる記事が表示されない状態となっているそうです。
制度としては仕方ないのかなと思いますけど、仮処分の申し立てを使えば一時的に削除が可能といった感じになっていますね。検索サイト側はたいへんだと思われます。
●フランス「情報が国境を越えるネット上では、全世界にルール適用を」
2019/09/26:また関連する話があったので追記。タイトルで大体わかりますが、
「忘れられる権利」、EU限り ネット検索巡り司法裁 | 共同通信(2019/9/24 18:03)という記事についてです。
個人情報のインターネット検索ができなくなるよう米グーグルなどに要請できる「忘れられる権利」。欧州連合(EU)司法裁判所は、この権利を法制化したEU域内に適用が限られるとの判断を示しました。フランス当局がEU域外での適用を要求し、グーグルがこれを不服として提訴していたため、今回このような判断が出たという経緯です。
EU以外に適用できない…というのは、そりゃそうだろうと思いますが、フランス側は、情報が国境を越えるネット上では、域内のみの措置ではプライバシーが保護できないと主張していたみたいですね。ただ、それを言っちゃうと、小国で適用された法律が全世界に適用というおかしなことに。同様に国際的に困った国だと思われている国のネット関係の法律が全世界に適用!となる危険性があります。これなんか大いに問題でしょう。
グーグルは、国家による世界規模での情報消去など権利乱用を促す「危険な前例」になりかねないとも言っていたとのこと。これは私が書いたのと似たような懸念でしょうね。フランスの主張は無理がありすぎでした。他の問題、例えば、著作権問題などを含めて、情報が国境を越えるネット上では対策が難しい…というのは事実なのですけど、国際的に協調していくというのが正攻法。自民党政権も似たようなことをやりたがっているのですけど、反則技はいけません。
●性的虐待罪で起訴も無罪の事件、これを削除しなくていいの?
2020/09/21: EUでの忘れられる権利関係のニュース。
グーグル、「忘れられる権利」めぐる不服申し立て一部認められる スペイン :AFPBB News(2020年3月7日 12:23)という記事が出ています。
これは、米IT大手グーグルが、性的虐待罪で起訴され、その後、無罪になった心理学者に関する報道記事を削除するようスペイン当局から命じられたことに不服を申し立てた裁判。スペインの裁判所は、グーグルの訴えを一部認めた一方で、グーグルに不利な判断もしています。
まず、スペインのデータ保護機関は2017年、グーグルに対して争点となった記事のリンク10件のうち8件を削除するよう命じていました。これに対し、グーグルは、記事は「公共の利益」に当たり、記事へのアクセスは言論の自由を保障する法律によって保護されるべきと主張します。
結果、スペイン全国管区裁判所は、表現の自由は個人データの保護よりも優先されると認めています。たぶんグーグルの主張を認めたということで、リンク削除はしなくて良いってことなんじゃないかと思います。一方で、グーグルは男性の無罪判決に関する最近の記事を先に表示すべきだとしており、これはグーグルに改善を求める判断でした。
この件は「忘れられる権利」関連となっていたものの、「忘れられる権利」が認められていない日本でもリンク削除が十分に認められそうな内容だと感じました。なので、スペインの裁判所がグーグルに有利な判決を下したというのは意外ですね。以前書いた日本のケースもそうなのですけど、削除されて良さそうなケースで削除されない…というのも困ったものだと感じます。
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