青森県八戸市に昨年12月にオープンした「八戸ブックセンター」は、市が運営する本屋。本屋?と思うかもしれませんが、図書館ではなく本屋で正しいのです。
町の本屋を代替するものというわけでもなく、むしろ町の本屋が置かない本を置こうという変わったコンセプトでした。ただ、批判もあったとのことで、後半は「どのような批判があったのだろう?」と探るものになっています。
2017/2/6
●利益よりも誰もが本と出会える場…「八戸ブックセンター」のコンセプト
●市民の反応は上々で、来客も目標以上 ただし説明不足なところも
●現在の図書館は間違っている!図書館よりも有効なお金の使い方?
●税金の使い道として正しいのか?大赤字の見込みの八戸ブックセンター
●八戸ブックセンターへの批判 図書館充実ではなぜダメなのか?
2020/05/25:
●民業圧迫とならない秘策がある八戸市…ただしその分赤字は増加
●利益よりも誰もが本と出会える場…「八戸ブックセンター」のコンセプト
2017/2/6:「八戸ブックセンター」の考え方は、まず、以下のような感じ。有名な下北沢の「B&B」を経営するブックコーディネーターの内沼晋太郎さんが、ディレクションしたとのこと。
地域おこしに「知の創生」 八戸ブックセンターの挑戦 | BUSINESS ビジネス | CAMPANELLA [カンパネラ]おいしいお酒、充実オフタイム 文:関橋 英作 02.02.2017
市内の本屋さんと同じ本をできるだけ置かない。儲かることよりも、誰もが本と出会える場にする。ハイカルチャーな本をあえて置く。本を書くきっかけをつくる。そして何よりも、気軽で洒落たスペースであること。(中略)
言ってみれば、本屋さん、図書館、カフェ、勉強部屋、イベント会場を合わせたようなもの。さらには、八戸というまちを盛り上げる場所であってほしい。(中略)
「このブックセンターの基本方針は、本を読む人をふやす、本を書く人をふやす、本でまちを盛り上げる、です。この3つが、ゴールである『本のまち八戸』を達成するために必要なこと。本を取りまく環境はきびしいですが、幸い、市内大手の3書店と協力して運営できるので、八戸としては全く新しい本屋さんがつくれるのではないかと期待しています」(引用者注:八戸ブックセンター所長、音喜多信嗣さん)
分類方法も、普通の本屋や図書館と異なっています。
知へのいざないコーナーでは、基本図書を「みわたす」「かんがえる」「よのなか」「いのり」などのようなタイトルで、専門書でも素直に手が伸びるしかけ。人生についてコーナーでは、「どう生きるか」「愛するということ」「命のおわり」などの普遍的なテーマで、考えることを考えさせる工夫がなされています。
●市民の反応は上々で、来客も目標以上 ただし説明不足なところも
記事であった反応は3つ。その中で最も悪い反応だった「気になる本に行きつかない。探しやすくしてほしい」(50代男性)は、従来型の本屋を想定しているための不満でしょう。ただ、これは市側の告知不足の問題であり、利用者が悪いとも言えません。
「目的なしに来ても、おもしろい本に出会えそうな気持ちになります」(親子連れ・女性)といったのが、ブックセンターのコンセプトに合っています。また、「いままでにないジャンルの本がたくさんありうれしいです。なので、パネルとかでもっと説明をしてほしいです」(20代男性)という感想でも、方向性の正しさと、説明の不備が混在していました。
さらに、好評さと説明不足による不評というのは、
回答者7割選書に好評価 八戸ブックセンター - デーリー東北(2017/1/21 11:32)という記事でも同様に見えていました。
八戸市は20日、市中心街に昨年12月オープンした八戸ブックセンターについて、市が実施したアンケートの結果を公表した。回答者の約7割が、本の選定を「非常に良い」「良い」と評価した。(中略)
洋書や和書などの垣根をなくし、テーマごとに陳列する"文脈棚"の手法に関しては「非常に良い」「良い」が計77・2%。「関心がなかったジャンルに興味が沸いた」と市側の狙いが受け入れられた一方で、「テーマがわかりにくい」「特定の本を探しにくい」との戸惑いの声も上がった。
こういった内容で人は来るのか、また、人が来ても実際に売れるのかというのが疑問がありましたが、最初の記事によれば、目標以上とのことでした。
品ぞろえは、人文科学、社会科学、自然科学、芸術、海外文学などちょっと専門的な匂いのする書籍を中心に約8000冊。それなのに、わずか10日間で10%が売れてしまったそうです。東京でさえ、売れそうもない本までも。また、1日300人程度の来客を予想していたところ、大幅に超える約1000人。店長以下、てんやわんやの対応で、うれしい悲鳴をあげています。
●現在の図書館は間違っている!図書館よりも有効なお金の使い方?
私は現在の図書館は、役割を間違えているのでは?という思いがあります。ベストセラーを貸し出したり、貸出冊数を稼いだりというのは、行政が行うことではないでしょう。
はてなブックマーク - 「市営書店」に賛否/八戸ブックセンター来月4日オープン (Web東奥) - Yahoo!ニュースでは、そこらへんの反応が見えました。
“ベストセラーを図書館で貸し出すよりよほど健全”(lacucaracha 2016/11/26)
“これはこれで一つの方向性では。意図していることは理解できる。”(world3 2016/11/26)
“無料貸本屋になってる図書館よりこちらの方が正しい姿だと思う。”(arrack 2016/11/26)
ただし、批判的な意見も見えます。ツタヤ図書館を意識したものです。
“Tポインヨとスタバを誘致すれば、意識高い人が大絶賛”(firstbento 2016/11/27)
ツタヤ図書館は、うちでも批判してきました。過去にどのように書いたか忘れましたが、私が今問題点として、パッと思い浮かんだのは、以下の3点です。(関連:
武雄市図書館の購入蔵書がひどすぎ TSUTAYAの在庫押し付けか?と疑われる)
(1)図書館の役割を間違えている。
(2)民間企業への利益供与になっている。
(3)税金の無駄遣い。
●税金の使い道として正しいのか?大赤字の見込みの八戸ブックセンター
(1)は今回図書館ではないので無関係。代わりに行政のやることなのか?というところの問題になります。これについては、後半の批判で確認しましょう。
ただ、この時点で問題になることもあります。「税金の無駄遣い」です。最初のコラムでは、まるで良いことであるかのような文脈で「あらかじめ4000万円の赤字を想定」と書いていたのですが、採算合わないってのはまずいです。これは支持できません。はてなブックマークでも、以下のようなものがありました。
“運転資金だけで年間40百万円のマイナスになるビジネスが存続できるわけない。これは手に取った本を定価で買い取ることができる図書館だ。ますます勝算が遠のく。”(n_y_a_n_t_a 2016/11/26)
「あらかじめ4000万円の赤字を想定」はかなり厳しい数字を予想したからということですが、そもそも赤字垂れ流しの事業をするのは、コンセプトが良くても正当化するのが難しいです。いきなりドカンとやらずに、もう少しコンパクトな形で様子見しながらの方が良かった気がします。
あと、本質的には公共性の有無の問題ではあるものの、赤字事業を民間に委託していた場合、実質的に「民間企業への利益供与」のような形になってしまいます。
Web東奥・社説/公共サービス問う契機に/八戸ブックセンターによると、<陳列する本の選択や仕入れ、販売は外部の専門家や市内の民間業者に委託する方向だ>ったとのことで、これもまずそうですね。
●八戸ブックセンターへの批判 図書館充実ではなぜダメなのか?
最初のコラムでは、マスコミでは批判が多かったとしていました。でも、コラムでは、その批判したマスコミがおかしいというニュアンス。コラムは以下のようなコンセプトだそうですので、奇をてらってなんぼなのかもしれません。
<摩擦を起こさないように、ただ無難に生きている。そんな人生、面白いですか? もっと枠を外れた生き方をしたいビジネスパーソンに贈るこのコラム>
で、実際どんな批判記事があったのか?と探して見つけた
「市営書店」に賛否/八戸ブックセンター来月4日オープン/Web東奥・ニュースは、冒頭しか読めなかったものの、<「利用客が限られ、公共サービスとして公平でない」と、批判的な意見もある>ということがわかりました。
また、先のWeb東奥・社説では、以下のような話があります。
議会の論戦を見ると、一部議員から、図書館の蔵書や機能を充実させればいいのでは-との批判が上がっている。まだ構想段階だが、同センターの企画事業などは図書館が運営できるメニューが多いのも理由の一つ。
お金の話も少し。<市職員の人件費を除いて年間2億円余り。同センターは家賃や販売委託費など約6千万円を見込む>という話がありました。さらに、もう一つ、既にリンク切れの<八戸ブックセンター構想 行政主体の運営に賛否>()といデーリー東北新聞社 6月14日(日)11時14分配信 うという記事からも引用します。
同日の市議会総務協議会では、委員から「なぜ市が本を売る必要があるのか」「図書館を充実させる方法もあるのでは」などと、事業の必要性を疑問視する意見が出た。(中略)
市が「複数の物件を検討した結果」と説明した整備場所に関しても、「賃料も決まっていない民間ビルが候補になるのはおかしい」「はっちの中でも事足りる」との批判が。(中略)
一方、市内の書店は、施設が経営に与える影響を懸念する。伊吉書院西店の安保貴司店長は「すみ分けと言うが影響が全く出ないことはあり得ず、もろ手を挙げて賛成とは言えない」と複雑な心境を明かした。
センター構想に関して、弘前大学人文学部の児山正史准教授(行政学)は「通常は民間が行う事業なので、市は一般的な公共サービス以上に、合理的な説明をする必要がある」と強調。議論を深めるため▽本の販売冊数▽成人の読書時間▽中心市街地を訪れる人の増加数—などの具体的な目標値、他の候補地と比較したメリット、デメリットを提示する必要性を指摘した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150614-00010000-dtohoku-l02
どうも八戸市の小林眞市長の肝いりだそうみたいで、結論ありきで進められたのかもしれません。拙速でした。最初、読み始めたときはちょっとおもしろいかもしれないと思ったのですが、やっぱり問題ありそうな感じです。
●民業圧迫とならない秘策がある八戸市…ただしその分赤字は増加
2020/05/25:その後実際にどれくらいの赤字が出たか?というのが気になって、ニュースを探したのですけど、開業して間もない時期のものしか出てきません。好意的に八戸ブックセンターに触れられた記事っぽいのはその後もあります。ただ、赤字については触れられておらず、話題にしたくないところなのかもしれません。
結局、出てくるのは古い記事だけで、
売れない本を売る 八戸の「市営書店」開店へ 文化へ投資? 財政負担は年4000万円- 産経ニュース(2016.11.23 10:30)がそういった記事でした。こちらによると、民業圧迫については対策があるとのこと。
<八戸市は民業圧迫とならない運営を徹底する。売れないはずの本が売れ行き好調となってしまった場合は取り扱いをやめ、民間に販売を委ねることも検討する。このため市内で“商売敵”となる老舗「木村書店」の田中麗子社長(69)も「新しい需要を掘り起こしてほしい」と歓迎する>
ただ、これは赤字を知りたくて検索した記事ですので、そこらへんの話が載っています。市議会では「同じ予算で図書館を充実させた方がいい」という意見が出たともされていました。
<ただ運営を支えるのは市民の税金。内装工事といった初期費用は1億1千万円かかった。人件費など計6千万円の年間運営費に対し、売り上げ目標は約2千万円。差し引き約4千万円の赤字は毎年、市の負担だ。赤字抑制へ本をたくさん売れば、民業圧迫となってしまう矛盾を抱えた運営となる>
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