世界初の金属水素の生成の話をまとめ。<今度こそ本当っぽい水素の金属化という報道…つまり前回は嘘>、<世界初の金属水素の生成に成功って本当?実は過去にも何度も…>、<「世界初」の金属水素の生成が過去に何度もある矛盾…その答え>などとまとめています。
2023/04/29追記:
●「世界初」の金属水素の生成が過去に何度もある矛盾…その答え 【NEW】
●世界初の金属水素の生成に…は本当なのか?ハーバード大学が発表
2017/2/11:
水素を金属にするとどうなる? ハーバード大学が世界で初めて金属水素の生成に成功? FUTURUS / 2017年2月11日 10時0分によると、ハーバード大学の研究者らが、金属水素の作成に成功したと発表しました。
水素に超高圧をかけることで、金属水素に変化すると考えられていました。Isaac Silvera博士とRanga Dias博士は、水素に495GPa(ギガパスカル)という地球の中心部よりも高い圧力をかけることで、水素が金属特有の性質を示したとしています。通常の状態であれば水素は絶縁体である水素が、金属化すると伝導性を持つと考えられています。はっきりと書かれていなかったものの、そこらへんの性質が表れたのかもしれません。
ただ、これが本当に金属水素だったかについては、懐疑的な人もいます。 疑問を投げかけていたのは、ワシントンDCのカーネギー科学研究所(Carnegie Institution for Science)の地球物理学者であるAlexander Goncharovさん。研究者らが確認したという金属光沢は、圧力をかける際に使ったダイヤモンドアンビルセルという器具のダイヤモンドの先端を覆っていた酸化アルミニウムだった可能性があるとしているそうです。
こうした疑問を持つことは、科学の世界では健全であり、よくあることでもあります。実際に「世界初の~」が、事実ではなかったということもまた珍しいことではありません。成果を主張する側が証拠を積み上げて、証明する必要があります。
●なぜ金属水素の生成はすごいの?超伝導やエネルギーへの応用に期待
ところで、そもそもなぜ金属水素の生成が注目を浴びているのでしょう? 記事によると、金属水素の生成が実現すれば、常温での超伝導や飛躍的にエネルギーが高まるロケット燃料、そしてコンピューターの飛躍的な高速化など、さまざまなブレークスルーが生じるとして期待されているそうです。
今回の研究で注目なのは、一度、金属化した水素が、圧力から解放されても金属の状態を維持できるかどうか。もし金属状態を維持できれば、常温・常圧下での超伝導物質になるかもしれないためです。実際に、ハーバード大の研究チームは、実験段階では低温で圧力をかけ続けている状態から、慎重に解放することを試みているとしていました。
もしこれが成功すれば、リニアモーターカーなどの磁気浮上を採用した移動システムや、コンピューターなどの性能を飛躍的に向上させることができることも期待されています。また、ロケット燃料に関して言うと、金属水素が非常に大きなエネルギーを投じて作成されるがために、再び水素分子に戻る際には膨大なエネルギーを放出するというのがポイント。これをロケットのエネルギーに使えるのではないか、と期待されているのです。
●実は過去にも「金属水素の世界初の生成」はあった?
<「世界初の~」が、事実ではなかったということもまた珍しいことではありません>と書いていたら、実際、過去にも初生成の主張はあったようです。
金属水素 - Wikipediaによると、1996年3月というかなり昔に、ローレンス・リバモア国立研究所の研究グループが、初めての金属水素を思いがけず発見したと報告していました。
ただ、そもそもこの発見が間違っていたという話が、Wikipediaでは書かれていません。こうなると、今回の研究が別の意味で、本当に世界初なのか?と疑問が出てきます。とりあえず、このときの研究は、金属水素ができることを期待していなかったため、当時必要だと思われていた固体水素を用いず、また金属化理論から導かれる温度よりも高温で実験を行ったときに、発見したとしていました。
上記以外に、2011年、EremetsとTroyanは、通常の圧力下で水素と重水素の液体金属状態を観測したと報告しています。ただし、この報告の方は、2012年に他の研究者から疑問が呈されており、私が想定する「否定された」のパターンだったっぽいです。やはり今回の研究成果についても、慎重に見ておいた方が良いと思われます。
●今度こそ本当っぽい水素の金属化という報道…つまり前回は嘘
2021/01/07:最初の話は2017年2月のものでした。その後の2019.06.28に
史上初、水素の金属化に成功? 今度こそ本当っぽい | ギズモード・ジャパンという記事が出ていました。「今度こそ本当っぽい | 」というのは、つまり、2017年の研究はやはり本当ではなかったんでしょうね。また、この新しい方の研究も同じように慎重に見ておいた方が良いかもしれません。
<フランス原子力庁のPaul Loubeyre氏を中心とする研究チームが、液体水素に地球の核内部以上の圧力をかけた実験結果についての論文をarXivにポストしました。Loubeyre氏らは、液体水素に今までにない高い圧力を与えることで、金属のような性質を呈したと言っています。
ただこれまでにも、たとえば2017年にハーバード大学の研究チームが、その前には2012年にドイツのマックス・プランク研究所のチームが、金属水素の生成成功を主張していましたが、どちらもわりと懐疑的な反応をされていて、その主張の正しさも確認できていません。でも専門家の中には、今回こそは本物だと考えている人たちもいます>
●史上初の金属水素の論文、実はまだチェックされていない論文だった…
Paul Loubeyreさんらの論文によれば、金属水素は「議論の余地なく」存在するはずで、その根拠となるのは「量子閉じ込め効果」という現象。量子閉じ込め効果とは、電子の動きを十分に制限すると、物質の電気的・光学的特性が量子力学の法則によって変化するという現象だとのことです。
なので論文では、十分高い圧力を加えれば、どんな絶縁体でも電気を通す金属になるはずだとしています。たとえば酸素は、地球の海抜での気圧の約100万倍となる100GPa(ギガパスカル)の圧力で金属になることが20年ほど前に証明されているとのこと。ということで、以下のような実験を行いました。
<論文を書いたLoubeyre氏らはまずこれまでの研究を生かし、ダイヤモンドアンビルセル(ごく小さなダイヤモンドふたつの間にサンプルをはさんで超高圧をかける機械)で気体状の水素を310GPaで圧縮し、固体の水素を生成しました。そして彼らは圧力をさらに上げていき、粒子加速器のSOLEILシンクロトロンが出す赤外線に水素サンプルがどう反応するかを計測しました。
すると圧力425GPa前後、温度80ケルビン(摂氏マイナス193.15度)の状態で、サンプルが突然すべての赤外線を吸収し始めました。(中略)彼らは水素ガスを超コンパクトに圧縮して量子閉じ込め効果を利用することで、水素に金属のような電気を流す性質を与えることができた、と言ってるわけです>
なお、この論文は報道時点では、まだ査読を受けていませんでした。これは要するに他の科学者らによってチェックされていなかったということです。ただ、日本語でヒットする2019年のPaul Loubeyreさんらの研究に関する記事はこれ一つ。続報すらないということを考えると、これもまたまた本物ではなかったのかもしれません。
●世界初の金属水素の生成に成功って本当?実は過去にも何度も…
2021/12/01追記:
金属水素 - Wikipediaを見てみると、過去にも何度も世界初の金属水素の生成に「成功」しているみたいですね。もちろん何度も世界初の金属水素の生成に「成功」するというのは不可能。つまり、世界初!と言いつつ、本当に世界初であった事例はまだない模様。基本的に信じない方が良い主張のようです。…と思って読んでいたら、以下の例は特に否定されていません。
<衝撃波による水素の金属化>
<1996年3月、ローレンス・リバモア国立研究所の研究グループは、0.6 g/cmの密度の水素に数千ケルビンの温度と100GPa以上の圧力を数マイクロ秒間かけ、初めての金属水素を思いがけず発見したと報告した。(中略)液体の熱エネルギー(圧縮のため、温度は3000K程度になる)が0.3電子ボルト以上のため、水素は金属状態にあると考えられた>
否定されていないとなると、その後の人が「世界初」と言っていたのが謎になってきます。さっぱりわかりません。ひょっとしたら何からしらの限定的な条件による「世界初」なんですかね(2023/04/29追記:ここらへんについては次の<「世界初」の金属水素の生成が過去に何度もある矛盾…その答え>を参照)。次の段落では、「より低温低圧で金属水素を作る試みが多く行われた」として、実験の例を挙げていました。
<コーネル大学のArthur RuoffとChandrabhas Narayana は1998年、原子力庁 (フランス)のPaul LoubeyreとRene LeToullecは2002年に、地球の中心に近い圧力(324から345GPa)と100から300Kの温度で、水素のバンドギャップはゼロにならず、真のアルカリ金属にはならないことを報告した。重水素を用いた実験等も行われた[15]。ヨーテボリ大学のShahriar BadieiとLeif Holmlidは2004年に、励起した水素原子からなる密度の高い金属状態が水素の金属化を効率的に促進することを示した>
以下の<2008年の実験の結果>は、最後に<予測されていたSiH4の高圧での金属化と超伝導相は、後に、SiH4の分解後に形成される水素化白金として確認された>と書かれています。難解な書き方で、液体金属水素が本当にできていたのか、それともできてないかったのか判断しかねました。
<2008年の実験の結果>
<理論的に予測された溶融曲線の最大値(液体金属水素の必要条件)は、Shanti DeemyadとIsaac F. Silveraによってパルスレーザー加熱を用いて発見された。水素が豊富な合金SiH4は金属化して超伝導性を示すことがM.I. Eremetsらによって発見され、Ashcroftの理論的予想が確かめられた。この水素が豊富な合金では、化学的な与圧により、温和な圧力でも、水素は金属水素に相当する密度で準格子を形成する。しかし、予測されていたSiH4の高圧での金属化と超伝導相は、後に、SiH4の分解後に形成される水素化白金として確認された>
一方、その次の<2011年の実験>は明確でわかりやすかったです。<2011年、EremetsとTroyanは、通常の圧力下で水素と重水素の液体金属状態を観測したと報告した。この報告は、2012年に他の研究者から疑問が呈されている>と書かれていました。他の科学者からは、十分に支持されていないようです。以下も同様に否定されているとわかりやすいものでした。
<2017年1月27日、ハーバード大の研究者アイザック・シルベラ博士とランガ・ディアス博士が、ダイヤモンドアンビルセルにより 495 GPa という地球の中心部よりも高い圧力をかけ、生成した固体の反射率を測定したところドルーデモデルにより予言される値と一致する値を得たため、金属水素と同定したとする論文を発表した。しかし、2017年2月、シルベラらの研究室にあるとされていた金属水素が消失していることが発表された>
●「世界初」の金属水素の生成が過去に何度もある矛盾…その答え
2023/04/29追記:
Nature ハイライト:水素の金属化 | Nature | Nature Researchというページもあったので読んでみました。これは2020年1月30日に掲載された話のようです。「世界初」の金属水素の生成が過去に何度もある矛盾は、ここが一番わかりやすかったですね。やはり文句なしの成功例はまだないようです。
<超高圧下で水素に金属相が現れる可能性に触発されて、この状態への到達とそれを探ることを目指して多くの実験的な試みがなされている。水素の金属化を思わせる手掛かりが数例報告されているが、実際に金属化したかどうかについてはまだ決着がついていない>
ただし、<今回P Loubeyreたちは、400 GPa(400万気圧)を超える圧力まで圧縮した水素のシンクロトロン分光観測データを報告し、それがずっと探求されてきた金属状態への転移を示すものであると解釈している。これで決着がつくかもしれない>とも書いていました。これも「世界初」の主張だったみたいだですね。
ここで出てきたP Loubeyreさんというのは、以前書いていた2019年の「史上初、水素の金属化に成功? 今度こそ本当っぽい」のときに出てきたフランス原子力庁のPaul Loubeyreさんのことでしょう。つまり、前回の今度こそ本当っぽい「史上初」も実際には「史上初」じゃなかったことが確定。オオカミ少年みたいな研究分野ですね。
【その他関連投稿】
■
超電導送電・超電導ケーブルは日本がリード 世界初の電車の走行試験 ■
第5の力発見でダークマターも解決?重力・電磁力・強い力・弱い力とは違う相互作用 ■
アインシュタインが原爆(原子爆弾)の開発者という日本人の誤解 ■
ウルトラファインバブル・ファインバブルとは?魚の育成に良い理由 ■
日本発見元素はニホニウム 外国人は誰も知らないニホン使用は損失 ■
ドミトリ・メンデレーエフの功績 元素周期表と石油無機起源説 ■
科学・疑似科学についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|