「化学物質過敏症」というのは、昔からある概念なのですが、私は既にほぼ科学的根拠のない疑似科学とみなされていると思っていました。実際、最近はほぼ全く目にしていなかった名前です。
ただ、ここ数日間、「化学物質過敏症」に関するニュースが出だしました。さらに、そのニュースの反応を見ても、症状そのものへの疑問を持っている人が皆無で、あれ?と思いました。
なので、改めて調べてみたというのが今回の投稿。まあ、調べたと言っても、結局、Wikipedia見ただけなのですが、やはり現時点では証拠不十分。他の病気などと誤解している可能性が高そうです。
なお、私が「化学物質過敏症」と似たような雰囲気を感じるものに、一世を風靡した「環境ホルモン」があります。こちらもまだ一応研究中ですが、当初言われていたような恐ろしい物質だという主張は、ほぼ完全に否定されています。大部分の主張が嘘だったと考えて良いと思われます。(関連:
環境ホルモンの影響、実は嘘だった?)
●化学物質過敏症を全く疑わないマスコミ
本題に行く前に、最近ニュースになっているという実例として、報道を一つ紹介。以下の記事は、化学物質過敏症というものの存在は全く疑っていない記事でした。
他人の服に残る柔軟剤は「毒ガスの苦しみ」 理解されない化学物質過敏症の患者 産経新聞 2/21(火) 9:01配信 (藤井沙織)
記事によれば、「化学物質過敏症(CS)」の患者たちは、汗の臭い対策などとして強い芳香や消臭効果のある洗剤や柔軟剤などによって苦しんでいます。
記事で出ていた、全国で数少ないCS専門医だという、大阪市中央区の吹角(ふくずみ)●(=隆の生の上に一)之院長は、かなりの患者が見落とされているが、日本人の10人に1人はいる」としていました。
また、記事では、他人の衣服に残る柔軟剤などの化学物質が、めまいや頭痛などを引き起こすため、飲食店に入ることもためらわれ、会社や学校に行くのが困難になるケースもあるとしています。
なお、仮に化学物質過敏症は嘘であっても、これらの症状を感じている方に罪はありません。
子宮頸がんワクチンの回復情報、被害者連絡会が圧力や隠蔽工作の子宮頸がんワクチンの副反応の話もそうなのですけど、理由が別であっても困っているのは事実。患者らを救う必要があります。
ただ、患者らを救うためには、むしろ科学的根拠のない間違った理解をすべきではないはずです。
●化学物質過敏症は厚生労働省も認めている?
この記事を読んでいて驚いたのが、「化学物質過敏症(CS)」は、平成21年に厚生労働省によってレセプト(診療報酬明細書)に記載できる病名リストに登録されたという記述。マジで?
で、
化学物質過敏症 - Wikipediaを見ると、そのような記載がありました。
"2009年10月1日から、厚生労働省は病名リストに化学物質過敏症を登録し、カルテや診療報酬明細書(レセプト)に記載できるようになった"
Wikipediaの肯定的なものを見ると、専門家でかなり主張している人がいるようです。ただ、内容を見ても、結局、証拠が十分でないか、別の病気と誤解しているかといった感じです。
・化学物質の人体に及ぼす影響については未だ解明が進んでいないが、一部の専門家の間では、近年激増の傾向にある自律神経失調症やうつなどを含めた現代病は、化学物質の曝露が原因である、という意見がある[6]。
・化学物質過敏症は様々な症状を呈するため、適切な診断が下されない場合がある。具体的には、眼に症状が現れている場合では、アレルギー性結膜炎及びドライアイなどの診断が、呼吸器系の症状では風邪や喘息が、その他では自律神経系異常に関連する疾患または精神科領域の疾患として診断されてしまう可能性がある[7][8]。
・化学物質過敏症は煙草の受動喫煙により生じる受動喫煙症の悪化で生じたり[9]、あるいは新築あるいは改築した住宅で発症するシックハウス症候群の悪化により生じる場合もある[10][11]。
・不定愁訴、咳喘息、気管支炎、ドライアイ、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、自律神経系の病、脳や神経系の病、うつ病などの様々な病名の診断がなされ手術や投薬を重ねても改善されなかった、および逆に悪化した症例で、化学物質過敏症としての診断と治療によった後、病状の現状維持または改善及び社会復帰に結びついた例があるとの主張がある[12][13]。
・functional MRIによる脳画像解析を用いた客観的診断手法についての研究がある[14]。
●化学物質過敏症への疑問 科学的根拠のない疑似科学ではないのか?
本題となる化学物質過敏症が怪しいと思われる理由について。
環境省が1997年度より研究班を設置して、二重盲検法による疫学調査を行っています。そして、ホルムアルデヒドについての報告が2004年に出ていました。私も化学物質過敏症の原因物質の代表格と言うと、ホルムアルデヒドだと思っていましたので、妥当だと思われます。
しかし、この調査では、微量ホルムアルデヒドの暴露と症状の間に関連は見られないという結果でした。したがって、いわゆる化学物質過敏症の症例には、化学物質以外(ダニ、カビ、心因等)の原因によるものが含まれると考察されています。
一方で、動物実験の結果から、微量の化学物質の曝露による未解明の病態の存在を否定できず、なお研究が必要であるとしており、完全には否定していません。
ただ、科学の場合は否定する側ではなく、肯定する側に根拠が必要です。「化学物質過敏症がある可能性が否定できない=化学物質過敏症がある」ではないことに、注意が必要です。これはSTAP細胞なんかの考え方といっしょですね。
●厚生労働省の研究会でも他の病気との混同を指摘
もう一つ、厚生労働省は2003年に有識者からなる「室内空気質健康影響研究会」を計3回開催しており、用語の検討や化学物質過敏症についての見解の整理を行っている、という話もありました。
こちらによれば、国内で化学物質過敏症と診断された症例の中には、既存のアレルギー等の疾病概念で病体の把握可能な患者が少なからず含まれており、化学物質の関与が明確ではないにも関わらず、臨床症状と検査所見の組み合わせのみから化学物質過敏症と診断される傾向があるそうです。
これは私が言っている他の病気との混同ですね。こうした混乱は、本来、化学物質過敏症の存在を主張したい人にとっても大問題のはずです。
というのも、"既存の疾病概念で説明可能な病態について「化学物質過敏症」という名称を用いることが、化学物質過敏症に対する科学的議論を行う際に妨げになっている"という問題があるためです。
この研究会では、既存病態との分別が可能な臨床検査法及び診断基準が開発され、研究が進展することを期待する、と控えめに書いていましたが、これもまた化学物質過敏症が研究途上でまだしっかりと証明されていないことを意味しています。
なのに、何で厚生労働省は、診療報酬明細書に名前を書けるようにしちゃったんでしょうね?
●恐怖を煽って稼ぐ商法の一種との批判も
それから、先の肯定的な意見と対になっていた懐疑的な見解について。
・化学物質過敏症とされる症状については科学的・疫学的な立証を経たものは少ない。
・微量の化学物質が多彩な症状を引き起こしているとする客観的な証拠がなく、においや先入観により引き起こされていると考えられる[15]ことなどから、「化学物質過敏症」という名称自体が適当でないとする意見があり、主要な学会からはその診断名称を拒否されている[16][17][18]。
・化学物質過敏症は身体表現性障害の診断基準を満たし、心因性とする意見があり[19]、患者本人が精神疾患であることを認めず身体疾患であることに固執したり、種々の自律神経機能検査で異常を呈することもそれが原因と考える事もできる[20]。身体疾患であることに固執するあまり、この考えを信じる人々によって化学物質過敏症に懐疑的な人々が襲撃されるまでに至っている[21]。
・全体として化学物質過敏症の存在可能性は否定し尽くされた訳ではないが、包括的に「化学物質過敏症」として症状を一般化させ患者の恐怖を煽る手法については、疑似科学、およびそれを利用した商法の一種であるとの指摘もなされることがある[22]。
・化学物質過敏症と診断された患者に対して、認知行動療法や抗うつ薬による精神医学的な治療[23]、あるいは祈りなどが功を奏した例[24]が報告されている。
・定義、診断方法等の検証が十分とはいえない部分があり、海外では化学物質過敏症を特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢であり、心身症と考える意見が強いとされる[25]。
うーん、先ほども書いたように、ある説を主張する側がきちんと証明しなくちゃいけないのですが、それがなされずに結論ありきになっているようです。やはり子宮頸がんワクチンの副反応問題と似ていると思いました。
また、これもさっき書いたように、化学物質過敏症だと感じられている患者に罪はなく、何らかの治療が必要なことは間違いありません。
それから、化学物質過敏症が実際に存在する可能性ももちろんあるのですが、繰り返し言うように、それについては多くの科学者が納得できるように、十分に証明しなくてはなりません。
それをやっていないまま証拠不十分な自説を押し通すというのは、患者さんにとっては明らかに悪いことなんですけどね…。
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