デジタル大辞泉では、オープンオフィスを"いくつかの部が同居し、遠くまで見わたせる広い事務室"と説明していました。1部署で1部屋はなく、多くの部署が集まって1部屋というスタイルです。
私が勤めていた会社もこのスタイルで、トップの方も「これをやりたかった!」って感じでこだわってやっていたのですが、実はこれ、逆に仕事の効率を下げている…と指摘する研究が出ています。逆効果であったようです。
2017/3/5:
●生産性を上げるとされたオープンオフィス、逆効果だった
●オープンオフィス以上にパーティションが最悪
●在宅勤務のメリットでわかるオープンオフィスのデメリット
●オープンオフィスにメリットなし?コミュニケーションはいらないのか?
●実際にオープンオフィスを採用している企業はどれくらい?
2017/06/04:
●隣の座席に座る人によって生産性が大きく変わる!
●仕事は早いけど雑な人の隣は、質にこだわる社員を置こう
●ダメ社員はそうじゃない社員をもダメにする
2020/08/25:
●オープンオフィスのメリットはコミュニケーション活発化と思いきや?
●生産性を上げるとされたオープンオフィス、逆効果だった
2017/3/5:オープンオフィスがむしろ悪いという話を知ったのは、
壁やドアを取り払って仕切りのない「オープンオフィス」が実は効率を下げているという事実 - GIGAZINE(2017年01月13日 06時00分00秒)という記事。
ただ、検索してみると、GIGAZINEは数年前から何度も同じような話を書いていて、今回初めて指摘されたわけじゃないみたいですね。GIGAZINEはオープンオフィスに恨みでもあるのかといった感じで、よく検索でヒットしました。少なくとも4つはあったと思います。
記事によると、オープンオフィスは、"近代的なオフィスの姿として注目を集め"たものでしたし、以下のようにメリットがあると主張されていたそうです。まあ、嘘っぱちだったんですけどね。
"他人との区切りがなく、文字どおり横方向に広がった環境により仕事のアイデアが生まれやすくなったり、仕事の効率が上がったりというメリットが語られていた"
研究によると、"オープンオフィスを採用することで生産性は15%低下し、従業員の注意力が乱されることになったほか、スタッフが病気にかかる頻度も2倍に高まった"とさんざんです。
病気まで!という話ですが、そもそも上がるとされていたはずの効率が下がると全く逆だったというのが、一番ひどいです。
この理由は、
マルチタスクは愚かな仕事の仕方だと、科学的に証明されているでやったように、人はマルチタスクに向いていないってのが大きな理由とのこと。ひとたび邪魔が入ると再び集中した状態に戻るのに、なんと20分以上を要するとも言われているそうです。
これは騒音のことを言っているのかと思ったら、騒音については別に説明がありました。
人々の集中力を阻害する最大の邪魔者は騒音です。完全オープンオフィス環境で働く人の50%が、また、背の低いパーティションに囲まれたブースで働く人の60%が、音的なプライバシーに関して不満を訴えているとのこと。一方、個室で働いている人が同様の不満を訴えるケースはわずか16%だそうです。
●オープンオフィス以上にパーティションが最悪
上記でオープンオフィス以上にパーティションが悪い理由は、別の記事にありました。
間仕切り型のオフィスは、従業員に最も嫌われる | HBRオフィスの生産性ブログ|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2015年02月12日 サラ・グリーン 『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニア・アソシエート・エディター)です。
シドニー大学のジョンス・キムさんとリチャード・デ・ディアさんの報告によると、まず最大の不満は音であることが説明されています。雑音についても不満の上位なのですが、それ以上なのが「会話のプライバシー」でした。
この「会話のプライバシー」の問題は、"間仕切りの中で働く人の60%、間仕切りのないスペースで働く人の約半数が不満を訴えている"とあったので、GIGAZINEの元ネタも同じレポートっぽいですね。
で、パーティションの方がむしろ悪い理由は、"間仕切りがないほうが音の発生源がわかるため、何となく音を制御できるような気になるからだと研究者らは推測している"とのこと。
そういえば、電車内の電話を人々が異常と思えるほど嫌うのは、会話が一方しか聞こえず、話が通じないからだと説明している人がいました。人間は辻褄が合わないものを気持ち悪いと感じやすいのかもしれません。なお、他に不満が多かったのは、周囲の視線からのプライバシーと室温。雑音はその次くらいで、これらの方が気になるようです。
●在宅勤務のメリットでわかるオープンオフィスのデメリット
最初のところでは、オープンオフィス、パーティションの他に個室という選択肢がありました。この個室が最良の選択ということになります。お金がかかりますけどね。
私はこの路線だと在宅勤務がいいんじゃないか?と思いました。で、過去投稿見たら、
在宅勤務はメリットだらけ 問題点とされた生産性の意外な結果というタイトルでした。同じく生産性の話になっています。読み直してみると、これは個別の事例であり、広範な調査ではありませんでしたが、以下のようなメリットがあったことがわかっていました。
・スペースと事務機器の節約で経費節減ができた。(9カ月間で社員1人当たり1900ドル)
・在宅勤務者たちは、オフィス組のスタッフと比べて、13.5%多く通話をこなした。
・オフィス組と比べて離職する人の割合は半分以下。
・オフィス組と比べて対する満足度はずっと高かった。
また、これについて分析した教授は、生産性が向上した理由の一つとして、事務所では存在する雑音がないことではないかというのを挙げていました。今回の話と似た方向性です。
●オープンオフィスにメリットなし?コミュニケーションはいらないのか?
この在宅勤務のデメリットとしては、共同作業の必要な場合でしょう。当時の記事でも、「クリエイティブな仕事、チームワークで行う仕事については、もっと調査が必要」だとしていました。しかし、「たいていの業務では、週に1日か2日社員を在宅で勤務させるとよいと経験的にいうことができます」としていました。チームワークが必要な仕事というのは確かにありそうなのですけど、どんな仕事でもが常時いっしょに仕事する必要はないのでしょう。
また、今回の記事でも、オープンオフィスのメリットとされるコミュニケーションは、実はそれほど重視されていなかったと指摘されていました。オープンオフィス賛成派は、「コミュニケーションが大事だから」と言うものの、実は多くの場合、オープンなコミュニケーションは求められていないようです。
<キムとデ・ディアの研究結果によれば、音による生産性低下のデメリットは、コラボレーション促進のメリットを上回る。なぜなら、「コミュニケーションの取りやすさ」自体がさほど問題とされていないからだ。オフィスの形態にかかわらず、コミュニケーションの取りやすさに不満があると答えた人の割合は10%以下だった。実際、個室で働く人は閉鎖的な空間にいるにもかかわらず、間仕切りやオープンスペースで働く人よりもこの要素を問題視していない(おそらく内密に話ができるスペースを探す手間がないからだろう)>
●実際にオープンオフィスを採用している企業はどれくらい?
このダメなオープンオフィスは、どれくらい浸透しているのでしょう。そもそも小さな会社だと、オープンオフィスもクソもないと思うので、ここらへんは定義が難しそうな気がしますが、いくつか数字は見つかりました。
まず、先のGIGAZINEでは、"日本でも見かけることがあるオープンオフィスですが、アメリカでは実に70%のオフィスがオープンスタイルを取り入れているという統計もあるとのこと"と説明していました。
日本の方はまともな調査ではないものの、
4割近くの会社員が損している?「オープンオフィス」の害 – しらべぇ | 気になるアレを大調査ニュース!(2016/04/19/ 17:00 文/しらべぇ編集部・ジョン)で、アンケートを取っていました。
"しらべぇ編集部が全国20代〜60代の会社員の男女485名を対象に、「職場がオープンオフィスかどうか」を尋ねてみたところ、4割近くが該当した"とのこと。このアンケートでは、37.1%でした。
日米ともにかなりの企業が効率が悪いことをやっている感じです。
●隣の座席に座る人によって生産性が大きく変わる!
2017/06/04:たぶんオープンオフィスかどうかは関係なく、単に隣に誰が座るか?という話だと思うのですけど、比較的近いこの投稿に追記。隣に座る人によって生産性が大きく変わるというおもしろい研究があったのです。
記事は、
生産性を高めたければ座席の配置を見直しなさい | HBR.ORG翻訳マネジメント記事|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2017年04月27日 ジェイソン・コルセロ,ディラン・マイナー)というもので、研究者もこの著者らと同じです。従業員2000人あまりのテクノロジー系大企業の2年間相当のデータを分析しました。
すると、"パフォーマンスの約10%が隣人に波及することが明らか"になりました。"パフォーマンスが平均的な従業員を生産性が2倍の従業員に替えると、その隣の席の従業員の生産性が平均で約10%向上した"そうです。かなり上がっていますね。
●仕事は早いけど雑な人の隣は、質にこだわる社員を置こう
従業員を3つのタイプに分類したものの分析もおもしろいです。分類というのは、以下の3つ。
「スピード重視の働き手」 仕事を終えるのは早いが質では劣るタイプ 25%
「質重視の働き手」 仕事の質は高いが、時間がかかるタイプ 25%
「平均的な働き手」 、スピードと質のどちらの面でも平均的なタイプ 50%
分析では、"スピード重視の働き手と質重視の働き手が隣り合って座るのが、最高の座席配置であること"がわかりました。"質重視の働き手は、スピード重視の働き手の仕事の速さに追いつこうとし、スピード重視の働き手は、仕事の質を高めようと努力した"というわけ。これは感覚的にわかる話ですが、実際にデータでそういう結果になったというのがおもしろいです。
なお、同じタイプを並べても、生産性の著しい向上は見られませんでした。特に書いていなかったので、競い合って自滅するということもなかったみたいですね。また、平均的な働き手には影響はほとんどなし。まあ、こちらはバランスが取れているので、もともとベストなのでしょう。
●ダメ社員はそうじゃない社員をもダメにする
上記の組み合わせでは、得意なところへのマイナスの影響は少なく、苦手なところでのプラスが大きいという誠に都合のいいことになっていました。"仕事の速い従業員を仕事の遅い従業員の隣にすると、仕事の速い従業員をスローダウンさせるのではなく、仕事の遅い従業員をスピードアップさせる傾向"になるということです。
じゃあ、ダメ社員に引っ張られるということはないのか?と言うと、ありました! 不正行為や職場での暴力、麻薬またはアルコールへの依存、セクシュアル・ハラスメント、文書偽造、詐欺、その他の会社方針の侵害を行う「有害な働き手」。こういうダメ社員の場合、どんなタイプの社員にも、大きく影響を与えることがわかったのです。迷惑ですね。
また、有害な従業員同士が近くに座っていた場合にも、相乗効果で駄目になってしまうとのこと。もうどうしようもないですね。
なので、有害な働き手は孤立した配置にさせる…というのが正解との結論でしたけど、これをやると問題になり、実際には容易には実行できません。悩ましいところです。
あと、最後の最後で台無しになる話があって、たまげました。というのも、"これらの波及効果はほぼ即座に生じるが、2ヵ月以内に消えることもわかった"とあったこと。(「有害な働き手」だけのことではなく、その前の良い効果を主に指していました)
記事では、"働き手の空間をよりよく管理することで個人やチームのパフォーマンスを高められる、と確信するに至った"としていたものの、これじゃ使い物にならないような…。
●オープンオフィスのメリットはコミュニケーション活発化と思いきや?
2020/08/25:オープンオフィスに関する研究の話がもう少し知りたいと思って検索。
オープンオフィスと生産性|大田 忍|noteに、イギリスの学術論文誌『Philosophical Transactions of the Royal Society B』に発表されたという研究の話が載っていました。
研究者の名前などがなかったので、
The impact of the ‘open’ workspace on human collaboration | Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciencesという元ネタも見てみました。こちらを読むと、2018年7月2日の掲載で、ハーバード・ビジネス・スクールのEthan S. Bernsteinさんらが研究したもののようです。先のnoteによると、以下のようなことが研究でわかったとのことでした。
・物理的な壁がなくなると、コミュニケーションおよび集合知が形成されにくくなる。
・オープンオフィスでは、伝統的なオフィス(仕切りがあるタイプ)と比べて、従業員同士のコミュニケーションが約70%減り、メールの量は22〜56%増加し、生産性も減少した。
・透明性が高いオフィスは、プライバシーが阻害されている感覚を生みやすく、結果集中力が低下してしまうことがその原因と考えられる。
オープンオフィスの導入は従業員同士のコミュニケーションの活発化が目的という人が多いと思うのですけど、逆に従業員同士の直接的なコミュニケーションを妨げて、非効率なメールによるやり取りを増加させるという、予想外の結果がおもしろいですね。また、生産性もやはり落ちるという結果でした。
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